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紫煙
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「まぁまぁです」
「明日発売なので、一応空太さんにも打ち合わせを兼ね、今日から単行本について話して頂こうかと思いまして」
「はい、ちらっとは話しました。
今回の短編連作は、主人公を書かない。まわりの人間の視点のみで一人の人物を浮き彫りにしようかと」
「へぇ、なかなか斬新ですね」
「紫煙は、妹視点。次は昔のクラスメートにしようかな」
「旧友、とかではないんですか?」
「はい。
クラスにそういえばいたような気がする、と言うくらいの関係。しかしそれだけではあまり物語も生まれないからまぁ、昔の青春を書きつつ、そこに青春特有の事件でもあればいいですよね」
「物語は浮かんでるんでますね?その感じだと」
「はい」
「ではそれを楽しみにしましょうか。一話一話のなんとなくな構成は?」
「もう少しかな。主人公は、故人でしょう。
きっとこいつはとても理不尽な理由で死ぬんです。一見明るそうなやつ。しかしながら実は闇のあるやつ。大きな秘密を抱えながら死んで、最終話に伏線を回収しようかな」
「ぼんやりしてますね」
「自分の中では、はっきり決めました」
というかモデルがいる。しかしそれが少し曖昧なような気がする。
結局のところそのモデルのやつには、現在恋人も子供もいなければ遠い旧友目線で見たこともない。ここは上柴楓の想像力、創作なのだ。
空太に先程、「これは君だね」と扉絵のモデルについて言われたときにはっきりと掴んだ。そうか、芯が決まった、最早あとは突き進むだけだ、と。
「上柴先生の中では明確に、構成が決まったようですね」
「はい」
「わかりました」
野山さんはなんとなく納得してくれたようで、それ以上は追求をしてこなかった。
デビュー当時からやって来ただけあり、彼女は上柴楓をよく理解している。あまり第三者が創作に対し立ち入ってしまうと筆の進みが悪くなる。要するに、思ったまま、素直に書かせてしまった方がいいと。
「思ったより“雰囲気”に乗っ取っていただいてよかった。やはり空太さんに任せてよかった。
まぁ小説はお任せします。原稿が出来たらバシバシ持ってきてください。
で、今日は別件もありましてきました」
「別件?」
なんだろう。野山さんが非常に穏やかな表情だ。また、別の仕事依頼だろうが…。
「なんでしょうか…。週刊はちょっと暫くは…」
「はい。
今回ですね、出版社で企画が立ち上がりまして…。直木の作家さんを取り上げようと言うことになりまして。あの、3年くらい前に話題になった作家さん、ご存じですかね。
『一家心中』と言う小説」
直木にそんな作品があったのかと知る。
そのころの上柴楓は、はっきり言ってデビュー二年目で、わりと書くことに必死だったし食らいついて連載をやっていた。なので案外そのころに出た、デビューした作家について、実は疎いのだ。
蛍は一定のスランプに入ると他者を入れない。妙な不安に駆られる瞬間があるからだ。
「…すみません、」
ぎこちなく、曖昧に微笑むように野山さんに言う蛍を見て空太は、言い知れぬ不安に駆られてしまった。
空太はその作家を知っている。『一家心中』の、作者を。
「あのぽっと出の偏屈なクズ作家がどうしたんですか?」
黙っていた空太が、急に不機嫌そうに悪態を吐き、煙草を吸い始めたものだから、野山さんも蛍も思わず空太を見た。
普段、作家や同業者、とにかく人の悪口を言うことがない、これは珍しいことだ。
「『林道広』ですよね。鮮烈なデビューだったんで覚えてますよ。でも一発でしょあの人」
「いえ、あれからもまぁやっていられますよ」
「その人がどうしたんですか」
やけに空太が野山さんに突っかかる。
一体どうしたと言うのだろうか。
「上柴先生ともジャンルや、あとどこと無く仕事のスタイルなども似ていらっしゃるし…上柴先生と対談ページを儲けようかなと。
テーマは『直木とは』」
「はぁ…対談ですか…」
「いや、どうかと思うな」
やはりまだ空太は野山さんに突っかかる。どうしたと言うのか。空太の表情を見れば、不機嫌そうに煙を吐き捨てた。
「明日発売なので、一応空太さんにも打ち合わせを兼ね、今日から単行本について話して頂こうかと思いまして」
「はい、ちらっとは話しました。
今回の短編連作は、主人公を書かない。まわりの人間の視点のみで一人の人物を浮き彫りにしようかと」
「へぇ、なかなか斬新ですね」
「紫煙は、妹視点。次は昔のクラスメートにしようかな」
「旧友、とかではないんですか?」
「はい。
クラスにそういえばいたような気がする、と言うくらいの関係。しかしそれだけではあまり物語も生まれないからまぁ、昔の青春を書きつつ、そこに青春特有の事件でもあればいいですよね」
「物語は浮かんでるんでますね?その感じだと」
「はい」
「ではそれを楽しみにしましょうか。一話一話のなんとなくな構成は?」
「もう少しかな。主人公は、故人でしょう。
きっとこいつはとても理不尽な理由で死ぬんです。一見明るそうなやつ。しかしながら実は闇のあるやつ。大きな秘密を抱えながら死んで、最終話に伏線を回収しようかな」
「ぼんやりしてますね」
「自分の中では、はっきり決めました」
というかモデルがいる。しかしそれが少し曖昧なような気がする。
結局のところそのモデルのやつには、現在恋人も子供もいなければ遠い旧友目線で見たこともない。ここは上柴楓の想像力、創作なのだ。
空太に先程、「これは君だね」と扉絵のモデルについて言われたときにはっきりと掴んだ。そうか、芯が決まった、最早あとは突き進むだけだ、と。
「上柴先生の中では明確に、構成が決まったようですね」
「はい」
「わかりました」
野山さんはなんとなく納得してくれたようで、それ以上は追求をしてこなかった。
デビュー当時からやって来ただけあり、彼女は上柴楓をよく理解している。あまり第三者が創作に対し立ち入ってしまうと筆の進みが悪くなる。要するに、思ったまま、素直に書かせてしまった方がいいと。
「思ったより“雰囲気”に乗っ取っていただいてよかった。やはり空太さんに任せてよかった。
まぁ小説はお任せします。原稿が出来たらバシバシ持ってきてください。
で、今日は別件もありましてきました」
「別件?」
なんだろう。野山さんが非常に穏やかな表情だ。また、別の仕事依頼だろうが…。
「なんでしょうか…。週刊はちょっと暫くは…」
「はい。
今回ですね、出版社で企画が立ち上がりまして…。直木の作家さんを取り上げようと言うことになりまして。あの、3年くらい前に話題になった作家さん、ご存じですかね。
『一家心中』と言う小説」
直木にそんな作品があったのかと知る。
そのころの上柴楓は、はっきり言ってデビュー二年目で、わりと書くことに必死だったし食らいついて連載をやっていた。なので案外そのころに出た、デビューした作家について、実は疎いのだ。
蛍は一定のスランプに入ると他者を入れない。妙な不安に駆られる瞬間があるからだ。
「…すみません、」
ぎこちなく、曖昧に微笑むように野山さんに言う蛍を見て空太は、言い知れぬ不安に駆られてしまった。
空太はその作家を知っている。『一家心中』の、作者を。
「あのぽっと出の偏屈なクズ作家がどうしたんですか?」
黙っていた空太が、急に不機嫌そうに悪態を吐き、煙草を吸い始めたものだから、野山さんも蛍も思わず空太を見た。
普段、作家や同業者、とにかく人の悪口を言うことがない、これは珍しいことだ。
「『林道広』ですよね。鮮烈なデビューだったんで覚えてますよ。でも一発でしょあの人」
「いえ、あれからもまぁやっていられますよ」
「その人がどうしたんですか」
やけに空太が野山さんに突っかかる。
一体どうしたと言うのだろうか。
「上柴先生ともジャンルや、あとどこと無く仕事のスタイルなども似ていらっしゃるし…上柴先生と対談ページを儲けようかなと。
テーマは『直木とは』」
「はぁ…対談ですか…」
「いや、どうかと思うな」
やはりまだ空太は野山さんに突っかかる。どうしたと言うのか。空太の表情を見れば、不機嫌そうに煙を吐き捨てた。
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