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第三話
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真里が来ない。だがまぁいい。一人で歩く。近くだし、なんとなく場所はわかる。
少しして、後ろから真里に肩を叩かれた。
「…乗んなよ」
「歩いて行ける」
そう俺が答えれば、真里に強引に腕を引っ張られ、転けそうになる。
「わかった、わかったから!」
そのままワゴン車の前まで引っ張られる。助手席にヒロさんが見えない。後部座席だろうか。仕方なく助手席に乗るが、後部座席にもヒロさんはいなかった。
「ヒロさんは?」
「知らねぇ。ほれ」
ふと、真里から紙を渡された。見れば、ヒロさんの筆跡でわりと近くの住所と、知らない名前が書いてあった。
「水野俊夫…誰?」
「小夜の父親かも知れないってさ」
「えっ…?」
「知り合いの探偵に頼んで戸籍を漁ったらしい。
ただ、この住所までは突き止めたがこれは4年も前のものだからなんとも言えないとは言ってたよ。まだこの人がここに住んでるかは調査中だとよ」
「…そっか」
俺は紙を取り敢えずポケットにしまう。
ケータイが鳴った。ヒロさんだ。
「はい」
『光也くん、あのね』
「メモ、ありがとうございます。
お世話になりました。遥子をよろしくお願いします」
『待って、もう一度』
それだけ言って電話を切る。ヒロさんの番号やメールも着信拒否して削除した。
ケータイを下にぶん投げて項垂れる。
「真里、今日はごめんな。ゴタゴタに巻き込んじまって」
「…許さない。
そんな泣きそうな顔で笑顔作られたって許してあげない」
俺は今、そんな顔してるのか。
「何であんたはそーゆー結果しか選ばねぇんだよ」
「…うるせえな」
「あ?」
「うるせえっつってんだよ」
「いくらでも言ってやるよ、バーカ。カッコつけてんじゃねぇよ。今のあんたすっげぇカッコ悪い。
なんなの?なんでそんな自分が傷付く方へ行くの?みんなあんたを支えるって言ってんじゃん。なんなんだよ!
俺があのクソ野郎に言った意味は何よ?あのクソ野郎が言った意味は何よ?ねぇちゃんが言った意味は何よ?みんな、みんなあんたを守るためだろ?それなのになんであんたはあんたを守ってやらねぇんだよ!それって自虐だろうが!
なぁ、今のをねぇちゃんが知ったらどうなるんだよ、おい!」
「墓場まで持ってくに決まってるやろ。それくらいの覚悟はあるわ。じゃなきゃヒロさんと姉ちゃんの仲が悪くなるかもしれない、そんなんじゃ俺がこんな思いした意味なんてねぇんだよ!
最低なのは誰よりもわかってる、逃げてるのは誰よりもわかっとるわ!だけど、これしかねぇだろうが他にどうしろ言うねん!
俺はまだ…、小夜だっていてお前だっているんだよ!」
こんなこと言ったって仕方ないのに。
「…とにかく俺は決めたんだ姉ちゃんにはもう会わない。会えば迷惑をかけるだけだ」
「そんなの思い込みなんだって」
「うるせえもう黙ってろよバカ」
人が無理して笑ってんだから察しろよクソったれ。なんでそうズカズカ入ってくるんだよ。
「…うるせえんだよみんなして。俺に構うなや」
一人にして欲しい。だけど今出ていく訳にはいかない。
いつの間にか一人じゃなくなっていた。隣に誰かがいることがこんなにも辛いことだなんて思わなかった。
「なんで…こんなに伝わらないんだろうな。俺が年下だからか?」
そう言う真里の横顔は、なんだかとても辛そうで。
「俺がこんな顔するとあんたそんな顔するくせにさ。わかってくんねぇんだよな」
俺は一体どんな表情なんだよ。
「辛いんだよ、あんたが辛いと。嫌なんだよ。
なんでこんなお人好しなバカ、好きになっちまったんだよ俺。ホントなんなんだよ」
そんな泣きそうな顔させてるのが俺なのか?
「でも好きなんだよ。会わないなんてもっと辛いからやらねーよ?くっそ、ホント罪なヤツだな」
「ごめん…どうしたらいい?」
「てめぇで考えろや」
言葉のわりに、真里の表情は優しかった。それが胸に刺さるようで、前を見ていられなくなってしまった。
「真里、もういいよ?俺なんて」
「それが出来たら苦労なんてしないんだよ。物理的にじゃないの!そうしたくないんだって言ってんの!
それであんたが苦しくなるならなおよし。刻み付けとけ!人って簡単じゃないんだよ!」
「真里…」
「あんたはどうしてきたか知らない。語ってくれないからね。
俺は、しつこいよ悪いけど。これくらいじゃへこたれねえから。むしろもっと来いよ。出来る限りでしかやれないけど全力でやってやるよ」
「お前のこと俺は嫌いかもな」
どうしてこんなことしか言えないんだろう。やっと出てきた言葉はやっぱり逃げ腰なんだ。
「はいはい、それでいいよ」
なんで真里はこんなに優しいんだろうな。
俺は人に、こんなに優しく出来ない。
「ヒロさん帰れるかな」
「近いから大丈夫だよ。時間ずらして帰るってよ」
それから姉貴の家まで無言だった。そのせいかタバコの量が病的に多かった。気持ち悪くなったところで止めた。多分5分で3本くらい吸ったんじゃないかという勢いだった。横目で見て真里が止めようとしたのもわかった。
姉貴の家についてもしばらく二人して車から降りなかった。だが、それも不自然だなと思い、真里と一緒に降りてインターホンを鳴らした。
『はぁい』
「姉ちゃん?お待たせ」
『あぁ!はいよ!』
そう言うと姉貴は小夜を連れて出てきた。小夜は真っ先に俺の元へ駆け寄り、抱きついてきた。
「…心配かけたな」
「まったく!小夜ちゃんずっと心配しとったで!」
「ありがとな、助かったわ」
「気ぃつけろや、まったく!
あれ、ヒロは?」
「あぁ、買い物行ってから帰るって言って別れた」
「そかー。変なのー。
そや、光也!」
俺たちが帰ろうとしていると、姉貴は俺を呼び止めた。
「ん?」
「来週土曜、町内会でお祭りあってな。その話小夜ちゃんとしとったんよ。うちの勝海と竜太郎も行こうと思っとるんやけど、小夜ちゃん連れて一緒来ぃや」
真里と顔を見合わせる。
「あー、シフト出しちゃったな。行けたら行くわ。行けなかったら真里に連れてってもらおうかな。真里、シフトどうよ?」
「シフト出てないからわからん」
「ん?そか?まぁ考えとってやー。
マリちゃん、今日からよろしくな!」
「うぃっす!」
「じゃぁな、小夜ちゃん。また来てなー」
「ばいばい」
小夜は姉貴に小さく手を振った。
姉貴の家を背にして俺はいち早くワゴン車の後部座席に乗り込んだ。小夜が隣にちょこんと座る。
「心配かけてごめんな」
「…うん」
「そだ、小夜。土曜は真里と行ってきな。俺、お仕事だからさ」
「…うん」
真里はそれには無言だった。
「帰ったらテストしないとな。良い点とったらご褒美って言ったもんな」
「うん!
…みっちゃん?」
小夜が少し心配そうに顔を覗いてきた。
「まだ具合悪いの?」
「…大丈夫だよ?」
「小夜、俺が点数つけてやるよ。俺まだ現役の学生だから自信あるぜ」
「そうなの!?なんの学校?」
小夜は真里の話に夢中になった。こんな時、真里の空気を読む力に助かる。
無邪気な小夜を見て、少し心が落ち着いた。だけど穴が開いたような感覚は多分、今日一日取れないんだろうな。
小夜が真里と話している最中、俺の中では姉貴との思い出が甦る。たまに話題に上がる来週土曜の祭りの話。俺はそこには多分行かないんだな。
その頃にはきっと姉貴は、俺が着信拒否をしてることにも気付いているんだろうか。
言えなかった。言わなかったけど心の中で姉貴に、じゃあなと一言。こんな一言すら言えないほど俺は弱かったんだと改めて思った。
少しして、後ろから真里に肩を叩かれた。
「…乗んなよ」
「歩いて行ける」
そう俺が答えれば、真里に強引に腕を引っ張られ、転けそうになる。
「わかった、わかったから!」
そのままワゴン車の前まで引っ張られる。助手席にヒロさんが見えない。後部座席だろうか。仕方なく助手席に乗るが、後部座席にもヒロさんはいなかった。
「ヒロさんは?」
「知らねぇ。ほれ」
ふと、真里から紙を渡された。見れば、ヒロさんの筆跡でわりと近くの住所と、知らない名前が書いてあった。
「水野俊夫…誰?」
「小夜の父親かも知れないってさ」
「えっ…?」
「知り合いの探偵に頼んで戸籍を漁ったらしい。
ただ、この住所までは突き止めたがこれは4年も前のものだからなんとも言えないとは言ってたよ。まだこの人がここに住んでるかは調査中だとよ」
「…そっか」
俺は紙を取り敢えずポケットにしまう。
ケータイが鳴った。ヒロさんだ。
「はい」
『光也くん、あのね』
「メモ、ありがとうございます。
お世話になりました。遥子をよろしくお願いします」
『待って、もう一度』
それだけ言って電話を切る。ヒロさんの番号やメールも着信拒否して削除した。
ケータイを下にぶん投げて項垂れる。
「真里、今日はごめんな。ゴタゴタに巻き込んじまって」
「…許さない。
そんな泣きそうな顔で笑顔作られたって許してあげない」
俺は今、そんな顔してるのか。
「何であんたはそーゆー結果しか選ばねぇんだよ」
「…うるせえな」
「あ?」
「うるせえっつってんだよ」
「いくらでも言ってやるよ、バーカ。カッコつけてんじゃねぇよ。今のあんたすっげぇカッコ悪い。
なんなの?なんでそんな自分が傷付く方へ行くの?みんなあんたを支えるって言ってんじゃん。なんなんだよ!
俺があのクソ野郎に言った意味は何よ?あのクソ野郎が言った意味は何よ?ねぇちゃんが言った意味は何よ?みんな、みんなあんたを守るためだろ?それなのになんであんたはあんたを守ってやらねぇんだよ!それって自虐だろうが!
なぁ、今のをねぇちゃんが知ったらどうなるんだよ、おい!」
「墓場まで持ってくに決まってるやろ。それくらいの覚悟はあるわ。じゃなきゃヒロさんと姉ちゃんの仲が悪くなるかもしれない、そんなんじゃ俺がこんな思いした意味なんてねぇんだよ!
最低なのは誰よりもわかってる、逃げてるのは誰よりもわかっとるわ!だけど、これしかねぇだろうが他にどうしろ言うねん!
俺はまだ…、小夜だっていてお前だっているんだよ!」
こんなこと言ったって仕方ないのに。
「…とにかく俺は決めたんだ姉ちゃんにはもう会わない。会えば迷惑をかけるだけだ」
「そんなの思い込みなんだって」
「うるせえもう黙ってろよバカ」
人が無理して笑ってんだから察しろよクソったれ。なんでそうズカズカ入ってくるんだよ。
「…うるせえんだよみんなして。俺に構うなや」
一人にして欲しい。だけど今出ていく訳にはいかない。
いつの間にか一人じゃなくなっていた。隣に誰かがいることがこんなにも辛いことだなんて思わなかった。
「なんで…こんなに伝わらないんだろうな。俺が年下だからか?」
そう言う真里の横顔は、なんだかとても辛そうで。
「俺がこんな顔するとあんたそんな顔するくせにさ。わかってくんねぇんだよな」
俺は一体どんな表情なんだよ。
「辛いんだよ、あんたが辛いと。嫌なんだよ。
なんでこんなお人好しなバカ、好きになっちまったんだよ俺。ホントなんなんだよ」
そんな泣きそうな顔させてるのが俺なのか?
「でも好きなんだよ。会わないなんてもっと辛いからやらねーよ?くっそ、ホント罪なヤツだな」
「ごめん…どうしたらいい?」
「てめぇで考えろや」
言葉のわりに、真里の表情は優しかった。それが胸に刺さるようで、前を見ていられなくなってしまった。
「真里、もういいよ?俺なんて」
「それが出来たら苦労なんてしないんだよ。物理的にじゃないの!そうしたくないんだって言ってんの!
それであんたが苦しくなるならなおよし。刻み付けとけ!人って簡単じゃないんだよ!」
「真里…」
「あんたはどうしてきたか知らない。語ってくれないからね。
俺は、しつこいよ悪いけど。これくらいじゃへこたれねえから。むしろもっと来いよ。出来る限りでしかやれないけど全力でやってやるよ」
「お前のこと俺は嫌いかもな」
どうしてこんなことしか言えないんだろう。やっと出てきた言葉はやっぱり逃げ腰なんだ。
「はいはい、それでいいよ」
なんで真里はこんなに優しいんだろうな。
俺は人に、こんなに優しく出来ない。
「ヒロさん帰れるかな」
「近いから大丈夫だよ。時間ずらして帰るってよ」
それから姉貴の家まで無言だった。そのせいかタバコの量が病的に多かった。気持ち悪くなったところで止めた。多分5分で3本くらい吸ったんじゃないかという勢いだった。横目で見て真里が止めようとしたのもわかった。
姉貴の家についてもしばらく二人して車から降りなかった。だが、それも不自然だなと思い、真里と一緒に降りてインターホンを鳴らした。
『はぁい』
「姉ちゃん?お待たせ」
『あぁ!はいよ!』
そう言うと姉貴は小夜を連れて出てきた。小夜は真っ先に俺の元へ駆け寄り、抱きついてきた。
「…心配かけたな」
「まったく!小夜ちゃんずっと心配しとったで!」
「ありがとな、助かったわ」
「気ぃつけろや、まったく!
あれ、ヒロは?」
「あぁ、買い物行ってから帰るって言って別れた」
「そかー。変なのー。
そや、光也!」
俺たちが帰ろうとしていると、姉貴は俺を呼び止めた。
「ん?」
「来週土曜、町内会でお祭りあってな。その話小夜ちゃんとしとったんよ。うちの勝海と竜太郎も行こうと思っとるんやけど、小夜ちゃん連れて一緒来ぃや」
真里と顔を見合わせる。
「あー、シフト出しちゃったな。行けたら行くわ。行けなかったら真里に連れてってもらおうかな。真里、シフトどうよ?」
「シフト出てないからわからん」
「ん?そか?まぁ考えとってやー。
マリちゃん、今日からよろしくな!」
「うぃっす!」
「じゃぁな、小夜ちゃん。また来てなー」
「ばいばい」
小夜は姉貴に小さく手を振った。
姉貴の家を背にして俺はいち早くワゴン車の後部座席に乗り込んだ。小夜が隣にちょこんと座る。
「心配かけてごめんな」
「…うん」
「そだ、小夜。土曜は真里と行ってきな。俺、お仕事だからさ」
「…うん」
真里はそれには無言だった。
「帰ったらテストしないとな。良い点とったらご褒美って言ったもんな」
「うん!
…みっちゃん?」
小夜が少し心配そうに顔を覗いてきた。
「まだ具合悪いの?」
「…大丈夫だよ?」
「小夜、俺が点数つけてやるよ。俺まだ現役の学生だから自信あるぜ」
「そうなの!?なんの学校?」
小夜は真里の話に夢中になった。こんな時、真里の空気を読む力に助かる。
無邪気な小夜を見て、少し心が落ち着いた。だけど穴が開いたような感覚は多分、今日一日取れないんだろうな。
小夜が真里と話している最中、俺の中では姉貴との思い出が甦る。たまに話題に上がる来週土曜の祭りの話。俺はそこには多分行かないんだな。
その頃にはきっと姉貴は、俺が着信拒否をしてることにも気付いているんだろうか。
言えなかった。言わなかったけど心の中で姉貴に、じゃあなと一言。こんな一言すら言えないほど俺は弱かったんだと改めて思った。
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