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二色燕𠀋

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明けの明星

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 …止めるべきか鎮痛剤か…と迷いながらポットを眺め、「湯なら」と答えれば「冷ますからいい」とほんの少しだけ会話が通じた。

 小さな紙コップに湯を入れてやれば、少年は頭を垂れたまま「…0.25だったの」と言った。

「でも今未成年だから0.125にされて効かなくなった」
「…いやいやいや、まぁよくわからないけど」
「ホントにゴムだったら0.125のが気持ち良さそうだよね。はは、」
「冗談はさておき、捜索願を出されていないか調べたいんだけど、名前は?」
「県警かなんかの夕方とかに流れるやつでされてないじゃん」
「夜は流さないよ。何?夕方から家出中?」
「……学校」
「下、明らかにスウェットだよね」

 都合が悪いのか少年は湯をふーふーと冷ましくいっと薬と飲み一瞬固まり、喉だけがピクッと動いた。そのまま顔も下げない。

 少年はようやっとという調子で空になった紙コップを眺め、俯いた。
 多分、胃が受け付けないやらなんやらで痙攣でもして戻しそうになったのだろう。

「じゃ帰ればいい?まだ22:48だし、12分で家着けばいい?」
「着くのか?送って行くけど、俺も帰りだし」
「着かない。バイト帰りってことで」
「うーん。君、会話が成立しないから単刀直入に聞くけど、さっきのって家帰りたくない、帰ってもヤバイってことじゃないの?」

 間を置いた少年に「そういう非行少年見て来てるからさ」と畳み掛ける。

「非行少年、かぁ」
「夜に血の付いた刃物を所持している」
「確かに。
 …プライバシーのなんとかだよ、まぁ、でも合ってるけどさ。
 まぁいいや、眠くなってきちゃった」

 少年はそのまま机に突っ伏し、「頭まーらなくなってきた。あんたが出勤する日、川に謝っといて」と訳のわからない事まで言い始める。

「は?」
「汚してごめんて、髪、流れたから。寝る」

 よく意味がわからないまま、その薄い目は閉じられた。

 睫長いな、とこちらがぼんやりし始めたが我に返り「は!?」と彼の肩を叩く。

 寝たフリなのかなんなのかはわからない、情報もない、平成7年生まれの15才、自傷癖あり、恐らく精神科に通院中、としか。

 ざっと見ても今のところ、該当しそうな捜索願などは見当たらない、今日は全て老人、殆どが解決済みとなっていた。

 起きようともしない少年にどうしようかと迷ったが、まず格好が寒そうなんだよなと、トレンチコートの上にジャケットを追加してやる。
 「久しぶりかも」と少年はトレンチコートの襟あたりを握って言った。

「他人の匂いって。ちゅーざいさん?良い匂いがする」

 人のコートをくんくんと嗅いだ彼は、少しだけ和らいだような表情を見せた。

「……少し歩ける?」
「んーん、多分無理」

 俺が、休憩室でお楽しみ中の二人にこの少年を預けて帰っても、少年はさっさと家に帰されるのみで…。

 だからといって何故そうしたのかはわからない。
 俺は少年に「取り敢えずおいで」と手を差し伸べていた。
 少し眠そうな目はしていたが、すっと、傷の付いた方の手を伸ばしてくる。

 「終電はまだあるけどなぁ」と頭に過ったのは近くの漫画喫茶、仕方ないなとその場で少年を背負うと「彼女にやれば良いのに」と、茶化すように耳元で言われた。

 彼の誕生日が近いだけに、これが10月6日なのか9日なのか、毎年自信がない。自分でもたまに忘れるらしい。これが記念日になっている。

「流石ちゅーざいさん、力あるね」

 少年はそれ以外、漫画喫茶に着くまで黙っていた。
 着くまでに二回ほど喉を鳴らして嘔吐いたのも直にわかったが、言及をしなかった。

 漫画喫茶の前で少年を降ろしたはいいが、誰がどう見ても不審だろうし貸して貰えるかと不安になった。
 幸いなのか、こちらが身構えるほど気にされる様子もなく、部屋の鍵を借りることが出来た。

 世の中案外、そんなものか。

 ぼんやり、無表情で無抵抗のまま着いてきた少年は「初めて来たな」と部屋を見て呟いた。

「凄いね、枕も布団もあるんだ」

 …もしかして変な家出方法を教えてしまったかもしれない。
 実は俺も初めてだったのだ、当時流行ったその場所が。

 今のところ治安が悪い街でもない。
 例えば「異臭がする」という通報でホームレスがここで死んでいたということもないし、ここはまだ「嗜好の場」という感覚だった。

 少年に枕もブランケットも促せば、少しだけ申し訳なさそうな、「使って良いの?」感を出した目で俺を見る。

「俺今財布もないよ」
「わかるよ。朝には帰ろうな」

 躊躇いがちに少年は枕を寄越してきたが、「てゆうか」と少年が何かを言おうとした瞬間、タイミング悪く隣の部屋から女の喘ぎ声が聞こえ、言葉が途切れてしまった。

 …これならまだ交番の方が、声を抑えていたし、マシだったのではないか…。

「あぁ、そーゆー意味だったのか」

 話は途切れたが、彼はあまり声の温度を変えることもなく、扉を眺めた。

 少年の視線の先、扉にはゴミ袋が掛かっている。俺は少年の指摘でそれに気が付いた。

「…こういう場所で援交が発覚したときってさ」
「…ん?」
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