上 下
20 / 376
The 1st episode

7

しおりを挟む
 そのまま俺は警察病院に向かう。
 診療時間外ではあるが、手帳を見せ、事情を話して通してもらった。

 202号室。個室のようだ。

 看護士曰く、伊緒は外傷もほとんどないため、あとは本人の希望次第で退院出来るとのこと。

 色々な手続きを済ませたいのもあったのでまずは本人と話してみることにした。
 まだ寝てるかと思い静かにドアを開けると、やっぱり寝ていて。

 起きるまで取り敢えず待っていようと思い、仮眠を取ることにしたが、結局俺が起きたのは伊緒が病室に入ってきた音だった。隣を見ればいつの間にかベットは空で。

「あ、起こしちゃいました?」
「いつの間に…」

 タオルケットまで掛けてあった。

「寝ててもいいですよ?」
「いや、大丈夫。ありがとう」

 なんだかにやにやしている。

「どうした?」
「いや、なんだかなんていうか…。
 流星さんすごく安らかに寝てたんで、心温まりました」

 確かに、状況の割には寝てしまった気がする。

「そうか」
「お見舞い来てくれたんですね。ありがとうございます」
「あぁ…まぁ。
お前さ、退院したらどうすんの?」
「…わかりません。ですが、まぁ子供でもないし、大丈夫」
「…ダメだなぁ。見通し立てとかないと、身を滅ぼすぞ。まだまだガキだなぁ」
「まぁ、そうですね」
「…まぁ、何かあったら言ってこい。連絡先…」

 取り敢えず紙に、ケータイのメアドだけを書いて渡した。

 だが、伊緒は困ったように笑った。

「…まさか、お前ケータイ持ってないのか?」

 そう聞くと、ぎこちなく頷いて。

「マジかよ。仕方ねぇな…いま何時だ?」

 時計を見るとまだ7時くらいで。

「…いや、大丈夫ですよ」
「まぁ俺の気分次第だ。気分が乗ったらもう一回来るから」

 早くてもケータイ会社なんて9時くらいからしかやってないだろう。取り敢えず一度帰ろうか。

「まぁ、また来るよ。じゃぁな」

 一度病院を出て、取り敢えず伊緒の日用品やらなんやらを揃えるために車を走らせた。

 ケータイは一台契約した。全てを午前中に済ませ再び病院に行くと、伊緒は驚いていた。

「流星さん…ありがとうございます」
「いや、別に。ただ家とかは…」
「いやそれはもう、大丈夫。今日はちゃんと帰って寝てください」
「…そうするよ」

 どうやら少し世話を焼きすぎたらしい。恐縮してしまったようだ。

 午後には久しぶりに家に帰って寝た。起きたのは20時くらいの、局長からの電話だった。

 俺は基本的に、数少ない休みの日は電話を取らないのを知っているから、局長はあまり電話をしてこないのだがどうしたのだろう。緊急事態だろうか。多分違うだろうけど。

「…はい、スミダ」
『うわぁ、機嫌悪いな』

 当たり前だ。俺はいま寝起きだ。

「…用事は?大した用事じゃないなら寝ますけど」
『嫌だなー。大した用事だし何より別れの挨拶をしてやろうかなと思ったのに』
「あ?何?」
『俺と話すの最後かもよ?』
「え、辞職するんですか?」
『うん、お前がね』

 一瞬判断するまでに時間が掛かった。間髪入れず、『お前、降格!』と告げられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プロパーとナースの冒険

ハリマオ65
現代文学
 石津健之助は、製薬企業のプロパーになり東北、新潟、長野と転勤。ハンサムで愛想の良く口が旨く看護婦、医者にも人気があり業績を伸ばし金を貯めた。女性にもて、最高の時代だった しかし無理を続け重症の自律神経失調症になり早期退職。しかし結婚した看護婦さんに助けられ熱海のマンションに住み療養に励み1年で回復。その後、親しくなった友人達の死を乗り越え、ポルトガルに古き良き日本の幻影を見て通い見聞を広めていく物語です。 石津健之助は慶応大学を出て製薬企業のプロパーへ。東北、新潟、長野と転勤。ハンサムで愛想の良く口が旨く医者に人気があり業績を伸ばす。飲み屋の娘や看護婦さんに、もてて出張でもホテルに泊まらず彼女たちの部屋に泊まる生活。出張・外勤手当は貯まり最高。しかし無理を続け重症の自律神経失調症で早期退職したが結婚した看護婦さんに助けられた。その後、友人の死を乗り越えポルトガルに古き良き日本の幻影を見た。この作品は、小説家になろう、カクヨム、noveldaysに重複投稿。

青い箱

雨塔けい
現代文学
詩って難しい。

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

蜜柑製の死

羽上帆樽
現代文学
毎日500文字ずつ更新する詞です。その日の自分の状態が現れるだろうと予想します。上手くいく日もあれば、そうでない日もあるでしょう。どこから読んでも関係ありません。いつから知り合いになっても関係がないのと同じように。いつまで続くか未定です。続くまで続きます。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

MPを補給できる短編小説カフェ 文学少女御用達

健野屋文乃
現代文学
迷宮の図書館 空色の短編集です♪ 最大5億MP(マジックポイント)お得な短編小説です! きっと・・・ MP(マジックポイント)足りてますか? MPが補給できる短編小説揃えています(⁎˃ᴗ˂⁎)

処理中です...