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ライトが消える、酔いが覚めるようなあの瞬間が、一番怖くて寂しいと感じる。
「ただいま」
開けた向こうの電気。パッとドアが開き、漏れる光。
「パパ!」とパタパタ出迎えてくれた娘に配慮し玄関の電気を点けた。
目の前まで来た娘のキラキラした眼は俺でなく、抱えていたギターケースを一直線に捉えている。
「ぎたぁ?」
機材を運び入れ「ただいま」と抱き抱える娘の重さは、ギターと同じくらい。
風呂上がりの良い匂いがした。
「きゃー!おしゃけーくしゃー!」
腕の中できゃっきゃする娘。
肩にタオルを垂らしたまま現れた息子は「おかえり?」と控えめに首を傾ける。
2人とも、妻に似たのだと思う。
「おぅ、おかえりユキ」
「いちかも~!」
「ヤバいヤバい、酔ってるから落ちる!」
腕の中で暴れる一花を降ろし、「一花もおかえりー」とハイタッチ。
まだここに置いとくか。
機材を玄関に置きっぱにし、三人でリビングに向かうと妻が、さっとスマホを下へ向けテーブルに置いた。
「あれ、飲み行かなかったの?」
慌てるように立った妻が取り繕って聞いてくる。多分、夕飯はないのだ。
「あー、軽く行ってきたけど、対バンに子持ちのやつがいたからさ、お互い早めに切り上げてきた」
妻に子供を任せ「飯は食ったから大丈夫だよ」を聞いていたかいないか、麻衣またケータイを眺め「ふん」とそうでもない返事。
汗かいたしなと、風呂場に向かえば温かい。
洗濯籠の中に入っていた麻衣の下着は少し派手だった。こんな瞬間、嫌になる。
あ、やっぱりその前に機材を作業部屋に運ぼう。
タイムスケジュール的に今日は早めに済ませなければ。SNSの生配信日だ。
いままでそういったものは嫌いだった、というより苦手だったが、メンバーの竜二に
「いや、曽根原さん、もう少し発信してくださいよ」
と教えられ渋々始めてみたら案外、空白が埋まる良い機会になった。
今日のウェルカムソングは何にしようかな。てゆうか先週何喋ったっけな。酔っぱらっててほぼ覚えてないけど確かその場のノリで洋楽の、なんか大物特集やる的なことを言ってしまったような…これは覚えていないことにしよう。
シャワーの音を聞きながらふと降ってくる、今日のライブ。
あー、あまちゃん今日もサイコーにラリっててよかったな~。
そういえば、好きな唄あるんだよな。あの唄、若さ故にぶつける気持ちが痛々しくて新鮮なんだよなぁ。
あれじゃなくてもまぁ、あまちゃんはバラードっぽいのも唄うし、なんかあるかな。
そうだ喋っていいか…多分ダメだ、喋らんどこ。あの唄高校で作ったとか言ってたな~。あのセンスを高校生で持っていたなんて。
丁度俺は、あまちゃんが世話になった人と同い年らしい。
「今じゃ書けねぇからやらんのですけどね」
照れ臭そうに言っていたのがさっきだ。
俺の高校時代なんて、多分普通の学生で、あまちゃんほど都会にも住んでいなかった。
進学した北の大地の治安にすぐ呑まれ、俺は当時、かなり尖っていた自覚がある。
俺達もまだまだ青春。アイツらも青春。
コード、多分弾けばわかる…でもあれ弾き語り向きか、わからんな。アレンジで良いとしても、歌詞わかんねぇな。
まぁ検索すりゃあ出てくるか。
取れかけたワックスと汗を洗い落とそうとして気付く、こてこてな匂い。麻衣のシャンプーを使ってしまった。
まぁいいか。ワンプッシュくらいじゃ気付かないだろう。
それにしても凄い匂いだな…まぁ、生のタバコの匂いが取れていいけれども。こんな匂いが好きなのか、相手は。今更だけど。
しかし風呂上がりに髪を乾かしていると、ほぼ寝てしまっている一花を抱っこし、眠そうな幸村と手を繋ぎ寝室へ向かう麻衣と、鏡越しに目が合ってしまった。
「私のシャンプー使った?」
「ごめん」
ふいっと、子供には見せない真顔で「おやすみ」と2階へ上がって行く。
特に干渉はしない。
しかし、別に冷めている関係ではないのだ。なんせ、子供はまだ小さい。
「父さん、おやすみ」
眠そうな声。
指に塗ろうとした接着剤をその場に置き、振り向いて「おやすみ、ユキ」ときちんと言った。
幸村はきっと、俺たち夫婦の微妙さに気付いているが、当の麻衣は「子供だから」と多分、気が向いていない。
年子。
幸村が例え俺の子ではなくとも、可愛いから問題は無いし、理由も分かっているからいいが、俺は随分と寛容になったものだ、喜ばしいのかなんなのか。
いや、これは虚勢だ。本当はかなりイラつく。相手がDV元カレなら尚更だ。
俺は過去なんて断ち切って幸村を受け入れた…いや、普通に可愛いからいいのだけど。
ドライヤーで片方ずつ、ふやけた指に接着剤を塗り乾かしていく。
麻衣に良く似た、賢い幸村の未来。幸村が大人になり一緒に酒でも飲んだ日にもしも、あの淡い色の瞳で「仕方なかったよね」だなんて言われてしまったら、と考えると複雑だ。
だけど男親子なんて、親友みたいなものでいい。俺も親父とはそんな関係だった。
最近出た、日本産のジンとソーダ水を持って作業部屋に籠る。配信時間まであと僅か。
あまちゃんの曲はやっぱり、ガットギターにしよう。多分綺麗だ。
「ただいま」
開けた向こうの電気。パッとドアが開き、漏れる光。
「パパ!」とパタパタ出迎えてくれた娘に配慮し玄関の電気を点けた。
目の前まで来た娘のキラキラした眼は俺でなく、抱えていたギターケースを一直線に捉えている。
「ぎたぁ?」
機材を運び入れ「ただいま」と抱き抱える娘の重さは、ギターと同じくらい。
風呂上がりの良い匂いがした。
「きゃー!おしゃけーくしゃー!」
腕の中できゃっきゃする娘。
肩にタオルを垂らしたまま現れた息子は「おかえり?」と控えめに首を傾ける。
2人とも、妻に似たのだと思う。
「おぅ、おかえりユキ」
「いちかも~!」
「ヤバいヤバい、酔ってるから落ちる!」
腕の中で暴れる一花を降ろし、「一花もおかえりー」とハイタッチ。
まだここに置いとくか。
機材を玄関に置きっぱにし、三人でリビングに向かうと妻が、さっとスマホを下へ向けテーブルに置いた。
「あれ、飲み行かなかったの?」
慌てるように立った妻が取り繕って聞いてくる。多分、夕飯はないのだ。
「あー、軽く行ってきたけど、対バンに子持ちのやつがいたからさ、お互い早めに切り上げてきた」
妻に子供を任せ「飯は食ったから大丈夫だよ」を聞いていたかいないか、麻衣またケータイを眺め「ふん」とそうでもない返事。
汗かいたしなと、風呂場に向かえば温かい。
洗濯籠の中に入っていた麻衣の下着は少し派手だった。こんな瞬間、嫌になる。
あ、やっぱりその前に機材を作業部屋に運ぼう。
タイムスケジュール的に今日は早めに済ませなければ。SNSの生配信日だ。
いままでそういったものは嫌いだった、というより苦手だったが、メンバーの竜二に
「いや、曽根原さん、もう少し発信してくださいよ」
と教えられ渋々始めてみたら案外、空白が埋まる良い機会になった。
今日のウェルカムソングは何にしようかな。てゆうか先週何喋ったっけな。酔っぱらっててほぼ覚えてないけど確かその場のノリで洋楽の、なんか大物特集やる的なことを言ってしまったような…これは覚えていないことにしよう。
シャワーの音を聞きながらふと降ってくる、今日のライブ。
あー、あまちゃん今日もサイコーにラリっててよかったな~。
そういえば、好きな唄あるんだよな。あの唄、若さ故にぶつける気持ちが痛々しくて新鮮なんだよなぁ。
あれじゃなくてもまぁ、あまちゃんはバラードっぽいのも唄うし、なんかあるかな。
そうだ喋っていいか…多分ダメだ、喋らんどこ。あの唄高校で作ったとか言ってたな~。あのセンスを高校生で持っていたなんて。
丁度俺は、あまちゃんが世話になった人と同い年らしい。
「今じゃ書けねぇからやらんのですけどね」
照れ臭そうに言っていたのがさっきだ。
俺の高校時代なんて、多分普通の学生で、あまちゃんほど都会にも住んでいなかった。
進学した北の大地の治安にすぐ呑まれ、俺は当時、かなり尖っていた自覚がある。
俺達もまだまだ青春。アイツらも青春。
コード、多分弾けばわかる…でもあれ弾き語り向きか、わからんな。アレンジで良いとしても、歌詞わかんねぇな。
まぁ検索すりゃあ出てくるか。
取れかけたワックスと汗を洗い落とそうとして気付く、こてこてな匂い。麻衣のシャンプーを使ってしまった。
まぁいいか。ワンプッシュくらいじゃ気付かないだろう。
それにしても凄い匂いだな…まぁ、生のタバコの匂いが取れていいけれども。こんな匂いが好きなのか、相手は。今更だけど。
しかし風呂上がりに髪を乾かしていると、ほぼ寝てしまっている一花を抱っこし、眠そうな幸村と手を繋ぎ寝室へ向かう麻衣と、鏡越しに目が合ってしまった。
「私のシャンプー使った?」
「ごめん」
ふいっと、子供には見せない真顔で「おやすみ」と2階へ上がって行く。
特に干渉はしない。
しかし、別に冷めている関係ではないのだ。なんせ、子供はまだ小さい。
「父さん、おやすみ」
眠そうな声。
指に塗ろうとした接着剤をその場に置き、振り向いて「おやすみ、ユキ」ときちんと言った。
幸村はきっと、俺たち夫婦の微妙さに気付いているが、当の麻衣は「子供だから」と多分、気が向いていない。
年子。
幸村が例え俺の子ではなくとも、可愛いから問題は無いし、理由も分かっているからいいが、俺は随分と寛容になったものだ、喜ばしいのかなんなのか。
いや、これは虚勢だ。本当はかなりイラつく。相手がDV元カレなら尚更だ。
俺は過去なんて断ち切って幸村を受け入れた…いや、普通に可愛いからいいのだけど。
ドライヤーで片方ずつ、ふやけた指に接着剤を塗り乾かしていく。
麻衣に良く似た、賢い幸村の未来。幸村が大人になり一緒に酒でも飲んだ日にもしも、あの淡い色の瞳で「仕方なかったよね」だなんて言われてしまったら、と考えると複雑だ。
だけど男親子なんて、親友みたいなものでいい。俺も親父とはそんな関係だった。
最近出た、日本産のジンとソーダ水を持って作業部屋に籠る。配信時間まであと僅か。
あまちゃんの曲はやっぱり、ガットギターにしよう。多分綺麗だ。
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