Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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Get So Hell?

後編9

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「…生きている気ぃはしていました、なんとなく。あんたみたいな人はね」

 外套を掴む手が震えている。
 こちらが気付いたからか、翡翠はふと手を離し、右腕を擦る。

「会えるとは、思わへんかったけど」
「…お前の方が坊さんに向いてると思ってたんだがな…」
「私もそう思うてました。やはり捨てられないもんですね」
「……そうだな」
「せやけどまぁ、希望とか祈りやとか、そんなもんで。あながちです。
 貴方も…」

 怪訝、心配そうな声色。
 そこからかー…。でもまぁ、そうなんだろうな…。これは非常に気まずい。

「いや、開拓使やってる、やってた、」
「…は?」

 振り向いてぱーっと、ぎこちなく上から下まで眺めた翡翠は「うわぁっ…」と嫌そうな顔をする。

「…うわぁとはなんだうわぁとは…」
「……」
「んなじとーっと見んなや!わかっとるわ役人が嫌われてるって!露骨だなお前は全く…」
「…開拓使って、なんやこう…領土とか?を開拓する人で合ってます?」
「…日本語っ!そーだよっ!ほぼ農業ばっかやってたけどねあれからっ!」
「確かに向いてますなぁ。『平和』って焼印押された上から『平和』って刺繍された服を着そうな人やもんねずっと…そっか、」

 よかった、と呟いた気がするがそれ…まず日本語っ!

 突っ込もうかと思った最中、廊下を早足で歩く小姓が「藤島住職、お部屋の準備が出来ましたよ!」と言ってくる。
 それに翡翠は柔らかい、しかし作った笑顔で左手を翳すのみ。
 小姓が去れば「あんま話さんようにしとるんです」と打ち明けてきた。 

「え?」
「……ここへ戻った頃には、知る坊主もいなかったもんでして。
 この腕と一緒。都合がええんですわ」
「そういえば……藤宮はどうした?」

 それを少し聞いておこう。なんせ、その右腕には彼の因縁があったのだ。

「あぁ、」

 感情もないように「死にましたよ」と言った。

「坂本竜馬暗殺の疑いがあったもんで。その話も私の話やさかい、後で」
「………わかった、」

 つまり……。
 因縁は自ら断ち切ったということか。
 自分と大差ないな。全てを失くして今に至る、と…。

 縁側から“部屋”に入り外套を脱ごうとすると、前と変わらない。自然と壁に掛けてくれる。
 懐かしいな、この感じ。

「は~、疲れたな…」

 ふぅ、と寛ぎ「坐禅って、前から思ってたが辛くねぇ?」と自然な会話が戻ってくる。

「慣れれば、なんとか」

 あー、確かにこいつ、身体能力高いんだよなぁ…と、ふと目に付いた。
 障子を開けた広げた向こうの部屋には、あの錫杖刀と三味線がある。
 普段はそっちが正式にこいつの部屋なんだろうな。昔より立派な生活じゃないか。
 多分その奥にある閉められた襖の向こうが清生の部屋なんだろう。自分が今与えられた部屋は造り的に…客間かな。

 しかし、何を話そうか。
 いつもどうしてたかな、なんとなく2人で思ったことばかり話していたけど。

「あー、そうそう。
 鉄扇は佐藤…さんに返しといたぞ、全く」
「………え?」
「お前昔土方からくすねたじゃん」
「……見つけたん…ですか?」

 まぁ、そうだよな。

「ああ。本土に来る前にな。
 向こうの開拓してたんだよ、つい、先週まで」
「……え!?
 え、船乗りました?なしてまた…」
「わからん。気付いたら北海道にいた」
「…そうですか…」

 沈黙が走る、が。

「…あっちではあいつ、英雄なんだな。
 すぐにわかったよ、場所」

 どことも誰とも言わないけれど。

「…まぁ、そうやねぇ。
 基本的にはそれぞれの城も、押し入るというより言葉巧みにその……投降を求めあっさりと」
「変わったよなぁ、記録を見たよ。蝦夷共和国建立が異様な早さだったからな。同意無しじゃああはいかない」
「………その、」
「行ったんだろ?」

 ふー、と両腕を後ろに身体をのばし完全に力を抜いたら本気で力が抜けた、寝転ぶ。

 あぁ、なんか久々に休んだ気がするなと感じて気付く。俺、いつから休んでないんだ。

 それを見た翡翠は「ふっ、」と笑い、なんとなく肩の力は抜けたらしい。ぱっと頭巾を取り同じく足を放り「不思議やねぇ」と寛いだ。

「久しぶりやないような感覚がする…」
「やっぱり?俺も同じことを思ったよ」
「あー、返した、でやっと思い出しました。錫杖刀を返します。気が張ってしゃーないんで」
「うーん…」

 てゆうか。

「それ、捨てなかったっけ」
「いいや?
 あー、まぁ沖田さんが自分の刀と一緒に直してくれはって…」

 ふっと、自室からあの刀を持ってきてくれた。
 遠目で気付かなかったけれど、どうやら…今は脇差になっているらしい。

 確かに、それじゃあ気が気じゃなかっただろうな。清生が気を張っていた理由がひとつわかった。

「わては抜けまへんし、この通り」

 漸く堂々と右腕を直視する。まるで…拳銃嚢のようにただそこにぶら下がっているだけ…物のようだ。

「全くなんか?」
「ええ。
 蝦夷で背後を取られましてな。
 すぐに火ぃを当てて止血したんで命があるというか」
「やはり…でもじゃあ、お前が嫌がってた刺青も」
「…やはり?
 まぁ、はい、その通りです。幸運なことに、今では綺麗でもなんでもなく、醜くなりました。見ます?」
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