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蜉蝣
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そんな中、18時を知らせる“夕焼けこやけ”があたりに流れた。
看板をしまおう。このまま話は途切れたままか。
「もうそんな時間か」
「蛍、あのさ」
「看板、しまってくる」
番台を立ってクロックスを突っ掛ける。足元を空太が凝視する。いい加減慣れて欲しい。
流石に寒さが肌に伝わる季節。寝巻きのままの浴衣と紺色の羽織。寒すぎるけどまぁ、あとは家にいるだけだとぼんやり思う。
外に出てすぐ、背後の気配に気が付いた。きっと真っ直ぐ自分を見ている、慣れた長身。
そして迷いもなく隣に立ち尽くし、なにやらぼんやりとしている気配。だが蛍は、無理に気付かないフリをして看板にばかり気を揉む。そのまま看板をしまい、シャッターを閉めようとした時だった。
「なぁ、あれ」
声を掛けてきたのは、空太の方だった。
仕方がない。もう、無視は出来なそうだ。
隣に立つ空太を見れば、なんだか爽やかなような、哀愁も感じる、しかし何よりやはり、精悍な顔立ちだと思う横顔に。
視線の先が、なんとなくだけど暖かい気がして。思わず振り返るように自分も見てみれば、真っ赤な夕日があたりを照らし、暗くなり始めていて、哀愁色になっていくところ。
蜻蛉が辺りを飛び始める、そんな季節も終わりを迎えそうで。
「綺麗だなぁ、陽炎」
「…そうだね」
「…なぁ蛍」
「なに?」
「これってさぁ、一人で見ると、きっと哀しくなるけど、誰かと見ればインスピレーション、そうは思わないか?上柴先生」
何を言うと思えば。
でもまぁ。
「良いこと言ってるね、珍しく」
そう言って二人は見合わせる。
センスのなさに、笑ってしまった。
「さぁ、寒いだろ。今日は何食いたい?」
またいつも通り、互いに言葉は飲み込まれたような気もするけれども。
でも、それ以上に。
言葉は頭で浮遊する。
想いは果てなく、蜉蝣のように、ゆったり、のんびりと。
どこに辿り着くのか、それは過去か、未来か。
ただきっと、丸い地球上のどこかの誰かには、届いている。
夕陽に向かう、蜻蛉のように。
看板をしまおう。このまま話は途切れたままか。
「もうそんな時間か」
「蛍、あのさ」
「看板、しまってくる」
番台を立ってクロックスを突っ掛ける。足元を空太が凝視する。いい加減慣れて欲しい。
流石に寒さが肌に伝わる季節。寝巻きのままの浴衣と紺色の羽織。寒すぎるけどまぁ、あとは家にいるだけだとぼんやり思う。
外に出てすぐ、背後の気配に気が付いた。きっと真っ直ぐ自分を見ている、慣れた長身。
そして迷いもなく隣に立ち尽くし、なにやらぼんやりとしている気配。だが蛍は、無理に気付かないフリをして看板にばかり気を揉む。そのまま看板をしまい、シャッターを閉めようとした時だった。
「なぁ、あれ」
声を掛けてきたのは、空太の方だった。
仕方がない。もう、無視は出来なそうだ。
隣に立つ空太を見れば、なんだか爽やかなような、哀愁も感じる、しかし何よりやはり、精悍な顔立ちだと思う横顔に。
視線の先が、なんとなくだけど暖かい気がして。思わず振り返るように自分も見てみれば、真っ赤な夕日があたりを照らし、暗くなり始めていて、哀愁色になっていくところ。
蜻蛉が辺りを飛び始める、そんな季節も終わりを迎えそうで。
「綺麗だなぁ、陽炎」
「…そうだね」
「…なぁ蛍」
「なに?」
「これってさぁ、一人で見ると、きっと哀しくなるけど、誰かと見ればインスピレーション、そうは思わないか?上柴先生」
何を言うと思えば。
でもまぁ。
「良いこと言ってるね、珍しく」
そう言って二人は見合わせる。
センスのなさに、笑ってしまった。
「さぁ、寒いだろ。今日は何食いたい?」
またいつも通り、互いに言葉は飲み込まれたような気もするけれども。
でも、それ以上に。
言葉は頭で浮遊する。
想いは果てなく、蜉蝣のように、ゆったり、のんびりと。
どこに辿り着くのか、それは過去か、未来か。
ただきっと、丸い地球上のどこかの誰かには、届いている。
夕陽に向かう、蜻蛉のように。
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