追放された王妃の第二の人生

プロローグ

アリシアは、冷たい石の床に膝をつき、うつむいたまま動かなかった。彼女の長い金髪が顔を覆い、震える肩だけが彼女の激しい動揺を物語っていた。広間に満ちる重苦しい沈黙が、突如として厳かな声によって破られた。

「アリシア・ド・ラヴェルニュ」

その声は、かつて愛情を込めて彼女の名を呼んだ声と同じものだった。しかし今、そこには冷徹さしか感じられなかった。アリシアは僅かに顔を上げ、目の端から夫の姿を捉えた。

国王ヘンリーは、燦然と輝く王冠を戴き、威厳に満ちた表情で玉座に座っていた。彼の瞳には、かつてアリシアを見つめた時の温かみは微塵も残っていなかった。代わりに、そこにあるのは氷のような冷たさと、僅かな苦痛の色だった。

「汝は反逆罪により、即刻この王国より追放する」

ヘンリーの声が広間に響き渡る。その言葉一つ一つが、アリシアの心を深く抉るナイフのようだった。周囲に並ぶ貴族たちからは、ざわめきと共に、あからさまな嘲笑が聞こえてきた。

アリシアは全身の力を振り絞って顔を上げ、夫の目を見つめようとした。彼女の翠の瞳には、悲しみと懇願の色が満ちていた。しかし、ヘンリーは冷たく目を逸らし、アリシアの視線を受け止めようとはしなかった。

「陛下...どうか...」アリシアは震える声で言葉を紡ごうとした。彼女の頭の中では、これまでの幸せな日々の記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。二人で過ごした静かな朝の時間、舞踏会での優雅なダンス、そして愛を誓い合った日の温もり。それらは今、悪夢のような現実の前にもろくも崩れ去ろうとしていた。

しかし、アリシアの言葉は途中で遮られた。厳つい顔つきの兵士たちが両脇から現れ、彼女の細い腕を乱暴に掴んだ。アリシアは抵抗する間もなく、ほとんど引きずられるような形で広間から連れ出されていく。

「待って...お願い...ヘンリー！」

アリシアの悲痛な叫びが広間に響いたが、誰一人として振り返る者はいなかった。大きな扉が重々しく閉まる音が、まるで彼女の運命を封印するかのようだった。

広間の外に出されたアリシアは、突如として脚の力が抜け、崩れ落ちそうになった。兵士たちに支えられながら、彼女は呆然と前を見つめている。王妃の座から転落し、国外追放。アリシアの頭の中は真っ白になっていた。

彼女の目の前で、華やかだった宮廷生活が音を立てて崩れ落ちていく。豪奢なドレスは泥にまみれ、優雅な物腰は絶望に打ちのめされ、輝かしい未来への希望は無慈悲に打ち砕かれた。

アリシアにはこの事態が夢としか思えなかった。しかし、肌を刺す冷たい風と、兵士たちの無機質な視線が、これが残酷な現実であることを否応なく思い知らせた。

彼女は最後にもう一度、閉ざされた扉を振り返った。そこには彼女の過去が、そして愛する人が、二度と手の届かないところにいた。アリシアの瞳から一筋の涙が零れ落ち、彼女の頬を伝って地面に滴った。

それは、彼女の新たな人生の始まりを告げる、苦い雫だった。