Slow Down

二色燕𠀋

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負け犬じゃねぇか【短編】

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 いつも。
 日常は無色透明で真っ更だと僕は思っていたんです。

 箱の中の構成は簡単なもので、ストレートロックのような不浄さで綺麗な濁りない物。さらさらで何もなく、秩序、無秩序という概念も溶け込んで物にしてしまったような混沌がその箱には蠢いている。

 それが溶け込む前段階で瞬間には、気泡が発生し箱の中の空気が乱れる刻が、ありまして。

 僕は、いや俺は、その中に毎日漬け込まれた浮遊物のようなモノでした。何も無く絶え間ない。
 しかし気泡は、浮遊物に徐々に付着していくのが、水槽の中、箱の中の、摂理で。

「あん、あっ、」

 俺は絶え間なくそこにある浮遊物のようなモノでした。

 押し止められた放課後。

 多分、短期で2週間くらい来ているなんだったか…、学びに来ている先生紛いの女がこうも容易く年下のクソガキ共に、学ぶ硬いまな板、集められ凝縮された簡易床の上に組敷かれ霰なくなっている。

 女が嫌がりながらよがる姿を只々絶え間なく、紫煙を何本か無駄にする。機械音じみた微かな、音にならない悲鳴を上げる水槽の横に浅く腰掛け横に垂れ流しに見るのも、飽きてしまっていた。

 バカみたいに欲望を前にして「金上かながみ、いいぜ、これぇ」と、女教師紛いの細足を持ち下半身丸出しで猿みたいなアホ面こいたクラスメートに言われてましても、「あぁ、そうねぇ」と、俺は何本目だかわからないマルボロを水槽に投入するしかなく。

「お前もイくか?金上」

 茶髪を振り乱す女の、涙混じりのアへ顔と、猿共の好奇と欲情を前にして。

 めんどくせぇな。
 押し留めて「ああん、」うるせぇな。
 盛り上がるバカ共にも吐き気がする。

 蒸せ返る生臭さは水槽のそれよりは強烈だ。換気をしようと後ろのドアを開け、首に掛けたヘッドホンを掛けようと手を伸ばすが。

「なんだよ調子込みやがって」
「目付き悪ぃし」
「童貞なんじゃね?あいつ」

 うるせぇなぁ。
 一気に遮断してヘッドホンのボリュームをあげる。Nirvana『Rape me』。

 あーくだらねぇ。
 そのアへ顔も猿共も結局Rape me again.ホント死ねば良いのに。バカみてぇにみんなできゃっきゃしやがって。

 うぜぇなぁ。あぁ流れていくよ。
 この水も空気も日常も全部流れていく。俺が見てやろうがなんだろうがお前ら今日は金曜日、どうせShe is Rape.

 きっかけは簡単だ。
 実習の最終日だから。
 生意気だった教育実習生に一発キメこんでやろう。なんならぶっ殺してやろう、煙草の火なんかぶっ込んじまってな、男子校だし。みたいなノリだ。

 なにが生意気なのか俺にはわからん。
 実習生のくせにタメ口だの授業が下手だの。結局は子孫反映で生命保持の、ていうか、Sexじゃねぇか。

 ふと頭に過る、まぁ所謂、sound of musicのような、ヒステリックな、金切り声。俺に聞こえた、たまに聞こえるそのコードは。

 ヘッドホンを外してロッカーから降りてみる。女の切な気を前にしてしゃがみ込み見上げて見た顔。雪崩落ちたその腕。マルボロをまたつける。少年たちの唖然が読み取れた。

「あんたさぁ。気持ちぃ?」

 先生はふと、俺を見下ろして。
 煙草を取り上げ、力なくぶん投げた。

「さっ…い、てぃよ、はぁ、」

 そして後頭部を、その腕、手で撫でられた時。
 俺の感情は最高に無感情へと転身できた。

 女の腕を引っ張り反動で立ち上がれば、男子生徒3人が「おぃ、金上?」と弱る。

「その気になった…のか?金上…」

 最早萎えまくってる男子生徒一人一人を見つめてやれば閉口。

「女性に俺は子孫反映を強要しない。
 ただそうねぇ、快感は、強要ではない」

 そうやって生きてきた、そうやって。
 腕を伸ばして女の首を締めた瞬間に聞こえるまわりのどよめき。

 俺はそう、酷く。
 どこかに感性は、情緒は流され、濾過し溶けていくのだとこんなとき考えるわけであり、

「いっ、あっ」

 骨の軋む音やらなんやらに対しては酷いと感じていましてこれは非常に無情な雑音でして

「金上、やめろお前、」

机やら何やらのこういった騒音は全ての日常であり人畜無害な道徳。
 空気と大差なく。「おい、大丈夫か吉田よしだ」だの、「てめぇ金上!」だの、その中に、

「仕方ないよ、こいつはいつも、こうなんだ」

 誰が言ったか振り返る。
 まぁ確かにいつもつるむクラスメート、3人の中の一人であり、俺の中では名前すら浮遊しないようなアホであり。

「お前ら帰ろう。あいつ、頭おかしいんだよ」

 あぁそうか。

「精々楽しめ、ネクラファッキン野郎」

 その一言は、そうですか。
 お前は確か俺に昔。
 俺をそう、階段から突き落として遊んだ日に言った去年の最後の一言と同じですね、思い出しました。

「うるせぇんだよ高山たかやまぁぁぁ!」

 自分の叫び声、そしてそれから、不意に開いたその教室の扉に。
 俺は、思考の強制停止を余儀なくされる。
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