HalcyoN

二色燕𠀋

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カワセミ

6

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「いや、わかんないか。俺はもう警官一筋だったから。バイトっていうか、そういうのはあとで親に返そうと思ってた」
「…え、お父さんとお母さんは?」
「こんな話ってお涙が良いのかもしれないけど二人ともハイパーで生きてるわ…マジで元気というかまだ現役、警官じゃないけど」
「…はは、そうなんだ!よかったね、鼻高々だ」
「いや、弟の方が凄い。一つ下なんだけど去年国家公務員試験合格して警察庁行ったんだよね。いきなり俺のすんごい上司になっちゃった」
「……ん?」
「警庁は日本全土。警庁は県警と一緒で地方公務員。まぁでも首都警備だから他の県警よりなんとなく上」
「うわぁ、じゃあいいじゃん、どの道」
「まぁねぇ」

 でも、少し過った。

「…高校卒業まではこっちに居るって手もある」

 元々居にくかった場所、更に居心地は悪くなっているだろう。そう思うと…と考えていると「うーん、まぁ、」とユキは言った。

「いいよ。先生には俺が聞きに行く、どっか東京で引っ掛からないかにしても…まぁ、色々ね。て言っても、市立みたいなのならあるのか。でも高いよね市立って」
「あーまぁお金は良いんだよ。
 協力してくれる?」
「うん、まぁ」

 頭を撫でてやりたくなったが手が玉ねぎだ。
 ユキはニコッと笑い「一緒にやろうって言ってくれたから」と言うのが…可愛すぎて手が止まったのに。

「あ゛っ、」
「え、なに」
 
 涙じゃないが鼻水が出そうになり、上を向いた。

 「やっぱ痛い!?痛いよね!?」と具材を鍋に入れながら言うユキに「いや、もっと悲惨、鼻水」と言えば「あーあー」と紙をくれた。

 キッチンペーパーだった。

 とにかく切り終わったしとそのままキッチンペーパーで鼻をかんだが、玉ねぎはどうやら強いらしい、キッチンペーパー越しで刺激され鼻水が止まらなくなった。

 「まーいーや、芳明さん座ってなよ」と言ってくれたので、手を洗いリビングで落ち着くまで鼻をかんだ。

 「ふふっ、ははは!」とツボに入ったらしいユキの笑い声が聞こえたが、ティッシュを捨てる際に気付く。今日も一人、前の残りを何錠か飲んだらしいと。

 …ゆったり、幸せな時間が過ごせたら良いと、少しだけセンチメンタルもあるが、まずはやるか、というモチベーションにもなったのは確かだった。
 いつか、いつでもいい。ユキを幸せに出来たならと、その時に深く思ったのかもしれない。

 その日のビーフシチューは、やっぱり俺のイメージとは違かったが、それはそれで旨かった。

 俺もそれからシャワーを浴び、寝室に戻ると眠そうにしながらユキは待っていた。

 実は、ベッドを買おうかと検討をしたが1LDKでは限界だし、なら、ソファーベッドにしようかとも考えた。
 しかし彼は「これがいい」と言ったのだ。

「母さんが、俺を抱き枕にしないと眠れない人だったからさ。俺もなんかないと眠れないんだ」

 なら抱き枕を買うか、というのも「暖かくないから嫌だ」と、結局俺に抱きついて寝ている。

 セミシングルで少し狭いような気はしたが、落ちたら困るとユキを壁側にし扉も閉めることにしていた、これは俺が落ちないようにだ。

 いつも俺の方を向き腕の側で眠るユキに、早くも何か良からぬ感情が動いていることに、その日もなんとなく気付いていた。

 この、無防備で優しく美麗な顔。
 ついつい髪を耳に掛けて眺めると、少し身を縮こまらせ「くすぐったい」と笑う。

「ごめんごめん」

 自分はこれで幸福感が、あるというのに。
 察したのかユキは目を開け、「芳明…さんはさ」と言った。

「どうして俺を引き取ろうとしたの?」
「それは…」

 考える。
 あの瞬間、正義感は確かにあったけれど、それは98%くらいだ。

「…君だって、SOSを出していた」

 子供の純粋な問いにこう取り繕い自分を潰していく大人を、君はどう見るのかな。
 輪郭をすりすりするように触れ、「…そうだね」と目を閉じる彼の体温。

 つい、反応しそうになった腰を離し穏やかに「お休み」と言うに努める。

 本当はその2%、36.5°の理由をハッキリわかっているのに。わかってないふりをして目を閉じる。

 朝起きたユキは不思議と壁側を向き、起きていた。

 むわっとする生々しい匂いに、どうにかしなければと思う理性と、流されてしまえばいいのにという明るくも黒い自分の背徳感に、戸惑った。

 彼がふっとこちらに寝返ろうとする気配を察知し咄嗟に目を閉じる。
 ぎしっとベッドが鳴り、側のゴミ箱がかさっと、僅かに音を立てたのとほぼ同時に、ふっと一瞬唇に柔らかい何かが触れたのを感じた。

「芳明さん」

 はっきりとそう呼ばれ目を開ける。

 彼は頬も上気し涙目のまま、ごく平然とした態度で微笑み「おはよう」と、ベッドにある置時計のアラームを切った。

「…おはよう」

 何事もなくベッドから出て行く彼は「お弁当箱くらいあるといいな」と言ってキッチンへ向かう。

 自然と、彼が触れた唇を指で触っていた。
 時計を見れば、まだ出勤時や登校時よりも早い時間。

「………弁当箱?」

 …頭がまわってきた。

「お昼って、言ってたから」

 そうか、今日は行くんだな、学校。
 ゴミ箱が目につく。使用済みのティッシュ。

 思春期の配慮に欠けていたなと、その日はついつい通販でソファーベッドを買ってしまったりした。
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