Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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霧雨

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『藤原どんがそう望むんはわかりもはん。根拠ばなければそんは祈祷にしかなりもはん。なして、そう思うのか』
『はは!手の内ってやつかい?なら申し訳ないが、ないよ、そんなもん』
『は、』
『根拠ねぇ…経験則と、あとはひとつだけ言うならば…誰しもに無い物を持っているよ、長州の若者は』
『それは、あの高す』
『一人一人各々の芯が、1本通ってるんだ。ただ、それだけ。これは、固定観念という漠然としたものではない』

 朱鷺貴は去って行くが、果たして聞こえただろうかと翡翠は背を眺めた。

 まさか、この人からこんな…熱さを感じるような戯れ言を聞くだなんて、新鮮だ。
 確かに神職だろうが、まるで神の声を聞いたような気分。いままで、そんな人ではないと思っていた。

 ぼちぼちと、まるで寺子屋だ。
 堂には、残りわずかであった坊主たちが根こそぎに近いほどで案内されていた。

 …結局、そんなものだと思う気持ちになるのは果たしてこの、雨か霧かわからぬような天気のせいだろうか。

 しかしもしも、と堂を見て考える。先では伊東が嘘臭い笑顔で自信にも満ちた態度。

 もしもこれらが復讐の業火を宿すのだとしたら。伊東よ、残念ながらその論であれば立ちはだかる先が、ここにいる。

 …戒名か。
 懐に入れっぱなしだった藤嶋の金に触れる。

 要するに、一番高い戒名を、ということだろう。
 葬儀も来なかったくせによく言うとも思うが、わりとそういうことを言うのは遺族から遠すぎる親戚だというのも、いままで沢山見てきた。

 どういうつもりかはわからない。
 例えばもしも、藤嶋なりの自分への気遣いならば余計なお世話でしかない。こちらは使用用途を聞かされてしまったのだから、突き返せないのはわかっているはずだ。

 こうも押し付けられるとは、意外だった。一言「まぁ好きに使えよ」とでも言うことも出来たはずだ、というかアレはやりそうだ。

 なのに明確に「戒名と石代」だなんて言われてしまえば黙るしかないのが自分のやり方、いや、大抵の坊主のやり方だろう。たまに突き返す、「遺族に押し付ける坊主」もいるが、数少ないし自分は尚更違う。

 葬儀の場、親戚同士で揉めている際に間に入ることくらいはあるが、今回はその手の物でもないのだ。

 …俺からすれば、これはあんたの誇示で手垢だよ。

 けれど考えてみれば、そうそう自分の痕を残したがる人ではない…知っている範囲では。だから、藤嶋宮治の人と成りがいまいちわからない。

 けれど身構えているのはこちらのみで案外普通に、何か、藤嶋なりに考えたのか…そういう人なのかもしれない。
 翡翠は「自分から手放す人」と言っていたけれど、それはそれで「そう痕を付けている」のだろうし。

 台所で湯を沸かしていると、堂から高らかな演説が聞こえ始めた。
 声はデカい奴。そういった手合いには慣れてきた頃だが、どうもこいつは苦手だ。自己顕示も欲の一種だからかもしれない。

 何もを信じて疑わない、それは宗教のようなもの。

 その欲は自分にもある欲だ。ただ、口下手だから伝わっていないと感じることがあるだけで。
 例え伝わっていたとしてもそう…俺は相手に明け渡したい、いつでもそう思っているから、上手い必要もないと思っていた。それこそ、江戸で寺子屋をやるまでは。

 その点、翡翠はよく拾うもんだよなと、ふぅと溜め息が出た。

 『私は幕府における体勢に新しい風を入れたく』聞きたくなくても聞こえてくる、伊東の声。

『…貴殿らのことは、聞いた。長州の締め出しにより貴殿らの主、いや、親である幹斎殿が巻き添えのように切腹をさせられたと。こんなもの、まるで安政の大獄となんら…』

 部屋に戻っても休めたもんじゃないかもな。物は言い様、中身はわからないが喋りは上手いらしい。
 大抵こういう人物はこういった特性もあるから、厄介だ。

 幹斎の処遇と自分の考えを上手く伝えられなかった。だから、もしかすると伊東の言に心を動かされる者もいるかもしれない。それを安直な業だと、果たして自分に言う資格はあるのだろうか。

 考えなければならないな。

 直接「これは死ぬだろう」とわかってしまったとすれば、自分は彼らを止めなければならない。今のところ、伊東と直接話した内容で直結したのは「兵士を集めている」だ。

 それは、仏教徒としては「兵士になったところで死ぬとは限らない」が、人を殺しに行くという思想を持つということだ。それは幹斎がしたことと大差がない。

 煎茶を入れ、翡翠の元に持って行く。
 緩く握る拳を噛むほどに集中していたようだ。側に茶を置くことん、という音で漸く「あっ、」と気付く反応の遅さなど、珍しい。
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