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…遠からず気分が悪い、そう感じた。
今回についてはこちらが事情聴取をしていたはずが、まさかその、慧のバンドメンバーから泣き付くような依頼が入るとは思っていなかった。
「…実はあいつ、学校時代から苛めがありまして、ただ、本人がああだから自分に気付いてやれないんですよ」
半井という金髪の男が語った。
彼には誠一も、花咲組の一件で恩恵を受けている。そう無下に出来るものではなかった。
「苛め?」
「…まぁ、人によっちゃ自慢なんでしょうが、あいつ面良いですからね、モテるんですよ。無駄に外面も良いし」
こちらの黒田という方は案外、半井よりも情緒が安定していると見た。冷静だ。どちらかといえば信憑性はこちらを取った方がいいと誠一は判断した。
「まぁ、苦労したのだろうとは思う」
「苦労どころかトラウマしかないヤツで。その割には一言「ヤろう?」と言われればなんの疑問もなくヤっちゃうくらいで。軽いヤツだと思いますよね。俺は最初そう思ったけど」
「まぁ……」
「ホントに軽いんです。空っぽ。あいつ自分のことなんとも思ってないんですが、理由はあったんです」
誠一は例の、後輩だというメンバーが持ってきた画像を眺め、溜め息が出た。なんとなく、メンバーが言いたいこともわかる。
「俺、聞いたんすよね、慧に。なんでこんなことすんのかって」
「う~ん……まぁ、どうぞ」
「あいつ、小さい頃……その、犯されたらしいです。母親の入ってたインチキ宗教のヤツに。それからどうも、貞操観念がおかしくなったんだって俺は思って、」
「う~ん……君が加賀谷を大切に思っていることは重々わかった」
「…半井、多分この人が知りたいのはトリガーだよ。
繋がるかは皆目わかりませんが、最初のきっかけはビッチ女に引っ掛かったことでした。あいつ、先輩の女と寝ちまったんですよ。
勿論それはバレました。女は彼氏に「犯された」と言い訳したっていう、在り来たりなものでした。
慧が先輩に殴られそうになったのを俺と半井で止めたというか…当の彼氏のまわりはその女がビッチなのを知ってたんで、俺らが話して説得した、てのが正しい。
だけどその女は慧に逆恨みしたんですよ」
「…その先輩連中に今回の関係者がいそうってことか?」
「まぁまぁ。んーでもその中にはデビューしたヤツ…いないかもしれませんね。インディなんでわからないですが、相手がNG出してたりすると。
変に拡散してしまって男にまで及んだんです」
「…泥沼な学生時代だな」
「でも皆、男はね、気付くんです。それ見てもわかるでしょ?あれ、なんかこいつ変かもしれないって」
「…んまぁ」
「当の慧にはきちんと理解させましたよ、大変でした。話はあらぬ方向に行き聞いた奴らは…慧、女顔ですからね、下手すりゃいけんじゃね?派と、からかってやろうぜ派が出来て、いつの間にか女より男に集中しました。
ある日、ふとしたとき…便所でしたね。慧がPTSD出しちゃって。それがまた拡散してしまったんです。あれに今回似てるなと…。
関連付けるには少し浅いんですが、同じ時期…慧の育ての親だったおばあちゃんが亡くなったんで。それであんなことが起きたから…」
「なるほど」
「バンドでもまぁまぁあります。あいつがああですから。飲み会やってぶっ潰されてコロッと持ち帰られちゃう」
確かに慧の「飲み行く~」は半数くらいの確率で帰って来ないな。
「まぁ、制御することにしましたけど、半井が。なんだかんだ理由をつけて抜けて返す」
「…なるほど!」
死にそうなくらい酔っぱらって帰って来ることもあるな、言われてみれば。
「…危なっかしいヤツってことね。いずれにしても」
「そうですね」
絞るの大変そうだなそれ…どこまで拡散「ただ、」と黒田は続けた。
「大人になるとね、ましてやバンドなんてやってると、薬やってるヤツなんていっぱいいるし、慧みたいに精神病んでる系なんてもっといる。
最近変な話をちらほら聞いてます」
「…変な話?」
「どーも、キメセクパーティー大開催されてるって、月一で」
…慧があのMDMAを持ってきたとき。自分を賭けていると言っていたらしい、今回死んだ丹後という男が。
「…難しいかもしれないが、昔の因縁で覚えている名前はあるか?
そういうのは名簿を見ても出てこないし」
「…やっぱり、関連性はあるんですかね?
ちなみにまわってきたのはMASの…なんか、所謂さとちゃんたちの2個下コミュニティらしく、俺にはオブラート気味というか、友達が「加賀谷先輩ってお前んとこのだよね?」て感じでした。ただ一言「やべえぞ」と。
俺21のクソガキなんで判断は任せますが、まぁまぁ皆裏社会系って必要以上にビビりますからね、バンド組み立てだと。
どうもそのコミュの先の先くらいの人に…なんかラリってね?みたいな人がいるらしく、その人キメセク好きだから、これがまわっちゃったら目ぇつけられんぞ、と、話し半分で聞きましたよ」
「……うーん、でもよくいるんだろ?」
「そうです…よね?多分」
画像を持ち出した後輩本人が二人を眺めると「まぁ…」「よく聞くけど…」と、まぁ確かにマトリには言いにくい案件だろう。
今回についてはこちらが事情聴取をしていたはずが、まさかその、慧のバンドメンバーから泣き付くような依頼が入るとは思っていなかった。
「…実はあいつ、学校時代から苛めがありまして、ただ、本人がああだから自分に気付いてやれないんですよ」
半井という金髪の男が語った。
彼には誠一も、花咲組の一件で恩恵を受けている。そう無下に出来るものではなかった。
「苛め?」
「…まぁ、人によっちゃ自慢なんでしょうが、あいつ面良いですからね、モテるんですよ。無駄に外面も良いし」
こちらの黒田という方は案外、半井よりも情緒が安定していると見た。冷静だ。どちらかといえば信憑性はこちらを取った方がいいと誠一は判断した。
「まぁ、苦労したのだろうとは思う」
「苦労どころかトラウマしかないヤツで。その割には一言「ヤろう?」と言われればなんの疑問もなくヤっちゃうくらいで。軽いヤツだと思いますよね。俺は最初そう思ったけど」
「まぁ……」
「ホントに軽いんです。空っぽ。あいつ自分のことなんとも思ってないんですが、理由はあったんです」
誠一は例の、後輩だというメンバーが持ってきた画像を眺め、溜め息が出た。なんとなく、メンバーが言いたいこともわかる。
「俺、聞いたんすよね、慧に。なんでこんなことすんのかって」
「う~ん……まぁ、どうぞ」
「あいつ、小さい頃……その、犯されたらしいです。母親の入ってたインチキ宗教のヤツに。それからどうも、貞操観念がおかしくなったんだって俺は思って、」
「う~ん……君が加賀谷を大切に思っていることは重々わかった」
「…半井、多分この人が知りたいのはトリガーだよ。
繋がるかは皆目わかりませんが、最初のきっかけはビッチ女に引っ掛かったことでした。あいつ、先輩の女と寝ちまったんですよ。
勿論それはバレました。女は彼氏に「犯された」と言い訳したっていう、在り来たりなものでした。
慧が先輩に殴られそうになったのを俺と半井で止めたというか…当の彼氏のまわりはその女がビッチなのを知ってたんで、俺らが話して説得した、てのが正しい。
だけどその女は慧に逆恨みしたんですよ」
「…その先輩連中に今回の関係者がいそうってことか?」
「まぁまぁ。んーでもその中にはデビューしたヤツ…いないかもしれませんね。インディなんでわからないですが、相手がNG出してたりすると。
変に拡散してしまって男にまで及んだんです」
「…泥沼な学生時代だな」
「でも皆、男はね、気付くんです。それ見てもわかるでしょ?あれ、なんかこいつ変かもしれないって」
「…んまぁ」
「当の慧にはきちんと理解させましたよ、大変でした。話はあらぬ方向に行き聞いた奴らは…慧、女顔ですからね、下手すりゃいけんじゃね?派と、からかってやろうぜ派が出来て、いつの間にか女より男に集中しました。
ある日、ふとしたとき…便所でしたね。慧がPTSD出しちゃって。それがまた拡散してしまったんです。あれに今回似てるなと…。
関連付けるには少し浅いんですが、同じ時期…慧の育ての親だったおばあちゃんが亡くなったんで。それであんなことが起きたから…」
「なるほど」
「バンドでもまぁまぁあります。あいつがああですから。飲み会やってぶっ潰されてコロッと持ち帰られちゃう」
確かに慧の「飲み行く~」は半数くらいの確率で帰って来ないな。
「まぁ、制御することにしましたけど、半井が。なんだかんだ理由をつけて抜けて返す」
「…なるほど!」
死にそうなくらい酔っぱらって帰って来ることもあるな、言われてみれば。
「…危なっかしいヤツってことね。いずれにしても」
「そうですね」
絞るの大変そうだなそれ…どこまで拡散「ただ、」と黒田は続けた。
「大人になるとね、ましてやバンドなんてやってると、薬やってるヤツなんていっぱいいるし、慧みたいに精神病んでる系なんてもっといる。
最近変な話をちらほら聞いてます」
「…変な話?」
「どーも、キメセクパーティー大開催されてるって、月一で」
…慧があのMDMAを持ってきたとき。自分を賭けていると言っていたらしい、今回死んだ丹後という男が。
「…難しいかもしれないが、昔の因縁で覚えている名前はあるか?
そういうのは名簿を見ても出てこないし」
「…やっぱり、関連性はあるんですかね?
ちなみにまわってきたのはMASの…なんか、所謂さとちゃんたちの2個下コミュニティらしく、俺にはオブラート気味というか、友達が「加賀谷先輩ってお前んとこのだよね?」て感じでした。ただ一言「やべえぞ」と。
俺21のクソガキなんで判断は任せますが、まぁまぁ皆裏社会系って必要以上にビビりますからね、バンド組み立てだと。
どうもそのコミュの先の先くらいの人に…なんかラリってね?みたいな人がいるらしく、その人キメセク好きだから、これがまわっちゃったら目ぇつけられんぞ、と、話し半分で聞きましたよ」
「……うーん、でもよくいるんだろ?」
「そうです…よね?多分」
画像を持ち出した後輩本人が二人を眺めると「まぁ…」「よく聞くけど…」と、まぁ確かにマトリには言いにくい案件だろう。
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