蜉蝣

二色燕𠀋

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紫煙

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「…あいつ、変なやつだな」
「そうかな。俺はわりと新鮮だったけど」

 その蛍の一言は意外だった。
 なんせ、蛍はあまりそういった他人との関わりとかに興味を持たない。それが、まさかの一言だ。

 だが、たまにはこんなのも確かに新鮮なのだろう。歳を食い重ねるほど、なかなか変わった出会いは身に訪れない。あの少年はなかなか、大したものだ。もしも蛍の予想通り不登校ならば、学校という公共の場所で、生かしたらいいのにと空太は思った。

「よかったな。気分転換?」
「まぁ、そうだね」
「さてさて蛍ちゃん、お仕事の話しようか」
「あぁ、プロットか」

 プロット。
 そんなものは。

「あんまりない」
「まぁ、わかってはいたけどね」
「うーん、ただ今回は初の試みかな。
 主人公を出さない、と言うか、書かない。まわりの人間が一人の人物の面影を浮き彫りにする。
 それは多分、短編によって、読者によって凄く、なんて言うか偏りも出てくると思うけど、人間ってそんなもんかと思うんだ」
「と言うと?」
「例えば友人にはどう映るか、恋人にはどう映るか、1クラスメートにはどう映るか、家族にはどう映るか。
 短編ごとにそうやって視点を変えて一人の主人公を書こうかと」
「なるほど、面白いね。つまり主人公がプロットみたいなもんだね」
「そうだね」
「ちなみにその主人公はどんなやつ?」
「そうだなぁ…。
 面倒見がよくて一見明るいけど闇を持った写真家」

 試してみようか。
 自分が見てきたものを、書いてみようじゃないか。

「…なるほどね」

 少しを察したらしい空太は、そう言って蛍の純粋そうな目をただ、見つめ返した。

「ちなみに紫煙は?」
「あれは…妹かな」
「恋人じゃないんだ」
「妹が、兄を思い出す、感じ。
 設定は、主人公は故人がいいと思う」
「ほぅ、掴めてきたよ」

 でも少し。

「よかった」

 妹で。
 少しエロかったけど。
 もしも蛍が書きたいのが、それなら。

「蛍、」
「なに?」
「俺は君の作品が好きだ」

 素直にそう言おうと決めた。
 まだ彼は、腐らない。

「…いきなりやめろよ」

 そう、困った顔をして首筋に手をあてる蛍の仕草、それが生々しく空太には見えて。

「次の話は決まってるの?」
「書き出しはなんとなく。今回は昔の友人、かなぁ」
「そっか、わかった」

 それだけ話してあとは各々、それぞれの作業に打ち込んだ。
 蛍は原稿を書き、空太は写真を漁りながらスケッチブックに向かい。たまにカメラを持っていなくなって。
 それでもなんとなくは没頭は出来た。一つ、次回作のヒントを話せただろうか。


*****
 微睡みはいつも途方もなく彼方から現れるものであると自覚する。
 こんな時、そう、こんな、目覚めの悪い夜中とも朝方とも判断がしがたいような薄い暗闇の天井を眺めては。
 遠くで耳鳴りがする。頭痛も儘ならない。さっきほどまでそこにあった脳裏と瞼の奥で繰り広げられた懐古は水屑みくずとなったようだ。
 それは幸いな哀愁。甘美となり灰塵かいじんのように振り被るのは俺にだけ与えられた可能性だ。果たして可能性と言う言葉が適切なのか。
多分、そうではないはずだ。
*****


 未来を暗示した書き出し。まずまず好調。わりと最近筆が戻りつつあるがどうだろう。何かが不安で仕方がない。

 何だろう。
 思い返して蛍は自作の紫煙を読み返した。

 こうして涛川蛍、一読者視点で見ると浮き彫りになる上柴楓の人物像。この人物はどこか儚く不安定。なんなら情緒がどうも暗い。しかしながらどこか明るい何かは今回、持たせたがっているのかなんなのか、未だ謎だ。

 よし、そんな文章になっている。これからの“プロット”を考えたらこれくらいダークで猥雑でれていた方が紫煙はありだ。表現も暗すぎず明るすぎないのが凶器。
 今回はその流れを引っ張った入り出しにした。ここからどうやっていこう。回顧かいことは何か、懐古かいことは、何か。
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