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スカーレット

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本編

大輝編65話~お仕置き~

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「いたな、あれだ」
「ふむ……最近の中学生っておっかないねぇ」

先ほど忍び込んだカラオケ屋から三人組が出てくるところを二人で確認して、俺たちは再び世間の目を欺くことにした。
つまり、周りから俺たちの姿が見えなくなる様にしたのだ。

「大輝、そのやり方知ってたんだ?」
「いや、何となくできた。ある程度の理屈を理解してるからかな」
「へぇ……今度ちゃんと色々教えてあげようか、それなら」

それはありがたい。
正直力が使える様になったと言っても、俺の想像力では出来ることに限界がある。
それでも人間離れしているとは思うが、睦月のやつには到底及ばない。

「じゃ、行くよ」

睦月が俺に目で合図をして、俺も首肯で答える。
三人組は大手チェーンのドラッグストアに入って行った様だった。
俺たちも中で三人組の動向を探る。

「これだよね、やっぱり」
「あー、CMで見た。こんな高いんだぁ?」

そんな会話をしながら三人組が商品を手に取る。
俺も少し気になってその商品を見ると、どうやら化粧品の様だ。
中学校から化粧品ねぇ……まぁ、最近はそういうのの低年齢化も進んでるとか言うし、興味あってもおかしくないんだろうけど……問題はそのお値段だ。

一般的な缶コーヒー一本にすら満たないその容量。
豪華な容器に入ったその化粧品はおそらく化粧水なんだろうが……五千円……だと……?
駅前のスーパーで缶コーヒー五十本は買えるじゃねぇか……なんて思いながら彼女らを見ていると、動きに変化があった。

どうも二人が会話している間で茶髪の女がカバンにその商品を入れた。
もちろん会計などしていない。
――万引きか!

そう思って咄嗟に手が出そうになったところで、その手を睦月に抑えられる。
その目が大丈夫、と言っている。
何が大丈夫なのか、と思って見ていると、三人は話しながらその店を出た。

誰も三人が万引きをしたことには気づいてはいない様だ。
俺たちも当然後をつけて、三人が駅から少し離れた公園に入ったところで姿を現した。

「やぁ、見てたよ。随分見事な手口だったね」
「!?」

そう言って睦月が携帯の画面を三人に見せる。
そこに映っていたのは、茶髪がカバンに例の化粧水を入れている瞬間。
万引きの決定的瞬間というわけか。

「だけど、見てる人は見てるもんなんだなぁ。さて、この写真どうしよっか。プリントアウトして学校の正門にでも貼る?」
「な、何だよあんた!ふざけんな!ぶっ殺すぞ!!」

昔からこう言う悪ぶってるガキの言うことって、決まってるのかな。
実際殺していいよ、なんて言ってナイフでも渡せばビビッて逃げるんだろうと思うが。

「ほう、殺す?面白いね。人殺したことあるの?ちなみに私も彼も、通りすがりだけどね」
「はぁ?今そんなこと関係ねぇだろ!!」
「本当、口悪いね。もう一個、君たちがやったことの証拠があるんだけど、どうする?」
「何だよ、私たちがやったことって……」

急に言葉が尻すぼみになって、俺は思わず吹き出しそうになった。
思い当たってます、っていうのがありありと伝わってきて何ともおかしい気分になってくる。

「覚えがないってことなら、これを今から警察に提出して相談するだけなんだけどさ。殺すって言うなら相手になるけど、喧嘩とかしたことなさそうだよね、君たち」

睦月の目が、氷よりも冷たく三人を見つめる。
怒りでもなく、悲しみでもない、何とも形容しがたいその目。
思わず俺もちょっとビビってしまった。

俺に向けられているわけじゃないんだっていうのはわかっているんだが……こいつの色んなところ見てきてるからだろうか、いい予感を一つもさせない目だ。

「な、何だよ……あんたら高校生だろ……中学生いじめて楽しいのかよ……」
「うん?楽しいよ?君たちだって、教師とその娘いじめてたじゃん。楽しかったんでしょ?だから、私たちが君たちをいじめて楽しんでても何ら不思議はない。そうでしょ?」

そう言って睦月が何処からともなくマシンガンを取り出す。
……え?マシンガン?
そのマシンガンを見て、三人はビクッとした。

殺されるとでも思ったのだろうか。
というか何でマシンガンなんだ……ここでぶっ放したりしたら大変なことになるんじゃ……。

「さっき、殺すとか言ってたっけ。いいよ。ほら、これ使っていいから」

睦月がそのマシンガンを茶髪の子に手渡して、使い方を丁寧に教える。
反動が……とかこう持たないと、っていう説明がやたら易しく感じられたが、これもさっき睦月が言っていた作戦の一つなんだろうか。
あ、そうか。

そういえばさっき、適当なところで倒れてね、とか言ってたか。
なら俺は撃たれるわけだな。
ということは当たっても問題ない弾が入っているということか。

「そんなへっぴり腰じゃ、お仲間に当たってお仲間が死んじゃうけど、大丈夫?もっと腰を落として、反動に負けない様にしないと」

睦月が説明を終えたのか、俺の隣に戻ってくる。
そして、ちょいちょい、と手招きをして撃ってこいと挑発をする。

「ほら、撃てば簡単に殺せるんだから。ていうか撃たないと、証拠が全部警察と学校に流出することになるよ?」

睦月の言葉に三人が表情を固くする。
表情ではなく雰囲気で威圧しているのがよくわかる。
何故なら俺もよくやられるからな。

「それとも何?殺すって口だけ?ならこのまま学校と警察に……」
「ち、畜生が、なめやがって!!殺してやんよおおおおおお!!!」
「ちょ、ちょっと亜実果あみか!?」

亜実果と呼ばれたその茶髪の少女が、やけくそになって俺たちへ向けてマシンガンを構え、引き金を絞った。
勢いよく射出されたその無数の弾丸が俺や睦月の体に飛来して、体中のあらゆるところを貫いていく。
そしておびただしく肉片が飛び散って至るところが抉れて大量出血するものの、痛みは感じない。

なるほど、睦月の見せている夢……幻かな?
でも、これ……夢にしても幻にしても、リアルすぎて三人ともトラウマになるんじゃ……。
とりあえずさっき睦月に言われた通り、俺はその場で崩れる様にして倒れる。

自慢じゃないが演劇なんかやったことないし、演技力は大根以下だ。
下手に動くとボロが出そうなので、ひとまず俺は大人しくその場に倒れておくことにした。

「ひっ……ほ、本当に撃ったのかよ、亜実果……」
「し、仕方ないだろ……文句があんなら、お前だって……」
「ちょっと、やめなよ!!」

三人が仲間割れをし始めるのを耳だけで聞いているが、本人たちはこれが現実だと思っているんだろう。
たかだか万引きの証拠をもみ消す為に、人をも殺そうっていうのは大したもんだ。
歪んでるとは思うけどな。

「わ、私のやり方に文句があんなら!!お前も殺すからな!!」

声の調子がもはや正常じゃない。
このままだと本当に茶髪の亜実果とやらは仲間も殺してしまうんじゃないか……そう思った時だった。

「ぐぐ……おおおおお……」
「!?」

睦月の体がゆっくりと立ち上がり、所々抉れた顔が三人を見つめる。
そして俺の体も勝手に立ち上がらされて、ゆっくりと三人に近づいていく。

「な、何なんだよお前ら!!し、死ねよ!!」

亜実果とやらが怯えて再度マシンガンの引き金を絞る。
しかし、弾切れになったのか銃身からその銃弾が撃ち出されることはなかった。
ていうか俺……ホラー苦手なんだけど……。

睦月のこんな姿、夢ってわかってても夜中トイレいけなくなったらどうしよう……。

「く、来るな……」
「ひ……」
「あああああ……」

三人が文字通り三者三様の怯え方で俺たちから逃げようとしている様だが、どうやら腰が抜けたらしくそれもままならない。
というかこのやり方って……睦月は本当にあの作品好きなんだな。
まぁ、俺も好きだし面白いって思って読んでたクチだけど。

「こ、こんなの……嘘だ……夢に決まってる……」
「あ……あ……」

一人が失禁した様で、鼻につく匂いが辺りに充満し始めた。
いかん、こんな時なのにJCが……とか一瞬考えてしまう。
睦月がゆっくりとその歩みを進めて、亜実果とやらの目の前にゆらりと立つ。

「や、やめろ……」
「こ、殺さないで……」

口々に命乞いを始める三人組だが、睦月はその言葉が聞こえないかの様に手を伸ばす。
そして、茶髪の髪を乱暴に引っ張って、自らの眼前に寄せて抉れた顔をニヤリと歪めた。

「や、やめろおおおおおおおおおお!!!!」

この世の終わりでも見たかの様な亜実果の表情と絶叫。

それが聞こえた瞬間、俺の目にも睦月がいつもの睦月に戻った。
ということは、俺も元に戻ってるのか。

悪夢ユメは見れたかよ?ってね」

言うと思った。
ふと気になって亜実果の方を見ると、何と亜実果は大根を両手に抱えて口から泡を吹いている。
どうやらお漏らししちゃったのは黒髪ロングの子だった様で、まだ事態が飲み込めていないのか、口をわなわなとさせている。

一番ひどかったのはウェーブのかかっている子で、もう目の焦点が合っていない。
これは所謂レイプ目というやつだろうか。
レイプ目のJC……いやいやいや、俺はこんな時に何を……。

「な、何で……生きてんだよ……」
「は?何言ってるの?大根で人が殺せるわけないじゃん。無理やり喉にでも詰め込めば別かもしれないけど、大根から銃弾なんか出てこないでしょ。それより大輝、これ見てよ」

睦月がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、スマホの画面を俺に見せてくる。
そこには、先ほどの瞬間が夢じゃない現実バージョンで展開されていた。

決死の表情で大根をマシンガンの様に構えて何やら叫んで、その直後隣で黒髪ロングの子がお漏らし。
カメラ目線でレイプ目を晒すウェーブの女の子。

「これ、警察に渡したら変なドラッグかキノコでも食べたんじゃないかって思われるかな」
「ば、バカやめてやれよ……」

思わず笑いそうになってしまったが、確かにそういう風にしか見えない。

「お、お前ら一体……」
「さっきから黙って聞いてればお前らって、一応年上なんだけど?」

睦月が多少むっとした顔で反論するが、お前さっきからペラペラ喋ってんじゃん。
まぁ、そんなことおっかなくて言えたもんじゃないんだけどさ。

「で、どうするの?さっきの証拠とこのヘンテコ動画と合わせて警察に持ってく?それとも自分たちでやったこと素直に言いに行く?もっとも後者の場合は私たちも監視させてもらうけどね。人にとどめ刺してもらうか、自分たちでとどめ刺すかの違いだけだけどね。君たちの先生が冤罪だって言うのは、ちゃんと証明して謝罪してもらう」

睦月がびしっと言ってみせると、かろうじてまともに意識がある亜実果とロングちゃんは俯いて震えだした。

「あ、ちなみに前者の場合は、君のお漏らしが全世界に一斉配信されることになるから。JC生お漏らしの瞬間!ってね。あとはお笑い動画にでも投稿するかな」

本当、悪魔みたいなやつだなこいつ……。
睦月の言葉を聞いて、お漏らしちゃんが……度々呼び方変わっちゃうけど、もう俺の中ではお漏らしちゃんだ。
うん、仕方ないね。

「富沢が……悪いんだよ……」
「は?」

お漏らしちゃんが、俯きながらも悔しそうに涙を流しながら呟く。
首謀者は亜実果じゃなかったの?
俺てっきり他の二人が亜実果に逆らえなかっただけなのかも、って勝手に思ってたんだけど……。

「私の趣味に口出ししてくるから!だから!!」
「どういう経緯でそうなったのかはわからない。興味もないよ。だけどね、君たちはそれで人一人の人生を狂わせてるんだよ?わかってる?」
「…………あんなやつ、学校からいなくなればいい!!」
「さっきから黙って聞いてりゃ……」

あれ、勝手に口が……。

「何があったか知らないけどな、俺もあそこの中学校出身で、あの人の生徒だったよ。お前らが何したか知らんけど、あの人は理不尽に人を怒ったりする様な人じゃなかったはずだ。それを……」
「あいつは!富沢は!私たちの趣味であるストレス発散法を真っ向から否定したんだ!あのバカ男の泣き顔見るのが、私らの何よりのストレス発散だったんだよ!!それを富沢はバカにしたんだ!!」

どういうことだ?
先生の他にもう一人男が出てきた?

「それって、他の男子をいじめていた、ってこと?」

睦月もさすがに理解できなかったらしく、問いただしている。
だとすれば、こいつらのやっていることは……。

「そうだよ!!いい暇つぶしになって、毎回笑わせてくれるんだ!!それの何が悪い!?」

そう言われた瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。
そして気づいたらお漏らしちゃんめがけて拳を振り下ろそうとしていたのだ。
咄嗟にお漏らしちゃんが固く目を閉じ、その瞬間はすぐに訪れるかと思われた。

しかし、その拳がお漏らしちゃんに振り下ろされることはなく、手首を掴まれた感覚があった。

「大輝、ダメだよ……そういうの、似合わないよ。私に任せて?」

睦月が掴んでいた手を離して、三人組に向き直る。

「じゃあ、自分たちがやってきたことは正しくて、全部間違ってないって言い張るんだね?」
「そうだよ!!私たちは正しいんだ!!何も間違ってなんか……!!あんたに私たちの気持ちなんて……!!」
「そう、わかった」

そう言って睦月がスマホを操作する。
どうやら電話をかけようとしているのか?

「ど、何処にかけてんだよ!!」
「うん、君たちの気持ちなんて欠片もわからないから、警察に任せることにするわ。さっきの動画とかも全部証拠として提出させてもらう。あと、先生に関する証拠って君たちの会話だから。こっちもそれなりに警察から聞かれることはあるかもしれないけど、別にいいよね」
「な……や、やめ……」
「あ、もしもし警察ですか?……あっ」

電話がつながったと思われた瞬間、亜実果が飛び出して睦月の携帯に手を伸ばした。
簡単に奪われたりする睦月ではないし、彼女が何かアクションを起こしたということは進展があるかもしれない、と思って俺はひとまず見守ることにする。

「ま、待ってくれよ……私たちが、悪かった」
「亜実果!?」

お漏らし娘が驚愕の表情を浮かべる。
ここにきて裏切られるとは思わなかったのだろう。

「やっぱり、こんなのダメだ……未成年だからって何してもいいわけじゃない。そう言いたいんだろ、あんた」
「まぁ、そうかもしれないけど……正直先生がちゃんと無実だってわかればそれでいいよ。同じ学校に復帰できるかはわからないけどね」
「なら……ちゃんと謝罪しに行くから……」

何だ、こいつまともなこと考える頭あんのか。
さっきの動画見た限りだと、本当にドラッグでぶっ飛んでる様にしか見えなかったのに。
何て言うか、目がイっちゃってた。

「じゃあ、さっそくだけど警察に行ってもらう。先生が拘留されてるところはわかるよね?」


こうして、富沢先生の事件は幕を下ろすこととなった。
三人は学校で先生にクロロホルムを染み込ませた布を、不意打ちで嗅がせて意識を奪ったらしい。
三人で代わる代わる先生にキスをしている写真を撮っていたらしく、それを警察に持ち込んだことが発端だった様だ。

それらを三人が意図的に状況を作って撮った、ということを亜実果が説明して、お漏らし子ちゃんは黙ったままでそれを聞いていた。
レイプ目JCは精神がイカれたらしく、睦月が精神操作みたいなことをして三日もあれば元に戻る、と言っていたので近くの病院の入口に放置してきた。
あそこなら誰か病院の人間が気づいて何とかしてくれるだろう。

ちなみにお漏らしちゃんのパンツは、睦月がコンビニで替えのものを買って渡しているのを見た。
そんなことで俺は興奮したりしないが、ちょっとくるものはあったよ、うん……。

そして亜実果とお漏らしは万引きについても言及され、お店と学校にも連絡が行った様で、最終的に親を呼ばれていた。
亜実果とやらは普段から親に反発していた様で、母親が泣きながら何発もビンタを食らわせていて、警察が数人がかりで止めているのが印象的だった。

逆にお漏らしは普段いい子を装っていたらしく、両親揃って迎えに来ていたが両親ともが泣き崩れていた。
こういうのを見ると、何ともやりきれない気持ちになる。
親だって、こういう風に育つなんて思って生んだ訳ないだろうし。

みんな人生に多かれ少なかれ不満を持って生きるのなんか、大体は当たり前だと思う。
もちろん例外もあるかもしれないが、そういう人ばかりでもないだろう。
なのにその責任を人に求めるというのが、俺には許せなかった。

いい子を装うなら貫けばいいのに。
それができないなら、真っ向から対立して納得できるまでぶつけ合ったら、また違ったかもしれないのにって思う。
まぁ、今時そんな熱いハートを持ったやつなんてそういるもんじゃないかもしれないけどな。

そして先生だが……無事釈放されたまでは良かったのだが、証拠写真を絵里香ちゃんママが見てしまって大変なことになったらしい。
俺たちも一応の説明はしたのだが、JCに手を出すなんて、みたいな先入観から絵里香ちゃんママは大荒れに荒れたという。
離婚には至らなかったらしいが、家ではそれこそ奴隷みたいな扱いになったとか。

そして俺の母校でもあった元の学校への復職はやはり難しかったらしいが、それでも事情などを加味してくれた校長や教頭が働きかけて近くの学校に転勤?になったと聞いた。
マイホーム購入してからまだそこまで経っていなかったというのも聞いていたしい、その点に関しては良かったと思う。

そしてJC三人組。
こいつらはとりあえずそれぞれ違う学校へ転校させられたらしい。
教師がどうこうしたわけではなく、親の意向でそうなったのだとか。

まだ中二らしいので受験等にはまだ間に合うということで、これまた近くの……とは言っても富沢先生がいない学校になったらしいが、一応きちんと通っているらしい。
何で知ってるかというとだな……。

「あ、大輝先輩!!」
「げ……またお前らか……」

何故か三人揃って俺の元にいるという。
学校が終わる頃、バイトが終わる時間等々大体待ち伏せされていて、俺はこいつらから逃げるのに神経をすり減らしている。
どうしてこうなったのか。

それぞれ親から、あのカップルがいなかったら娘はおかしな方向へ行っていた、みたいな説教を受けてそれから俺を観察する様になったとか。
睦月が俺のバイト先や学校については教えたらしく、理由を聞いたら面白そうだったから、と悪びれもせずに言うのでさすがに殴りたくなったが、正面からやり合って勝てる気はしなかったので黙って逃げに徹しているわけだ。

「逃げないでくださいよ、先輩……私たち、先輩に心酔してるんですから……」

心酔とか中学生が使ってるの初めて見たよ、俺は。
そして俺はほとんど何もしてなかったどころか、お漏らしちゃんに関しては殴ろうとまでしたってのに、何でこうなってるのかがわからない。

「先輩、私……あの瞬間にちょっと目覚めたっぽくて……だから、良かったら思い切り殴ってくれませんか?」

再会したときにそう言われた時は思わず戦慄したものだ。
中学生のうちからMに目覚めるとか……そして俺にその責任を求めるのか、こいつはと。

「私たち、先輩が望むなら尽くしますから」

茶髪の亜実果がそう言った時は、さすがにちょっと鼻息荒くなりかけたもののさすがに中学生に手を出すのは、と考えて思いとどまった。
考えてみたらこいつら、二年前までランドセル背負ってたんだよな……なんて考えると非常に冷静になれる。

「望まないから。とりあえず、俺が望むのはお前らがちゃんと学校通って真っ当な大人になってくれることかな。あと女は間に合ってるから」
「そんなこと言わないでくださいよ。睦月先輩からも聞いてますし、私たちも末席に加えてくれればそれでいいんで……そしたら私たちもちゃんと咥えますから」
「お前、上手いこと言ったつもりなんだろうけどな、女の子からそんなの聞かされたら大半はドン引きだからな。俺も例外じゃなかったよ、うん。末席でも何でもいいけど……入りたかったらまずはちゃんと中学出ろ。じゃなきゃお前らの意向は全部無視だ。あと、ちゃんと絵里香ちゃんたちに謝りに行ったんだろうな」

俺がそう言うと、三人ともが固い表情で押し黙った。
どうしたんだろうか。

「それがですね……」

どうやら三人とも自宅まで謝りに行ったらしいのだが、絵里香ちゃんママが出てきてバケツの水をぶっかけられて追い返されたとのことだ。
この寒い時期にそんなん、風邪ひきそうだけど……こいつらバカだから大丈夫かな。

「なるほど、まぁそれは……因果応報ってやつだな。懲りずに足まめに通うことくらいしか俺にも思いつかないわ。あと、悪いんだけど俺これから用事あるから、困ったらまた連絡してこいよ」

富沢一家とこの三人の溝はそうそう埋まらないだろうが、俺としてはまず目の前にあるクリスマスパーティを過ごすというミッションがある。
なので今度行く時は俺も一緒してやるから、とだけ言って三人と別れ、俺は睦月のマンションへ行くことにした。
去年はそういえば、アイドル騒動やらエロ動画騒動に忙しくしてたっけ……。

今年はそういうもめ事もなく過ごせるといいな、と去年の出来事を思い出しながらマンションまでの道のりを急いだ。
こんな日に呼び出すなよ、全く……。
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