上 下
40 / 376
The 2nd episode

13

しおりを挟む
「早坂。そいつうるさい。黙らせとけ」
「あ、あぁ…え?」

 取り調べ室を出ると、「今のはアウトです」と、山瀬に耳打ちされた。
 それを無視して江島の取り調べ室に向かう。二つ隣の部屋だ。

 外窓から見えた内部は、確かに騒然とするものだった。

「潤…?」

 潤が、江島に馬乗りになっていた。

 多分、スイッチが入ったのだろう。仕方がない。

 ドアを開けて、夢中になっている潤の頬に背後からバレルを当てる。

 潤は一瞬びくっとし、振り向き様に俺は腕を捕まれ、銃をすっ飛ばされた。

「あぁ…」

 漸く俺を確認し肩を撫で降ろすが、わかると睨み付けてきた。

「てめぇか流星」

 椅子はその辺に転がっているし、テーブルもずれている。揉み合いかなにかになったのだろうか。潤のジャケットはすぐ近くにぶん投げられてるし、シャツのボタンは外れてる箇所があるし。

 睨む潤の目は瞳孔が開いている。完璧にスイッチオンだ。これは江島が死にかねない。

「何があったんだ、一体」
「うるさい」
「潤、落ち着いて」

 こっちが落ち着いて、少し優しめに声を掛けると、潤はバツが悪そうに項というか首筋を押さえて、溜め息のように一息吐いた。

「落ち着いた?」
「…うっさいなぁ…」

 どうやら落ち着いたらしい。口調も瞳孔もいつも通りに戻っていた。

「じゃあま、まず離…」

 そう俺が言いかけたときだった。

 江島が潤の片手を引っ張り、そのまま体勢を崩した潤の上に乗り、息を荒くして片手で潤が首を絞めた。

 一瞬の流れ作業。

 江島の肩を掴むが、振り払われてしまった。江島は無我夢中と言ったように、潤のシャツのボタンを外す。

 なるほどそう言うことか。
と納得している場合じゃない。

「慧さん、救護班の要請をお願いします」

 入り口に向かって言い、俺は江島の横っ面に一発蹴りを入れた。

「流星さん!」

 潤から離れた江島の胸ぐらを掴み、一発ぶん殴る。

 こいつ、なんなんだ。やはりなんか、変態なのか、勃ってやがるぞこの状況で。

「大丈夫か潤」

 手に当たる骨の感触。後ろで潤の、咳き込む嗚咽が耳についてより感情が高ぶった。

 一発だけ江島にぶん殴られてより腹が立って鳩尾辺りを殴る。多分しばらくそうしていたらしい。「流星、もうやめて」と、苦しそうな声がして、振り向こうとしたら後ろから抱き締められた。

「え?」

 自分の手元を見てみると江島は気を失っていた。潤はなんかだらしないというか痛々しい格好だし、俺何してたんだっけと思えば、拳が血まみれだった。

 あぁ、なるほどね。

 離れた潤は「怖ぇよ、流星」と言って泣きそうになっていた。

「大丈夫か、潤」

 声を掛けたらついに潤は泣き出してしまった。

「おめぇだよバカ…。スイッチ入ってんじゃねぇよ…」
「え?」

 俺はお前のスイッチをオフしに来たんですが。何故泣いてんでしょうか。取り敢えず面倒だ。

「悪かった、ごめんごめん」

 そう言って頭を撫でようとしたら、ごつっと鈍い音がして。あぁ、そう言えば江島の胸ぐら掴んでいたような気がする。今のは頭を地面に打ち付けた音かな。

「あれ、てかこいつヤバイ?」
「やべぇよお前何発殴ったと思ったんだよ。いま猪越さんが救護班呼んでるから」
「あぁ、そう」

 殴ったのか。
 なるほど。俺がスイッチ入っちゃったのね。いつ入ったんだろ。

「流星さん…!」

 噂をすればなんとやら。救護班を連れて慧さんが入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プロパーとナースの冒険

ハリマオ65
現代文学
 石津健之助は、製薬企業のプロパーになり東北、新潟、長野と転勤。ハンサムで愛想の良く口が旨く看護婦、医者にも人気があり業績を伸ばし金を貯めた。女性にもて、最高の時代だった しかし無理を続け重症の自律神経失調症になり早期退職。しかし結婚した看護婦さんに助けられ熱海のマンションに住み療養に励み1年で回復。その後、親しくなった友人達の死を乗り越え、ポルトガルに古き良き日本の幻影を見て通い見聞を広めていく物語です。 石津健之助は慶応大学を出て製薬企業のプロパーへ。東北、新潟、長野と転勤。ハンサムで愛想の良く口が旨く医者に人気があり業績を伸ばす。飲み屋の娘や看護婦さんに、もてて出張でもホテルに泊まらず彼女たちの部屋に泊まる生活。出張・外勤手当は貯まり最高。しかし無理を続け重症の自律神経失調症で早期退職したが結婚した看護婦さんに助けられた。その後、友人の死を乗り越えポルトガルに古き良き日本の幻影を見た。この作品は、小説家になろう、カクヨム、noveldaysに重複投稿。

時代の波と恩人の死

ハリマオ65
現代文学
*甘田は、茂田先輩に付き株、土地バブルで稼ぎ、世界を回り見聞を広めた。茂田先輩に恩返しせよ!! 青山甘太。姉夫婦が相模川近くの宿屋を経営。青山甘太は釣り、水泳、キノコ、山菜採りの名人の野生児、計算の速さ以外、学業の成績は良くない。中学卒業後、姉の宿屋を助け、船頭と川魚、山の幸、登山案内、運送で稼いだ。8歳年上のN証券の茂田作蔵と株で儲け財を築く。京王線が多摩NTから橋本へ延伸する情報を代議士から入手し駅近の土地を買収。茂田作蔵は、甘太の資産運用の参謀で活躍。 小説家になろうに重複投稿。

蜜柑製の死

羽上帆樽
現代文学
毎日500文字ずつ更新する詞です。その日の自分の状態が現れるだろうと予想します。上手くいく日もあれば、そうでない日もあるでしょう。どこから読んでも関係ありません。いつから知り合いになっても関係がないのと同じように。いつまで続くか未定です。続くまで続きます。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

青い箱

雨塔けい
現代文学
詩って難しい。

奇快雑集

衣谷 孝三
現代文学
これは、筆者が執筆練習のために思い付いた物語をポンポンと書き連ねた、節操のないショートショート作品集である。 恐らく黒歴史となることは間違い無いだろうが、書きたいのだから致し方ない。 無駄にしていい時間のある者は、是非ともこのアイデアの雑木林に足を踏み入れていただきたい。

処理中です...