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泥濘
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最終的にさつきが最初に潰れ、それを介抱した蛍がもらいゲロをして潰れ、混沌終了を迎えた。
「蛍ちゃん…うぇ、ごめん」
「だ、大丈夫大丈夫わりといつもおぇっ」
取り敢えず二人を引き離す。何気なく蛍が蓮の膝に寝てしまったので空太がさつきを落ち着かせることになった。
なんだかんだで二人は今日一番働いている。
「ちょっとこれはどうしたらいいかな俺」
一番困ったのは蓮であった。
「あーそっか…泊まろうにも明日蓮出勤だよな」
「流石にねぇ、さつきを置いてくのもどうかと思うし」
「取り敢えず」
さつきはその辺で雑魚寝状態である。それを見て二人は顔を見合わせた。
「もう一杯くらい飲む?」
「そうだな。蛍も可愛いし」
なんとなくだが今日の蛍は空太と一線を置いている。気不味さもあるのだろう。それに触れないでいる空太が蓮には不思議に見えた。
蓮としてはこの状況は少し、後ろ黒く甘美であることに気付いていた。最早これは勢いを借りるべきなのだ。
酒を片手に蓮は、蛍の少し血色の悪くなった顔を見つめながら、漸く微睡み意識を手放したのを見計らい、優しく髪を撫でる。それだけで、確かめられた。
「今日は悪かったな」
「ん?なにが?」
「いや、なんだかんだで一番苦労を掛けたかなと」
「なに言ってんだよ今更。てか、空太の為じゃないしね」
まぁ確かにそうなんだが。
蛍の髪を撫でる蓮の手は物凄く情緒的だなぁと空太も流石に目に付いた。やっぱり蓮は少し酔っていそうだ。明日のこともあるし、早いとこ整理をしなければならない。
「あのさ」
そんなことを空太が考えていた矢先。
蓮が陶器を置いて、口元だけは笑いながら、わりと鋭い目付きで空太を見た。
「今日は結局何?」
「あぁ、そっか。
蛍がまぁ…薬を流し込んだんだ。多分夜中に。
気付いてやれなくてな」
「あぁ、そう」
「蓮の言う通りかもな。俺ちょっと、いい気になってたのかもしれない。助けてやれてる気に少し」
「イライラするなお前」
急に攻撃的になった蓮に、空太は言葉を詰まらせる。どうした。しかし宛はある。なんせこれだけ大事になった。
「何も見えていない。だから今も昔も君には隙間しかない」
なんか、そう言われる筋合いもない気がする。
「そう言う蓮には何が見える」
「何って?お前の隙間を答えたら正解か?それじゃ俺はただのお人好しだ、お前と大差なくなるじゃないか」
「お前は何が言いたいんだ?」
ただ批判されているような気がしてならない。
「そうさなぁ…。なんで蛍と空太、今日はあんまり口利いてないの?」
「…はぁ?」
「昨日なんかあった?」
「なんで今それ」
「だからそれなんだよ。結果こうなって今の蛍の気持ちも空太の気持ちも互いにわかってないのに、よく一緒にやれるよね」
そこを突かれてしまっては。
「だからお人好し止まりなんだよ。君は友人としてはお人好し分類、その辺にいくらでもいる。なんなら友人じゃなくてもいる分類じゃないか」
「そんなこと、」
だって、それは。
「なんでずっと一緒にいるの?君達の小さい時を俺は見たわけではない。さつきから聞くに高校の時のあれがきっかけならそれは」
「違ぇよ」
それもあるけど。
「むしろ、」
あれから少し溝が出来たような気がする。ナチュラルな友人ではなくなった、そんな気がする。
「焦れったいなぁ。いっそ、恋人でも作る?エキセントリックな。取られた気にでもなればいい?
相手が不倫とか男とかアパレルクソ野郎だったらどうだろう。最高じゃない?」
何を言い出したんだ。
しかし蓮はわりと本気の笑顔で空太を見て、それからまた蛍に視線を落とし、慈しむように撫でていた手を止め、蛍の手を優しく握った。
「好きかもねぇ、蛍のこと」
軽い調子で言う蓮に危うく、「そうか」と空太は返しそうになってしまった。しかし踏みとどまって「はぁ!?」と身を乗り出してしまった。
「バカバカ、起きちゃうだろ」
「あ、すんません。え、待って」
「タイム?いいぜ何分?ロスタイム?」
「いやいいや、ちょっと待ったいや待たなくていいわアパレルクソ野郎」
「定着したねさつきのそれ」
あまりに蓮の口調が軽すぎて最早冗談に聞こえてきた。よくよく考えたら蓮は高校時代からわりと、物静かだがふざけた野郎だ。だからたまにぶち込んでくる「悪いね空太、さつきは先に貰うよ」が利いてしまったのだし。
てゆうか、だったらあれはなんだったんだよ。
「てゆうかさ、」
「なんだよ」
「俺の青春なんだったの?」
「いや、さつきも好きだよ。週一抱くレベルには」
「聞いてねぇよ」
「でも考えてみたら高校の時のインパクトで言ったら蛍のが上だよね。まぁ何が言いたいって美人かどうかの話でね」
「流石クソ野郎、最早どこをツッコんでいいのかわからん」
「アパレル抜けたね。
え、でも第一印象ってあるじゃんか。俺空太の第一印象は『行儀の悪いキャンパス野郎』だったなぁ。いつでも足組んで絵描きやがって。まぁ美術部だったしね」
「俺のお前の印象は『チャラチャラ美術部員』だったなぁ」
蓮は美術部の印象を払拭するレベルで、密かに女子人気があった。それを満更でもなさそうに清ましていたのが蓮という男だ。
「漫画同好会の女子達にめちゃくちゃ人気あったよなお前」
「あぁね。「桐野さん漫画にしていいですか!?」とか言ってね。よくわかんなかった。でもそれで空太も地味に人気あったよ」
「マジ!?えなんでそれ今言うの?」
「いや出版に絶対反対したかなって当時。お前ませてたし」
「え?ついていけない」
「なんかヤバイ本だったんだよ」
「は?なに?」
全然カオス。意味わからない。
「あれ、なんの話だっけ」
「忘れた、ちょっと気になるんだけど出版とか」
「あ思い出した第一印象だ。
俺は初めて蛍を見たとき、そりゃぁもう、くも膜下出血起こすかと思ったんだよ真面目に」
「殺伐としてんな、まぁ…」
わからなくもないけれどもちょっと蓮のそれは怖い。
「蛍ちゃん…うぇ、ごめん」
「だ、大丈夫大丈夫わりといつもおぇっ」
取り敢えず二人を引き離す。何気なく蛍が蓮の膝に寝てしまったので空太がさつきを落ち着かせることになった。
なんだかんだで二人は今日一番働いている。
「ちょっとこれはどうしたらいいかな俺」
一番困ったのは蓮であった。
「あーそっか…泊まろうにも明日蓮出勤だよな」
「流石にねぇ、さつきを置いてくのもどうかと思うし」
「取り敢えず」
さつきはその辺で雑魚寝状態である。それを見て二人は顔を見合わせた。
「もう一杯くらい飲む?」
「そうだな。蛍も可愛いし」
なんとなくだが今日の蛍は空太と一線を置いている。気不味さもあるのだろう。それに触れないでいる空太が蓮には不思議に見えた。
蓮としてはこの状況は少し、後ろ黒く甘美であることに気付いていた。最早これは勢いを借りるべきなのだ。
酒を片手に蓮は、蛍の少し血色の悪くなった顔を見つめながら、漸く微睡み意識を手放したのを見計らい、優しく髪を撫でる。それだけで、確かめられた。
「今日は悪かったな」
「ん?なにが?」
「いや、なんだかんだで一番苦労を掛けたかなと」
「なに言ってんだよ今更。てか、空太の為じゃないしね」
まぁ確かにそうなんだが。
蛍の髪を撫でる蓮の手は物凄く情緒的だなぁと空太も流石に目に付いた。やっぱり蓮は少し酔っていそうだ。明日のこともあるし、早いとこ整理をしなければならない。
「あのさ」
そんなことを空太が考えていた矢先。
蓮が陶器を置いて、口元だけは笑いながら、わりと鋭い目付きで空太を見た。
「今日は結局何?」
「あぁ、そっか。
蛍がまぁ…薬を流し込んだんだ。多分夜中に。
気付いてやれなくてな」
「あぁ、そう」
「蓮の言う通りかもな。俺ちょっと、いい気になってたのかもしれない。助けてやれてる気に少し」
「イライラするなお前」
急に攻撃的になった蓮に、空太は言葉を詰まらせる。どうした。しかし宛はある。なんせこれだけ大事になった。
「何も見えていない。だから今も昔も君には隙間しかない」
なんか、そう言われる筋合いもない気がする。
「そう言う蓮には何が見える」
「何って?お前の隙間を答えたら正解か?それじゃ俺はただのお人好しだ、お前と大差なくなるじゃないか」
「お前は何が言いたいんだ?」
ただ批判されているような気がしてならない。
「そうさなぁ…。なんで蛍と空太、今日はあんまり口利いてないの?」
「…はぁ?」
「昨日なんかあった?」
「なんで今それ」
「だからそれなんだよ。結果こうなって今の蛍の気持ちも空太の気持ちも互いにわかってないのに、よく一緒にやれるよね」
そこを突かれてしまっては。
「だからお人好し止まりなんだよ。君は友人としてはお人好し分類、その辺にいくらでもいる。なんなら友人じゃなくてもいる分類じゃないか」
「そんなこと、」
だって、それは。
「なんでずっと一緒にいるの?君達の小さい時を俺は見たわけではない。さつきから聞くに高校の時のあれがきっかけならそれは」
「違ぇよ」
それもあるけど。
「むしろ、」
あれから少し溝が出来たような気がする。ナチュラルな友人ではなくなった、そんな気がする。
「焦れったいなぁ。いっそ、恋人でも作る?エキセントリックな。取られた気にでもなればいい?
相手が不倫とか男とかアパレルクソ野郎だったらどうだろう。最高じゃない?」
何を言い出したんだ。
しかし蓮はわりと本気の笑顔で空太を見て、それからまた蛍に視線を落とし、慈しむように撫でていた手を止め、蛍の手を優しく握った。
「好きかもねぇ、蛍のこと」
軽い調子で言う蓮に危うく、「そうか」と空太は返しそうになってしまった。しかし踏みとどまって「はぁ!?」と身を乗り出してしまった。
「バカバカ、起きちゃうだろ」
「あ、すんません。え、待って」
「タイム?いいぜ何分?ロスタイム?」
「いやいいや、ちょっと待ったいや待たなくていいわアパレルクソ野郎」
「定着したねさつきのそれ」
あまりに蓮の口調が軽すぎて最早冗談に聞こえてきた。よくよく考えたら蓮は高校時代からわりと、物静かだがふざけた野郎だ。だからたまにぶち込んでくる「悪いね空太、さつきは先に貰うよ」が利いてしまったのだし。
てゆうか、だったらあれはなんだったんだよ。
「てゆうかさ、」
「なんだよ」
「俺の青春なんだったの?」
「いや、さつきも好きだよ。週一抱くレベルには」
「聞いてねぇよ」
「でも考えてみたら高校の時のインパクトで言ったら蛍のが上だよね。まぁ何が言いたいって美人かどうかの話でね」
「流石クソ野郎、最早どこをツッコんでいいのかわからん」
「アパレル抜けたね。
え、でも第一印象ってあるじゃんか。俺空太の第一印象は『行儀の悪いキャンパス野郎』だったなぁ。いつでも足組んで絵描きやがって。まぁ美術部だったしね」
「俺のお前の印象は『チャラチャラ美術部員』だったなぁ」
蓮は美術部の印象を払拭するレベルで、密かに女子人気があった。それを満更でもなさそうに清ましていたのが蓮という男だ。
「漫画同好会の女子達にめちゃくちゃ人気あったよなお前」
「あぁね。「桐野さん漫画にしていいですか!?」とか言ってね。よくわかんなかった。でもそれで空太も地味に人気あったよ」
「マジ!?えなんでそれ今言うの?」
「いや出版に絶対反対したかなって当時。お前ませてたし」
「え?ついていけない」
「なんかヤバイ本だったんだよ」
「は?なに?」
全然カオス。意味わからない。
「あれ、なんの話だっけ」
「忘れた、ちょっと気になるんだけど出版とか」
「あ思い出した第一印象だ。
俺は初めて蛍を見たとき、そりゃぁもう、くも膜下出血起こすかと思ったんだよ真面目に」
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