二色短編集 2017~2019

二色燕𠀋

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ヒステリック

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── 彼の名前はなんと云う、

頭抱えて机の上。
・自己(顕示、投影、満足、陶酔、犠牲)
 
箱の中で開く文字。
・幻(覚、想、滅、惑、灯)

 頭の中で蠢く残像、文字羅列、陶酔のようなアドレナリンと濁流のようなナイフ、殺しにかかる凶器の一つ。手にする万年筆とは何か、白の原稿用紙が語る。

さようなら
ありがとう
愛してる

 誰かこの胸の膿に凶器を刺して、ごちゃ混ぜにして交ぜて、螺旋階段の一途、白紙に戻す一過性健忘症を丸めて捨ててくれ、僕の気持ちをさようなら、僕の言葉よありがとう、君のことを愛している。

──掴めないその愛憎の幻想に僕はどうやって沈んだと云うんだろうか。
 愛されることは怖かった、朝昼晩が煩わしかった。さようならを聴きたくなかった、ありがとうなんて利口になりたくなかった。
 
 感性、その言葉に踊る万年筆に人々は何を見る?
 言いたいことの根拠なんて、万年マンネリ化した化石のようなこの僕には押し入れの奥にしまわれたインク入れと代わりのない。
 
 殺してバラバラにして打ち砕いて散らばして見つけて描いて丸めて捨てる生物、不燃物投棄でしかないとしてもそれが根拠だ。
 痛い痛い痛い言いたい、呼吸、それは生理現象で、それも水に浸っていれば生温い呼吸困難だ。君はそれをどう訳す、どう見る、どうだって良い。新しい朝の息の根は止めてしまった。ここは細菌ガスに噎せるようだ。
 僕はどこに浮遊しているんだろうか。なんだっていい、自分に蓋をして流して、ここは僕のバラバラ死体が海水に浸かって陽の目を見ているんだ。だから必要なんだ。万年床の蚕でも蛆虫でも変わらないさ。

 耳鳴りのようなその慟哭は本能なのか、煩悩なのか。前頭葉、覚醒しろ言語障害。

 息を殺して吐き出せるそれは陶酔か。

 ──作家の名前をなんと云う。

ヒステリック。
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