34 / 129
手紙
7
しおりを挟む
「…そんなゴミみたいなことでかっかしとんのか、あんさん」
「はぁ?」
どうも犬猿なご様子だ。
いや…犬も食えねぇよ。
「関係ねー。きょーみ無っ。まぁ言い分はわかった兎に角仲良くすれば面倒臭い。質問に答えて欲し」
「出来るかそんな、変態と!」
「うーん同意だよ藤宮の。けどまぁわかんねぇけどこいつは多分そんな人間出来てないぞ。お前もじゅーぶん」
「それが売ったんは“思想”や。恐ろし…あんたのつまらん復讐はいつまでも終わらんで」
…知らないこともありすぎる。
復讐?なんだ?長州過激派が一掃されたとまでしかわかっていない。確かに、見方によれば理不尽に感じるような気がしなくもないとは、思ったが。
「…あんた、そっちの人だったってことか?」
「物を持ちたがるのは邪念だな。そんな下等な争い、まぁ好きに捉えてどうぞ」
「…まぁええわ。今日は嫌味を言いに来たのみ。あんた、恨まれるいうんを学んだ方がええで。誰もが上さんに遣えるわけやないわ。斬られろっちゅーねん」
「宛がありすぎてわからんなぁ、忠告どうも」
けっ、と藤宮は背を向ける。それにしっしと手を払う藤嶋。
本当に暇人なのか。いっそ寺にでも入ればいいのにとすら思える。
「……あんたが何するとか、興味はないが」
「ああそうしろうざったい」
「もう少し詳しく聞こうか。端から謎だった、何故ウチのジジイかと。
概ね、指南所だか道場だかで一緒だったんだろうと、節々で拾ったが」
「覚えてねぇし興味ねぇよ」
…外台秘要方。
それまであった世の中の俗説を、根底から覆した禁書。
昔、父にその禁書を自慢をされたことがあった。父は、勘定奉行の寺社奉行であり、書簡奉行なんかと繋がりがあったせいかもしれない、よく、本の話をしていたのだ。
「…あんたら“大人”には、足下なんてただの繋がりでしかないのかもしれない。だが、そこには繋がりとも関係のない“意思”がある。
それは翡翠も同じだ。余計な…障害を作るな、勝手に」
「ならば言う。それが時世であり、お前の言う上にも意思はある。
出来るだけ柵を断つようにと、どうだ幹斎はそう言ったはずだ」
…わからない。
これが親や子の話ならば随分拗れているのだろうが。
「えらく利己的だな。
いつでもあんたら“先人”は勝手だ。手放し解放すれば良いって問題じゃない、」
「そりゃあ優しい意見で。這えよ、置き去りにされないようにな」
吐き捨てるように言う割には、ただの偏った感情だろうか。藤嶋は少しだけ俯きがちなようにも見えた。
……あんたが何者なのかすら、知りたくもないけれど。
そして少しだけ口元を歪めたようにも見えた。わからない、ただの傷の引き吊りなのかもしれない。
こんなことで妥協して良いものかと、戸惑いが出るには充分だ。
…さて、ウチのアホ従者は何処へ行ったか。ということは碌なことじゃないのかもしれないという固定観念が過る。
事実、あれも俺もただ、渦中にはいない、外なのだ。
外にしかいないもどかしさ、こんな感情が沸こうとは、そろそろ良い歳なのかもしれない。
世の中は、生き死にの繰り返し。それを知ることもなければ得ることもなく、彼らは“自らをも殺せ”だなどと耳元で言ってくる。
理念、思想…感情というのはそれぞれが違うものだ。何故、人はこうも違えしかし差異がないのか、これは縺れだ。
ゆっくり、ゆっくりと解くつもりが、余計に絡まることもある。それは“利己”とだけでは片付かない。
今朝の訃報の手紙を思い出した。
清く自由であれ。それに苛まれる日が来ないことを…祈る、それは前にしかない。
後ろはいつでも、陰がある。その闇は、徐々に、徐々にと、朱鷺貴は部屋へ戻る前にまた門の方へ振り向いた。
特に誰もいなかった。ただ、少し鬱蒼として見えるだけ。
「はぁ?」
どうも犬猿なご様子だ。
いや…犬も食えねぇよ。
「関係ねー。きょーみ無っ。まぁ言い分はわかった兎に角仲良くすれば面倒臭い。質問に答えて欲し」
「出来るかそんな、変態と!」
「うーん同意だよ藤宮の。けどまぁわかんねぇけどこいつは多分そんな人間出来てないぞ。お前もじゅーぶん」
「それが売ったんは“思想”や。恐ろし…あんたのつまらん復讐はいつまでも終わらんで」
…知らないこともありすぎる。
復讐?なんだ?長州過激派が一掃されたとまでしかわかっていない。確かに、見方によれば理不尽に感じるような気がしなくもないとは、思ったが。
「…あんた、そっちの人だったってことか?」
「物を持ちたがるのは邪念だな。そんな下等な争い、まぁ好きに捉えてどうぞ」
「…まぁええわ。今日は嫌味を言いに来たのみ。あんた、恨まれるいうんを学んだ方がええで。誰もが上さんに遣えるわけやないわ。斬られろっちゅーねん」
「宛がありすぎてわからんなぁ、忠告どうも」
けっ、と藤宮は背を向ける。それにしっしと手を払う藤嶋。
本当に暇人なのか。いっそ寺にでも入ればいいのにとすら思える。
「……あんたが何するとか、興味はないが」
「ああそうしろうざったい」
「もう少し詳しく聞こうか。端から謎だった、何故ウチのジジイかと。
概ね、指南所だか道場だかで一緒だったんだろうと、節々で拾ったが」
「覚えてねぇし興味ねぇよ」
…外台秘要方。
それまであった世の中の俗説を、根底から覆した禁書。
昔、父にその禁書を自慢をされたことがあった。父は、勘定奉行の寺社奉行であり、書簡奉行なんかと繋がりがあったせいかもしれない、よく、本の話をしていたのだ。
「…あんたら“大人”には、足下なんてただの繋がりでしかないのかもしれない。だが、そこには繋がりとも関係のない“意思”がある。
それは翡翠も同じだ。余計な…障害を作るな、勝手に」
「ならば言う。それが時世であり、お前の言う上にも意思はある。
出来るだけ柵を断つようにと、どうだ幹斎はそう言ったはずだ」
…わからない。
これが親や子の話ならば随分拗れているのだろうが。
「えらく利己的だな。
いつでもあんたら“先人”は勝手だ。手放し解放すれば良いって問題じゃない、」
「そりゃあ優しい意見で。這えよ、置き去りにされないようにな」
吐き捨てるように言う割には、ただの偏った感情だろうか。藤嶋は少しだけ俯きがちなようにも見えた。
……あんたが何者なのかすら、知りたくもないけれど。
そして少しだけ口元を歪めたようにも見えた。わからない、ただの傷の引き吊りなのかもしれない。
こんなことで妥協して良いものかと、戸惑いが出るには充分だ。
…さて、ウチのアホ従者は何処へ行ったか。ということは碌なことじゃないのかもしれないという固定観念が過る。
事実、あれも俺もただ、渦中にはいない、外なのだ。
外にしかいないもどかしさ、こんな感情が沸こうとは、そろそろ良い歳なのかもしれない。
世の中は、生き死にの繰り返し。それを知ることもなければ得ることもなく、彼らは“自らをも殺せ”だなどと耳元で言ってくる。
理念、思想…感情というのはそれぞれが違うものだ。何故、人はこうも違えしかし差異がないのか、これは縺れだ。
ゆっくり、ゆっくりと解くつもりが、余計に絡まることもある。それは“利己”とだけでは片付かない。
今朝の訃報の手紙を思い出した。
清く自由であれ。それに苛まれる日が来ないことを…祈る、それは前にしかない。
後ろはいつでも、陰がある。その闇は、徐々に、徐々にと、朱鷺貴は部屋へ戻る前にまた門の方へ振り向いた。
特に誰もいなかった。ただ、少し鬱蒼として見えるだけ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-
ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代――
後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。
ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。
誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。
拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生!
・検索キーワード
空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道
魔斬
夢酔藤山
歴史・時代
深淵なる江戸の闇には、怨霊や妖魔の類が巣食い、昼と対なす穢土があった。
その魔を斬り払う闇の稼業、魔斬。
坊主や神主の手に負えぬ退魔を金銭で請け負う江戸の元締は関東長吏頭・浅草弾左衛門。忌むべき身分を統べる弾左衛門が最後に頼るのが、武家で唯一の魔斬人・山田浅右衛門である。昼は罪人の首を斬り、夜は怨霊を斬る因果の男。
幕末。
深い闇の奥に、今日もあやかしを斬る男がいる。
2023年オール讀物中間発表止まりの作品。その先の連作を含めて、いよいよ御開帳。
麒麟児の夢
夢酔藤山
歴史・時代
南近江に生まれた少年の出来のよさ、一族は麒麟児と囃し将来を期待した。
その一族・蒲生氏。
六角氏のもとで過ごすなか、天下の流れを機敏に察知していた。やがて織田信長が台頭し、六角氏は逃亡、蒲生氏は信長に降伏する。人質として差し出された麒麟児こと蒲生鶴千代(のちの氏郷)のただならぬ才を見抜いた信長は、これを小姓とし元服させ娘婿とした。信長ほどの国際人はいない。その下で国際感覚を研ぎ澄ませていく氏郷。器量を磨き己の頭の中を理解する氏郷を信長は寵愛した。その壮大なる海の彼方への夢は、本能寺の謀叛で塵と消えた。
天下の後継者・豊臣秀吉は、もっとも信長に似ている氏郷の器量を恐れ、国替や無理を強いた。千利休を中心とした七哲は氏郷の味方となる。彼らは大半がキリシタンであり、氏郷も入信し世界を意識する。
やがて利休切腹、氏郷の容態も危ういものとなる。
氏郷は信長の夢を継げるのか。
東洲斎写楽の懊悩
橋本洋一
歴史・時代
時は寛政五年。長崎奉行に呼ばれ出島までやってきた江戸の版元、蔦屋重三郎は囚われの身の異国人、シャーロック・カーライルと出会う。奉行からシャーロックを江戸で世話をするように脅されて、渋々従う重三郎。その道中、シャーロックは非凡な絵の才能を明らかにしていく。そして江戸の手前、箱根の関所で詮議を受けることになった彼ら。シャーロックの名を訊ねられ、咄嗟に出たのは『写楽』という名だった――江戸を熱狂した写楽の絵。描かれた理由とは? そして金髪碧眼の写楽が江戸にやってきた目的とは?
鎮魂の絵師
霞花怜(Ray)
歴史・時代
絵師・栄松斎長喜は、蔦屋重三郎が営む耕書堂に居住する絵師だ。ある春の日に、斎藤十郎兵衛と名乗る男が連れてきた「喜乃」という名の少女とで出会う。五歳の娘とは思えぬ美貌を持ちながら、周囲の人間に異常な敵愾心を抱く喜乃に興味を引かれる。耕書堂に居住で丁稚を始めた喜乃に懐かれ、共に過ごすようになる。長喜の真似をして絵を描き始めた喜乃に、自分の師匠である鳥山石燕を紹介する長喜。石燕の暮らす吾柳庵には、二人の妖怪が居住し、石燕の世話をしていた。妖怪とも仲良くなり、石燕の指導の下、絵の才覚を現していく喜乃。「絵師にはしてやれねぇ」という蔦重の真意がわからぬまま、喜乃を見守り続ける。ある日、喜乃にずっとついて回る黒い影に気が付いて、嫌な予感を覚える長喜。どう考えても訳ありな身の上である喜乃を気に掛ける長喜に「深入りするな」と忠言する京伝。様々な人々に囲まれながらも、どこか独りぼっちな喜乃を長喜は放っておけなかった。娘を育てるような気持で喜乃に接する長喜だが、師匠の石燕もまた、孫に接するように喜乃に接する。そんなある日、石燕から「俺の似絵を描いてくれ」と頼まれる。長喜が書いた似絵は、魂を冥府に誘う道標になる。それを知る石燕からの依頼であった。
【カクヨム・小説家になろう・アルファポリスに同作品掲載中】
※各話の最後に小噺を載せているのはアルファポリスさんだけです。(カクヨムは第1章だけ載ってますが需要ないのでやめました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる