46 / 376
The 3rd episode
3
しおりを挟む
ひとまずは政宗が降りて官房長の家を尋ねた。俺達はそれを眺める。
恐らく、ここにはいない。
「あぁ、」
タバコに火をつけてふと、思う。
「潤って何かに似てると思ってたんだ」
「は?」
「ハウルに似てるわ」
「え?なにそれ」
「あぁうん。ハウルだハウル」
一人で納得していると、潤がふと笑い出す。果たして俺は笑われることを言ったのか。
「どうした?気でも触れたか」
「いや、こっちのセリフなんだけど」
なんだよまったく。
「あぁ、ほら。振り返ったとことかまるっきりハウルだ 」
「…お前ハウル好きだったっけ」
「いや、別に」
彼の作品は好きだけどさぁ。なんせ環がわりと落書きで描くからな。
「なんだ楽しそうだな」
窓の外から政宗が怪訝そうに声を掛け、「どうだった?」と聞くと、車に乗り込んでタバコに火をつけた。
「奥さん曰く、一時間くらい前に白澤と仕事の話をしてくると出て行ったらしい。場所の追跡が出来ると良いがお前パソコン持ってきたか?」
「パソコンはありませんが、俺を誰だと思ってんですか政宗公」
潤は飄々としてケータイを掲げる。
あれ、見たことないケータイだ。
「なにそれ」
「愛人用?」
「バカ言え。愛人用は黄色なの。これ白でしょ?これは特殊改造型ケータイでーす」
「…お前なんなの?」
心底怖い。変態かよ。
「いやこの前愛欄ちゃんと遊んでたらね、なんか性能が色々変わっちゃってね。これ高田さん支給なのにどうしよ」
「殺される覚悟で黙っとけ」
「パソコン持ち歩くのマジ不便だなぁ…とかぼやいたらね、すげぇ。俺が今までパソコンでやってた機能の簡易版を全て取り付けてくれたよ愛蘭ちゃん」
「…すげぇなサイバーテロ専門家は」
「てわけで。官房長のケータイ番号とかわかる?」
「あぁ…一応聞いてきたよ」
政宗からメモを奪うと、楽しそうに潤はケータイを弄り始めた。
「確かさ、官房長の運転手、あれから車両変更してたよね」
「してたな。車種か?聞いてきたけど」
「さすが先輩。ええっと近くの防犯カメラのジャックは今は出来ないなぁ…。取り敢えず場所はここね」
潤が政宗にケータイを見せ、政宗が車を発車させた。潤は自分のケータイから、どこかに電話を掛け始める。
「あ、もしもしー?高田さん?ホシカワです。ええ、今官房長の家を出発しました。今向かう住所の近くの防犯カメラをジャックしたいんだけど生憎パソコンがなくて出来ません。言うんで俺のケータイに送ってくれません?そうそう高田ケータイに。
え?送れますよ。大丈夫大丈夫。あ、今その説明すると長くなるから後で後で。はい、場所は千代田区の…」
「こいつ、いつもこうなのか?」
「わりかし」
「政宗、車種は?」
「あぁ、メルセデスのはの28ー9」
「だって。一時間くらい前。
あ、通ってる?じゃぁそこで間違いないから向かいますよ。え?えぇ!?嘘ぉ!?」
「うわぁ、びっくりした」
クラクションを思わず鳴らしてしまった政宗。それにユミルが目を覚ます。
「なんだよ潤」
「あっはっは…嫌だなぁ…。
競技場だってさ」
スピーカーを押さえてこちらにそう言ってきた。
「うわっ」
「厄介だな」
「…高田さん明日は胃薬ちゃんと飲んでくださいね。さよーならー」
そう言って強制的に通話遮断をして「ふぅ…」と溜め息を吐いた。
「何がどうなってるの?」
起きたユミルは、一気にどんよりとした雰囲気についていけないようだ。
「犯人が逃げたの競技場だってよ」
「あっそう」
「しかし…なんでそんな分かりやすいところ」
「安全ではあるよ」
皆目目的が分からない。
「そもそも銀河の目的が俺にはさっぱりわからない」
ただ高田はあの時、「やられた!」と言っていた。
「整理しよう。
今回の江島はエレボスの団員で、官房長の運転手にもエレボス関与の疑いがあった」
「そして白澤は7年前のエレボス事件の時、いわば俺のポスト、現場監督官にいた経歴があり、現在は監察官という地位だ」
「不思議と二人とも警視庁だな」
言われてみれば、確かに。
「あぁ、高田が今日俺に電話かけてきたときに言ってた。『何してんだよ警視庁、やられた!』って」
「今回江島が収容されてた留置場は?」
「警視庁が持ってるねぇ」
「なるほどな」
徐々に話が見えてきた。
「ノンキャリア警察は皆クーデターを起こすんだねぇ」
ユミルがのんびりとした口調で言った。
「これはクーデターなんかな」
「クーデターでしょ。だって多分、エレボスと関わりがあるんでしょ?」
やはりそうなってくるか。そうなってくると…。
「黒だな」
恐らく白澤さんは。
それから車内は陰鬱とした空気になり、誰一人喋ることがなかった。
目的地につくと、確かに官房長の車は門の前に無造作に停まっていた。
全員に無線を渡し、作戦会議。
「4人で固まっていくのは下手すりゃ一網打尽だ。
ユミル、お前まず上」
「OK。これなら射程距離一番広いしね」
「俺と潤が正面から行こう。広くなさそうだし」
「ただ4人しかいないからな。政宗は一応江島と…白澤確保に尽力。俺が交渉役。逮捕は潤に任せよう。
あとはまぁ空気を読んで安全第一!
さて、行こうか」
銃を備えて車を降りる。
念のため官房長の車にはユミルが発信器をつけ、入り口に遠隔操作型の爆弾を設置。
「相変わらずやり口が汚ぇな、ユミル」
「安全確保だよ。どうせ君たちは無事でしょう?
じゃぁね」
「Break a leg.(健闘を祈るよ)」
「Back at you.(あんたもね)」
ヒラヒラと手を振ったユミルは先に向かう。
空気が一気にヒリついた。全員が戦闘モードに入る。
「Are you ready for this?(覚悟はできてるかい?)」
「I'm ready.(いつでもどうぞ)」
神妙な面持ちで潤は、だけどはっきりと闘志を燃やして目を合わせる。そこに哀愁はもう、なかった。
「Come.(行こうか)」
俺がそう言うと頷いて、正面のゲートをくぐった。ジャケットの懐から銃を出す。
恐らく、ここにはいない。
「あぁ、」
タバコに火をつけてふと、思う。
「潤って何かに似てると思ってたんだ」
「は?」
「ハウルに似てるわ」
「え?なにそれ」
「あぁうん。ハウルだハウル」
一人で納得していると、潤がふと笑い出す。果たして俺は笑われることを言ったのか。
「どうした?気でも触れたか」
「いや、こっちのセリフなんだけど」
なんだよまったく。
「あぁ、ほら。振り返ったとことかまるっきりハウルだ 」
「…お前ハウル好きだったっけ」
「いや、別に」
彼の作品は好きだけどさぁ。なんせ環がわりと落書きで描くからな。
「なんだ楽しそうだな」
窓の外から政宗が怪訝そうに声を掛け、「どうだった?」と聞くと、車に乗り込んでタバコに火をつけた。
「奥さん曰く、一時間くらい前に白澤と仕事の話をしてくると出て行ったらしい。場所の追跡が出来ると良いがお前パソコン持ってきたか?」
「パソコンはありませんが、俺を誰だと思ってんですか政宗公」
潤は飄々としてケータイを掲げる。
あれ、見たことないケータイだ。
「なにそれ」
「愛人用?」
「バカ言え。愛人用は黄色なの。これ白でしょ?これは特殊改造型ケータイでーす」
「…お前なんなの?」
心底怖い。変態かよ。
「いやこの前愛欄ちゃんと遊んでたらね、なんか性能が色々変わっちゃってね。これ高田さん支給なのにどうしよ」
「殺される覚悟で黙っとけ」
「パソコン持ち歩くのマジ不便だなぁ…とかぼやいたらね、すげぇ。俺が今までパソコンでやってた機能の簡易版を全て取り付けてくれたよ愛蘭ちゃん」
「…すげぇなサイバーテロ専門家は」
「てわけで。官房長のケータイ番号とかわかる?」
「あぁ…一応聞いてきたよ」
政宗からメモを奪うと、楽しそうに潤はケータイを弄り始めた。
「確かさ、官房長の運転手、あれから車両変更してたよね」
「してたな。車種か?聞いてきたけど」
「さすが先輩。ええっと近くの防犯カメラのジャックは今は出来ないなぁ…。取り敢えず場所はここね」
潤が政宗にケータイを見せ、政宗が車を発車させた。潤は自分のケータイから、どこかに電話を掛け始める。
「あ、もしもしー?高田さん?ホシカワです。ええ、今官房長の家を出発しました。今向かう住所の近くの防犯カメラをジャックしたいんだけど生憎パソコンがなくて出来ません。言うんで俺のケータイに送ってくれません?そうそう高田ケータイに。
え?送れますよ。大丈夫大丈夫。あ、今その説明すると長くなるから後で後で。はい、場所は千代田区の…」
「こいつ、いつもこうなのか?」
「わりかし」
「政宗、車種は?」
「あぁ、メルセデスのはの28ー9」
「だって。一時間くらい前。
あ、通ってる?じゃぁそこで間違いないから向かいますよ。え?えぇ!?嘘ぉ!?」
「うわぁ、びっくりした」
クラクションを思わず鳴らしてしまった政宗。それにユミルが目を覚ます。
「なんだよ潤」
「あっはっは…嫌だなぁ…。
競技場だってさ」
スピーカーを押さえてこちらにそう言ってきた。
「うわっ」
「厄介だな」
「…高田さん明日は胃薬ちゃんと飲んでくださいね。さよーならー」
そう言って強制的に通話遮断をして「ふぅ…」と溜め息を吐いた。
「何がどうなってるの?」
起きたユミルは、一気にどんよりとした雰囲気についていけないようだ。
「犯人が逃げたの競技場だってよ」
「あっそう」
「しかし…なんでそんな分かりやすいところ」
「安全ではあるよ」
皆目目的が分からない。
「そもそも銀河の目的が俺にはさっぱりわからない」
ただ高田はあの時、「やられた!」と言っていた。
「整理しよう。
今回の江島はエレボスの団員で、官房長の運転手にもエレボス関与の疑いがあった」
「そして白澤は7年前のエレボス事件の時、いわば俺のポスト、現場監督官にいた経歴があり、現在は監察官という地位だ」
「不思議と二人とも警視庁だな」
言われてみれば、確かに。
「あぁ、高田が今日俺に電話かけてきたときに言ってた。『何してんだよ警視庁、やられた!』って」
「今回江島が収容されてた留置場は?」
「警視庁が持ってるねぇ」
「なるほどな」
徐々に話が見えてきた。
「ノンキャリア警察は皆クーデターを起こすんだねぇ」
ユミルがのんびりとした口調で言った。
「これはクーデターなんかな」
「クーデターでしょ。だって多分、エレボスと関わりがあるんでしょ?」
やはりそうなってくるか。そうなってくると…。
「黒だな」
恐らく白澤さんは。
それから車内は陰鬱とした空気になり、誰一人喋ることがなかった。
目的地につくと、確かに官房長の車は門の前に無造作に停まっていた。
全員に無線を渡し、作戦会議。
「4人で固まっていくのは下手すりゃ一網打尽だ。
ユミル、お前まず上」
「OK。これなら射程距離一番広いしね」
「俺と潤が正面から行こう。広くなさそうだし」
「ただ4人しかいないからな。政宗は一応江島と…白澤確保に尽力。俺が交渉役。逮捕は潤に任せよう。
あとはまぁ空気を読んで安全第一!
さて、行こうか」
銃を備えて車を降りる。
念のため官房長の車にはユミルが発信器をつけ、入り口に遠隔操作型の爆弾を設置。
「相変わらずやり口が汚ぇな、ユミル」
「安全確保だよ。どうせ君たちは無事でしょう?
じゃぁね」
「Break a leg.(健闘を祈るよ)」
「Back at you.(あんたもね)」
ヒラヒラと手を振ったユミルは先に向かう。
空気が一気にヒリついた。全員が戦闘モードに入る。
「Are you ready for this?(覚悟はできてるかい?)」
「I'm ready.(いつでもどうぞ)」
神妙な面持ちで潤は、だけどはっきりと闘志を燃やして目を合わせる。そこに哀愁はもう、なかった。
「Come.(行こうか)」
俺がそう言うと頷いて、正面のゲートをくぐった。ジャケットの懐から銃を出す。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Get So Hell? 2nd!
二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末。
For full sound hope,Oh so sad sound.
※前編 Get So Hell?
※過去編 月影之鳥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる