天獄

二色燕𠀋

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希死念慮

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 昼近く、目を開けた瞬間にはまるですっきりしていた。
 …あの不快な微睡みと虚無が、全くない。

 ただ、がっと起きれば頭痛が酷い。親指で蟀谷こめかみをぐりぐりする。
 さっと血の気が引く、確かに貧血を感じた。

 頭痛はあるが波瀬は言っていた、鉄剤がどうのこうの、つまり鉄分さえ足りていればもしやこの頭痛もないということなのか。

 今までの薬とは確実に違っていた。
 これなら何も悪いことはないんじゃないかとすら、思える…。

 スマホを見てみた。誠一が出勤していったのは8時くらいだ。
  11:35。嘘だろ、たった三時間でこんなに眠れたのか。

 これほどの眠りは大抵すぐには起きられない、それこそ例え玄関のチャイムが鳴ったとしても。よく起きられたものだ。

 …夢、酷かった筈だ。だが覚えていない、何故だ。副作用と言えばこれなのだろうか……。
 ヤバイなこれは。却って身の危険を感じる程に。

 思った瞬間、着信が入った。波瀬からだった。

「…はい、もしもし」
『うっす。寝起き?デザイン送ろうかと思ったんだけど、写メ』
「……え?」
『ロゴ。あと商品も考えてみたんだけど。あんた仕切ってんだよね?メンバーに送っといて欲しい』
「…ん、わかったけど」
『おはようさん。よく眠れた?』

 意識が現実に傾いてきた。
 電話越しでもわかる、波瀬は今、きっと得意気な顔だろう。

「…まあ、」
『起こした方がいいかと思って』
「自分で起きた、さっき」
『どう?』
「………マジでヤバイ」
『だろ。でも昨日、そう言えば鉄剤は渡し忘れたよな、大丈夫?不機嫌そうだし』
「……別に、」
『あ、普通の鎮痛剤は飲まない方がいいよ、より酷くなる…炭酸とかある?酒じゃないヤツね。飴でもいいけど』
「え…」
『…あんた今暇?飯行かね?胃になんか入れた方が』
「……朝食べない派なの」
『っはは!朝じゃねーって今。シモキタ駅ね。どこ住んでんの?』
「…なんなの、断ってんじゃんホントは朝食う派だよ」

 食わされてるんですけどね。

『機嫌悪いなぁ。まーいーや。東京なんて30分あれば来れる?』
「全然聞いてくんないな、日暮里にっぽりだから無理!もう少し掛かるっ!」
『はいは~い待ってんね~』

 切れた。
 …やばっ。

 誠一には結果が出るまで待てと言われてしまったんだけど、マジか、どうしよう。急すぎる。

 貧血だしと、冷静になって考える。

 いや、そうは言っても詰めるならば行く回数は多い方が、良いには良い。情報はありすぎて損はない…けどタイミングが悪い。
 でもグッズやらと、行かないのも不自然な気がするし…。

 しかしどんなに考えても寝起きは寝起きだ。頭を回すにもどうやら限界が、ある……。
 
 鬱よりはましだ。鬱はこうしてギンギンなとき、途方も果てもなくぼんやりずっと考えが巡り続けてしまう。大抵それはそれほど良くない思考ばかりだ。なんせ、鬱なのだから。
 躁は躁で垂れ流されるようにぐるぐるするがテンションが高い、だからリバウンドも激しい、大体がこの円環でループする。

 これは自分がどうにか出来るわけでもない、謂わば生理現象に近いのだ。

 それだけ頭を使えば疲れ果て、空っぽにもなる、これが虚無というならば、いまは正常時の思考回路だ。

 …正直、あの薬は個人的にも欲しいとも思った。炭酸、飴か…糖分ということかな。

 画像が送られてくる。

 ロゴは青地に白文字と、結構質素で好みだった。
 取り敢えずまずはこれをグループスペースに投げておこう、それから始めることにした。

 更に送りつけられてくる…つけ麺か何かの店、多分個人経営だろう。あの場所でこれか、結構コアだなと、少し意外だった。

 …まぁ別に、昼飯を食べて帰ろう。下手な話しはせず、そうするとこちらは気を張っていなければならない。ポロってしまったら本当に誰かが海に沈む可能性がある。

 少し、憂鬱寄りになった。
 死にたくなったら飲んでみて、死にたくなくてもこれくらいの微妙な憂鬱が地味に長く続く方が実はかなりキツいのに。
 ホント、実際なってみないと薬剤師にもマトリにも、わからないんだろうな。

 まぁいいや仕方がないと、すぐに仕度をし下北沢に向かった。

 波瀬はあっさり、東口のすぐ側にいた。
 鞄すら持っていない、ふらっとした様子で「よー」と、こちらに気付き歩いてくる。

 「南口かもしれなかったじゃん?」とボソッと言っておく。
 あんな態度を取ったし、半分くらいの確率で、いないだろうと思っていた。

「ん?」
「待ち合わせ。ぶっちゃけいると思ってな」
「南西口?わざわざぁ?」

 …そっか。最近出来たのか、あの店。

「…ステレオタイプなんで」
「まー確かに小田急おだきゅう?でも普通中央口だろ、待つんなら」
「中央口…」

 概念が違う。

「…君って、一体何人?」
「あーよく言われるけど普通に日本人。名前帰化とかでもなく」

 …やっぱり言われるんだ。
 
 「商店街の方ね」と、波瀬は反対方面を指して歩き始める。

 やっぱり南口じゃん、てゆうかいくら最近だったとしてもこいつ、24越えてる筈じゃん、なんで北口南口の概念じゃないの?どこの国の人かより年齢だったなと気付いたが、精神疾患の悪いくせだ、別にいいやと割り切ることにする。

 つけ麺屋に入って注文を待つ間、波瀬は色々とアイディアの写メを見せてきた。
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