手の届く存在

スカーレット

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本編

Girls side65話~お嬢さまの変身~

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「そうなんだ?うん……わかった」

せっかくお膳立てしてあげたって言うのに、何をしてるんだかあの朴念仁は……。
やれやれとため息をついて、私は電話を切った。
今日は紗良さんがどうしても大輝と二人で過ごしたい、と言うので私は来られるメンバーに声をかけて女子会を開くことにしていた。

朋美は今日バイトがあると言っていて、ノルンもちょっと忙しいとのこと。
今いるのは私に桜子、明日香、和歌さん、愛美さん、フレイヤにロヴン。
それから新規三人。

時刻が午後九時を回ったころ、その紗良から電話がきて告白?なのかあれは。
その結果が電話で知らされた。
どうやら大輝は考えさせてほしい、と言ったらしい。

「紗良さんだっけ?どうだったの?」
「うん、何か大輝考えさせてくれって言ったみたい。保留ってことになるのかな」
「ええ?あの大輝くんが即決しないなんて、珍しいこともあるもんだね」

桜子や朋美が目を丸くしている。
明日香と和歌さんは少し複雑そうな表情だ。
確かに珍しいかもしれない。

今までの大輝だったら、言われるがままにほいほい決めちゃってたかも、というのが想像できる。
しかし今回に限っては、出会い方から解決に至るまでがちょっと特殊だったというのは否めない。
だからこそ、大輝は慎重になっているのかもしれない、と思った。

「まぁ……あんなことがあった相手だからね……」

思い出して笑いそうになるのを必死で堪えながら桜子は言う。
桜子のそういうところ、私は割と嫌いじゃないよ。

「あれだろ?結局はションベンぶっかけられて覚醒しちゃいました、って感じの」

相変わらずの下品な言い方だけど、大体合ってるとは思う。
紗良さんにとって初めて尽くしのあの日、その相手がたまたま大輝だった。
周りから見ればそんな感じなんだろうけど、紗良さん本人からしてみたらきっと人生観すら変わってしまうほどの出来事だったのだろう。

もう少しマシな出会い方、出来事だったならもしかしたら大輝も、素直にオッケー!とか言って今頃ホテルにでもシケ込んでいるんだろうなと思える。
ただ、紗良さん本人も特別落ち込んだ様子ではなかったし、大輝にその意志がなければ考える、という結果にすらなっていないのだから、と私は考えた。
あの出来事……正直一般的に見たら最悪な出来事だったはずなのに、そこから好意を持てるというのはすごいことだと私は思う。

もちろん大輝にだったらおしっこでも何でもひっかけてもらって全然構わないし、もし大輝が寝た切りになったりしたら私が汚物の世話でも何でもしてあげるつもりでいるから、私の考えは全く参考にならないんだけど。
というかここにいるメンバー、全員それくらいのことはしそうではある。
明日香や朋美、和歌さんだってあの事件の後のトイレ掃除を嫌がる様子もなく普通にごくごく自然にやっていたし。

「仮になんだけど……紗良さんがこっち側になるとして、反対って人はいる?」

いないんだろうなぁ、とは思いながらも一応聞いてみる。
反乱分子としてありえるのは現状明日香と和歌さんだが、この二人もあの子へのわだかまりはもう持っていない。
そして予想通り二人も全然反対しないどころか、そこまで大輝のことが好きなんだったら、と賛成している様だった。

「大輝くんが何を思って保留にしたのかはわからないけど……紗良さんは基本的にはいい子よ。問題視されていたあの性格もすっかり影を潜めているし……多分大輝くんを独り占めしたい、みたいなことも考えてないんだと思うわ」
「みたいだね。末席でもいいから、なんて殊勝なこと言ってたらしいから」
「あの、紗良さんが……?」

和歌さんとしては少々意外だった様だが、それだけ紗良さんが本気だということなのだろう。
しかし、大輝としても今回こうして悩むことは無駄にはならないんじゃないかと私は思う。
今まで流される様に生きてきた大輝が、誰に言われるでもなくちゃんと考えて保留にした。

その事実自体は彼を成長させることになると思うし、結果的に私たちに向き合う姿勢にも関わってきそうだからだ。
元々私としては何万人女が増えようと構わない、なんて思っていたくらいだし。
紗良さんがそれで本当に幸せになれるって思えるんだったら歓迎する気持ちもある。

「で、今回はどうするんだ?大輝が頼ってきたら」
「ん?ちゃんと手は差し伸べるよ?だってあの子、いつも一人で抱え込もうとするから」
「まぁなぁ……自分の力で、ってのはいいことだと思うけど、周りを頼らなすぎるもの問題ではあるもんな」
「正直、大輝くんがしたい様にさせてあげるのがいいのかもしれないわね。もし紗良さんが断られたとしても、大輝くんが決めたことなら尊重してあげたいと私は考えているの」
「んー……大輝くんは断らないんじゃないかな。紗良さんのことを嫌ってる様子ではないし……多分見た目だけならそこそこ好みなんじゃないかと思うから」
「柔らかそうですもんね、紗良先輩」

内田さんがそう言って、みんなが笑う。
確かにあのお腹のお肉は、大輝にも触らせてあげたいかもしれない。
胸も当然柔らかいのだが、あのお腹のちょっとしたぷよっという感触はなかなかのものだった。

絶対大輝はあのお腹の虜になるはずだ。

「ところで、こっち側に来たとして何て呼ぶんだ?」
「え、紗良さんでいいでしょ。何か代案とかあるの?」
「うーん……ションベンぶっかけられて感じる超ド変態ドMお嬢様、とか」
「ま、愛美さん……それはさすがに悪意しか感じないわ……」
「自殺とかしたらどうすんの……」
「やっぱダメか。忘れてくれ」

それはそれとして、紗良さんにはちょっと特殊な性癖の一つくらいあってもおかしくはないと思う。
そして、大輝には紗良さんを迎えるに当たって障害のない様にしてあげたい。
となると、紗良さんには意識改革的なものをしてもらうのがいいかもしれない。

そう考えて私は自室の本棚を漁る。
あ、そうかあの作品ならアニメもあるし、そっちの方がわかりやすいか。
考え直した私は、リビングにあるパソコンを起動する。

「何をしているの?」
「紗良さんさ、あのキャラでも十分強烈なんだけど……やっぱり大輝と付き合って行くに当たっては意識改革的なものが必要なんじゃないかなって」
「意識改革?」
「そう。やっぱりおしっこかけられるなんていうレベル高いことで目覚めちゃうんだったら……」
「まさか、睦月ちゃん……」

桜子が青ざめ、後輩二人と小泉さんが不思議そうな目で桜子を見る。
そうだった、愛美さんと桜子はあの作品を単行本で読んでいたんだ。
ならば話は早い。


翌日、大輝は今までにないほど、物凄く悩んでいるオーラを出しながら学校に来た。
この調子じゃ満足のいく答えは出ていないはずだ。
しかし放置も可哀想なので普段通りにお昼ご飯を一緒したりして、大輝が思い悩む点はやはりあの件に尽きるということがわかった。

やはり私にできることは一つしかない様だ。

「あ、紗良さん?ちょっと学校終わったらこっち来れる?お話したいことがあって」

私は紗良さんを放課後に呼び出した。
明日香と桜子、そして面白そうだから、と新規三人も一緒だ。
大輝には今日も女子会やるから存分に悩むが良い、と伝えておいた。

「睦月さん……これ、何ですの?」
「ん、実はね……紗良さんには今の強烈な個性に加えて、習得してほしい技術、更に強烈な個性があるんだ」
「はい?」

私のマンションに紗良さんを招き、他のメンバーも集まる。
紗良さんのことについて話をする、と言うと朋美も来たいということだったので、迎えに行って大輝以外のメンバーがここに集結していた。
何だかんだ言って朋美もこの集まり好きみたいで安心する。

「まずは、これを見てもらおう」

そう言って私が用意したのは、昨夜一部のみんなに見せたアニメだった。

「た、タイトルから恐ろしいイメージの伝わってくる作品ですのね……」
「あー……タイトルからは想像できない様な展開だと思うから、肩の力抜いて見たらいいよ」
「そうだね……ぶふっ……」
「?」

桜子が昨日見た時のことを思い出している様だ。
個人的に下品でもあるけど、なかなか奥深い作品だと思う。
よく設定やら伏線なんかも練られているし、何より声優もすごい。

この人こんな声出すの!?
って普段あまり驚かない私でもちょっと驚いた記憶がある。

ちなみにアニメ版を桜子は見たことがなかったらしい。
明日香は漫画も読んだことがないみたいだが、和歌さんは両方網羅していた。
新規三人も趣味がアニメ鑑賞とかではないらしく、昨日見た作品には強烈な思い出を残した様だった。

そして四時間後。

「わ、わたくしに、あんな言葉遣いをしろと……?」
「大丈夫、慣れだよ慣れ。紗良さん万能そうだし、すぐにできる様になるから」
「そ、そうでしょうか。わたくし、万能そうに見えます?」

早速乗せられやがった……チョロいなぁ、この子……。

「ま、まぁ紗良さんが万能かは置いといて……大輝はああ見えてマゾい一面も持ってるから、ああいう風にしてあげると喜ぶと思うなぁ」
「睦月、その言い方は悪意が……」
「だって大輝、人の裏の顔とか大好きじゃん。二面性とか多面性とか持ってる人間大好きだからね、大輝」
「え、そうなの?ああ、だから朋美も……」
「何か言ったかな、桜子……」

紗良さんには先ほど見た作品のDVDと、単行本を全巻貸してあげることにした。
これも人生勉強だ。

翌日から、紗良さんの猛特訓は始まった。
時には私のマンションで。
時には明日香の家で。

そして時には紗良さんの家で。
紗良さんの家での特訓の際には、紗良父にその様子をうっかり見られてしまい紗良父が死にそうなほど笑っていた。
意外にも努力家なお嬢さまである紗良さんは、私たちの無茶ぶり……いや緻密な要求にも悉く応えるべく努力をし、時には私に、時には明日香に助言を求めるなどその必死さが窺えた。

こうまでしてまで大輝の傍にいたい、という意志……もはや執念とさえ言えそうだが、こんなにも頑張っているのだから、私としても紗良さんの願いを成就させてやりたいと思った。

そして一週間に及ぶ猛特訓の末に、紗良さんはとうとう会得した。
途中挫折しかけて心が折れかけて、泣きそうになっていることもあった。

「わたくしが、この様な言葉遣いなど……」

そう言っていたが紗良父からは概ね好評の様だった。
この一週間の間、大輝のことは絵里香ちゃんに頼んだり新規三人が交代で相手をしてくれたりしていたので、私大好きな大輝としては不満もあったかもしれないが総監督の私が抜けてしまうわけにもいかないので、涙を呑んで紗良さんを見ていた。
そして今日。

まぁ、大輝とは同じ学校だからそんなに構えることもないんだけど……椎名睦月プロデュースによる新生西条紗良のお披露目を行うことになった。
場所はいつもの私のマンション。
最初は外で、と思っていたが紗良さん本人の希望もあり、外であんなことして警察沙汰になったら大変だということで室内にすることになった。

そして大輝も今日、答えを出そうとしている様だ。
特に大輝が何か言ってきたわけではないが、大輝の顔に答えまで全部書いてある気がする。
今日、二人の決戦の日になることだけは間違いない様だ。
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