84 / 86
Hydrangea
27
しおりを挟む
遥子お姉ちゃんの声が届かなくなった頃、病室からガシャーンという物音が聞こえて振り向いた。はっと三人で顔を見合わせ、みっちゃんを一人にしてしまったことに気が付き、病室に戻ると真っ先に目に入ったのは倒れた点滴の台と滴る薬品、いないベット。
そしてベットの手すりに掴まって蹲りながらも窓の鍵を開けようとするみっちゃん。私たちに気付くと、その場にさっき転がしてしまったありとあらゆるものをぶん投げてきた。
「くるなっ…!」
「光也、」
近寄ろうとすると渾身の力を振り絞って、ベットに備え付けられているテーブルのようなものまでこっちに倒してきて。
壁に凭れるように立ち上がったみっちゃんはよく見ると傷口が開いてしまったようで少し血が滲んでいた。
「みっちゃん!」
「うるせぇ!」
怒鳴られてすくむ。
「もう…いいんだ…」
「お前、何考えてんだよ!」
「…みんなといれて楽しかったよ。それだけは伝えとく」
「なんで、なんでそんな」
「光也さん」
そんななか一人冷静にマリちゃんの声が響いて。ゆっくりと歩み寄るマリちゃんは少し狂気を帯びているような気がした。
「くんな…」
「…あんたさ、あん時、刺されに行ったよね。俺、遠目に見ててもわかった。あんたさ、小夜を押し飛ばした後、逃げるのやめてちょっとさ、あの女に頷いたよね」
「…え?」
「あの女動揺してたけどさ。まぁ確かにあの場だとあんたが刺されないとちょっと…でもさ、あんたも小夜もホントは助かったのに、あんた…」
「…ふっ、ははっ」
力が抜けたかのようにみっちゃんは壁に凭れたまましゃがみこんだ。マリちゃんはテーブルを治し、みっちゃんの前まで来てしゃがんだ。
「そんなにだめ?ねぇだめ?」
そしてマリちゃんはそのままみっちゃんの首を締めて馬乗りになって押し倒した。
「マリちゃん!」
「真里やめろよ!」
二人で止めに入る。だけどマリちゃんはやめない。泣きながらみっちゃん首を絞めている。
だけどみっちゃんは苦しそうにしながら一切抵抗をしなかった。反射的にマリちゃんの手に自分の手を伸ばすも添える程度に弱々しい。
「ねぇねぇ…そんな死にたい?そんなに?ねぇその方があんた幸せなの?
だったら俺あんたを殺すから。殺してやるから。だからさ…!」
「やめろよ真里!」
柏原さんが羽交い締めにしてようやく腕は離した。咳き込むみっちゃん。脱力してマリちゃんは涙を拭った。
「あんなんだよぅぅ!
俺がっ…みんなが…どれだけ…あんたの幸せ願っても、生きてて…欲しくても!それ…幸せじゃねぇのかよぉ!」
「落ち着け、真里」
「墓場まで持ってくつもりだったんだ。姉ちゃん、あんなの耐えられるかな…」
そう言うみっちゃんの声はなんだか弱々しくて。
「…俺なんていない方が、消えた方が…お前も、朱鷺子さんも、小夜も、ねぇちゃんもおっさんも…こんな思いしねぇんだよ!」
今度はみっちゃんも泣き始めた。
「小夜…ここまで…縛り付けてごめんな。俺わかってたの。言葉ひとつで小夜がここまで生きるだろうって。辛くなるだろうってわかってたの。でも言ったんだあの時。
ごめんね、小夜。
真里、言ってあげなくてごめんね。お前をここまで辛い思いさせてごめんね。玩んだの、俺は。
こんな厄介事の面倒見させてごめんねおっさん。優しさに甘んじてずっとずっと…」
「うるさいうるさいバカ!!」
なんなのこの人なんなの。
なんでそんなこといままで。
「ねぇなんで言ってくれなかったの?何で抱えちゃったの?私何も知らなかったよ?誰も何も知らなかったよ?なんでなの?」
こんなにずたぼろになるまでなんなのこの人。
「みんな持ってくれるのに、なんで?
私が子供だっていうなら、ちっちゃい荷物だって全然よかった…」
自分を痛め付けないで欲しかった。
ならば私も。
みっちゃんをぎゅっと抱き締めた。血がついてしまっても関係ない。
「あなたが死ぬなら私も死ぬから。これで半分こしよ?」
呪縛を、創る。
「…小夜…」
「それなら死ねないでしょ?」
取り敢えずみっちゃんのお腹から少し滲む血を止められたらいいなと思って少し触ってみる。まだ温かかった。
「みっちゃん…初めて泣いたね。みっちゃんも不細工だよ」
「うぅ…」
頭を撫でてくれるその手も、全部好きなのに。
「光也、確かに面倒だよお前。だけど、俺はお前のこと気に入ったから店にも誘ったし、面倒見てんだよ。もはや趣味だからお前らの面倒見んのなんて。
皆きっとそうなんだよ。だから別に無理矢理死ぬことねぇじゃん?まぁ、それが嫌でもお前のことなんて死なしてやらん。
お前だけ楽するなんてずるいからな。俺らやっとお前のことちょっと知れたんだよ。お前は俺らのこと知ってるくせに。なんかずるいよな。そのまま墓場になんて行かせないわ」
柏原さんもしゃがんでみっちゃんの頭をがしがしなでて。マリちゃんは泣きすぎて喋れなくなったのか抱きついて。
「ふっはっは…!」
そんな私たちを見てみっちゃんからは自然な笑いが溢れたみたいで。優しく私の涙を左手で拭い、右手ではマリちゃんの頭を撫でてあげてた。
「あー、めんどくせぇなぁ…」
そのまま倒れて、私の涙を拭った手を額に当てて笑った。
「生きてなくちゃいけないね」
そう、言ったのに。
そしてベットの手すりに掴まって蹲りながらも窓の鍵を開けようとするみっちゃん。私たちに気付くと、その場にさっき転がしてしまったありとあらゆるものをぶん投げてきた。
「くるなっ…!」
「光也、」
近寄ろうとすると渾身の力を振り絞って、ベットに備え付けられているテーブルのようなものまでこっちに倒してきて。
壁に凭れるように立ち上がったみっちゃんはよく見ると傷口が開いてしまったようで少し血が滲んでいた。
「みっちゃん!」
「うるせぇ!」
怒鳴られてすくむ。
「もう…いいんだ…」
「お前、何考えてんだよ!」
「…みんなといれて楽しかったよ。それだけは伝えとく」
「なんで、なんでそんな」
「光也さん」
そんななか一人冷静にマリちゃんの声が響いて。ゆっくりと歩み寄るマリちゃんは少し狂気を帯びているような気がした。
「くんな…」
「…あんたさ、あん時、刺されに行ったよね。俺、遠目に見ててもわかった。あんたさ、小夜を押し飛ばした後、逃げるのやめてちょっとさ、あの女に頷いたよね」
「…え?」
「あの女動揺してたけどさ。まぁ確かにあの場だとあんたが刺されないとちょっと…でもさ、あんたも小夜もホントは助かったのに、あんた…」
「…ふっ、ははっ」
力が抜けたかのようにみっちゃんは壁に凭れたまましゃがみこんだ。マリちゃんはテーブルを治し、みっちゃんの前まで来てしゃがんだ。
「そんなにだめ?ねぇだめ?」
そしてマリちゃんはそのままみっちゃんの首を締めて馬乗りになって押し倒した。
「マリちゃん!」
「真里やめろよ!」
二人で止めに入る。だけどマリちゃんはやめない。泣きながらみっちゃん首を絞めている。
だけどみっちゃんは苦しそうにしながら一切抵抗をしなかった。反射的にマリちゃんの手に自分の手を伸ばすも添える程度に弱々しい。
「ねぇねぇ…そんな死にたい?そんなに?ねぇその方があんた幸せなの?
だったら俺あんたを殺すから。殺してやるから。だからさ…!」
「やめろよ真里!」
柏原さんが羽交い締めにしてようやく腕は離した。咳き込むみっちゃん。脱力してマリちゃんは涙を拭った。
「あんなんだよぅぅ!
俺がっ…みんなが…どれだけ…あんたの幸せ願っても、生きてて…欲しくても!それ…幸せじゃねぇのかよぉ!」
「落ち着け、真里」
「墓場まで持ってくつもりだったんだ。姉ちゃん、あんなの耐えられるかな…」
そう言うみっちゃんの声はなんだか弱々しくて。
「…俺なんていない方が、消えた方が…お前も、朱鷺子さんも、小夜も、ねぇちゃんもおっさんも…こんな思いしねぇんだよ!」
今度はみっちゃんも泣き始めた。
「小夜…ここまで…縛り付けてごめんな。俺わかってたの。言葉ひとつで小夜がここまで生きるだろうって。辛くなるだろうってわかってたの。でも言ったんだあの時。
ごめんね、小夜。
真里、言ってあげなくてごめんね。お前をここまで辛い思いさせてごめんね。玩んだの、俺は。
こんな厄介事の面倒見させてごめんねおっさん。優しさに甘んじてずっとずっと…」
「うるさいうるさいバカ!!」
なんなのこの人なんなの。
なんでそんなこといままで。
「ねぇなんで言ってくれなかったの?何で抱えちゃったの?私何も知らなかったよ?誰も何も知らなかったよ?なんでなの?」
こんなにずたぼろになるまでなんなのこの人。
「みんな持ってくれるのに、なんで?
私が子供だっていうなら、ちっちゃい荷物だって全然よかった…」
自分を痛め付けないで欲しかった。
ならば私も。
みっちゃんをぎゅっと抱き締めた。血がついてしまっても関係ない。
「あなたが死ぬなら私も死ぬから。これで半分こしよ?」
呪縛を、創る。
「…小夜…」
「それなら死ねないでしょ?」
取り敢えずみっちゃんのお腹から少し滲む血を止められたらいいなと思って少し触ってみる。まだ温かかった。
「みっちゃん…初めて泣いたね。みっちゃんも不細工だよ」
「うぅ…」
頭を撫でてくれるその手も、全部好きなのに。
「光也、確かに面倒だよお前。だけど、俺はお前のこと気に入ったから店にも誘ったし、面倒見てんだよ。もはや趣味だからお前らの面倒見んのなんて。
皆きっとそうなんだよ。だから別に無理矢理死ぬことねぇじゃん?まぁ、それが嫌でもお前のことなんて死なしてやらん。
お前だけ楽するなんてずるいからな。俺らやっとお前のことちょっと知れたんだよ。お前は俺らのこと知ってるくせに。なんかずるいよな。そのまま墓場になんて行かせないわ」
柏原さんもしゃがんでみっちゃんの頭をがしがしなでて。マリちゃんは泣きすぎて喋れなくなったのか抱きついて。
「ふっはっは…!」
そんな私たちを見てみっちゃんからは自然な笑いが溢れたみたいで。優しく私の涙を左手で拭い、右手ではマリちゃんの頭を撫でてあげてた。
「あー、めんどくせぇなぁ…」
そのまま倒れて、私の涙を拭った手を額に当てて笑った。
「生きてなくちゃいけないね」
そう、言ったのに。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる