あじさい

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
59 / 86
Hydrangea

2

しおりを挟む
 そう言えば教えてもらったなぁ、勉強とか。

「そういえば勉強教えてもらった」
「大学生だったんだよ」
「みっちゃんとお仕事仲間だったよね」
「そうそう。光也さんがバイト先の先輩だった。
 初めて小夜と会った時マジビビったよ。具合悪いとか言ってんのにバイトやるとか言い張っててさあの人。無理矢理家返して送ってったらガキいるんだもん。
 ちょうどあの人彼女と別れたばっかだったからさ、え?妊娠させてガキ置いてかれたのかなとか色々考えちゃってさ」

 懐かしさと意外な事実が入り交じっていて、だけどなんとなく、納得出来た。色々疑問だったことが繋がりそうだ。

「確かに遥子すみこお姉ちゃんも初めて会ったとき、凄くみっちゃんに怒ってた?なんかよくわかんなかったけど勘違いしてたみたいで…誘拐がなんたらって」
「ふっはっは!ねぇさんらしいや。多分幼女誘拐と間違えたんだろうな。
 あの人あの頃誰にも小夜のこと言わなかったからね。みんな家行ってみたらあれ?みたいな。
 まぁ確かにさ、やけに忙しそうにしてんなとか、金欠ってかバイトばっかしてんなとは思ってたんだよ。
 バイト終わるとソッコーで帰っちゃうし。一人で家いるの嫌いだったのになんでだろ?とか思ってたら…みたいなね」
「やっぱり。大変だったのかな」
「そりゃぁそうだよ。一人暮しだって大変なのに」
「実はね、これから一人暮しするの」
「え?」

 そう言えばマリちゃんに話さなかったな。

「三重で?」
「違うよー、こっちで。寮なんだけどさ」
「マジ?すげーな。
 金とか父ちゃん?」
「だったりバイトしたり…かなぁ」
「バイト先決まってんの?」
「まだ。東京来て3日目」
「ウチくる?」
「え?」

 いや、寮なんだけどなぁ。

「ちょうどいいや。いまから行くしさ」
「寮だよ?」
「あーごめん、そうじゃなくて働く先。
実はね、あれから何だかんだあって、店やってんだよ。光也さんと」
「えっ!」
「うん。多分高校生大丈夫だと思うけど。っつってもバーだからな。
 俺らが働いてたバイト先、あったじゃん?あそこの料理長が独立して店始めて、そこに俺ら引き抜かれたってか、一緒にやらねぇかって言われてさ。別に行くあてもなかったし。俺はそーゆー系の仕事やりたかったから丁度いいやってね。
 光也さんいまはそこでバーテンやってんだぜ?すげぇだろ」
「うん、凄い」
「人も足りねぇし大丈夫じゃねぇかな。今日もそれで光也さん、店ちらっと顔出すって言ってたんだ」
「なるほどー」

 なんとなくだけどあれから、あまり変わっていないような気がする。まだみっちゃんには会ってないからわからないけど。マリちゃんの話を聞くと、昔みたいに二人とも仲良しだし、仕事忙しそうだけどなんだか充実していそうだし。

 昔のみっちゃんも、なんだか忙しそうにしていた。だから私はお留守番が多かった。寂しくもあったけど、帰ってきたらいつも気にかけてくれたし、疲れてるはずなのに、そんな素振りを見せないでいてくれたから、寂しいなんて言わなかったし、帰ってきたら寂しさなんて忘れてしまっていたんだ。

「まだ会ってないのになんか、みっちゃん変わってなさそうだなー」
「…そうかもね。小夜にはあのころの光也さんはどう見えてた?」

 なんかそう聞かれるとなぁ…。なんで突然そんなこと聞くんだろう。

「とにかく優しかった。良くも悪くも。人にはものすごく。でもそれが不思議だったなぁ」
「不思議?」
「なんであんなに優しかったんだろうって離れてから考えた。あれから、あんなに優しい人、男の子も女の子も会ってないもん。なんでかなって。
 私も頑張ろうとしたってさ、そうすると逆に嫌がられたり、それでやめてみたら冷たいって言われてみたり中途半端だって言われたり」
「まぁ人間観察もあるんだろうけど逆に俺は、小夜がそこまで人のことを考えるってのは優しすぎるんだと思う。
 大抵の人間はこっちが考えてやっても本人は結構考えてないんだよ。相性ってのは、そのバランスがガッチリ合ったときに良いって言えるんだろう。そーゆーヤツと結婚したり生涯唯一の親友とかになるんだろうね。そんなヤツ、なかなか見つからないよ」
「マリちゃんはみっちゃんとぴったりだったの?」
「う~ん…。どうなんだろうね。このパターンはまた違う気がするけどここまでくるとそんな気もするし…。
 ほら、難しいだろ?」
「なるほどね。難しい」
「小夜と俺たちはどうなんだろうね」

 そう言って笑うマリちゃんの笑顔は昔と全然変わらない。

 なんだろう、昔を振り返ってみるといまはっきり思い出すのは、マリちゃんの笑顔ってなんか印象的なんだよなぁ。子供っぽいのかな?無邪気なのかな?

「私たちかぁ」

 みっちゃんが私に最後に残した言葉で私はなんとなくやってこれた気もする。答えをずっと聞きたいと思って考えた。考えたけど全然分からなかった。

「神様、ホントにいるかな」
「ん?」

 子供のころ、神様なんて大嫌いだと思ってた時にくれた言葉。それが希望にもなったし、おもりになったこともあった。だから、

「早く会いたいな」
「もう着くよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...