HalcyoN

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
49 / 59
TriazoruM

2

しおりを挟む
 賞味期限が迫ると、ペンで「ゆで」と書かれた卵が増える。
 春雪が普通にやっていた“ゆで卵”を、前に芳明が間違えてしまったことで、いつの間にか「ゆで」になった。

 当たり前になっているこれが実は互いに結構、気に入っていたりする。

 中途半端に時間もあった。

 何故だかわからないが、キッチンにはすでに酢漬けのみじん切り玉ねぎがあった。

 春雪は芳明から「ゆでを潰し用意されていた玉ねぎを調味料と混ぜる係」と仕事を振られ、その緩さが丁度良く、少し目が覚めてきた。

 朝にしては結構がっつりめの「チキン南蛮」を二人で作って食べ、出勤した。
 芳明から酔い止めを渡されたので、家を出る前に飲んだ。

 親子丼でも正直よかったんじゃないかと思いながらも、助手席に乗る感覚が新鮮。

 ふう、と一息吐いてハンドルを握る芳明は完全に仕事モードのシャキッとした表情だが。

「…めちゃくちゃ重かったなチキン南蛮」
「…玉ねぎはなんですでに酢に漬けてあったの、まるで三分レシピだったんだけど。ピクルス嫌いだよね、いつもバター炒めじゃん」
「売ってるやつはピクルス入ってるし、朝はさっぱりがいいなと…玉ねぎ刻んでる時が特に無になるし。
 ユキが寝ている間無駄なことをたくさんやってたんだよ、昨夜」
「それはわかる…いや、わかんないわ……なんかごめん」
「別に?まぁ今日20度越えとかテレビで」
「…ホンットに1時間しか寝てないの!?大丈夫!?」
「当直だから行ける。それにこれはウチの案件としては結構引っ掛かるかなと」

 …仕事ゾーンでしかないんだけどこの人…。受け答えが若干噛み合ってない…。

 しかし芳明は大体そういうのを気にしない。血液型の性格がどうたらというのは正直あまり信じない春雪だが、「流石A型」と頭に過る。ちなみに春雪もA型だが数少ないRh-だ。

 …きっと、こんな芳明を見たら平中くんは「すっげえ露骨な日本人だね」と言うだろう、と考えたらふと、思い出した。

「そう言えばさぁ」
「ん?」
「平中くんがさ、野島さんのお子さんと凄く仲良くなってさ、」
「…ん?」
「まぁ、楽屋でお子さん…勇気くんね」
「ああ、よく話すよな」
「うん。局と収録の関係でね、平中くんに預かって貰った日があったんだ、勇気くん。野島さんの案なんだけどさ」
「うん」
「ふふっ、勇気くんが収録終わりにさ、声優になりたいなんて野島さんに言ったの。
 どう仲良くなったんだろうなぁ、凄く心が温かくなった最近の話しね」
「…もう人に夢を与えられてんだな、その子。ユキが構うのもわかる気がするな」
「そう?」
「ユキ、そいつのこと好き?」

 そう聞かれてはっとした。
 肩、痕残ってたからなぁと少し気まずくなる。

 自分がしたことだし、芳明はそう、自分が昔したこともあるせいか、あまり咎めない。
 一般的には互いにズレているかもしれないと…でも、自分では自覚がない分こんなときに気付く。

 何故その時、春雪は芳明を許したか。
 というか実は、春雪の怒りの矛先はどうやら芳明が予想していたものとは違かったらしいのだ。

 自分は、芳明に触れたい…毎朝こっそりキスをするくらいには。知りたくてしょうがなかったが極論は盛りの10代。
 身体がいうことを聞かなかったのに、芳明はそれを「未成年だから」とはね除けた。そのくせ成年は女で遊ぶのかと…。

 はっきりと傷付いたのだ。気持ち悪いならそんなに間接的じゃなくはっきり言えと。
 しかしそれは横暴だ。事実、言われていたら多分その場で手首を切っていたと思う、耐えられなくて。

 あの男に触れられたのは不快で許せなかったのに、何故だろうかという葛藤もあった多感な十代。

 本当かは勿論、きっと芳明の心…心臓の中身と外身をひっくり返さなければ見えないものだけど、芳明は春雪に言ったのだ「触れてはならないフラストレーションに、女を代替えにした」と。

 そう聞くと確かに、代理だ。言葉も選んだのだろうと考えればそれが本音なんだろうと春雪は感じ取った。
 だから結果、呆然としたまま許したのだ。芳明に抱かれた女達と圧倒的に価値が違かったのだと…。

 バカらしく思えたのもあった。

 でも自分は、と考える。別に平中くんは芳明の代替えではない。ただ、彼から寂しさを感じたから…。

「…あぁ、なんか不毛だね」

 気付けば声に出していた。
 春雪がはっとすると芳明もその顔をし「…そうか」と言った。

「…正直、君が幸せならそれでも…と思ったりしたんだけど、不毛ってな」
「え……。
 待って、なんでそれ言うの」

 ズキッと、これはカッターではなかった…ナイフだ。ナイフを刺されたような気がして春雪は胸に手を当てた。
 当てたらあぁ、あぁ…と、びくびく痙攣して血が、溢れていくような気がして。

「……ねぇ、それどういうこと?」
「浮気した側がよく言うよな」

 はっきりと、芳明は不快感を表した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...