76 / 376
The 5th episode
7
しおりを挟む
改めて、ホワイトボードの前に立つ。政宗も隣に立って支えるように袖を掴んでいてくれたが、やんわりとそれを払う。
「聞いたとは思うが、今さっき…會澤組が5課により検挙された」
一同に動揺が走る。無理もない。こちらの糸口のひとつではあったのだから。
「現場には俺も立ち会った。全員検挙だ」
「それじゃぁ…今後我々はどうするんですか…?」
瞬が不安そうな眼差しで問う。
「考えた。
まず、今潜入捜査をしているホストクラブの件については、先方に動きがあるまでは続行しようと思う。
理由は、ここはあくまでも出資者が會澤組と言うだけだ。あとは、これでヤクが途絶えれば會澤組がエレボスと繋がっていたと言うことになるし…。
実は俺もここ二日會澤組に潜入捜査をしていた。ここでわかってきたことは、會澤組にもバックがいた、と言うことだ」
「…それが証券会社ゼウスと言うことか」
「あぁ。ただまぁ、ゼウスの社長はどういうわけかこちらの素性に詳しくてな。エレボスに特本部が立ったことまでご存じだった」
「えっ…」
今度は沈黙が流れた。唖然としているのかもしれない。
「貴方は…」
その沈黙を破ったのは、意外にも伊緒だった。
「そんな捜査を自分一人でしていた訳ですか」
明らかにその声には怒りが隠っている。周りの目も、呆れやら、怒りやら。
これが、自分がしてしまった中途半端な捜査の結果だった。
「…ああ。
中途半端な結果になってしまったことは、最早詫びるしかない」
「そんなことを俺は言いたい訳じゃないんです…!」
デスクを叩いて伊緒が立ち上がった。「おい、落ち着け伊緒」と、政宗が宥める。
「止めなかった俺の責任もあるな、流星。
だがお前は俺にすら何も言わなかった。なんでだ?どうして黙ってそんな危ない橋を一人で渡って、挙げ句に真ん中で立ち往生してんだよ」
わかってる。
「…今回は密令だった。所謂先行捜査と言うやつで、これからの段階だったが突然事情が変わってな。本日付で検挙となった」
「それはわかった。それに関してはもういい」
「あの、」
今度は諒斗が一言を発した。
「揉めるならよそでやってくれよ。俺らどうやら、蚊帳の外じゃねぇか。
流星さん、あんたがどんなつもりで、思いで無茶をして昔のこと引きずってやってんのか知らない。俺たちは昔のこともなんも知らないんだ。若輩者だってここには多い。けどな、あんたがこの事件にしがみついてるくらい懸命で、俺たちだってその思いは一緒なんだよ。それであんたの下に付いてんのに、あんたはどうやら、信用なんてしてくれてないじゃないか」
そう真っ直ぐに言われて、返す言葉がなくなってしまった。
…なるほど。先程からの話のズレは、そこだったのか。
「…そうかもな」
「え…?」
「…わかった。悪かったな。こっからは強制はしない。出ていきたいやつは根こそぎ出て行ってくれ」
「あんたさ、」
「以上だ。俺からはそんだけ。あとは好きにしろ」
それだけ言ってデスクに戻ると、すれ違い様に、「情緒不安定かよてめぇ」と政宗の小言が聞こえた。
そうかもしれない。
取り敢えず今ある情報を処理しよう。
がんっ、という鈍い音がして、諒斗が出て行ったのがわかった。多分デスクを蹴ったんだろう。
「諒斗…!」と、瞬も追いかけるように立ち上がり、出て行き様に目が合って一言、「お互い、整理しましょう。また夕方に」と言ってから走って出て行った。
「私も…わかんなくなっちゃった」
霞もそう言って悲しそうな顔をして立ち上がり、のろのろと部署から出て行く。
そんな姿を眺めていると急に、俺のデスクの上にがん、という音がして、振り向けば愛蘭がお茶を荒々しく置いたようだった。
「霞を追いかけたら戻ってきますのでそれまでは慧さんから資料を頂いてくださいね部長」
表情こそ変えないが、愛蘭のオーラが怖い。
「…お前も行けよ。あいつらに言っとけ。ちゃんと次への口添えはしとくと」
「言ってみますけど」
大して目も合わさずに出て行ってしまった。
「お前って、なんでそんなに頭悪いかね」
横で潤が不機嫌そうに言った。
「…うるさい」
「ったく。呆れた。てめぇの湿気た面見て仕事する気分でもねぇからタバコ吸って銃撃ってくるわ」
荒々しく立ち上がって潤も出て行った。
どうやら今残っているのは4人。政宗と慧さんと伊緒と恭太だ。
「あらあら。若い子は血気盛んだね」
慧さんがのんびりとした口調で言い、立ち上がって書類を渡しにきた。
「貴方に渡そうと思ってたんですが、ずっと留守だったんで」
「…あんたは、いいんですか」
「なにが?」
「ここに残って」
「ええ。私もやり残した仕事だらけなので」
「…そうですか」
「良い人でよかったな、流星」
急に肩の荷が降りた。
途端に、激しいまでの眠気に教われ、反射的にその場にあったペンを左手に突き刺した。
「で、書類ってのは…」
「流星さん、それ、見てて痛々しいのですが」
「あぁ、気にしないでください。最近寝てないんで」
眠い。
「一応、この前のスミス&ウェッソンの製造番号と工場、そして仕入れ先がわかりました。
あと紙幣番号ですが…」
ホント、眠い。
あぁ、力が抜ける。
視界が大きく揺らいだ。大震災でも、来たかな。
「流星!?」
なんか身体が痛いな。
眠い。
視界がぼやける。頭も痛い。
なんだろ、政宗がめちゃくちゃ心配そうに人の顔覗き込んでるけど政宗の向こうは、天井かな。
目蓋が重い。
あぁ、暗い。
「聞いたとは思うが、今さっき…會澤組が5課により検挙された」
一同に動揺が走る。無理もない。こちらの糸口のひとつではあったのだから。
「現場には俺も立ち会った。全員検挙だ」
「それじゃぁ…今後我々はどうするんですか…?」
瞬が不安そうな眼差しで問う。
「考えた。
まず、今潜入捜査をしているホストクラブの件については、先方に動きがあるまでは続行しようと思う。
理由は、ここはあくまでも出資者が會澤組と言うだけだ。あとは、これでヤクが途絶えれば會澤組がエレボスと繋がっていたと言うことになるし…。
実は俺もここ二日會澤組に潜入捜査をしていた。ここでわかってきたことは、會澤組にもバックがいた、と言うことだ」
「…それが証券会社ゼウスと言うことか」
「あぁ。ただまぁ、ゼウスの社長はどういうわけかこちらの素性に詳しくてな。エレボスに特本部が立ったことまでご存じだった」
「えっ…」
今度は沈黙が流れた。唖然としているのかもしれない。
「貴方は…」
その沈黙を破ったのは、意外にも伊緒だった。
「そんな捜査を自分一人でしていた訳ですか」
明らかにその声には怒りが隠っている。周りの目も、呆れやら、怒りやら。
これが、自分がしてしまった中途半端な捜査の結果だった。
「…ああ。
中途半端な結果になってしまったことは、最早詫びるしかない」
「そんなことを俺は言いたい訳じゃないんです…!」
デスクを叩いて伊緒が立ち上がった。「おい、落ち着け伊緒」と、政宗が宥める。
「止めなかった俺の責任もあるな、流星。
だがお前は俺にすら何も言わなかった。なんでだ?どうして黙ってそんな危ない橋を一人で渡って、挙げ句に真ん中で立ち往生してんだよ」
わかってる。
「…今回は密令だった。所謂先行捜査と言うやつで、これからの段階だったが突然事情が変わってな。本日付で検挙となった」
「それはわかった。それに関してはもういい」
「あの、」
今度は諒斗が一言を発した。
「揉めるならよそでやってくれよ。俺らどうやら、蚊帳の外じゃねぇか。
流星さん、あんたがどんなつもりで、思いで無茶をして昔のこと引きずってやってんのか知らない。俺たちは昔のこともなんも知らないんだ。若輩者だってここには多い。けどな、あんたがこの事件にしがみついてるくらい懸命で、俺たちだってその思いは一緒なんだよ。それであんたの下に付いてんのに、あんたはどうやら、信用なんてしてくれてないじゃないか」
そう真っ直ぐに言われて、返す言葉がなくなってしまった。
…なるほど。先程からの話のズレは、そこだったのか。
「…そうかもな」
「え…?」
「…わかった。悪かったな。こっからは強制はしない。出ていきたいやつは根こそぎ出て行ってくれ」
「あんたさ、」
「以上だ。俺からはそんだけ。あとは好きにしろ」
それだけ言ってデスクに戻ると、すれ違い様に、「情緒不安定かよてめぇ」と政宗の小言が聞こえた。
そうかもしれない。
取り敢えず今ある情報を処理しよう。
がんっ、という鈍い音がして、諒斗が出て行ったのがわかった。多分デスクを蹴ったんだろう。
「諒斗…!」と、瞬も追いかけるように立ち上がり、出て行き様に目が合って一言、「お互い、整理しましょう。また夕方に」と言ってから走って出て行った。
「私も…わかんなくなっちゃった」
霞もそう言って悲しそうな顔をして立ち上がり、のろのろと部署から出て行く。
そんな姿を眺めていると急に、俺のデスクの上にがん、という音がして、振り向けば愛蘭がお茶を荒々しく置いたようだった。
「霞を追いかけたら戻ってきますのでそれまでは慧さんから資料を頂いてくださいね部長」
表情こそ変えないが、愛蘭のオーラが怖い。
「…お前も行けよ。あいつらに言っとけ。ちゃんと次への口添えはしとくと」
「言ってみますけど」
大して目も合わさずに出て行ってしまった。
「お前って、なんでそんなに頭悪いかね」
横で潤が不機嫌そうに言った。
「…うるさい」
「ったく。呆れた。てめぇの湿気た面見て仕事する気分でもねぇからタバコ吸って銃撃ってくるわ」
荒々しく立ち上がって潤も出て行った。
どうやら今残っているのは4人。政宗と慧さんと伊緒と恭太だ。
「あらあら。若い子は血気盛んだね」
慧さんがのんびりとした口調で言い、立ち上がって書類を渡しにきた。
「貴方に渡そうと思ってたんですが、ずっと留守だったんで」
「…あんたは、いいんですか」
「なにが?」
「ここに残って」
「ええ。私もやり残した仕事だらけなので」
「…そうですか」
「良い人でよかったな、流星」
急に肩の荷が降りた。
途端に、激しいまでの眠気に教われ、反射的にその場にあったペンを左手に突き刺した。
「で、書類ってのは…」
「流星さん、それ、見てて痛々しいのですが」
「あぁ、気にしないでください。最近寝てないんで」
眠い。
「一応、この前のスミス&ウェッソンの製造番号と工場、そして仕入れ先がわかりました。
あと紙幣番号ですが…」
ホント、眠い。
あぁ、力が抜ける。
視界が大きく揺らいだ。大震災でも、来たかな。
「流星!?」
なんか身体が痛いな。
眠い。
視界がぼやける。頭も痛い。
なんだろ、政宗がめちゃくちゃ心配そうに人の顔覗き込んでるけど政宗の向こうは、天井かな。
目蓋が重い。
あぁ、暗い。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
大学生の俺に異世界の妖女が娘になりました
nene2012
キャラ文芸
俺は深夜のバイト帰りに巨大な紫色の卵を目撃し、卵が割れ中の物体は消えてしまった。
翌日、娘と名乗る少女がアパートにいた。色々あって奇妙な親子の生活が始まり向こうの異世界の人間達の暗躍、戦いは始まる。
蜜柑製の死
羽上帆樽
現代文学
毎日500文字ずつ更新する詞です。その日の自分の状態が現れるだろうと予想します。上手くいく日もあれば、そうでない日もあるでしょう。どこから読んでも関係ありません。いつから知り合いになっても関係がないのと同じように。いつまで続くか未定です。続くまで続きます。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
奇快雑集
衣谷 孝三
現代文学
これは、筆者が執筆練習のために思い付いた物語をポンポンと書き連ねた、節操のないショートショート作品集である。
恐らく黒歴史となることは間違い無いだろうが、書きたいのだから致し方ない。
無駄にしていい時間のある者は、是非ともこのアイデアの雑木林に足を踏み入れていただきたい。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
現代文学
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる