HalcyoN

二色燕𠀋

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一過性

2

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 「きゃー!眼福眼福!」と、やっぱりこの子、病んでる系だろというテンションでパシャパシャと写メった彼女は画面を眺め始める。

「あとでついでに送ってください、俺にも」

 平中くんはみるるんに「だから早く帰りな」と、作った笑顔でそう言った。
 ふぅ、と息を吐いた平中くんはテントに戻り、顔も見ずに彼女を手でしっしとやる。

 茂木さんが頭を下げていたが、みるるんはケータイしか見ていないし、平中くんもそちらを見ていない。

 平中くんが衣装のシャツを脱ぎネクタイを緩く絞める背では、テンション違いのみるるんが帰って行った。
 一連の動作は非常にスマートだったが、平中くんは「気分悪ぃ」と本音を吐き捨て俺を見る。

「悪いね、あの役いつも俺なんだよ」
「え?」
「あの女のご機嫌取り。あぁ見えて25だから逆らえねーし、まわりとかも多分押し付けてんの、「若い二人に」みたいな理由つけて」

 確かに、そういえば。

 ちなみにこの作品は履修のため現在3話までの放送分をテキトーに見た。平中くんは主人公とヒロインのキーパーソン的な同級生役だが、勿論二人のシーンも多い。

 主役の子はアイドル活動がメインで、今日は急な変更もあり、来ていない。忙しいのだろう。

 てゆうか。

「25!?」
「そうそう。7歳読むの流石にキツいよな」
「あの子そんなに長かったっけ、」

 ウチの事務所、主婦層が多いからかな。
 芸歴が長いのは当たり前、年齢もみんな読むか読まないか、気にしない風潮だ。

 「まぁ、あの人も可哀想だけどね」

 言いながら平中くんは、前触れもなくテキトーに水を2本、自分で頭から掛けた。

「は!?」

 ついついビックリして口に出してしまったが、彼は水を俺に一本渡し、「背中やって、中入れて」と平気で言ってくる。

「えっ…」
「早くしないと晴れそうだし流石にこれ無駄んなんの腹立つ。じゃなきゃそこの川入って」
「や、やめてね。わかったから…」

 言われた通り、彼の肩から水を掛け、シャツの中から背中を…うわぁ、この子何気に良い身体してる…。
 …いやいや、と振り払い水を背中に入れればやっぱり「冷たっ」と言う。

 そりゃそうだよな…。

「…ごめん、苛めみたい、なんか…」
「そんなこと気にするんだ?」

 不思議そうに俺を見た平中くんは、水を一本ぐいっと押し付けてきた。
 俺がそれを受け取るか取らないかで平中くんは「監督ー」と呼び、監督が見るか見ないかで今空いたペットボトルを不機嫌そうに思いっきり下へ投げつけた。

 「準備OKです、」と言うが待て待てペットボトルは崖を転げた、拾いに行ってふと見ると、監督は表情を戻し…というか平中くんに引いた顔で「お、おぅ…」と臆していた。

 それに少し笑いそうになり、口元を隠すように水を飲みながらスタッフテントに戻って気付く。

 これ、最後の一本だ。

 仕方ないな、でも確か住宅街側の石段を降りれば自販機があったはず。てゆうかよく考えたらこんなシーン、川原でやる意味あんのかな。
 ゴールデン後プライムの1時間ドラマ。履修の限りではあまり拘って撮っているようにも見えなかったのに。

 …まぁ俺が多分現場慣れしてないだけだろうし俺が考えてどうにかなるわけじゃないな、考えすぎだ。
 さっさと走って…あったか~いはまだないか、スポーツ飲料にしておいた。

 戻ると本っっ当になんでもないシーンで、平中くん演じるツヨシが水浸しでただ空を見上げて憂い、「雨か…」と言うだけだった。

 演じると感じられるかどうか、状況も状況だし臭くなるかならないかもわからないほど、尺で言えば間でしかない。
 当たり前に一発OKを出した平中くんは勝手に「おつかれっしたー」と帰る準備をするのだから、こちらは頭を下げるしかない。

 大人がもたもたと機材を下げているのを見守らなければと思ったが「早く帰らして、」と平中くんが身体を拭きながらイライラと言うので、まぁ今日は頑張ったしなと時計を見れば12時をまわっていた。

 ヤバイ、こんな時間か。平中くんを急いで帰して野島さんのところに行かねばえっと、ここから平中くんの家はどれくらいだっけ、でも14時には野島さんの家に…と、反射でケータイを取っていた。

「こんにちは野島さん!」
『おーハルちゃん、そろそろ電話かと思ってたよ~、ウチでお昼作ってるからなんだっけ、モデルくんと来たら?』
「へ?」
『14時までに入ればOKでしょ~、どこ?今』
「あ、まぁ荒川あらかわの…」
『ほら近ーい。確か今日の後半はその子の送迎だったよね?』
「…す、凄い野島さん…」

 平中くんが鞄を押し付け早く帰りたいアピールをするので「平中くん、野島さんとランチ」と頭の悪い日本語で彼に伝える。

「野島さん?」
「うん、来ないかって…一回」
『お礼もしたいし決まり~、作っとくね~』

 切れた。

 なんとも言えぬ間に両者団結した。監督やら、まとめて皆様に「おつかれっしたー!」と二人で車に戻る。
 戻ればすぐに「疲れた」がハモった。

「野島さん…俺一瞬しか会ってないんだよな…」
「挨拶くらい?」

 車を出す。

「うん…あの人テレビ通りの人?」
「うん、大体。本当はもう少し、僅かに柔らかい」
「なんだろうな…聞こえてきたけどお礼ってなんだろ?」
「それはあれでしょ、ガチャガチャ」
「……あぁ!え?マジで?ランチ代にもならなくないか?」
「きっとお子さん方が非常に喜んだんではないかと」
「…はは!変な日本語!」

 …自分でも思ったよそれ。
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