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The 3rd episode

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「俺も吸う」

 とか言ってそのまま出てきたから。
 まず最初に出てきた一言は、

「お前寒くねぇの?」

 だった。

「寒い」
「だよな」
「あれ、ベランダ?もしかして」
「今はな」
「使えねーな。着るのめんどくせぇよ」
「ふざけんなよ変態。いずれにしろ着ろバカ」
「え?何?ドキドキしちゃう?中学生かよクソ童貞」
「殺害するぞクソ野郎」
「今殺害したら間違いなくレイプ犯だな、ざまぁみろ」
「なにがざまぁみろだか全然わかんない。むしろ俺の貞操観念返せやサル」
「やっぱり童貞か」
「違うわ!俺もそれなりに遊んだわ昔な!」

 てかなんちゅー話をしてんるだ俺たち。

「いや…なんか恥ずかしくないの?」
「お前にだけは言われたくな…」

 恥ずかしくなってきた。

「あー、赤くなってる!わーハズいんだ!」
「うっせぇハウル!」

 殴ろうとしたが当たらなかった。それどころか拳を取られ、潤に引き寄せられた。

「えっ」
「ちょっと遊んじゃう?」
「や、ちょっと勘弁して」

 気色悪い気色悪い。しかも潤かよ。

「嘘だけどね」

 とか言ってテーブルにあったタバコに手を伸ばして火をつける。
 だからベランダだっつってんだろ。

「…悪かったな」

 だけど急に深刻な顔をして言い出すから。

「…何が?」

 仕方なく俺も自分のタバコに火をつけた。

「ワガママ聞いてくれて」
「…どの件だよ」
「全部。泊めてくれたことも今も昔も…銀河のこともな」

 そう言って潤は俯いた。こりゃまた泣きそうなのかな。

「泣くの?」
「そんな俺泣いてる?」
「よく泣くよ」
「あぁ、そう」
「取り敢えず寒くねぇの?」
「…寒い。けど着ない」
「めんどくせえやつ」

 取り敢えずその場にぶん投げてあったパーカーを一枚 肩に掛けて肩を掴んでやった。今抱き締めるとなんかヤバそうだ。

「お前のそーゆーとこ嫌い」
「ああそう」
「耳に煙がかかるんだけど」
「仕方ないだろ我慢しろ」
「うぜぇ」
「てめぇもうぜぇ。
 一度寝ろ。まだ時間はあるから」

 小さくこくっと頷いた。

「あと服着ろみっともない」
「だから、着ても脱いじゃうんだよ!」

 顔をあげてこっちをみた潤は、何故だかはっとして一度黙り込む。

「なんだ、俺の顔に何かついてるか」
「…お前痩せたなぁ」
「あっそう」

 素っ気なく俺が返すとなんだか急に抱きついてきて危うくよろけてしまった。

 怖い、怖すぎる。

「なんだなんだなんなんだ!」
「うっ…くっ…」

 何故だ。潤の涙腺ポイントが全然わからないが。

「ふっ…」

 思わず笑ってしまった。

 だってなんだこの構図。
 大の男が、まぁちょっと女っぽいがひょろ長い男に抱きつかれてよろけて、しかも相手はほぼ裸って。コメディかよ。何故か相手は号泣してるし。

「ふっ、ダメだ、笑える…ふははは!ひっでぇなにこれ」
「…は?」

 あ、でも顔あげたのちょっと色っぽい。お前そうやってオトして来たのか。ろくでもないな。

「気でも触れた?」
「お前もな!あーおもろ、お前今の自分を見てみろ、笑えるから」
「…寒い。つか、腹痛い」
「え、」
「ちょ…トイレ行ってくる。ダメだ」
「え、は?」

 そう言うと潤は早足でトイレに直行。

 え、大丈夫かな。

 取り敢えずトイレの前に服でも置いとこうと思って、なんか脱ぎ散らかされた、俺が昨日貸したスエットを畳んで持っていけば、トイレから嗚咽が聞こえてきて。

 腹痛かったんじゃなかったのか。

 まぁいい、そのうち帰ってくるだろう。今は情緒不安定なんだ。

 しばらくして戻ってきた時はちゃんと服を着ていた。

「歯ブラシは洗面台の下の扉に使い捨てあるから」
「あぁ…ありがとう」

 顔が真っ青だ。てかなんだ、マイコプラズマとかじゃねぇよな?

「お前大丈夫か?」
「…うん、すっきりした。これも後遺症だから仕方ないよ 」

 最早精神病レベルだな。

 仕方がないのでリンゴを剥いてやった。
 洗面台から戻ってきた頃にはやつれて見えた。

「食えたら食え」

 向かい側に座って無言でリンゴを食い始める潤。俺もリンゴを食いながらタバコを吸う。

 あ、まただ。
 手が震えてる。
 俺も自律神経失調症かな。

「…始末書書こうか」
「あぁ、そうだね」

 どうせこっから寝れやしない。
 潤ははっきりと俺の指を見ながら返事をした。
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