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「はい、もしもし」
居酒屋の雑踏の中だった。
「あー、そうなんですか。
とうかちゃん、ジイちゃん。あの人いま家宅捜索入ったってさ。
当の本人は……あー、そうなんですね。うーん…。
とうかちゃん、この後夜勤だっけ」
「あ、はい」
「まだ捕まってないらしいから、ウロウロしてるかもってさ」
…それはもしかすると…。
「…そうなんですね」
「再度状況を聞きたいけど、危ないから警察で用意するビジホに泊まって欲しいらしいんだけど……なんか、お母さんが夜職の方らしいんですよね。
あ、へー、そうなんですか。
後になったらこーゆーとき、帰ってくる可能性があるんだってさ。
…てか、変わった方が早いですかね?はい」
海江田にスマホを渡され「はい」と電話に出る。
『あ、どうも青木さんこんばんは。坂下です』
「あ、こんばんは…お世話になっております」
『えっと、いま一応海江田さんに聞いたと思うのですが、踏まえて、安全な場所で、状況もお聞きしたいのですが…。
齋藤に関しましては、我々が張り込みをし身柄を確保したいかなと、暫くはアパートの敷地内にいる予定です。如何でしょうか?』
「…あ…職場に、一報入れたいし………。
あと、荷物も取りに行きたいかもしれないです。おじいちゃん、体が不自由でして…本来なら自宅設備の方が、まぁ…」
祖父を見るがどうやら久々の酒に少し酔ってそうだ。
「…そうですよね~……。自宅でお聞きする、でもいいにはいいのですが…お母様も早朝や深夜に帰宅…ですよね?
出来るだけ早く、まぁ靴も履いてないという事ですし割とすぐ見つかるとは思うのですが…最悪な事態を想定し一旦別の場所でお聞きし我々が送迎する、などはどうでしょうか」
「…そうなりますよね…。
職場と、母に一報入れてみます。…そしたら掛け直し…あ、」
「あー、では私がいま持っているこの電話、直通なので教えますね」
…少し厄介だな…。
電話番号を聞いてすぐ、海江田本人に返す。
これはマズイ。上司と母にメールをした。
上司からはすぐに「回収に向かう。山ノ井には自分でキャンセルしとけ」と来た。
つまり、これは警察に見つからない…ということだ。
母は既読がつかない。
が、ここは従った方がいいだろう。
「海江田さん、職場はOKです。
母にはでは…場所を伝えそこで合流し帰宅する、と…」
「と、いうわけだそうですよ。
あぁ、まぁじゃあ俺も荷物は取りに行きたいし、このまま三人で向かいま…あぁ、そうですか。
ここに覆面が迎えに来てくれるってよ。とうかちゃんもジイちゃんもそれでいい?
そんで荷物持って俺たちビジホ」
「わかりました」
「てなわけで」
海江田は通話を切った。
追いで上司と母には連絡を入れた。
「兄ちゃん、すまねぇな…」
「仕方ないよ、貴重な経験ってことで。
警察ってすげー、余程だったんかね?」
「ですかね…」
「大捕物って、きっとあれよな、家財全部持ってくようなやつだよね。よくニュースで見るさ、ダンボールとか持って」
「…あぁ、ですかね?」
「へー…なんか、奥さん死んじゃったって言ってたよね?先日ので持ってっちゃってるわけじゃねーんだね」
「…確かに」
「自殺とかかなぁ。てかそっか、そんときなんか見つけてりゃ、その日にお縄か、きっと」
「まぁあそこはな…」
祖父はこちらを見てからしかし、言われるのをわかっているのだろう、目を伏せ「その奥さん、ヤクかなんかで…」と語り始めてしまったけれど。
状況が状況だし、もう齋藤とは関係がなくなるだろうが一応「おじいちゃん、」と窘めるフリをしといた。
「でも、知れることだろ?」
「…まぁ、そうだけども」
「ヤク…違法薬物ってこと?」
「なんかおかしかっただろ?今日見て確信したよ、噂されてたんだよ、あそこ」
「…なるほどねぇ…。確かに尋常じゃなかったから、ぶっちゃけそんな気はしてたが…」
「兄ちゃん、来て早々大変だな」
「あ、どうせならじいちゃんもアンジって呼んでよ。俺はじゃあ…ただちゃん?」
「え、」
「…変だよォ。小っ恥ずかしい」
「ジイちゃんはジイちゃんだな」
さて、と海江田はさっと会計を済ませてくれた。
丁度良かったのか、レジでスマホをチラ見していた。覆面が到着したのかもしれない。
「あっ」
「ほ、ホントに奢ってくれちゃったのか!?」と祖父が立ち上がろうとするのにどうどう、と手を翳す。
「一人寂しい新居祝いになるはずだったんだ。付き合ってくれてありがとうの意味で。
丁度来たみたいだよ、一回帰ろっか」
やはりか。
すまねぇすまねぇと言う祖父の車椅子を引きペコッと頭を下げておく。
…いま、クレカ支払いしたよな、この人。
身成りも、「ダメージ加工」というより「ヴィンテージ」。
なるほど、だから浮いて感じたのか。市営住宅にはいなそうなタイプだ。
海江田とは別々で覆面に乗り、一度帰宅した。
「気さくな兄ちゃんだなぁ」
祖父はどうやらこの海江田安慈と言う人物に好印象を持ったようだが、とうかは疑問の方が強かった。
けれどそんなことより、短い距離だが周りの風景を眺める。知っている車にすれ違うかもしれない。
この辺は20時を過ぎれば車通りもない、多分すぐわかる。
…結構閑散としていたんだな…。ゴーストタウンみたいだ。
街灯はどうしてオレンジなんだろう。
一台、軽トラとすれ違った。
あれかもしれないな、という予感がした。だとしたらアパートより離れた位置だ…。
刑事同伴の元、祖父の荷物やら仕事道具をちゃちゃっと持ち出した。
母は母で明日同伴してもらえばいいし…多分、明日には帰れそうだとも踏んでいる。
さり気なく海江田も「お邪魔してすんません」と、こちらの手伝いもしてくれた。
それぞれビジホに向かい、部屋で刑事と話をした。
居酒屋の雑踏の中だった。
「あー、そうなんですか。
とうかちゃん、ジイちゃん。あの人いま家宅捜索入ったってさ。
当の本人は……あー、そうなんですね。うーん…。
とうかちゃん、この後夜勤だっけ」
「あ、はい」
「まだ捕まってないらしいから、ウロウロしてるかもってさ」
…それはもしかすると…。
「…そうなんですね」
「再度状況を聞きたいけど、危ないから警察で用意するビジホに泊まって欲しいらしいんだけど……なんか、お母さんが夜職の方らしいんですよね。
あ、へー、そうなんですか。
後になったらこーゆーとき、帰ってくる可能性があるんだってさ。
…てか、変わった方が早いですかね?はい」
海江田にスマホを渡され「はい」と電話に出る。
『あ、どうも青木さんこんばんは。坂下です』
「あ、こんばんは…お世話になっております」
『えっと、いま一応海江田さんに聞いたと思うのですが、踏まえて、安全な場所で、状況もお聞きしたいのですが…。
齋藤に関しましては、我々が張り込みをし身柄を確保したいかなと、暫くはアパートの敷地内にいる予定です。如何でしょうか?』
「…あ…職場に、一報入れたいし………。
あと、荷物も取りに行きたいかもしれないです。おじいちゃん、体が不自由でして…本来なら自宅設備の方が、まぁ…」
祖父を見るがどうやら久々の酒に少し酔ってそうだ。
「…そうですよね~……。自宅でお聞きする、でもいいにはいいのですが…お母様も早朝や深夜に帰宅…ですよね?
出来るだけ早く、まぁ靴も履いてないという事ですし割とすぐ見つかるとは思うのですが…最悪な事態を想定し一旦別の場所でお聞きし我々が送迎する、などはどうでしょうか」
「…そうなりますよね…。
職場と、母に一報入れてみます。…そしたら掛け直し…あ、」
「あー、では私がいま持っているこの電話、直通なので教えますね」
…少し厄介だな…。
電話番号を聞いてすぐ、海江田本人に返す。
これはマズイ。上司と母にメールをした。
上司からはすぐに「回収に向かう。山ノ井には自分でキャンセルしとけ」と来た。
つまり、これは警察に見つからない…ということだ。
母は既読がつかない。
が、ここは従った方がいいだろう。
「海江田さん、職場はOKです。
母にはでは…場所を伝えそこで合流し帰宅する、と…」
「と、いうわけだそうですよ。
あぁ、まぁじゃあ俺も荷物は取りに行きたいし、このまま三人で向かいま…あぁ、そうですか。
ここに覆面が迎えに来てくれるってよ。とうかちゃんもジイちゃんもそれでいい?
そんで荷物持って俺たちビジホ」
「わかりました」
「てなわけで」
海江田は通話を切った。
追いで上司と母には連絡を入れた。
「兄ちゃん、すまねぇな…」
「仕方ないよ、貴重な経験ってことで。
警察ってすげー、余程だったんかね?」
「ですかね…」
「大捕物って、きっとあれよな、家財全部持ってくようなやつだよね。よくニュースで見るさ、ダンボールとか持って」
「…あぁ、ですかね?」
「へー…なんか、奥さん死んじゃったって言ってたよね?先日ので持ってっちゃってるわけじゃねーんだね」
「…確かに」
「自殺とかかなぁ。てかそっか、そんときなんか見つけてりゃ、その日にお縄か、きっと」
「まぁあそこはな…」
祖父はこちらを見てからしかし、言われるのをわかっているのだろう、目を伏せ「その奥さん、ヤクかなんかで…」と語り始めてしまったけれど。
状況が状況だし、もう齋藤とは関係がなくなるだろうが一応「おじいちゃん、」と窘めるフリをしといた。
「でも、知れることだろ?」
「…まぁ、そうだけども」
「ヤク…違法薬物ってこと?」
「なんかおかしかっただろ?今日見て確信したよ、噂されてたんだよ、あそこ」
「…なるほどねぇ…。確かに尋常じゃなかったから、ぶっちゃけそんな気はしてたが…」
「兄ちゃん、来て早々大変だな」
「あ、どうせならじいちゃんもアンジって呼んでよ。俺はじゃあ…ただちゃん?」
「え、」
「…変だよォ。小っ恥ずかしい」
「ジイちゃんはジイちゃんだな」
さて、と海江田はさっと会計を済ませてくれた。
丁度良かったのか、レジでスマホをチラ見していた。覆面が到着したのかもしれない。
「あっ」
「ほ、ホントに奢ってくれちゃったのか!?」と祖父が立ち上がろうとするのにどうどう、と手を翳す。
「一人寂しい新居祝いになるはずだったんだ。付き合ってくれてありがとうの意味で。
丁度来たみたいだよ、一回帰ろっか」
やはりか。
すまねぇすまねぇと言う祖父の車椅子を引きペコッと頭を下げておく。
…いま、クレカ支払いしたよな、この人。
身成りも、「ダメージ加工」というより「ヴィンテージ」。
なるほど、だから浮いて感じたのか。市営住宅にはいなそうなタイプだ。
海江田とは別々で覆面に乗り、一度帰宅した。
「気さくな兄ちゃんだなぁ」
祖父はどうやらこの海江田安慈と言う人物に好印象を持ったようだが、とうかは疑問の方が強かった。
けれどそんなことより、短い距離だが周りの風景を眺める。知っている車にすれ違うかもしれない。
この辺は20時を過ぎれば車通りもない、多分すぐわかる。
…結構閑散としていたんだな…。ゴーストタウンみたいだ。
街灯はどうしてオレンジなんだろう。
一台、軽トラとすれ違った。
あれかもしれないな、という予感がした。だとしたらアパートより離れた位置だ…。
刑事同伴の元、祖父の荷物やら仕事道具をちゃちゃっと持ち出した。
母は母で明日同伴してもらえばいいし…多分、明日には帰れそうだとも踏んでいる。
さり気なく海江田も「お邪魔してすんません」と、こちらの手伝いもしてくれた。
それぞれビジホに向かい、部屋で刑事と話をした。
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