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群青盛衰記
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正直あたしはそんな依田にビビって「何ぃ!?」と飛び退く勢いだった。
しかし依田は「亀ちゃん~ん、」と、変態のようなにやけを見せ、再びガツンとカウンターに突っ伏した。
「え、何?ついに死んだ?」
「いやいや…」
背中を撫でてちらっとあたしを見る穂咲さんにちょっと圧倒されながら、取り敢えず依田のジントニックは取り上げ、代わりに水を置いた。
「こいつマジ稽古初日からうるさかったんだよ、S嬢。「亀ちゃんが死んじゃう!」だとか「のんちゃんが!」とか。いー加減にしろ、この猫背野郎!」
穂咲氏、依田の後頭部を引っ張り「痛い痛い痛い!」と「へっへっへ禿げろクソ野郎~」と。
あんたもだいぶ酔っぱらってんじゃねぇか状態で「痛いわ兄さんん!」と依田が穂咲さんに掴み掛かるが、少し引っ張られたシャツに穂咲さんは「あっ、ちょっと、強引」と艶の伏し目。
ヤバいなぁ、どうしようと助けを求めてちらっと隣を見れば、おっぱいから目を離した勇咲くんが「ちょっとちょっと、」と手招きをした。
なんだろ、凄く全員に関わりたくないんだけど。
仕方なく溜め息をついて行けば、ママさんがあたしの代わりにカウンターから出てって「おるぁ二人!」と叱咤していた。
「あー見えて依田ちゃん、わりと今回キテるんだよSM姐ちゃん」
「え?なにが?」
「何がってあんた、電話したでしょうよ依田ちゃんに」
「え?」
そうだっけ。
「そしてほら、この人もこー見えて孤独だから」
バシンと勇咲くんがのんちゃんの肩を叩けば「痛っ、」と、しかしにかにかしているのんちゃん。
「確かにジャグジー、今日は卯月の所に行くんだって聞かなかったね」
「ねぇ、一個聞いて言い?」
「なぁに?」
「のんちゃん、勇咲くんとお近付きになったの?」
「はぁ?姉ちゃん。前回覚えてないの?」
前回?
亀甲縛りで完全防備してきた前回?
あ、
のんちゃんいたわ。
「あ、あぁ~!」
「松本くんね、ジャグジーと一緒に大阪ライブ来てくれたんだよツキコ」
「マジ?」
「マジマジ。もーあの日の依田ちゃんったら気が狂ってたんだからねのんちゃん。朝っからずーっと悶えてたよ」
「あははー、流石だねぇジャグジー」
「まぁ別件でだけど。
なんか依田ちゃん、まぁ良い演奏を俺が引き出してやったのに凄くなんかぁ、籠っちゃってんの!」
「はぁ…」
「ははーっ!松本くん、その理論一番バンド解散するやつー!俺が言うから間違いないよー」
なるほど。
「勇咲くんちょっと、」とカウンターから呼び出し、通路に引っ張っていく。
依田と穂咲さんの間に座って話を聞くママさん、それを眺めるのんちゃん。なるほどこれは、共鳴かも。
「あのさぁ、勇咲くん」
「なに?ちょっと二人きりとかどーなの?俺依田ちゃんに絞め殺されたら握力敵わないよー?」
「違う、私レズだから!」
「は?え?」
「で、穂咲さんは依田にお熱だから!」
「ん?んー…」
「でもって依田はのんちゃんにお熱だから!」
「え、もしかして」
雑に説明したが、どうやら勇咲くん、察しが良い。
「そ。奇妙なの!」
「えそこ?
いやぁ薄々どれも知ってるよ、俺」
「え!」
「多分依田ちゃんはね。
色々今、あんたとかのんちゃんとか兄さんとか、ついでに実弟とかの狭間に立ってわりかしやんなってんだよ、あれ」
「え、なに、実弟!?」
「しっ!デカイ声!」
言われてはっとした。
そっか、葬儀がなんたらって言ってたわ楽屋で。
「依田ちゃんはけど上手いからね、足場はがっちりしてるんだけど、まぁお父様サイドからガッツリ睨まれ中よ、今」
「…マジ?全然そんなの」
「そりゃ言わないでしょーよ、依田ちゃんだよ?」
確かに。
てか。
「…今まで弱音を聞いたことがないからちょっと…」
「びっくりっしょ。だと思った。
けどどーやら依田ちゃんはまぁ、家族というかあんたとかのんちゃんには、何かしたいようだよ、言わないけどね」
それで今日来たって言うの?
「きっと依田ちゃんって。
普通なら文楽ってさ、物語にハマりこむ、夢を見るっしょ?
そうじゃないみたい。逆なんだよ多分」
「ん?」
「あんたとのんちゃんがいないと、現実に戻れないんだよ、あれ」
依田を眺める。
寝続けていた。最早ほっとかれ、恐らくはママさんと穂咲さんの人生相談が見て取れる。
ほろ酔いにのんちゃんは一人、それを眺めていた。
「夢見せ職業はあんたも俺らものんちゃんも一緒でしょ?依田ちゃんずっと、夢見てるからあんたぶっ叩いて起こしてよ。恋でもない、関係なさそうなとこでやってるあんたが、多分丁度良いよ」
それだけ言って勇咲くんは先にまた、のんちゃんの隣に座った。
勇咲くんも勇咲くんで、何か含みはありそうな、そんな物言いだったように思う。
しかし依田は「亀ちゃん~ん、」と、変態のようなにやけを見せ、再びガツンとカウンターに突っ伏した。
「え、何?ついに死んだ?」
「いやいや…」
背中を撫でてちらっとあたしを見る穂咲さんにちょっと圧倒されながら、取り敢えず依田のジントニックは取り上げ、代わりに水を置いた。
「こいつマジ稽古初日からうるさかったんだよ、S嬢。「亀ちゃんが死んじゃう!」だとか「のんちゃんが!」とか。いー加減にしろ、この猫背野郎!」
穂咲氏、依田の後頭部を引っ張り「痛い痛い痛い!」と「へっへっへ禿げろクソ野郎~」と。
あんたもだいぶ酔っぱらってんじゃねぇか状態で「痛いわ兄さんん!」と依田が穂咲さんに掴み掛かるが、少し引っ張られたシャツに穂咲さんは「あっ、ちょっと、強引」と艶の伏し目。
ヤバいなぁ、どうしようと助けを求めてちらっと隣を見れば、おっぱいから目を離した勇咲くんが「ちょっとちょっと、」と手招きをした。
なんだろ、凄く全員に関わりたくないんだけど。
仕方なく溜め息をついて行けば、ママさんがあたしの代わりにカウンターから出てって「おるぁ二人!」と叱咤していた。
「あー見えて依田ちゃん、わりと今回キテるんだよSM姐ちゃん」
「え?なにが?」
「何がってあんた、電話したでしょうよ依田ちゃんに」
「え?」
そうだっけ。
「そしてほら、この人もこー見えて孤独だから」
バシンと勇咲くんがのんちゃんの肩を叩けば「痛っ、」と、しかしにかにかしているのんちゃん。
「確かにジャグジー、今日は卯月の所に行くんだって聞かなかったね」
「ねぇ、一個聞いて言い?」
「なぁに?」
「のんちゃん、勇咲くんとお近付きになったの?」
「はぁ?姉ちゃん。前回覚えてないの?」
前回?
亀甲縛りで完全防備してきた前回?
あ、
のんちゃんいたわ。
「あ、あぁ~!」
「松本くんね、ジャグジーと一緒に大阪ライブ来てくれたんだよツキコ」
「マジ?」
「マジマジ。もーあの日の依田ちゃんったら気が狂ってたんだからねのんちゃん。朝っからずーっと悶えてたよ」
「あははー、流石だねぇジャグジー」
「まぁ別件でだけど。
なんか依田ちゃん、まぁ良い演奏を俺が引き出してやったのに凄くなんかぁ、籠っちゃってんの!」
「はぁ…」
「ははーっ!松本くん、その理論一番バンド解散するやつー!俺が言うから間違いないよー」
なるほど。
「勇咲くんちょっと、」とカウンターから呼び出し、通路に引っ張っていく。
依田と穂咲さんの間に座って話を聞くママさん、それを眺めるのんちゃん。なるほどこれは、共鳴かも。
「あのさぁ、勇咲くん」
「なに?ちょっと二人きりとかどーなの?俺依田ちゃんに絞め殺されたら握力敵わないよー?」
「違う、私レズだから!」
「は?え?」
「で、穂咲さんは依田にお熱だから!」
「ん?んー…」
「でもって依田はのんちゃんにお熱だから!」
「え、もしかして」
雑に説明したが、どうやら勇咲くん、察しが良い。
「そ。奇妙なの!」
「えそこ?
いやぁ薄々どれも知ってるよ、俺」
「え!」
「多分依田ちゃんはね。
色々今、あんたとかのんちゃんとか兄さんとか、ついでに実弟とかの狭間に立ってわりかしやんなってんだよ、あれ」
「え、なに、実弟!?」
「しっ!デカイ声!」
言われてはっとした。
そっか、葬儀がなんたらって言ってたわ楽屋で。
「依田ちゃんはけど上手いからね、足場はがっちりしてるんだけど、まぁお父様サイドからガッツリ睨まれ中よ、今」
「…マジ?全然そんなの」
「そりゃ言わないでしょーよ、依田ちゃんだよ?」
確かに。
てか。
「…今まで弱音を聞いたことがないからちょっと…」
「びっくりっしょ。だと思った。
けどどーやら依田ちゃんはまぁ、家族というかあんたとかのんちゃんには、何かしたいようだよ、言わないけどね」
それで今日来たって言うの?
「きっと依田ちゃんって。
普通なら文楽ってさ、物語にハマりこむ、夢を見るっしょ?
そうじゃないみたい。逆なんだよ多分」
「ん?」
「あんたとのんちゃんがいないと、現実に戻れないんだよ、あれ」
依田を眺める。
寝続けていた。最早ほっとかれ、恐らくはママさんと穂咲さんの人生相談が見て取れる。
ほろ酔いにのんちゃんは一人、それを眺めていた。
「夢見せ職業はあんたも俺らものんちゃんも一緒でしょ?依田ちゃんずっと、夢見てるからあんたぶっ叩いて起こしてよ。恋でもない、関係なさそうなとこでやってるあんたが、多分丁度良いよ」
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