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ふう、とソファに座った江崎は慧に「あのさ」とイライラを隠さない口調で言った。
慧は江崎に言われた通り、黒田と半井にメールをしながら「はい?」と返事をする。
「まーヤクザが言うのはどうかしてるが、お前、倫理観変だぞ」
「……まぁ、言われま」
「なんかトラウマとかねぇか?それ」
…そう言われると「いや…」と慧には吃ることしか出来ない。
考えが過るのだ、たくさん。
「…自殺の件ですか」
「まぁそれもあるが、いまめっちゃ仲間に言いにくくねぇか?それ」
「…凄いですね。流石は」
「誤魔化すな。なんで言いにくいか、あれがトラウマだと自覚もあるわけだよな」
「…トラウマ、か…なるほど」
「なんっかなぁ……部品が足んねぇおもちゃ見てる気分になんだよな。自分のことどう思ってんの」
「…いまは、人殺し、かもなとか」
「は?」
「死んじゃったじゃないですか、あの人。目の前でしたよ、直前まで体温が…あったのに」
「それってお前のせい?」
「わかりません。言いたいこともわかりますよ?勝手にあっちが変なの飲んだんだって。でも、止めることも」
「じゃあ辞めれば?」
江崎にそう言われ、はっとした。
「俺的には慣れてるから別に」
「…慣れてる、か。俺もそのはずなんだけどな」
「ナメてんの?そう言うレベルじゃ」
「何万人ですよ。見てませんけど」
「…なるほど、俺よか多いな、確かに。じゃあ悪かった」
「いえ」
「あぁ嫌味だよ。わかるくせになんなのお前。別にいーけど。
は~っ、こんなことを言うのもおかしいし気持ち悪ぃけど」
「じゃあやめてください」
「あっそ。お前の下にはその何万人がいるんだよ、それは事実だ。蓋ばっかしててもしょうがねぇよ、お前って一体誰なの?最近の年下って見てるとホント腹立つ。
けどまぁ、こっち来い」
そう江崎に言われ慧が振り向くと、「早くしろ」と手を引っ張られ隣に座らせられた。
「痛っ、」
「そーだよなぁ、痛ぇよなぁ、」
「…はい」
「それでいいんだよ。じゃあ、ギターは好きか?お前」
「…はい」
「どれくらい」
「…………たくさん」
「だよなぁ。
仲間が同じことされたらどうだ?お前の仲間はレイプ競売に賭けられてる、どうだ?まぁ仲間じゃなくてもいい、大切な人だ」
「…レイプ競売」
「男じゃ確かにピンと来ねぇか、でもお前な、んな賭けは」
「嫌だ、絶対っ、」
どうして声が震えたか。
ただ無性に怖くなっただけだが、「だよなぁ」と、江崎は低い声で肯定する。
「それと一緒だ、相手の気持ちは」
「…はい、」
「なるほど。ヤクザにはお前のようなヤツが一番怖い」
江崎はにやっと笑い「何を仕出かすかわからないからだ」と言った。
「案外素直なヤツなんだな、安心した。ただ、バカなんだ。しかし、それを変えようとは思わない。
全うに生きるならお前の場合はじゃあ、誰か大切なヤツの面でも頭に浮かべとけ。
そいつがもしも、いま自分がされていることをされたらと。お前はそこまで残酷にならなきゃ話が通じねぇんだよ」
「…はい」
「なぁ、セックスは好きか?」
「…え、」
「気持ちいいか?」
「まぁ、」
「じゃあ、そこがお前の欠損だな。知ってるか?俺は昭和を生きても幽霊を信じないんだ、怖いから」
「…は?」
「はは、よくそんな反応をされるよ。お前と一緒だな。幽霊は性欲に弱いんだとよ」
「…どゆこと?」
「性欲は生命を維持するパワーだからだそうだ。死んだらな、負けらしい。だから幽霊は勝者に近付けないんだってよ。意味わかる?」
「…全然意味わかんない」
「そうか。まぁいいけど」
でも。
わかってくれたなら。
「…それは知ってあげたい」
「は?」
「わかってくれたなら、わかってあげたいなと思ったんです」
「わかってやってねえよ、お前のことなんて。ただまぁ…似てるような気はする」
「…そ、」
「例えば、俺がヤクザになったきっかけだ。母親が借金作った挙げ句、俺を置いて蒸発した。ワンルームのアパートでな」
「…え、」
「小せぇから覚えてねぇんだ。だから、小せぇころからヤクザだった。それだけの話で」
「それは、」
「聞いてどう思った?生き地獄か?生きててよかったね、か?別の感情か?」
「……そう言われるとわかんな」
「考えなくていい。お前のようなヤツは考えるとお涙してしょうもなくなる。俺はなんとも思ってないのになんだかな、たまにそういうのに無性に腹が立つことがあるんだよ。どうせ、知らねぇくせに設定作って満足しやがってとな。だから言わねぇんだ」
「…それだって設定ですよ」
「…あぁ、確かにそうかも」
あっさり首を傾げ、江崎は考えるような素振り。
「なんでいま俺に言ったの?」
「ほら。意味なんてねぇよ気分だ。多分そういうのを言うヤツがいないとまわりが不幸になるのかもなって。繰り返しそうだから、お前みたいなヤツは…と、思った。俺が勝手に」
「……まぁ、でも…そうかも」
「あー考えんな考えんな。好きな本は?」
「…え?」
「じゃあ作家、映画、漫画、アーティストがいいか?なんでもいい、なんかあるか?」
「………フロイト…いや、ユングの方…いや…」
「…意外な方面から来たな。はは、難しいヤツ」
ふっと顔を近付けた江崎は鼻先で言う。
慧は江崎に言われた通り、黒田と半井にメールをしながら「はい?」と返事をする。
「まーヤクザが言うのはどうかしてるが、お前、倫理観変だぞ」
「……まぁ、言われま」
「なんかトラウマとかねぇか?それ」
…そう言われると「いや…」と慧には吃ることしか出来ない。
考えが過るのだ、たくさん。
「…自殺の件ですか」
「まぁそれもあるが、いまめっちゃ仲間に言いにくくねぇか?それ」
「…凄いですね。流石は」
「誤魔化すな。なんで言いにくいか、あれがトラウマだと自覚もあるわけだよな」
「…トラウマ、か…なるほど」
「なんっかなぁ……部品が足んねぇおもちゃ見てる気分になんだよな。自分のことどう思ってんの」
「…いまは、人殺し、かもなとか」
「は?」
「死んじゃったじゃないですか、あの人。目の前でしたよ、直前まで体温が…あったのに」
「それってお前のせい?」
「わかりません。言いたいこともわかりますよ?勝手にあっちが変なの飲んだんだって。でも、止めることも」
「じゃあ辞めれば?」
江崎にそう言われ、はっとした。
「俺的には慣れてるから別に」
「…慣れてる、か。俺もそのはずなんだけどな」
「ナメてんの?そう言うレベルじゃ」
「何万人ですよ。見てませんけど」
「…なるほど、俺よか多いな、確かに。じゃあ悪かった」
「いえ」
「あぁ嫌味だよ。わかるくせになんなのお前。別にいーけど。
は~っ、こんなことを言うのもおかしいし気持ち悪ぃけど」
「じゃあやめてください」
「あっそ。お前の下にはその何万人がいるんだよ、それは事実だ。蓋ばっかしててもしょうがねぇよ、お前って一体誰なの?最近の年下って見てるとホント腹立つ。
けどまぁ、こっち来い」
そう江崎に言われ慧が振り向くと、「早くしろ」と手を引っ張られ隣に座らせられた。
「痛っ、」
「そーだよなぁ、痛ぇよなぁ、」
「…はい」
「それでいいんだよ。じゃあ、ギターは好きか?お前」
「…はい」
「どれくらい」
「…………たくさん」
「だよなぁ。
仲間が同じことされたらどうだ?お前の仲間はレイプ競売に賭けられてる、どうだ?まぁ仲間じゃなくてもいい、大切な人だ」
「…レイプ競売」
「男じゃ確かにピンと来ねぇか、でもお前な、んな賭けは」
「嫌だ、絶対っ、」
どうして声が震えたか。
ただ無性に怖くなっただけだが、「だよなぁ」と、江崎は低い声で肯定する。
「それと一緒だ、相手の気持ちは」
「…はい、」
「なるほど。ヤクザにはお前のようなヤツが一番怖い」
江崎はにやっと笑い「何を仕出かすかわからないからだ」と言った。
「案外素直なヤツなんだな、安心した。ただ、バカなんだ。しかし、それを変えようとは思わない。
全うに生きるならお前の場合はじゃあ、誰か大切なヤツの面でも頭に浮かべとけ。
そいつがもしも、いま自分がされていることをされたらと。お前はそこまで残酷にならなきゃ話が通じねぇんだよ」
「…はい」
「なぁ、セックスは好きか?」
「…え、」
「気持ちいいか?」
「まぁ、」
「じゃあ、そこがお前の欠損だな。知ってるか?俺は昭和を生きても幽霊を信じないんだ、怖いから」
「…は?」
「はは、よくそんな反応をされるよ。お前と一緒だな。幽霊は性欲に弱いんだとよ」
「…どゆこと?」
「性欲は生命を維持するパワーだからだそうだ。死んだらな、負けらしい。だから幽霊は勝者に近付けないんだってよ。意味わかる?」
「…全然意味わかんない」
「そうか。まぁいいけど」
でも。
わかってくれたなら。
「…それは知ってあげたい」
「は?」
「わかってくれたなら、わかってあげたいなと思ったんです」
「わかってやってねえよ、お前のことなんて。ただまぁ…似てるような気はする」
「…そ、」
「例えば、俺がヤクザになったきっかけだ。母親が借金作った挙げ句、俺を置いて蒸発した。ワンルームのアパートでな」
「…え、」
「小せぇから覚えてねぇんだ。だから、小せぇころからヤクザだった。それだけの話で」
「それは、」
「聞いてどう思った?生き地獄か?生きててよかったね、か?別の感情か?」
「……そう言われるとわかんな」
「考えなくていい。お前のようなヤツは考えるとお涙してしょうもなくなる。俺はなんとも思ってないのになんだかな、たまにそういうのに無性に腹が立つことがあるんだよ。どうせ、知らねぇくせに設定作って満足しやがってとな。だから言わねぇんだ」
「…それだって設定ですよ」
「…あぁ、確かにそうかも」
あっさり首を傾げ、江崎は考えるような素振り。
「なんでいま俺に言ったの?」
「ほら。意味なんてねぇよ気分だ。多分そういうのを言うヤツがいないとまわりが不幸になるのかもなって。繰り返しそうだから、お前みたいなヤツは…と、思った。俺が勝手に」
「……まぁ、でも…そうかも」
「あー考えんな考えんな。好きな本は?」
「…え?」
「じゃあ作家、映画、漫画、アーティストがいいか?なんでもいい、なんかあるか?」
「………フロイト…いや、ユングの方…いや…」
「…意外な方面から来たな。はは、難しいヤツ」
ふっと顔を近付けた江崎は鼻先で言う。
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