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第四話
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なんだかんだで一時間あっという間に潰れた。御輿の間、金魚は持ってやった。袋の中でゆらゆら赤い金魚が揺れている。しばらく小夜はそれをじっと眺めていたが、御輿が始まれば、勝海と竜太郎を頑張って探していた。
「あ、いた!あそこだよ!」
勝海と竜太郎は子供御輿の前方で担いでいた。小夜が名前を呼んで手を振る。
一瞬気付いたのか、竜太郎は微笑み、勝海は相変わらずシャイを決め込んでいた。
「お神輿っておっきいんだね」
「そうだな。でも女の子も中にはいるね」
「私も来年出よっかな~」
来年まで一緒に入れるかわからないけど。取り敢えず俺は、「そうだな」と答えた。
神輿を見送ると、あっさり終わってしまったような気がした。これから町内を回るらしい。さすがにそれは小夜も疲れるだろうし、小夜も神輿の背に、「ばいばーい」と手を振ってるし満足したようだ。
「さて、帰るか?」
「うん」
金魚を右手、左手は小夜と手を繋いで歩き出した。真里も、小夜と手を繋ぎ、小夜は真ん中にいるかたちになっている。たまにジャンプしたりして遊びながら駅に向かう。今日は機嫌が良いようだ。
そんな時だった。
「小夜…!」
ふと後ろから聞き慣れない声を掛けられ、三人で振り向いた。
声の主は、スーツ姿の、40代前半くらいの男性だった。
一見顔がとてもスッキリしている、その年代特有の色っぽさ漂う清潔感のある人だった。だがなんとなく、スーツの安っぽさからか、営業職に居そうな印象を受ける。中肉中背、だけど顔は、鼻が高めで整っている。
記憶を掘り起こしても、見覚えがない人だった。
「小夜じゃないか…!?」
「…あの…」
「…おとうさん…?」
小夜は、まだ疑問顔で口にしたが、口にしてみてなんとなく確信に変わったんだろうか、今度ははっきりと、「お父さん!」と呼ぶ。
「え…?」
小夜の、父親?
「やっぱり…!小夜!」
小夜の父親は、確信を得ると、俺たちに疑問の目を向ける。
軽く会釈をする。真里と目を見合わせれば頷いてくれたので、小夜を連れて父親の元へ歩いた。
「お父さん!」
だけど小夜は、俺の手を離し、父親の胸に飛び込んでいった。親子の、感動の再会を目の当たりにして嬉しくも、少し寂しくも感じた。
「初めまして。志摩光也と申します。小夜ちゃんのお父さん…水野俊夫さんですね?」
「はい…あの…幸枝は?」
幸枝?
「お母さんはもういないの」
ああ、母親か。
「あぁ、小夜ちゃんのお母さんのことですかね?
俺たちの関係はちょっと説明が必要かもしれませんね。ちょっとお時間とかありますか?」
ついに、来る時が来たんだ。
「はい…」
その返事で、場所を移すことにした。近くの喫茶店に入り、今日までの経緯を全て父親に話した。
「そんなことがあったんですね…」
「貴方の住所、一度行ってみたんですけど…4年前だったみたいで、もうなくなってました。どうやって探そうかなって思ってて…この辺に、お住まいなんですか?」
「はい。あの…」
「はい」
「娘をありがとうございます。とても親切にしていただいて。
私と幸枝が離婚したのは、この子がまだ小さい頃…4才とかのころなんです。幸枝の生活の浪費癖や男癖に耐えきれなくなって離婚しました。
このままだと絶対に子供なんて育てられない。そう思って親権を訴えましたが、何分私もその頃、仕事でぺーぺーのサラリーマン。親権なんて認めて貰えず、無念のまま小夜を手放す形になりました。
せめて養育費は多めに入れてあげようと血の滲むような努力をしました。
そしてその子が小学校に上がるころ、一度幸枝とコンタクトを取ろうと試みたのですが、住所が変わっていて、なのに住所変更もしていない。だけど振り込めば金は減っていく。どうしたものかと。
入学金とかもわからない。いや、もしかするとそんな話しすらないのはまた結婚でもして安定したのかもしれないし、だとしたらあまりこちらが無駄に大金をはたいてしまってはいけないのではないか、そんなことを考えながらもやもやした気持ちで4年間を過ごしていました」
話している水野さんは、疲れ果てている様子だった。無念や色々な感情が見て取れる。
「それでも4年間毎月養育費は必ず口座からなくなる。だからそれだけで、取り敢えず小夜は生きているんだなと思うようにしていました。ずっと、胸の中には小夜のことが、ありました。心配で仕方なかった。でもちゃんとやっていると信じることしか出来ないんです、精神的にも。
そろそろ疲れてきましてね。田舎に帰ろうと決意したんです。そして今日、ふと、この祭りに寄った。小夜と同じくらいになる子達がいるんだなと思って見てました。
まさか、こんな形で娘と再会できるなんて思わなかった」
結果、期待を裏切られてしまったわけだ、この人は。
「それで聞いてみたらこんなことになっているなんて…。
あのとき僕がもっとちゃんとしていたら、この子を手離さなければ。そんなこと、今更言ったって仕方ないんですけどね…まともに学校すら行けてなかったのか…」
「…なんて、言葉を掛けていいのか…」
「いや、あなたには本当に感謝以外に何も浮かびません。
もしも小夜が出会ったのがあなたじゃなかったら、この子はずっと過酷を強いられたか、下手すれば死んでいたんでしょうね。こんな小さい子が…」
水野さんは涙を浮かべながら小夜を見つめた。それを見て小夜は、「どうしたの?」と無邪気に訪ねている。なんでもないよと返す水野さんの声は震えていた。
「本当に、あなたでよかった…。ありがとう、本当にありがとう」
「俺は…何も出来てません…保護者らしいことなんてこれっぽっちも出来ていない。
水野さん、これからは?」
「…あなた方は?」
「俺たちはあなたに任せます。やっと会えたんだ、可能であれば一緒に小夜と住んであげて欲しいけど…やっぱり俺たちじゃなかなか学校行かせたり、最低限の生活すらさせてあげられないから」
「お父さん、住むの!?一緒に!?」
そこだけ聞き取ったようで、小夜は嬉しそうに言った。
「そうだね…小夜がよければ」
「やったー!みんな一緒だね!」
小夜が無邪気にそう言うと、水野さんは困ったように笑った。
「小夜は…今の生活、楽しいのかい?」
「楽しいよ!みっちゃんもマリちゃんも遥子お姉ちゃんも勝海くんも竜太郎くんもみんなみんなイイ人なんだよ!お父さん!」
「小夜、」
ここは、俺から小夜に言わなければならない。
「なぁに?」
「これからはお父さんと住むんだよ。俺たちとはお別れだ」
「え…?」
真実に、小夜の表情は急に曇る。
「どうして?」
「俺たちは一緒に住めない。小夜は、お父さんと田舎で暮らすんだよ」
「なんで?みっちゃんは?マリちゃんは?」
「俺たちは行かない」
「なんで?どうして?みんなで一緒に住まないの?」
「住まない」
「なんでよ、なんでどうして?」
「小夜のいる場所は俺たちのところじゃないから。もっと良い場所に行くんだよ」
「もっと良い場所?違う、そんなの違うよ!」
「違くない!」
思わず声を荒げてしまった。小夜に対して、初めてのことだった。小夜はびっくりしたようで、肩を震わせ、静かに泣き出してしまった。
「嫌だよ、お別れなんて嫌だよ!」
「小夜、」
「なんでよぅ…ずっと一緒じゃダメなの?」
泣いてしまった小夜を宥めようと頭を撫でようと思ったが、止めた。そんなことしたら余計に辛くなるのは小夜だ。
「一応、引越しはすぐじゃない。一ヶ月後くらいになっちゃうけど、それまで、もしよかったら…小夜の面倒を見てくれませんか…?その分の生活費は負担します。今までの分も、お返ししますので」
「俺は…構いません。生活費は大丈夫です。その分、小夜に使ってやってください」
「小夜。一ヶ月後、お父さんと住もう?」
「……」
「では、これで」
水野さんは、連絡先だけ渡して、喫茶店のお会計を置いて立ち去った。
「あ、いた!あそこだよ!」
勝海と竜太郎は子供御輿の前方で担いでいた。小夜が名前を呼んで手を振る。
一瞬気付いたのか、竜太郎は微笑み、勝海は相変わらずシャイを決め込んでいた。
「お神輿っておっきいんだね」
「そうだな。でも女の子も中にはいるね」
「私も来年出よっかな~」
来年まで一緒に入れるかわからないけど。取り敢えず俺は、「そうだな」と答えた。
神輿を見送ると、あっさり終わってしまったような気がした。これから町内を回るらしい。さすがにそれは小夜も疲れるだろうし、小夜も神輿の背に、「ばいばーい」と手を振ってるし満足したようだ。
「さて、帰るか?」
「うん」
金魚を右手、左手は小夜と手を繋いで歩き出した。真里も、小夜と手を繋ぎ、小夜は真ん中にいるかたちになっている。たまにジャンプしたりして遊びながら駅に向かう。今日は機嫌が良いようだ。
そんな時だった。
「小夜…!」
ふと後ろから聞き慣れない声を掛けられ、三人で振り向いた。
声の主は、スーツ姿の、40代前半くらいの男性だった。
一見顔がとてもスッキリしている、その年代特有の色っぽさ漂う清潔感のある人だった。だがなんとなく、スーツの安っぽさからか、営業職に居そうな印象を受ける。中肉中背、だけど顔は、鼻が高めで整っている。
記憶を掘り起こしても、見覚えがない人だった。
「小夜じゃないか…!?」
「…あの…」
「…おとうさん…?」
小夜は、まだ疑問顔で口にしたが、口にしてみてなんとなく確信に変わったんだろうか、今度ははっきりと、「お父さん!」と呼ぶ。
「え…?」
小夜の、父親?
「やっぱり…!小夜!」
小夜の父親は、確信を得ると、俺たちに疑問の目を向ける。
軽く会釈をする。真里と目を見合わせれば頷いてくれたので、小夜を連れて父親の元へ歩いた。
「お父さん!」
だけど小夜は、俺の手を離し、父親の胸に飛び込んでいった。親子の、感動の再会を目の当たりにして嬉しくも、少し寂しくも感じた。
「初めまして。志摩光也と申します。小夜ちゃんのお父さん…水野俊夫さんですね?」
「はい…あの…幸枝は?」
幸枝?
「お母さんはもういないの」
ああ、母親か。
「あぁ、小夜ちゃんのお母さんのことですかね?
俺たちの関係はちょっと説明が必要かもしれませんね。ちょっとお時間とかありますか?」
ついに、来る時が来たんだ。
「はい…」
その返事で、場所を移すことにした。近くの喫茶店に入り、今日までの経緯を全て父親に話した。
「そんなことがあったんですね…」
「貴方の住所、一度行ってみたんですけど…4年前だったみたいで、もうなくなってました。どうやって探そうかなって思ってて…この辺に、お住まいなんですか?」
「はい。あの…」
「はい」
「娘をありがとうございます。とても親切にしていただいて。
私と幸枝が離婚したのは、この子がまだ小さい頃…4才とかのころなんです。幸枝の生活の浪費癖や男癖に耐えきれなくなって離婚しました。
このままだと絶対に子供なんて育てられない。そう思って親権を訴えましたが、何分私もその頃、仕事でぺーぺーのサラリーマン。親権なんて認めて貰えず、無念のまま小夜を手放す形になりました。
せめて養育費は多めに入れてあげようと血の滲むような努力をしました。
そしてその子が小学校に上がるころ、一度幸枝とコンタクトを取ろうと試みたのですが、住所が変わっていて、なのに住所変更もしていない。だけど振り込めば金は減っていく。どうしたものかと。
入学金とかもわからない。いや、もしかするとそんな話しすらないのはまた結婚でもして安定したのかもしれないし、だとしたらあまりこちらが無駄に大金をはたいてしまってはいけないのではないか、そんなことを考えながらもやもやした気持ちで4年間を過ごしていました」
話している水野さんは、疲れ果てている様子だった。無念や色々な感情が見て取れる。
「それでも4年間毎月養育費は必ず口座からなくなる。だからそれだけで、取り敢えず小夜は生きているんだなと思うようにしていました。ずっと、胸の中には小夜のことが、ありました。心配で仕方なかった。でもちゃんとやっていると信じることしか出来ないんです、精神的にも。
そろそろ疲れてきましてね。田舎に帰ろうと決意したんです。そして今日、ふと、この祭りに寄った。小夜と同じくらいになる子達がいるんだなと思って見てました。
まさか、こんな形で娘と再会できるなんて思わなかった」
結果、期待を裏切られてしまったわけだ、この人は。
「それで聞いてみたらこんなことになっているなんて…。
あのとき僕がもっとちゃんとしていたら、この子を手離さなければ。そんなこと、今更言ったって仕方ないんですけどね…まともに学校すら行けてなかったのか…」
「…なんて、言葉を掛けていいのか…」
「いや、あなたには本当に感謝以外に何も浮かびません。
もしも小夜が出会ったのがあなたじゃなかったら、この子はずっと過酷を強いられたか、下手すれば死んでいたんでしょうね。こんな小さい子が…」
水野さんは涙を浮かべながら小夜を見つめた。それを見て小夜は、「どうしたの?」と無邪気に訪ねている。なんでもないよと返す水野さんの声は震えていた。
「本当に、あなたでよかった…。ありがとう、本当にありがとう」
「俺は…何も出来てません…保護者らしいことなんてこれっぽっちも出来ていない。
水野さん、これからは?」
「…あなた方は?」
「俺たちはあなたに任せます。やっと会えたんだ、可能であれば一緒に小夜と住んであげて欲しいけど…やっぱり俺たちじゃなかなか学校行かせたり、最低限の生活すらさせてあげられないから」
「お父さん、住むの!?一緒に!?」
そこだけ聞き取ったようで、小夜は嬉しそうに言った。
「そうだね…小夜がよければ」
「やったー!みんな一緒だね!」
小夜が無邪気にそう言うと、水野さんは困ったように笑った。
「小夜は…今の生活、楽しいのかい?」
「楽しいよ!みっちゃんもマリちゃんも遥子お姉ちゃんも勝海くんも竜太郎くんもみんなみんなイイ人なんだよ!お父さん!」
「小夜、」
ここは、俺から小夜に言わなければならない。
「なぁに?」
「これからはお父さんと住むんだよ。俺たちとはお別れだ」
「え…?」
真実に、小夜の表情は急に曇る。
「どうして?」
「俺たちは一緒に住めない。小夜は、お父さんと田舎で暮らすんだよ」
「なんで?みっちゃんは?マリちゃんは?」
「俺たちは行かない」
「なんで?どうして?みんなで一緒に住まないの?」
「住まない」
「なんでよ、なんでどうして?」
「小夜のいる場所は俺たちのところじゃないから。もっと良い場所に行くんだよ」
「もっと良い場所?違う、そんなの違うよ!」
「違くない!」
思わず声を荒げてしまった。小夜に対して、初めてのことだった。小夜はびっくりしたようで、肩を震わせ、静かに泣き出してしまった。
「嫌だよ、お別れなんて嫌だよ!」
「小夜、」
「なんでよぅ…ずっと一緒じゃダメなの?」
泣いてしまった小夜を宥めようと頭を撫でようと思ったが、止めた。そんなことしたら余計に辛くなるのは小夜だ。
「一応、引越しはすぐじゃない。一ヶ月後くらいになっちゃうけど、それまで、もしよかったら…小夜の面倒を見てくれませんか…?その分の生活費は負担します。今までの分も、お返ししますので」
「俺は…構いません。生活費は大丈夫です。その分、小夜に使ってやってください」
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