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「……あぁ、三日目にして現状、対ゲリラと謳う武器庫があった。
紛争地域だ、患者から取り上げたり、そんなこともあるようだが、警備体制は南京錠ひとつ、それは医務官と呼ばれる男が持っている」
朔太郎は、自分に与えられた簡素な部屋のデスクに座り、電話先へ報告した。
部屋とはいっても簡易ベッドと木机のみの、まるで牢屋のような部屋だった。
「あー盗聴機ね。
昨日見つけたあと更に今日は3つ…あ、4つ目発見した今。机の下。んまぁ、」
小さな、セロハンテープにつけられたそれをパキっと指で壊し、白衣のポケットへ回収した。
「どのみち行政指導は仰いでもいいかもしれない。
武器にしても密輸と思われる物が数種類あった。あとは…何種類かは違法薬物に指定されているか…写真録れたら送る。なんせほぼ死体が集まる場所だから仕方ない面も無きにしもあらず。この国の薬事法はコロコロ変わるしな。
ん……?あぁ、わかってるよジェシー。は?違うって?まぁ、残業ご苦労さん。はーい、はーい」
末恐ろしい女だ。通話を切った。
ブロンド、短髪のクールな泣き黒子が感情もなしに電話をしているデスクの情景が浮かんだ。初めて見たときは男だと思ったもんだ。
電話先の相手、ジェシー・カミュという女性軍人は年下で、20代にして機捜隊とはなかなかの人物だ。
電話を切るときも「あぁ、はい、気を付けて、バレないでくださいね」なんてまるで温度のない声、つまりは自分を邪険に扱うようだった。評価に値する。
しかし、と電話を切れば溜め息が出た。
昨日、盗聴機を勝手に全て外した件について誰も何も突っ込まなかった。先方も怪しいが俺も充分そんなこと、怪しいだろうに。
その盗聴機が例えば、この部屋を以前に使ってた者が取り付け、今はいない、となれば却って今日はノーリアクション、それは「また盗聴機が仕掛けられている」という結果にはならないはずだけど。
明日あたり何かしら言われるだろうか。こちらが言わなければ毎日こうなんだろうか。面倒臭い。
こちらとしてはどんな内容であれ正直聞かれても構わないのだ。
例えば先程のような内容を誰かが聞いた、これで国政への警戒として病院の体制を一時的にでも変える。これだって正しい方へ向かうと捉えれば上々。
まぁ、そんな生温さでこんなことはしないけども。
タバコが吸いたいなと、朔太郎はポケットに手を突っ込んだ。
タバコに行き当たったが思い出した。「麻薬密売の観点や、そもそも医者はあまりタバコを吸いませんよ」等とほざいたここの医務官なる中年の顔が浮かぶ。いかにも低俗だ。
「外というのもそういった観点から……ではこちらでどうぞ」
と案内された脱出不可能そうな外通路が相乗で浮かんだ。利用の際に一声掛けろとまで言われた。あの医務官、あまりに多くて昨日はうんざりしていたな。
盗聴機を仕掛ける人物など、考えなくてもわかる。ここの警備警戒心の杜撰さときたらない。
ポケットの飴。結局また6種類入りのやつに戻った。青リンゴ。悪くないなと袋を開けようかとしたとき、薄い扉の向こうの通路がバタバタと異様に騒がしくなった。
方向はここより奥へ向かっている。医務官様だろうと、朔太郎は青リンゴを口に入れて耳をそばだてた。
『オーリン医師!』
ドアがノックされる。こちらの部屋も若干揺れる勢い。壊れるんじゃないか、この元廃病院は。
キィ、と開かれる音のすぐ後に『はい、』と医務官の声がし、歩きながら『急患です、仮死状態で…』と慌てる声が追う。
『仮死状態か…』と足跡は止まって戻る。タイミング的には今だろうかと朔太郎は部屋のドアを開けた。
慌てたアジア系女医と、注射やら何やらの道具を取りに戻ったオーリンが朔太郎を見、「おや」と然して感情もなく言った。
「急患ですか」
「みたいです。仮死状態だということで」
視線でも「まぁ着いて来なさいよ」と言いたげだし、言われなくても見てやろうという気があったしと利害の一致で朔太郎もオーリンに同行した。
搬入口の前段階ですでに忙しない。数少ない従業員が総出、くらいかもしれない。間違いなく騒然としている。
ここはしかし、ゲリラが立ち寄る、それは事実だろうと思える環境だった。
実情的には朔太郎が想像していた「紛争地域の小さな医療団体」と相違ないような場所で、患者の足やら手やらがない、も2日目にして何件か見た。
だから皆慌てつつも対応には慣れているような雰囲気で仕事をしているのだ。
なのに、少し違う。一体どういう案件なんだろうかと思った矢先。
ひとつ、恐らく患者を従業員が取り囲んでいる人の円が出来ていた。
紛争地域だ、患者から取り上げたり、そんなこともあるようだが、警備体制は南京錠ひとつ、それは医務官と呼ばれる男が持っている」
朔太郎は、自分に与えられた簡素な部屋のデスクに座り、電話先へ報告した。
部屋とはいっても簡易ベッドと木机のみの、まるで牢屋のような部屋だった。
「あー盗聴機ね。
昨日見つけたあと更に今日は3つ…あ、4つ目発見した今。机の下。んまぁ、」
小さな、セロハンテープにつけられたそれをパキっと指で壊し、白衣のポケットへ回収した。
「どのみち行政指導は仰いでもいいかもしれない。
武器にしても密輸と思われる物が数種類あった。あとは…何種類かは違法薬物に指定されているか…写真録れたら送る。なんせほぼ死体が集まる場所だから仕方ない面も無きにしもあらず。この国の薬事法はコロコロ変わるしな。
ん……?あぁ、わかってるよジェシー。は?違うって?まぁ、残業ご苦労さん。はーい、はーい」
末恐ろしい女だ。通話を切った。
ブロンド、短髪のクールな泣き黒子が感情もなしに電話をしているデスクの情景が浮かんだ。初めて見たときは男だと思ったもんだ。
電話先の相手、ジェシー・カミュという女性軍人は年下で、20代にして機捜隊とはなかなかの人物だ。
電話を切るときも「あぁ、はい、気を付けて、バレないでくださいね」なんてまるで温度のない声、つまりは自分を邪険に扱うようだった。評価に値する。
しかし、と電話を切れば溜め息が出た。
昨日、盗聴機を勝手に全て外した件について誰も何も突っ込まなかった。先方も怪しいが俺も充分そんなこと、怪しいだろうに。
その盗聴機が例えば、この部屋を以前に使ってた者が取り付け、今はいない、となれば却って今日はノーリアクション、それは「また盗聴機が仕掛けられている」という結果にはならないはずだけど。
明日あたり何かしら言われるだろうか。こちらが言わなければ毎日こうなんだろうか。面倒臭い。
こちらとしてはどんな内容であれ正直聞かれても構わないのだ。
例えば先程のような内容を誰かが聞いた、これで国政への警戒として病院の体制を一時的にでも変える。これだって正しい方へ向かうと捉えれば上々。
まぁ、そんな生温さでこんなことはしないけども。
タバコが吸いたいなと、朔太郎はポケットに手を突っ込んだ。
タバコに行き当たったが思い出した。「麻薬密売の観点や、そもそも医者はあまりタバコを吸いませんよ」等とほざいたここの医務官なる中年の顔が浮かぶ。いかにも低俗だ。
「外というのもそういった観点から……ではこちらでどうぞ」
と案内された脱出不可能そうな外通路が相乗で浮かんだ。利用の際に一声掛けろとまで言われた。あの医務官、あまりに多くて昨日はうんざりしていたな。
盗聴機を仕掛ける人物など、考えなくてもわかる。ここの警備警戒心の杜撰さときたらない。
ポケットの飴。結局また6種類入りのやつに戻った。青リンゴ。悪くないなと袋を開けようかとしたとき、薄い扉の向こうの通路がバタバタと異様に騒がしくなった。
方向はここより奥へ向かっている。医務官様だろうと、朔太郎は青リンゴを口に入れて耳をそばだてた。
『オーリン医師!』
ドアがノックされる。こちらの部屋も若干揺れる勢い。壊れるんじゃないか、この元廃病院は。
キィ、と開かれる音のすぐ後に『はい、』と医務官の声がし、歩きながら『急患です、仮死状態で…』と慌てる声が追う。
『仮死状態か…』と足跡は止まって戻る。タイミング的には今だろうかと朔太郎は部屋のドアを開けた。
慌てたアジア系女医と、注射やら何やらの道具を取りに戻ったオーリンが朔太郎を見、「おや」と然して感情もなく言った。
「急患ですか」
「みたいです。仮死状態だということで」
視線でも「まぁ着いて来なさいよ」と言いたげだし、言われなくても見てやろうという気があったしと利害の一致で朔太郎もオーリンに同行した。
搬入口の前段階ですでに忙しない。数少ない従業員が総出、くらいかもしれない。間違いなく騒然としている。
ここはしかし、ゲリラが立ち寄る、それは事実だろうと思える環境だった。
実情的には朔太郎が想像していた「紛争地域の小さな医療団体」と相違ないような場所で、患者の足やら手やらがない、も2日目にして何件か見た。
だから皆慌てつつも対応には慣れているような雰囲気で仕事をしているのだ。
なのに、少し違う。一体どういう案件なんだろうかと思った矢先。
ひとつ、恐らく患者を従業員が取り囲んでいる人の円が出来ていた。
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