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Get So Hell?
前編5
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…右耳に触れていることに気付く。
寒くて感覚が麻痺している。
船の影響か山の影響か。痛いのかなんなのかわからない。
手で温もってきた、うぉお、じんじんする。熱い時は耳に触れるものだがなるほど、耳はそもそも一番冷たいんだっけか、雪に馴染んだ感触を思い出す。
北海道での初日、その地を焼け跡だと思った。京の大火事のような見栄えだったからだ。
…去ったからか、わりと疲れていたんだなと気付く余裕が出来たかもしれない。
京を去ってからの日々…思い出せることもあるが、嫌な事が圧倒的に多い……のかもしれない、それすらイマイチわからない。
茶坊主はすぐに綿入れと新しい作務衣を持ってくる。
…多分、遠回しに警戒している。拳銃のせいもあるだろう。
寺側は役人の持ち物を預かる訳にもいかないし、だからといって、これは武器だ。言うことも躊躇われるのだろうし。
ちらちら眺める茶坊主を前に、気に止めない態度を試みあっさりと綿入れを借りる。
外套よりも軽いし、やはり馴染みがある。
「……洋装ってぇ、こりゃぁ、どやって洗うんです?そんの薄い肌着?は洗えそうですが…」
「あ、あー…羊毛ってもんらしいが」
獣の毛らしい、等と言ってはいけないような気がする。
「まぁ…川は近くにあったよね」
「え、え!そげなこと、お役人様にさせられま」
「あ、こう見えて昔は坊主をやってたから」
坊主時代もあんまり坊主と思われてなかったけどね。
「え、そーなんですかぁ?」
「そーなんです。
まぁ、気にしないで欲しい。自分の物だから自分でやるよ」
「しっかしぃ、この辺の川ばシバれますよ」
うーん、と首を傾げながら、茶坊主は「まずぁ、朝餉の用意しますねぇ」と下がった。
…まぁ、どこも「来るもの拒まず去るもの追わず」だったなと、少し懐かしさも感じるのだが。
朝飯を済ませ川へ行くと、小姓たちはちらほらと、洗濯の準備をしている。
坊主時代、それこそ下っ端で洗濯なんかをしていた頃。ついでに魚を手掴みしこっそり台所を使っていた。
それがそうだ…あの従者が兎を捌いて持ち込んだ時、自分はそれを叱る立場にいたな。
川でよく、水浴びもしていたよなぁ、あいつ。
懐かしい。
「………」
桶に水を組もうとしたが、しゃがんだだけで水の冷たさがわかる。
側で泳ぐ魚が鮮明に見える。とても綺麗な川だ。
意識せず自然と木の枝を探している自分に気付く。あぁそうか、暫く野宿もあったから、当たり前に魚を狩るという感覚が身に付いてしまっている。
京も冬は寒いが、流石にここまでではなかった。雪だって、これ程重く残らない。
それを何年も見ることになったのだが、舞う姿は綺麗なのもので、空気も澄む。しかし積もると面倒臭い。
「………」
桶に水を入れる。ここに手を突っ込むのは確かに躊躇われるなと、やり場なく魚を枝に刺してみる。
はぁーと息を吐く。まだ白いんだなと、思い付きよりも、反射的に。桶の水を頭から被ってみた。どうしてそういう衝動に駆られたかは不明である。
少しスッキリ…いや、寒いなこれは。寒いというか痛いな…。
思った瞬間には「お役人様っ!」と、小姓が寄ってきてしまった。
多分、気がどうかしていると思われた。いけないいけない。
小姓は、濡れた朱鷺貴と側にある魚や洗濯物を眺め「まずぁ…」と俯く。
「朝餉の薪、まだぁ、ありますんで…湯、沸かしますね…」
少し不躾だったなと、「さっき漁師に貰った。夕飯に魚でも食ってくれ…」と魚を渡し、それから有難く湯浴みをした。
昔は早湯だったもんだが、寒い地に滞在していたせいか、最近はめっきり長湯になった。
丁度良い頃合かなと、思ったより早く冷めてきた湯を桶に汲み、川へは戻らず洗濯を始めた。
一人が始めれば、他の者も使いやすいだろう。現に、湯を使う者も現れた。
久しぶりだったからだろうか、洗っているうちに下地の襟の折り返しが消えた。
「…うーん」
まぁ、別にいいか。折り曲げて干すんだろうか…。
袖元の釦が消えている。まぁ、これは別にいい。
というか正直邪魔だったから丁度いい。全部取りたいくらいだ。
始めは遠慮がちだった小姓たちが、「手際ぁいーんですね…」と、気付けば皆集まっている。
「お役人さんば、元はどん辺のお寺にいたんですか?」
「………今は無いけど、ここから遠いよ。西の方」
「へぇ、」
「雪もこれほど降らなかった。結構、綺麗だよな」
「私んらには、やんなるほどですよ。そんじゃぁ、蝦夷なんてぇ、苦労しましたねぇ」
「確かに驚いた。雪がな、灰だか…桜かもわからなかったんだよ」
そうですかぁ。と会話は終わる。
雪掻きを手伝い、一宿一飯の礼とし核心は互いに触れないまま、寺を去ることにする。
「貴殿の旅路に幸あらんことを」
お守りを貰った、懐かしいものだ。
多分、これくらいの距離感がいいのだと感じる。
やはり政府とその他での乖離があるようだが、多分この地はまだマシな方だろう。
寺院は、財政案により少し逼迫し始めている。
東京府まではまだ遠く。
その地がまだ「武蔵」と呼ばれていた頃。半年程は滞在していた。
あの頃、世話になった寺と同じ名前の寺が燃える事件があった。
そんな日常に身を置きその殺伐を感じながらも、どこか遠くのことのように感じていた当時。
その、燃えた方の寺は当時外交に使われていた。
今は再建されまた外交に使われていると聞く。
寒くて感覚が麻痺している。
船の影響か山の影響か。痛いのかなんなのかわからない。
手で温もってきた、うぉお、じんじんする。熱い時は耳に触れるものだがなるほど、耳はそもそも一番冷たいんだっけか、雪に馴染んだ感触を思い出す。
北海道での初日、その地を焼け跡だと思った。京の大火事のような見栄えだったからだ。
…去ったからか、わりと疲れていたんだなと気付く余裕が出来たかもしれない。
京を去ってからの日々…思い出せることもあるが、嫌な事が圧倒的に多い……のかもしれない、それすらイマイチわからない。
茶坊主はすぐに綿入れと新しい作務衣を持ってくる。
…多分、遠回しに警戒している。拳銃のせいもあるだろう。
寺側は役人の持ち物を預かる訳にもいかないし、だからといって、これは武器だ。言うことも躊躇われるのだろうし。
ちらちら眺める茶坊主を前に、気に止めない態度を試みあっさりと綿入れを借りる。
外套よりも軽いし、やはり馴染みがある。
「……洋装ってぇ、こりゃぁ、どやって洗うんです?そんの薄い肌着?は洗えそうですが…」
「あ、あー…羊毛ってもんらしいが」
獣の毛らしい、等と言ってはいけないような気がする。
「まぁ…川は近くにあったよね」
「え、え!そげなこと、お役人様にさせられま」
「あ、こう見えて昔は坊主をやってたから」
坊主時代もあんまり坊主と思われてなかったけどね。
「え、そーなんですかぁ?」
「そーなんです。
まぁ、気にしないで欲しい。自分の物だから自分でやるよ」
「しっかしぃ、この辺の川ばシバれますよ」
うーん、と首を傾げながら、茶坊主は「まずぁ、朝餉の用意しますねぇ」と下がった。
…まぁ、どこも「来るもの拒まず去るもの追わず」だったなと、少し懐かしさも感じるのだが。
朝飯を済ませ川へ行くと、小姓たちはちらほらと、洗濯の準備をしている。
坊主時代、それこそ下っ端で洗濯なんかをしていた頃。ついでに魚を手掴みしこっそり台所を使っていた。
それがそうだ…あの従者が兎を捌いて持ち込んだ時、自分はそれを叱る立場にいたな。
川でよく、水浴びもしていたよなぁ、あいつ。
懐かしい。
「………」
桶に水を組もうとしたが、しゃがんだだけで水の冷たさがわかる。
側で泳ぐ魚が鮮明に見える。とても綺麗な川だ。
意識せず自然と木の枝を探している自分に気付く。あぁそうか、暫く野宿もあったから、当たり前に魚を狩るという感覚が身に付いてしまっている。
京も冬は寒いが、流石にここまでではなかった。雪だって、これ程重く残らない。
それを何年も見ることになったのだが、舞う姿は綺麗なのもので、空気も澄む。しかし積もると面倒臭い。
「………」
桶に水を入れる。ここに手を突っ込むのは確かに躊躇われるなと、やり場なく魚を枝に刺してみる。
はぁーと息を吐く。まだ白いんだなと、思い付きよりも、反射的に。桶の水を頭から被ってみた。どうしてそういう衝動に駆られたかは不明である。
少しスッキリ…いや、寒いなこれは。寒いというか痛いな…。
思った瞬間には「お役人様っ!」と、小姓が寄ってきてしまった。
多分、気がどうかしていると思われた。いけないいけない。
小姓は、濡れた朱鷺貴と側にある魚や洗濯物を眺め「まずぁ…」と俯く。
「朝餉の薪、まだぁ、ありますんで…湯、沸かしますね…」
少し不躾だったなと、「さっき漁師に貰った。夕飯に魚でも食ってくれ…」と魚を渡し、それから有難く湯浴みをした。
昔は早湯だったもんだが、寒い地に滞在していたせいか、最近はめっきり長湯になった。
丁度良い頃合かなと、思ったより早く冷めてきた湯を桶に汲み、川へは戻らず洗濯を始めた。
一人が始めれば、他の者も使いやすいだろう。現に、湯を使う者も現れた。
久しぶりだったからだろうか、洗っているうちに下地の襟の折り返しが消えた。
「…うーん」
まぁ、別にいいか。折り曲げて干すんだろうか…。
袖元の釦が消えている。まぁ、これは別にいい。
というか正直邪魔だったから丁度いい。全部取りたいくらいだ。
始めは遠慮がちだった小姓たちが、「手際ぁいーんですね…」と、気付けば皆集まっている。
「お役人さんば、元はどん辺のお寺にいたんですか?」
「………今は無いけど、ここから遠いよ。西の方」
「へぇ、」
「雪もこれほど降らなかった。結構、綺麗だよな」
「私んらには、やんなるほどですよ。そんじゃぁ、蝦夷なんてぇ、苦労しましたねぇ」
「確かに驚いた。雪がな、灰だか…桜かもわからなかったんだよ」
そうですかぁ。と会話は終わる。
雪掻きを手伝い、一宿一飯の礼とし核心は互いに触れないまま、寺を去ることにする。
「貴殿の旅路に幸あらんことを」
お守りを貰った、懐かしいものだ。
多分、これくらいの距離感がいいのだと感じる。
やはり政府とその他での乖離があるようだが、多分この地はまだマシな方だろう。
寺院は、財政案により少し逼迫し始めている。
東京府まではまだ遠く。
その地がまだ「武蔵」と呼ばれていた頃。半年程は滞在していた。
あの頃、世話になった寺と同じ名前の寺が燃える事件があった。
そんな日常に身を置きその殺伐を感じながらも、どこか遠くのことのように感じていた当時。
その、燃えた方の寺は当時外交に使われていた。
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