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微睡み
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それにビックリしてしまい「いや…」とこちらも吃ってしまった。でも、徐々に腹も立ってきたなと思えば、彼はふっと笑った。
「色っぽ」
…予想外の反応に少し、困る。
何、こいつ。
「ミステリアス気取るのもいいけどさ」
「…初めて言われたけど」
「そうだね、案外わかりやすい」
返す言葉が追い付かない。やはり腹が読めない、若い子…と、少し歩み寄ろうとした自分の方がまた一歩引いてしまう。
果たして解り合えるのだろうか…。先行きが不安だ。
それから無言のまま、秋葉原でパーキングを見つけて車を停める。
その子、何が好きなの?と、もぞもぞとマスクをしながら車を降りる彼は、まるで俺を案内するように前を歩く。
いや、正確には俺が足なんだけども。前歩かれるとヒヤヒヤするな…。
多分、からかって遊んでいるんだ。
…いや、逆説かもしれない…実は本当に純粋なだけなのかもしれないが…。
「…青だったかなぁ」
「青か。わかる」
マスクをしていても彼はやはり、長身で目立った。けれどもここはわりと、どんな人でも歩いている。
案外普通の大学生くらいに見えて、ヒヤヒヤもしなくなっていた。
「そうなんだ?俺は聞いたとき「赤じゃないんだ」って、少し思った」
「…なんというか、息子さんだっけ。はは、ニッチな子供だね。あの親にこの子あり感がある」
通りには人が多いのだが、店内はうっすら寒いような…そして、たまにテレビで取り上げられるわりには、それほど人はいない場所だった。
彼は普通な態度で真ん中の台を指し、「これ」と言った。
…細長い指。角張ってて綺麗。
平中くんはポケットから財布を出し、てゆうかポケットに入れてんのかよ、中身を覗いて「あ、ねぇや」と、千円札を三枚抜いて俺に渡し、奥の両替機を指し「変えてきて」と指示をしてきた。
「はい」
ついつい職業病で従ってしまったが、いや、何してんだろうなと思いつつじゃらじゃらと両替し更に思う。
…てゆうか、そんなに使うか?
両手いっぱいになった手を差し出せば、平中くんは「よーし」と、そこから百円玉を3枚取り…。
え?一回300円なの?
ガチャガチャをまわし静かにその玉を眺めた彼は「あ、一発で出ちゃった」と俺と、残り2,700円を眺め「…もっかいやる?」と聞いてきた。
まるで子供のようなそれについ「ふ、」と笑ってしまった。
手に置いた百円玉27枚がじゃりっと音を立てる。
「…他に好きなのないの?」
「あー、勇気くんのお兄ちゃんは緑が好きなんだよね」
「野島一家では赤、人気ないんだな。流石だわ…」
何が流石なのかはわからないが、再びまわすと次は緑。凄い引き運だなと感心した。
残り24枚の100円玉。
「……いつも出ないのに。あんた持ってんね」
「俺かな!?多分平中くんのやつだよそれ!」
ていうかいつもやるのかな…まぁこの100円を眺めるとそんな気はする、これは多分、素人の遊び方じゃない。
「全種いけたらどうしよ」と言いながらまた3枚を入れて捻ればピンク。あと赤と黄色だっけなと思っていたが、次は青に戻ったようだった。
「流石にないか…」
「なかったね」
「目標達成しちゃったな。あんたなんか欲しいもんある?」
「いやぁ特に思い付かないけど…そうだ娘ちゃんがいる、優ちゃん。優ちゃんは確かネコのコッコが好きで…」
三つのガチャカプセルをポケットにしまった平中くんはすっと立ち「あったあの奥」と指を指す。
「こいつはいまいちわからないんだけど…」と一回まわし、ついでに隣のガチャガチャを眺め、「あの人オーケストラなんだよね」とそっちもまわした。
一気に15枚まで減った。
どうやら隣は楽器のガチャガチャだったらしい。
「わー、シンバルとかこういうのであんのか普通」と言いながらもう3枚を入れ「お、」と、平中くんは楽しそうだった。
「よかったバイオリン当てた…」
どうやら満足したようだ。
平中くんは「あ、ごめん」と、一握り程になった掌の100円を眺め手を出してきたが、ふと、側にあったギターのガチャを発見した。
「あー、持たせちゃったしいいよ、あげる」
よくよく考えたらガチャガチャ、やったことないなとつい、「いいの?」と聞いてしまった。
「3回分しか多分ないけど、よければ…300円のやつだよね?」
「え、うん。意外と高いんだね」
「昔は確かに200円だった」
「あ、100円のイメージだったよ…」
そう言ってくれたのだし、有り難くまわしてみることにした。
ついつい「おおー」と眺めてしまえば「ギター好きなの?」と彼は聞いてくる。
「え、いや。種類はよくわからないけど」
「ふーん」
残りの600円は返した。
平中くんは手際よくカプセルをパカッと開け…こんな形、初めて見た。
てっきり上下を捻って開けるものだと思っていたが、どうやら引っ掛かる爪のようなものがあり、左右にはセロテープが貼られている。
出入り口にカプセルの回収ボックスがあるのも初めて知った。
家まで送ると言ったが、「電車のが近いから良い」と、平中くんはそのままふらっと改札を渡っていった。
俺としては野島さんの現場が近かったので楽と言えば楽だったけど、一応なぁ…けど、彼は仕事終わりだし、干渉も出来ないなとあまり考えないことにする。
平中くんは最後に何故か、「あんた、両利き?」と聞いてきた。
「いや」
「あっそう」
やっぱり、よくわからない子だ。
「色っぽ」
…予想外の反応に少し、困る。
何、こいつ。
「ミステリアス気取るのもいいけどさ」
「…初めて言われたけど」
「そうだね、案外わかりやすい」
返す言葉が追い付かない。やはり腹が読めない、若い子…と、少し歩み寄ろうとした自分の方がまた一歩引いてしまう。
果たして解り合えるのだろうか…。先行きが不安だ。
それから無言のまま、秋葉原でパーキングを見つけて車を停める。
その子、何が好きなの?と、もぞもぞとマスクをしながら車を降りる彼は、まるで俺を案内するように前を歩く。
いや、正確には俺が足なんだけども。前歩かれるとヒヤヒヤするな…。
多分、からかって遊んでいるんだ。
…いや、逆説かもしれない…実は本当に純粋なだけなのかもしれないが…。
「…青だったかなぁ」
「青か。わかる」
マスクをしていても彼はやはり、長身で目立った。けれどもここはわりと、どんな人でも歩いている。
案外普通の大学生くらいに見えて、ヒヤヒヤもしなくなっていた。
「そうなんだ?俺は聞いたとき「赤じゃないんだ」って、少し思った」
「…なんというか、息子さんだっけ。はは、ニッチな子供だね。あの親にこの子あり感がある」
通りには人が多いのだが、店内はうっすら寒いような…そして、たまにテレビで取り上げられるわりには、それほど人はいない場所だった。
彼は普通な態度で真ん中の台を指し、「これ」と言った。
…細長い指。角張ってて綺麗。
平中くんはポケットから財布を出し、てゆうかポケットに入れてんのかよ、中身を覗いて「あ、ねぇや」と、千円札を三枚抜いて俺に渡し、奥の両替機を指し「変えてきて」と指示をしてきた。
「はい」
ついつい職業病で従ってしまったが、いや、何してんだろうなと思いつつじゃらじゃらと両替し更に思う。
…てゆうか、そんなに使うか?
両手いっぱいになった手を差し出せば、平中くんは「よーし」と、そこから百円玉を3枚取り…。
え?一回300円なの?
ガチャガチャをまわし静かにその玉を眺めた彼は「あ、一発で出ちゃった」と俺と、残り2,700円を眺め「…もっかいやる?」と聞いてきた。
まるで子供のようなそれについ「ふ、」と笑ってしまった。
手に置いた百円玉27枚がじゃりっと音を立てる。
「…他に好きなのないの?」
「あー、勇気くんのお兄ちゃんは緑が好きなんだよね」
「野島一家では赤、人気ないんだな。流石だわ…」
何が流石なのかはわからないが、再びまわすと次は緑。凄い引き運だなと感心した。
残り24枚の100円玉。
「……いつも出ないのに。あんた持ってんね」
「俺かな!?多分平中くんのやつだよそれ!」
ていうかいつもやるのかな…まぁこの100円を眺めるとそんな気はする、これは多分、素人の遊び方じゃない。
「全種いけたらどうしよ」と言いながらまた3枚を入れて捻ればピンク。あと赤と黄色だっけなと思っていたが、次は青に戻ったようだった。
「流石にないか…」
「なかったね」
「目標達成しちゃったな。あんたなんか欲しいもんある?」
「いやぁ特に思い付かないけど…そうだ娘ちゃんがいる、優ちゃん。優ちゃんは確かネコのコッコが好きで…」
三つのガチャカプセルをポケットにしまった平中くんはすっと立ち「あったあの奥」と指を指す。
「こいつはいまいちわからないんだけど…」と一回まわし、ついでに隣のガチャガチャを眺め、「あの人オーケストラなんだよね」とそっちもまわした。
一気に15枚まで減った。
どうやら隣は楽器のガチャガチャだったらしい。
「わー、シンバルとかこういうのであんのか普通」と言いながらもう3枚を入れ「お、」と、平中くんは楽しそうだった。
「よかったバイオリン当てた…」
どうやら満足したようだ。
平中くんは「あ、ごめん」と、一握り程になった掌の100円を眺め手を出してきたが、ふと、側にあったギターのガチャを発見した。
「あー、持たせちゃったしいいよ、あげる」
よくよく考えたらガチャガチャ、やったことないなとつい、「いいの?」と聞いてしまった。
「3回分しか多分ないけど、よければ…300円のやつだよね?」
「え、うん。意外と高いんだね」
「昔は確かに200円だった」
「あ、100円のイメージだったよ…」
そう言ってくれたのだし、有り難くまわしてみることにした。
ついつい「おおー」と眺めてしまえば「ギター好きなの?」と彼は聞いてくる。
「え、いや。種類はよくわからないけど」
「ふーん」
残りの600円は返した。
平中くんは手際よくカプセルをパカッと開け…こんな形、初めて見た。
てっきり上下を捻って開けるものだと思っていたが、どうやら引っ掛かる爪のようなものがあり、左右にはセロテープが貼られている。
出入り口にカプセルの回収ボックスがあるのも初めて知った。
家まで送ると言ったが、「電車のが近いから良い」と、平中くんはそのままふらっと改札を渡っていった。
俺としては野島さんの現場が近かったので楽と言えば楽だったけど、一応なぁ…けど、彼は仕事終わりだし、干渉も出来ないなとあまり考えないことにする。
平中くんは最後に何故か、「あんた、両利き?」と聞いてきた。
「いや」
「あっそう」
やっぱり、よくわからない子だ。
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