9 / 10
水流の義士
8
しおりを挟む
「貴方だけは、死なないと思っていた」
安富の言葉を…思い出しました。
安富はそれからこの文を書き、皆で拾い集めた遺品を、各々持って、私はいま、土方歳三様の兄君である貴方様の元に馳せ参じました。
函館の大和屋友次郎氏の手紙にあった、「あの方には言いつけ通り、故郷の八王子へ送りたかったのですが、沢様がいらっしゃったので預けました。
本当は島田様や尾関様に預けたかったのですが叶わず」と見て、私はやはりここへ、這ってでも来るべきだと、決意してここまで来ました。
彼はそれだけ慕われていたのは確かです。きっと、悪名ばかりを聞いていると思いますが、そういった事情ですよ。彼は立派な、最期の武士でした。私は言い切ります。
あぁ、お見送りだなんて滅相もありません。
あ、はぁ、庭、ですか?
いやぁ、それにしても東京も、温かくなりましたね…ん?
竹、ですか。
……へぇ、その竹で、木刀の練習をしていたのですか、確かに、皆細いですね。斬り尽くしてしまったのですか、はは、あの人らしい。
…私はあの手紙の句、あれは安富が、彼が死ぬ遥か以前に紙切れを預けられたと聞き及びました。それは未だに安富が持っているのですが、それを書き写したらしいのです。
確かに、逆流するように川を登る鮎、らしいなぁ、と思います。好きだなぁ、と。
私の、これからですか?
そうですねぇ、紹介もありましたし、寺にでも入りゆっくりと、水流を眺めたいなと思っております。心豊かにとは行きませんが。
寺の場所?
…俳句を読みに、ですか?
…佐藤様、私は思います。貴方様も私も、あの動乱を生きた、そうですね、同志と言うのも違う気が致しますが、貴方様の句を借りるなら梅雨の月、ですかね。
本日はどうも、ありがとうございました。
そして心より、申し訳ありませんでした。
これから私は私の士道とし、彼を根として長く弔いをしようと思います。
安富の言葉を…思い出しました。
安富はそれからこの文を書き、皆で拾い集めた遺品を、各々持って、私はいま、土方歳三様の兄君である貴方様の元に馳せ参じました。
函館の大和屋友次郎氏の手紙にあった、「あの方には言いつけ通り、故郷の八王子へ送りたかったのですが、沢様がいらっしゃったので預けました。
本当は島田様や尾関様に預けたかったのですが叶わず」と見て、私はやはりここへ、這ってでも来るべきだと、決意してここまで来ました。
彼はそれだけ慕われていたのは確かです。きっと、悪名ばかりを聞いていると思いますが、そういった事情ですよ。彼は立派な、最期の武士でした。私は言い切ります。
あぁ、お見送りだなんて滅相もありません。
あ、はぁ、庭、ですか?
いやぁ、それにしても東京も、温かくなりましたね…ん?
竹、ですか。
……へぇ、その竹で、木刀の練習をしていたのですか、確かに、皆細いですね。斬り尽くしてしまったのですか、はは、あの人らしい。
…私はあの手紙の句、あれは安富が、彼が死ぬ遥か以前に紙切れを預けられたと聞き及びました。それは未だに安富が持っているのですが、それを書き写したらしいのです。
確かに、逆流するように川を登る鮎、らしいなぁ、と思います。好きだなぁ、と。
私の、これからですか?
そうですねぇ、紹介もありましたし、寺にでも入りゆっくりと、水流を眺めたいなと思っております。心豊かにとは行きませんが。
寺の場所?
…俳句を読みに、ですか?
…佐藤様、私は思います。貴方様も私も、あの動乱を生きた、そうですね、同志と言うのも違う気が致しますが、貴方様の句を借りるなら梅雨の月、ですかね。
本日はどうも、ありがとうございました。
そして心より、申し訳ありませんでした。
これから私は私の士道とし、彼を根として長く弔いをしようと思います。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
シンセン
春羅
歴史・時代
新選組随一の剣の遣い手・沖田総司は、池田屋事変で命を落とす。
戦力と士気の低下を畏れた新選組副長・土方歳三は、沖田に生き写しの討幕派志士・葦原柳を身代わりに仕立て上げ、ニセモノの人生を歩ませる。
しかし周囲に溶け込み、ほぼ完璧に沖田を演じる葦原の言動に違和感がある。
まるで、沖田総司が憑いているかのように振る舞うときがあるのだ。次第にその頻度は増し、時間も長くなっていく。
「このカラダ……もらってもいいですか……?」
葦原として生きるか、沖田に飲み込まれるか。
いつだって、命の保証などない時代と場所で、大小二本携えて生きてきたのだ。
武士とはなにか。
生きる道と死に方を、自らの意志で決める者である。
「……約束が、違うじゃないですか」
新選組史を基にしたオリジナル小説です。 諸説ある幕末史の中の、定番過ぎて最近の小説ではあまり書かれていない説や、信憑性がない説や、あまり知られていない説を盛り込むことをモットーに書いております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる