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朔太郎とアレクはファイルとパソコンを交互に眺めていた。
カフカ・オレーゴヴィッチ・アニシンとユーリイ・ロマーノヴィッチ・バザロフの共通の関係者を出来るだけ割り出そうにも、二人とも同じ科の政治家なのだから、そんな者はゴミのようにいる。
二人とも50代ともなればそれなりの年齢であるし、骨が折れそうだ。
根本である二人の共通点、今回のターゲット「クロエ・ユーリエヴィッチ・アヴェリン」について調べようにも確かにまるっきり出てこなかった。
違和感でしかない。
「個人のパーティにしちゃ随分呼んでるなぁ。サクの言う通りだ、地方団体やら…まぁ、民主科ならまだいいがタレントやらと…参加者に統一性がない」
名簿を洗い出していたアレクはそう言った。
「骨が折れそうだよ、サクぅ」
「こっちも絶賛骨が折れそうだ。マスコミ関係者はどうだ?」
「こっちは意外と…少なそうだよ。3社かなぁ。タイムズアクアとユートピア放送協会と外交メディア」
「ふぅ…」
椅子に深く身を預け、朔太郎はそれら資料から目を離す。
「政治家さんはサクちゃんよりお友達が多いねぇ。一般企業やら、もうホームレスでもない限りはみーんな友達なんかねぇ、」
「少なくとも俺はそいつと友達じゃないから、もっと絞れるはずだぞ」
「冗談よしてよこの国何億人いると思ってんの。2億だからね」
「あぁ俺の国より多いな。凄いな解放区ってのは」
「サクちゃんそっちはどうなの」
「同じだな。いや、多分そっちよりは規則性がある」
「そりゃぁねぇ」
「しかし…こんなに見事に胡散臭いとなると…本当にユーリイはそちら側ではないのかもしれないなという考えが強くなった。
金の流れや政党やら、ユーリイの「真のお友達」達は案外狭いらしい。大抵が防衛関係と外交関係しかいない。普通大臣ともなればもう少し広くてもいいだろう。
悪く言えば世間知らずなもので、ユーリイは防衛科以外の道を知らないのかもしれない。何代かに渡ればこういうもんなんだろうか」
「そのわりにごちゃごちゃしてるなぁ…」
「ユーリイは思ったより、人との関わりの概念が淡白な印象を受ける、こっちはな。ユーリイで検索をしても特に、大炎上というものもないし」
「なに?」
「ルカ・キーロヴナ・アヴェリナだが、マスコミや世間の情報でもほとんど目に触れることがないようだ。世間の認識では本妻は端からレイラ・バーベリ・バザロヴァだろうと思うが」
「ん?そんなわけはないと思うぞサク。俺だって、行き着いた訳だし」
「…ヒットした数件の中に確かにルカの名前は出てきた。第一子出産だろ?ごく一部、マイナーなインターネット記事にはあったな。彼女の名前はそれ以外、現れていないようだ。離婚も結婚も死亡も報道歴がないし、」
「…逆にミハイル出産の記事はないだろ?」
…言われてみれば。
「…確かに、」
そのままパソコンに向かおうとした朔太郎に「待ってサクちゃん!」とアレクは待ったを掛けた。
「…飯食わね?俺もう結構限界」
「……」
ポカンとした朔太郎に「奢るから!」とアレクは更にけしかける。
それに間を起き朔太郎は無言で立ち上がった。
「おぅ、そうだろそうだろ、『軍隊の進軍は腹次第』。俺の国のことわ」
「アレク」
「ん?何食いた」
「そもそも何故君はルカが本妻だと認識した?」
「……ジャパニーズね今日はっ!もういい、早く!早く行くよっ!ちょっとは故郷を思い出せ全く!」
全くもってこの場に意識が帰ってこない同僚をアレクは無理矢理に事務所から引っ張り出した。
元来朔太郎の習性、ワーカホリックを忘れた訳ではないアレクだが、それを思い出したような心境。
確か日本ではそれを「社畜」と呼び、あの人種は皆ほとんどそうだと前に朔太郎が言っていた。文化であれば仕方ない。これが国単位とは、ある意味で日本は軍事国家だとすら思える。
「ねぇサク、日本料理は何が旨いの」
「カツ丼」
「どゆもの?」
「カツがどんっ、と」
「全然わからないよ」
「カツはポークの切り身が」
「俺カトリックなんだよねぇ、喧嘩売ってる?」
「…どっちもイケる口が何言ってんの」
「うん、そーだねまぁ食べるよ」
今更だしね、とアレクは言う。
しかし、「ちなみに俺は西部の文化だからビーフが多かったよ」としれっと言う朔太郎には流石に一発どついてしまった。
だが、それでもまだぼんやりしている朔太郎に「あのさ」と、アレクは観念し答えることにした。
「ルカの話だけど」
「えぁ?うん」
科庁から出た外の新鮮な空気とは裏腹に、朔太郎はタバコを一本取り出し咥える始末。
「多分その出産の記事読んだからかもしんない」
「…ん、だよなぁ、あの感じ。
アレクが抱くバザロフ氏の印象は?」
「ん?
…そうねぇ、…愛妻家で、金持ちで…奥さんの印象の方がちょっと強いかも。社交的だし、テレビでは「セレブ美人妻」で有名じゃん?」
「そうかも。俺も始めこの話を持ってこられた時、防衛大臣でユーリイというのがピンと来なかった」
「……まさかと思うけど、女一人に…テロとか、ないよねぇ?」
「どうかな。勝手な印象だがあの女は浪費家だろ?パーティ主催も、なんだかあの名簿を見るとわからないよな。可能性は視野に入れてもいいかも」
地下駐車場のGM車に乗り込んだ。
カフカ・オレーゴヴィッチ・アニシンとユーリイ・ロマーノヴィッチ・バザロフの共通の関係者を出来るだけ割り出そうにも、二人とも同じ科の政治家なのだから、そんな者はゴミのようにいる。
二人とも50代ともなればそれなりの年齢であるし、骨が折れそうだ。
根本である二人の共通点、今回のターゲット「クロエ・ユーリエヴィッチ・アヴェリン」について調べようにも確かにまるっきり出てこなかった。
違和感でしかない。
「個人のパーティにしちゃ随分呼んでるなぁ。サクの言う通りだ、地方団体やら…まぁ、民主科ならまだいいがタレントやらと…参加者に統一性がない」
名簿を洗い出していたアレクはそう言った。
「骨が折れそうだよ、サクぅ」
「こっちも絶賛骨が折れそうだ。マスコミ関係者はどうだ?」
「こっちは意外と…少なそうだよ。3社かなぁ。タイムズアクアとユートピア放送協会と外交メディア」
「ふぅ…」
椅子に深く身を預け、朔太郎はそれら資料から目を離す。
「政治家さんはサクちゃんよりお友達が多いねぇ。一般企業やら、もうホームレスでもない限りはみーんな友達なんかねぇ、」
「少なくとも俺はそいつと友達じゃないから、もっと絞れるはずだぞ」
「冗談よしてよこの国何億人いると思ってんの。2億だからね」
「あぁ俺の国より多いな。凄いな解放区ってのは」
「サクちゃんそっちはどうなの」
「同じだな。いや、多分そっちよりは規則性がある」
「そりゃぁねぇ」
「しかし…こんなに見事に胡散臭いとなると…本当にユーリイはそちら側ではないのかもしれないなという考えが強くなった。
金の流れや政党やら、ユーリイの「真のお友達」達は案外狭いらしい。大抵が防衛関係と外交関係しかいない。普通大臣ともなればもう少し広くてもいいだろう。
悪く言えば世間知らずなもので、ユーリイは防衛科以外の道を知らないのかもしれない。何代かに渡ればこういうもんなんだろうか」
「そのわりにごちゃごちゃしてるなぁ…」
「ユーリイは思ったより、人との関わりの概念が淡白な印象を受ける、こっちはな。ユーリイで検索をしても特に、大炎上というものもないし」
「なに?」
「ルカ・キーロヴナ・アヴェリナだが、マスコミや世間の情報でもほとんど目に触れることがないようだ。世間の認識では本妻は端からレイラ・バーベリ・バザロヴァだろうと思うが」
「ん?そんなわけはないと思うぞサク。俺だって、行き着いた訳だし」
「…ヒットした数件の中に確かにルカの名前は出てきた。第一子出産だろ?ごく一部、マイナーなインターネット記事にはあったな。彼女の名前はそれ以外、現れていないようだ。離婚も結婚も死亡も報道歴がないし、」
「…逆にミハイル出産の記事はないだろ?」
…言われてみれば。
「…確かに、」
そのままパソコンに向かおうとした朔太郎に「待ってサクちゃん!」とアレクは待ったを掛けた。
「…飯食わね?俺もう結構限界」
「……」
ポカンとした朔太郎に「奢るから!」とアレクは更にけしかける。
それに間を起き朔太郎は無言で立ち上がった。
「おぅ、そうだろそうだろ、『軍隊の進軍は腹次第』。俺の国のことわ」
「アレク」
「ん?何食いた」
「そもそも何故君はルカが本妻だと認識した?」
「……ジャパニーズね今日はっ!もういい、早く!早く行くよっ!ちょっとは故郷を思い出せ全く!」
全くもってこの場に意識が帰ってこない同僚をアレクは無理矢理に事務所から引っ張り出した。
元来朔太郎の習性、ワーカホリックを忘れた訳ではないアレクだが、それを思い出したような心境。
確か日本ではそれを「社畜」と呼び、あの人種は皆ほとんどそうだと前に朔太郎が言っていた。文化であれば仕方ない。これが国単位とは、ある意味で日本は軍事国家だとすら思える。
「ねぇサク、日本料理は何が旨いの」
「カツ丼」
「どゆもの?」
「カツがどんっ、と」
「全然わからないよ」
「カツはポークの切り身が」
「俺カトリックなんだよねぇ、喧嘩売ってる?」
「…どっちもイケる口が何言ってんの」
「うん、そーだねまぁ食べるよ」
今更だしね、とアレクは言う。
しかし、「ちなみに俺は西部の文化だからビーフが多かったよ」としれっと言う朔太郎には流石に一発どついてしまった。
だが、それでもまだぼんやりしている朔太郎に「あのさ」と、アレクは観念し答えることにした。
「ルカの話だけど」
「えぁ?うん」
科庁から出た外の新鮮な空気とは裏腹に、朔太郎はタバコを一本取り出し咥える始末。
「多分その出産の記事読んだからかもしんない」
「…ん、だよなぁ、あの感じ。
アレクが抱くバザロフ氏の印象は?」
「ん?
…そうねぇ、…愛妻家で、金持ちで…奥さんの印象の方がちょっと強いかも。社交的だし、テレビでは「セレブ美人妻」で有名じゃん?」
「そうかも。俺も始めこの話を持ってこられた時、防衛大臣でユーリイというのがピンと来なかった」
「……まさかと思うけど、女一人に…テロとか、ないよねぇ?」
「どうかな。勝手な印象だがあの女は浪費家だろ?パーティ主催も、なんだかあの名簿を見るとわからないよな。可能性は視野に入れてもいいかも」
地下駐車場のGM車に乗り込んだ。
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