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9:30。
いつもより少しだけ余裕があるだろうかと思ったのに、いつも通りだが、異変とすれば事務所のドアの前に、段ボールが置いてあった。
「置き配とか、んな優秀なシステムなんてウチにねぇよ、」
クロエ以外に宛はいないだろうと朔太郎は露骨にクロエを睨むが、クロエは「ん?」と疑問そうだ。
「君は金遣いが荒いな、良い加減にしないと」
「いや、ここ暫く何も頼んでないんだけど……、何か忘れてるかな…」
その違和感を少しだけクロエから感じ取ったような気がするが、こういった引っ掛かりは日常に於いて流されるものだ、と、鍵を手にして足元に及んだ瞬間、自分のものではないにしても何故だか箱を凝視するほどであった。
何故か、は不明だがクロエも床に置かれた段ボールを手にする前、朔太郎を見上げてくる。しかし何か会話かと言えば、そうでなく。
鍵を開ける、手に取る、瞬間には「…冷たい、」と、明らかにクロエの声に不信感が滲んだ。
「…冷たい?」
「これ…」
部屋に入れてみて「ちょっと、」と、自然と朔太郎が白手をしてクロエがその場に段ボールを置く。
やはり、互いに「得体が知れない」という空気は一致したらしい。何が、どうというわけではない、それはなんとなく気持ちが悪いのだ。
間違うことはなく「To Chloe」。
何が出てくるかわからないだろうに、朔太郎は案外易々とデスクからカッターを持ち、箱のテープを切って開けた。
まるで煙の中から出てきたそれは真空パックのようなものに入れられた小さい物で、……芋虫か、何か…しかしこんなところに運ばれるのはおかしいと眺めて気付けば「ぅわっ、」と、クロエが思わず声にする。
茶色く、土か血かもわからないがはっきり見ようという頃にはわかる、「指」だ。
「………、」
一気に顔の青くなったクロエを眺め、「換気」と朔太郎はドアを促す。
クロエが従うと朔太郎はふぅ、と息を吐き「上司に電話する」と、ダルそうにケータイをポケットから出した。
『はい、緊急通報です。事件ですか事故ですか?』
は?
クロエが思う間もなく「家に不審物が届きました」と、ごく当たり前に朔太郎は対応している。
『不審物とは…どう言ったものでしょうか』
「段ボールに入ってました。冷たくて、開封したらポリ袋に入った指が」
『状況からするに開封はなされたということですね。畏まりました、すぐに捜査員を要請いたします。まずはご住所とお名前を念のためお願いします』
「3-1-2、サウスセントラルNo,3、セントラル、サクタロウ・シバタ、ジャパニーズ」
間があってから、「お電話番号は今掛けてるこちらで…」と続けるので、しれっと事務所の番号を伝える。
『…畏まりました、すぐに近くの交番等から捜査員を派遣いたします』
ごく普通の「緊急通報」の風景に、いや、近くの交番というかここは…とクロエは思ったが、朔太郎は表情を崩さない。
『どの様な状況で置かれていましたか?』
「たん、とドアの前に。置き配かと思いましたが覚えもなく。持ち上げたら冷たかったんで怪しいと開けました」
『畏まりました。捜査員が駆け付けるまで現状そのままお待ちくださいませ』
電話を切った朔太郎へ素直に「はぁ?」とクロエは投げる。
「え?」
「現状このままお待ちくださいませ」
「いや、おかしくない?」
「お前これに覚えは」
「押し切らないでよっ!何?どーゆーこと?」
「こっちが聞きてぇよどゆこと?」
「なんで緊急通報なの?上司は?機動捜査隊?」
「わかってんじゃん、そうだよ」
「なんだって!?」
確かに公安だけども。ユーモアと受けとるべきかなんなのか、いや、この事態でなんだこいつは、ブラックユーモアだろ。
クロエが突っ込みたい最中、ものの数分で「なんのつもり?」と、不機嫌そうな長髪ブロンドのナイスバディ警官が現れた。
きっとアメリカ系。
アメリカン美人はすぐ足元のドライアイスに「うわっ、」と少し退いた。
「久しぶり隊長」
「久しぶりじゃないよねあんたっ!ナニコレイタズラ!?」
「違います~ちゃんと見てくださぁい」
ちらっとクロエと目が合い「ん?」とアメリカン美人が顔をしかめた。
「は?何?どーゆー状況?」
「あ、はい。出勤したらこれ置いてあったんですぅ」
アメリカン美人も白手をして箱を見ては「クロエ?」と疑問そう。
「あぁはいこいつですぅ」
再び眺められなんて名乗ろうかと考える間もなく「クロエ・ユーリエヴィッチ・アヴェリンくん宛で」と平然と言う朔太郎に、上司は「ふうん」程度だった。
「…初めまして、公安科機動捜査1部隊のクリスタル・カミュです。えっと…貴方宛であってる?」
「はい、クロエです。ハーフさん?」
「そう。あのー、えっと」
「部下だ」
「…部下?どーゆーこと?知らないけど」
「報告書出してますけどいまそれどころじゃねぇよ?」
「は?あんたが言うの?シバタ。彼女からお話を」
「バカじゃないの?彼だぞ?」
「……えっとクロエくん。これはここの前にあったんですね?…送り主が書いてないけど覚えはある?」
完全にクリスタルから無視された朔太郎は舌打ちをした。
いつもより少しだけ余裕があるだろうかと思ったのに、いつも通りだが、異変とすれば事務所のドアの前に、段ボールが置いてあった。
「置き配とか、んな優秀なシステムなんてウチにねぇよ、」
クロエ以外に宛はいないだろうと朔太郎は露骨にクロエを睨むが、クロエは「ん?」と疑問そうだ。
「君は金遣いが荒いな、良い加減にしないと」
「いや、ここ暫く何も頼んでないんだけど……、何か忘れてるかな…」
その違和感を少しだけクロエから感じ取ったような気がするが、こういった引っ掛かりは日常に於いて流されるものだ、と、鍵を手にして足元に及んだ瞬間、自分のものではないにしても何故だか箱を凝視するほどであった。
何故か、は不明だがクロエも床に置かれた段ボールを手にする前、朔太郎を見上げてくる。しかし何か会話かと言えば、そうでなく。
鍵を開ける、手に取る、瞬間には「…冷たい、」と、明らかにクロエの声に不信感が滲んだ。
「…冷たい?」
「これ…」
部屋に入れてみて「ちょっと、」と、自然と朔太郎が白手をしてクロエがその場に段ボールを置く。
やはり、互いに「得体が知れない」という空気は一致したらしい。何が、どうというわけではない、それはなんとなく気持ちが悪いのだ。
間違うことはなく「To Chloe」。
何が出てくるかわからないだろうに、朔太郎は案外易々とデスクからカッターを持ち、箱のテープを切って開けた。
まるで煙の中から出てきたそれは真空パックのようなものに入れられた小さい物で、……芋虫か、何か…しかしこんなところに運ばれるのはおかしいと眺めて気付けば「ぅわっ、」と、クロエが思わず声にする。
茶色く、土か血かもわからないがはっきり見ようという頃にはわかる、「指」だ。
「………、」
一気に顔の青くなったクロエを眺め、「換気」と朔太郎はドアを促す。
クロエが従うと朔太郎はふぅ、と息を吐き「上司に電話する」と、ダルそうにケータイをポケットから出した。
『はい、緊急通報です。事件ですか事故ですか?』
は?
クロエが思う間もなく「家に不審物が届きました」と、ごく当たり前に朔太郎は対応している。
『不審物とは…どう言ったものでしょうか』
「段ボールに入ってました。冷たくて、開封したらポリ袋に入った指が」
『状況からするに開封はなされたということですね。畏まりました、すぐに捜査員を要請いたします。まずはご住所とお名前を念のためお願いします』
「3-1-2、サウスセントラルNo,3、セントラル、サクタロウ・シバタ、ジャパニーズ」
間があってから、「お電話番号は今掛けてるこちらで…」と続けるので、しれっと事務所の番号を伝える。
『…畏まりました、すぐに近くの交番等から捜査員を派遣いたします』
ごく普通の「緊急通報」の風景に、いや、近くの交番というかここは…とクロエは思ったが、朔太郎は表情を崩さない。
『どの様な状況で置かれていましたか?』
「たん、とドアの前に。置き配かと思いましたが覚えもなく。持ち上げたら冷たかったんで怪しいと開けました」
『畏まりました。捜査員が駆け付けるまで現状そのままお待ちくださいませ』
電話を切った朔太郎へ素直に「はぁ?」とクロエは投げる。
「え?」
「現状このままお待ちくださいませ」
「いや、おかしくない?」
「お前これに覚えは」
「押し切らないでよっ!何?どーゆーこと?」
「こっちが聞きてぇよどゆこと?」
「なんで緊急通報なの?上司は?機動捜査隊?」
「わかってんじゃん、そうだよ」
「なんだって!?」
確かに公安だけども。ユーモアと受けとるべきかなんなのか、いや、この事態でなんだこいつは、ブラックユーモアだろ。
クロエが突っ込みたい最中、ものの数分で「なんのつもり?」と、不機嫌そうな長髪ブロンドのナイスバディ警官が現れた。
きっとアメリカ系。
アメリカン美人はすぐ足元のドライアイスに「うわっ、」と少し退いた。
「久しぶり隊長」
「久しぶりじゃないよねあんたっ!ナニコレイタズラ!?」
「違います~ちゃんと見てくださぁい」
ちらっとクロエと目が合い「ん?」とアメリカン美人が顔をしかめた。
「は?何?どーゆー状況?」
「あ、はい。出勤したらこれ置いてあったんですぅ」
アメリカン美人も白手をして箱を見ては「クロエ?」と疑問そう。
「あぁはいこいつですぅ」
再び眺められなんて名乗ろうかと考える間もなく「クロエ・ユーリエヴィッチ・アヴェリンくん宛で」と平然と言う朔太郎に、上司は「ふうん」程度だった。
「…初めまして、公安科機動捜査1部隊のクリスタル・カミュです。えっと…貴方宛であってる?」
「はい、クロエです。ハーフさん?」
「そう。あのー、えっと」
「部下だ」
「…部下?どーゆーこと?知らないけど」
「報告書出してますけどいまそれどころじゃねぇよ?」
「は?あんたが言うの?シバタ。彼女からお話を」
「バカじゃないの?彼だぞ?」
「……えっとクロエくん。これはここの前にあったんですね?…送り主が書いてないけど覚えはある?」
完全にクリスタルから無視された朔太郎は舌打ちをした。
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