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希死念慮
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どうやら江崎からも通知は来ていたが、まずは誠一のメールを開く。
確かに20時過ぎに、「悪い、今見た」「なんか食った?買ってく?」とあった。
「あ、ごめんなさい」
「別にいいけど…」
ぼんやりリビングを見ると、テーブルに弁当チェーンの袋が置いてあった。
「あれからずっと寝てたとか、流石にないよな?」
「あ、はい、えっと……病院には行きました、昼頃」
「そっか」
着替えた誠一は「飯食えそう?」と聞きながらリビングのソファの前に座る。
「あ、はい」
江崎の返信を見よう、と開いた。
人の底をよく見る。
どんなもんか、本当に人によるんだよ
確認しているうちに成一が「唐揚げかカツ丼」と言ってきたので反射的に「…カツ丼、」と答えていた。
真面目に返ってきたことに驚いたけど。
…何故か。
ただの、簡素なメールにぎゅっと胸が締め付けられる。
この胸の刺さりは、痙攣し徐々に徐々に広がっていく…血のような温かさ。
なんの意味もなく、答えになっていない気がするし、答えをこちらに投げているような気もするし。
この人は、静かに残酷な人だ。
誠一が弁当を袋から出しているのにはっとして、リビングに行く。
「無理に食わんでもいいよ」
「ううん、食べる。ありがとうございます」
弁当を開きながら「めちゃくちゃ寝てたんだろ?」と聞かれ、そうだ、とまた思い出す。
「ですね。
それで、思い出しましたけど」
「脈絡がないな。リタリンがどうしたって?」
「波瀬さん、」
「その件な。残業して出してきたよ」
「…あ、」
「残念ながらマトリはまだ暫く動けない」
…そうなのか。
「本当に合法だったんですか?」
「まぁ、そうなる」
誠一はピンと来たように「慧、お前あれ飲んだのか」と、朝と同じような調子に戻り、詰めてきた。
「はい」
「…何」
「不安定で」
「…マジか、」
なんだこの反応は。
「…大丈夫だったのか?」
「え、あ、はい。病院に行けたくらいには」
「…なるほど。
さっき、リタリンって言ったよな」
「はい。
そう言えば話してたんです。俺が貰えなかったやつ。名前、思い出しました」
「…わかった。
慧、あのクレヤマミカを覚えてるか?」
「…クレヤマ…」
ミカ。
「…覚醒剤系の、葉っぱの、」
「そうだ。案外あっさり家宅捜索は出来た。が、厳密に言うと覚醒剤ではなかった」
「…え?」
「…波瀬は薬剤師って言ったよな。そのリタリンは、所持していたってことか?」
「え、はい。
でも、なんか葉っぱとかはなかったですよ?」
「まぁそうだろうな。少し見えてきた。お前あれ飲んでも問題なかったんだよな?」
「はい」
「…まぁでもまだ甘いな…、関連性はかなり薄いが、そもそも方向性が違っていた。インドじゃないかもしれないが…江崎はなんて言ってる?」
「それに関しては何も…」
「やっぱり外れか。いや、答えが出ていないのかもしれない。
処方箋が出せるなら、波瀬にあの売り方は出来ないな。もしかするとこれは長期に渡るが…。多分、どこかにバブルが来てるんだ。それを裏付けるまで少し、別路線で行かないと」
「…俺に話しちゃっていいんですか?」
「さあ?まぁ、江崎がどう動いているかは知りたいな。それによりさっさと済むか長引くかは」
「…警察に垂れ込むかどうか、ですか?」
「なるほど、想定してるのか江崎は。そうだな」
「それって、」
「含有量は規定範囲内ってところだ。多分、これは江崎も出すんだろうが、あれだけ知識があるなら、組合せ次第でそうだな…人も殺せるかもしれない。
そいつ、相当なサイコ野郎だぞ」
「江崎さんは、捕まるんですか?」
「さあ?相手がどんなやつかによるし、本当に折り込み済みならまた違う。まだ断言は出来ないな、行政じゃ。様々な可能性がある。はは、面白いな、これ。
てゆうか、取ってきたのは慧だぞ?
俺としては江崎をパクっても手柄になる。そろそろ頃合いだっただろうし」
それって。
「…会ったときを思い出しますね。あの人、俺にバーカって言ってた」
「そうだったな、はは、懐かしい」
まるで余裕だ。
「そのまま江崎さんに伝え」
「お前、俺のこと嫌いでしょ」
誠一が急にそう言った。
…何故、突然そんなことを言い出すのか。
何事もないように誠一は自分が食べ終わったものを片付ける。
そして、こちらが何かを言う間も与えずすぐにケータイを取り出し「もしもし、私用ですみません、平良です」と廊下へ出て行ってしまった。
…いまのって、もしかしてけし掛けられた?
それとも何か…しくじった?
本当におもちゃかなんかだと思ってるのはよくわかった。いや、最初からわかっていたのに。
ここへ来てポツンと思った、当たり前のこと。
この人、じゃあなんでいまでも、ここでこうして俺といるの。
すぐに戻ってきた誠一は「さあどうしましょうか」と、面白そうに言ってきた。
「一個聞いていいですか」
「どうぞ」
「…あんた、どうして俺といるの」
「最初に言った、守ろうと」
「でもそれは別に、俺が望んでいないことだとしたら?」
「それなら尚更。
慧。お前が俺を嫌いでいる限り、俺はお前を愛してるよ」
…どうして。
なんで、いきなり?
え、なにそれ、なんなの?どういう事だっていうの?
「なんで」
「なんでって?嫌いなヤツのことを好きなヤツとなんて寝れないだろ?そんなの性癖の不一致だ」
…なんで。
「じゃぁ、例えば愛してるなら…殺せる?」
「うん、全然殺せるよ。死ぬ?もう一回」
「は?」
「…ははは、」
しかし誠一はどうも、まるで耐えられないと言いたそうに一瞬だけ、影のある寂しそうな笑いをした。
「…お前次第だよ、慧」
「…なんで」
「いくらでも、こんなこと、」
誠一は、それには答えてくれなかった。
確かに20時過ぎに、「悪い、今見た」「なんか食った?買ってく?」とあった。
「あ、ごめんなさい」
「別にいいけど…」
ぼんやりリビングを見ると、テーブルに弁当チェーンの袋が置いてあった。
「あれからずっと寝てたとか、流石にないよな?」
「あ、はい、えっと……病院には行きました、昼頃」
「そっか」
着替えた誠一は「飯食えそう?」と聞きながらリビングのソファの前に座る。
「あ、はい」
江崎の返信を見よう、と開いた。
人の底をよく見る。
どんなもんか、本当に人によるんだよ
確認しているうちに成一が「唐揚げかカツ丼」と言ってきたので反射的に「…カツ丼、」と答えていた。
真面目に返ってきたことに驚いたけど。
…何故か。
ただの、簡素なメールにぎゅっと胸が締め付けられる。
この胸の刺さりは、痙攣し徐々に徐々に広がっていく…血のような温かさ。
なんの意味もなく、答えになっていない気がするし、答えをこちらに投げているような気もするし。
この人は、静かに残酷な人だ。
誠一が弁当を袋から出しているのにはっとして、リビングに行く。
「無理に食わんでもいいよ」
「ううん、食べる。ありがとうございます」
弁当を開きながら「めちゃくちゃ寝てたんだろ?」と聞かれ、そうだ、とまた思い出す。
「ですね。
それで、思い出しましたけど」
「脈絡がないな。リタリンがどうしたって?」
「波瀬さん、」
「その件な。残業して出してきたよ」
「…あ、」
「残念ながらマトリはまだ暫く動けない」
…そうなのか。
「本当に合法だったんですか?」
「まぁ、そうなる」
誠一はピンと来たように「慧、お前あれ飲んだのか」と、朝と同じような調子に戻り、詰めてきた。
「はい」
「…何」
「不安定で」
「…マジか、」
なんだこの反応は。
「…大丈夫だったのか?」
「え、あ、はい。病院に行けたくらいには」
「…なるほど。
さっき、リタリンって言ったよな」
「はい。
そう言えば話してたんです。俺が貰えなかったやつ。名前、思い出しました」
「…わかった。
慧、あのクレヤマミカを覚えてるか?」
「…クレヤマ…」
ミカ。
「…覚醒剤系の、葉っぱの、」
「そうだ。案外あっさり家宅捜索は出来た。が、厳密に言うと覚醒剤ではなかった」
「…え?」
「…波瀬は薬剤師って言ったよな。そのリタリンは、所持していたってことか?」
「え、はい。
でも、なんか葉っぱとかはなかったですよ?」
「まぁそうだろうな。少し見えてきた。お前あれ飲んでも問題なかったんだよな?」
「はい」
「…まぁでもまだ甘いな…、関連性はかなり薄いが、そもそも方向性が違っていた。インドじゃないかもしれないが…江崎はなんて言ってる?」
「それに関しては何も…」
「やっぱり外れか。いや、答えが出ていないのかもしれない。
処方箋が出せるなら、波瀬にあの売り方は出来ないな。もしかするとこれは長期に渡るが…。多分、どこかにバブルが来てるんだ。それを裏付けるまで少し、別路線で行かないと」
「…俺に話しちゃっていいんですか?」
「さあ?まぁ、江崎がどう動いているかは知りたいな。それによりさっさと済むか長引くかは」
「…警察に垂れ込むかどうか、ですか?」
「なるほど、想定してるのか江崎は。そうだな」
「それって、」
「含有量は規定範囲内ってところだ。多分、これは江崎も出すんだろうが、あれだけ知識があるなら、組合せ次第でそうだな…人も殺せるかもしれない。
そいつ、相当なサイコ野郎だぞ」
「江崎さんは、捕まるんですか?」
「さあ?相手がどんなやつかによるし、本当に折り込み済みならまた違う。まだ断言は出来ないな、行政じゃ。様々な可能性がある。はは、面白いな、これ。
てゆうか、取ってきたのは慧だぞ?
俺としては江崎をパクっても手柄になる。そろそろ頃合いだっただろうし」
それって。
「…会ったときを思い出しますね。あの人、俺にバーカって言ってた」
「そうだったな、はは、懐かしい」
まるで余裕だ。
「そのまま江崎さんに伝え」
「お前、俺のこと嫌いでしょ」
誠一が急にそう言った。
…何故、突然そんなことを言い出すのか。
何事もないように誠一は自分が食べ終わったものを片付ける。
そして、こちらが何かを言う間も与えずすぐにケータイを取り出し「もしもし、私用ですみません、平良です」と廊下へ出て行ってしまった。
…いまのって、もしかしてけし掛けられた?
それとも何か…しくじった?
本当におもちゃかなんかだと思ってるのはよくわかった。いや、最初からわかっていたのに。
ここへ来てポツンと思った、当たり前のこと。
この人、じゃあなんでいまでも、ここでこうして俺といるの。
すぐに戻ってきた誠一は「さあどうしましょうか」と、面白そうに言ってきた。
「一個聞いていいですか」
「どうぞ」
「…あんた、どうして俺といるの」
「最初に言った、守ろうと」
「でもそれは別に、俺が望んでいないことだとしたら?」
「それなら尚更。
慧。お前が俺を嫌いでいる限り、俺はお前を愛してるよ」
…どうして。
なんで、いきなり?
え、なにそれ、なんなの?どういう事だっていうの?
「なんで」
「なんでって?嫌いなヤツのことを好きなヤツとなんて寝れないだろ?そんなの性癖の不一致だ」
…なんで。
「じゃぁ、例えば愛してるなら…殺せる?」
「うん、全然殺せるよ。死ぬ?もう一回」
「は?」
「…ははは、」
しかし誠一はどうも、まるで耐えられないと言いたそうに一瞬だけ、影のある寂しそうな笑いをした。
「…お前次第だよ、慧」
「…なんで」
「いくらでも、こんなこと、」
誠一は、それには答えてくれなかった。
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