144 / 144
番外編
手の届く存在~箸休めの七夕ネタ~
しおりを挟む
「なぁ、せっかくこんだけ広い家なんだしさ、竹でもその辺からかっぱらってきて短冊書こうぜ」
いつものことだが、愛美さんが突拍子もないことを言い出す。
短冊を書くのはまだいい。
そもそもここ人の家だよね、愛美さん。
なのにその辺からかっぱらってきた、盗品を人の家に置くのはいかがなものだろう。
「愛美さん、かっぱらってこなくても竹くらいなら私が生成できるから」
あ、そんな心配ありませんでしたか、そうですか。
愛美さんの物騒な提案を根底から覆せる能力持ちがここにはいましたね、家主だけど。
「でも、何処に飾るんだ?ベランダ?短冊飛んじゃうんじゃないか?」
書いた短冊が風で飛んでしまっては少し悲しいし、それを誰かに見られたらって思うと、少し恥ずかしい気もする。
「ベランダじゃないよ。リビング、そこそこ広いから」
ああ、なるほど。
言いながらご立派な竹を三本、睦月は生成する。
どういう仕組みでこんなことが出来るのか、何度見ても原理はわからない。
「これを、こうして……っと」
何故か睦月は竹を斜めに切り、三本並べた。
真ん中のだけ、気持ち長めに見える。
「これって、門松じゃないか?」
俺が思ったことを、和歌さんが代弁してくれる。
おかしいな、とか呟きながら睦月が門松を消した。
季節感もさることながら、常識もここにはない様だ。
そして再度生成される竹。
「待て睦月。切らなくていいから」
今度は俺が、適当な位置を見繕って竹を並べて立てる。
「紐あるか?」
「そこにいるじゃん」
「は?」
「将来はヒモの予定だよね、大輝」
「…………」
確かに沢山女囲ってるし、そう見られても仕方ないとは思っているが……心底心外である。
俺はちゃんと働くつもりだし、だけど俺一人の稼ぎでみんなを養える自信はないから、みんなにもある程度働いてもらえたら、とは考えてるけど。
そしたら俺に何かあってもちゃんと食べていけるだろ?
……何かあったら間違いなくヒモだわ。
「まぁ、大輝は私が養うから大丈夫だよ」
「そ、そうかいありがとうよ…ところで無機物の紐はないのか?ないなら生成してくれよ」
「何だ、それならちゃんとそう言ってよ」
最初からそう言ってたつもりなんですが。
曲解したのはあなたですよね。
すぐに紐が用意され、俺は竹を適当なところで縛る。
どうせ今日だけのものだし、そこまで凝る必要もないだろう。
短冊が何枚かついたら見映えも変わるだろうし。
「あ、七夕?私も短冊書きたい!」
桜子が部屋に入ってきて、一気に騒々しくなる。
まぁこういうイベントごとには賑やかし役がいてもいいか。
「一人二枚な。あんま沢山書くと竹が短冊だらけで見た目からおかしくなりそうだし」
愛美さんと桜子、和歌、明日香、それに睦月。
「あれ?ノルンさんは?」
桜子が気付く。
そういえば今日見てないかもしれない。
「あー、今日神界だって言ってたかも。ちょっと起こそうか」
「ん?寝てるの?なら起こすの可哀想じゃない?」
「大丈夫。寝起きそこそこいい方だから」
そう言って睦月はノルンさんを念で起こした。
「おお、起こしてくれてありがとうね。ぐっすり寝過ぎて夜になっちゃうところだったよ」
ノルンさんが起きて、睦月の部屋にくる。
「で、これって?七夕って言うんだっけ?織姫と彦星?だったっけ。そんなのいないのにね」
無邪気に夢をぶち壊そうとするノルンさん。
現実主義なのはわかるけど、こういうのは風情とかロマンとかそういうのを楽しむものなんですよ。
「まぁ、いるなんてさすがに思ってないけどな。こういうのって自分の願望書いたりして、それを目標にして一年生きるみたいなとこあるから」
珍しく愛美さんが良いことを言う。
てっきりロマンや風情すら、容赦ない下ネタ出ぶち壊してくるかと思ったのに。
「去年も愛美さんは短冊書いたの?」
何か地雷っぽい質問を当然のごとく投げかける睦月。
「ああ、書いたぞ」
少し愛美さんの顔が暗くなった様に見えたのは、気のせいだと思いたい。
「何て書いたの?というか……何処で?」
ああ、それ聞いちゃうのか。
俺もさすがに聞いてはいないから知らないが、何となく想像ができる気がする。
「会社でな……うちの課の誰かが取引先の人からもらった、とか言ってオフィスに飾りやがって」
もうその一言で、本位でなかったのがありありと伝わってくる。
「何て書いたか、だっけ。それはな」
「愛美さん、辛いなら言わなくていいんですよ」
俺は愛美さんの肩を軽く叩き、優しく見つめる。
「大輝……ふんっ!!」
次の瞬間、愛美さんに顔面パンチをくらって俺は吹っ飛ばされた。
ヒリヒリと左頬が痛む。
「な、何で殴るんですか!」
「うっせ!書いた内容はシンプルだよ!結婚したい、ってな!」
内容はシンプルだけど重さはかなりのものだろ、それ……。
「バレない様に名前書かないでおいたのに、何故かバレたんだよ。何でだろうな」
愛美さん、それ……。
「周りが全員名前書いてたら、消去法でバレると思うけど……」
明日香がため息と共に言う。
「……あ!そういうことか!」
一年経ってやっと気付けたのか。
てか高校生でも気付けることを……。
「おい、言いたいことは口に出して言えよ大輝」
「い、いえ……」
サトラレの能力にだけは目覚めたくない。
特に愛美さんの前では。
「で、今年も結婚したい、って書くの?」
お前ら怖いもの知らずにも程があるだろ。
「結婚はもういいや。今こういう状態だけど概ね満足してるしな」
吹っ切れた様な笑顔。
本人がいいと思えるなら、それも幸せのあり方なのかもしれない。
「さて、じゃあ書こうか」
全員分のサインペンを用意して、短冊を二枚ずつ配る。
俺は何を書こう。
「大輝、決めた?」
「うんにゃ、まだ」
「大輝の願い事は、私が叶えてあげるからね」
「そ、そう……何か夢がない気がするけど、気持ちはありがたく受け取っとくよ」
「だから、将来ヒモになりたいって書いてもいいよ。専業主夫でもいいけど」
「書かねぇよ!そんなに俺をダメ男にしたいのかお前は!」
「わ、私もお前なら養ってもいいと思ってるぞ」
「それを言うなら、私だって……」
「私も家は裕福じゃないけど、いい会社入って頑張る!」
「何だよ大輝、お前ヒモの才能あったのか?」
みんな言いたいことを言う。
「みんなはあれか、俺をダメ人間にしたいってのが願いなのか?」
みんなそれぞれに短冊を書き終えて、飾り始める。
愛美さんを皮切りに、明日香、和歌さん、桜子、睦月、ノルンさん。
「大輝、飾るのちょっとだけ待って」
睦月が竹をささっと隠した。
え、俺この短冊持ったまま待たないといけないの?
「この短冊どうするんだよ……」
「今また竹出してあげるから」
そう言って睦月は竹を出す。
みんなが飾った短冊がない。
「ああ、見えなくしただけだから。大輝には見えないだけで、ちゃんと飾ってあるよ」
また能力の無駄使いを……。
文句を言っても始まらないので、そのまま短冊を吊す。
睦月がその様子を見てあからさまに笑顔になった。
「やった!」
珍しく睦月が少し大きな声を出す。
「どうした?」
「見て、大輝」
睦月が指さしたところを見ると、俺の飾った短冊のすぐ下に、睦月が書いた短冊が現れた。
何だこれ、すげぇ。
そのあと、他のみんなの短冊も現れた。
「やっぱり大輝は私にぞっこんなんだね」
「は?」
「つまり、大輝くんが飾った位置で誰のことを一番大事に思ってるか、みたいな占い的な感じかしら」
「明日香正解」
「まぁ、バカバカしいと思わなくもないけど……無意識の行動だから信憑性があるのよね……」
むむ、と周りがむくれ顔をする。
「ぐ、偶然だから。特に何か考えてここにした訳じゃないから」
言い訳くさい言い分だ。
自分で言ってても言い訳くさいと思えてしまう。
「さて、じゃあみんなの短冊ご開帳といこうか」
愛美さんがノリノリで竹を見る。
俺も気にはなってたので、竹を覗きこんだ。
『この集まりのみんながちゃんと幸せでいられます様に。大輝』
『人間界も神界も平和が続きます様に。大輝』
「いい子ちゃんだな、大輝……いい子過ぎて直視できねぇ……」
愛美さんが茶化してくる。
何となくこの反応は予想してたが、これ以外に思いつかなかっただけだ。
「大輝くんらしくていいと思うわ」
「そうですね、大輝ならではな感じがします」
愛美さんみたいに茶化してくる人ばかりではない様で少し安心する。
『いい会社に就職して、沢山稼げる様になりたい。桜子』
『大輝くんがこの集まりにいて幸せだと思える様になってほしい。桜子』
「こ、これは……」
「ほ、ほら夢だから……」
「てか二枚目……さり気なくポイント稼ぎにきてんぞ……」
「あざといわね……」
「うん、あざとい……」
「みんな、ひどいよ!!」
だが、桜子はこれでいいのだと思う。
二枚目はついホロリときそうになった。
言えばまたバカにされそうだから言わないが。
『大輝くんがうちの組を継いでくれます様に。明日香』
『大輝くんとの子供がほしい。明日香』
「おいおい、これ……ただの願望じゃねぇ?」
「が、願望だって願いって言う字が入るから……」
「お嬢……子どもはさすがに……まだ早いので私が代わりに……」
「それは認めないわ」
「組を継げって、さすがに重すぎると思う…明日香ってある日突然ゼク○ィとかこれ見よがしに持ってくるタイプだよね」
「あ、ちょっとわかる」
「失礼ね!!」
ま、まぁこれも愛の形ってことで。
「ちょっと待ってくれ!書き直しを要求する!さすがにこれは見られるのが恥ずかしい!!」
和歌さんが喚く。
それを睦月とノルンさんの、脱出不可能コンビで取り押さえた。
「どれどれ……」
「や、やめろ!恥ずかしくて死ぬ!!」
『大輝がもっと私と打ち解けてくれます様に。和歌』
『大輝を今以上に幸せにできる力がほしい。和歌』
「こ、これ……」
「大輝のこと好き過ぎだろ……いや私も好きだけど」
「力がほしい、だけだと中二病だよね」
「うわああああん!!もうやめろおおお!!」
しかも文字が少し丸くてかわいい。
和歌さんてこんな字書くのか……軽く萌えた。
「私は別に恥ずかしくないから、見ていいよ」
睦月は安定の開けっ広げぶり。
『大輝と毎日でもエッチしたい。睦月』
『大輝を養える財力がほしい。睦月』
「えーと……」
「もうなんて言うか垂れ流しだね」
「ほとんど毎日してる様なもんじゃないか……」
「ヒモにする気満々だよね」
俺はこの時決心した。
絶対に自分で働いて頑張っていくんだと。
「じゃあ愛美さんいっとく?」
「ご期待に沿える様なこと書いてないからな」
『旨い酒が飲みたい。愛美』
『将来大輝と酒に溺れて、流れでセックスして子作り出来たら最高。愛美』
「ベランダに飾られなくて良かったですね、特に二枚目」
「開けっ広げっていうかもう、これこそただの願望なんじゃ……」
「短冊にセックスとか書かないでくださいよ……」
「何か願いごとなのに殺伐として見える」
「言いたい放題だな、おい」
何だろ……愛美さんらしくて安心した。
最後はノルンさん。
「……これ、何て書いてあるの?」
桜子がノルンさんの短冊を見て言う。
みんなで見るが、睦月だけはああ、という顔をした。
「わかるのか、睦月」
『私はここにいる』
「ノルンさん!?そういうネタ引っ張ってくるのやめて下さいよ!」
「ていうか元ネタ知ってることに驚きだわ……」
何だかんだ楽しく過ごせた七夕だったが、日付が変わったのでお片付けの時間になる。
みんな残念そうな、寂しそうな顔をしていたが睦月はドライだった。
「えい」
指先一つで片付けてしまう。
「余韻も何もないなぁ、睦月らしいけど」
愛美さんはそう言ったが、俺は見た。
睦月の部屋に、短冊だけ転送させているのを。
多分ノルンさんも気づいているんだろう、優しげな笑顔を浮かべた。
あとでどこかにしまうか飾るかするつもりなのかもしれない。
来年も、こんな風に楽しくみんなで過ごせることを祈る。
いつものことだが、愛美さんが突拍子もないことを言い出す。
短冊を書くのはまだいい。
そもそもここ人の家だよね、愛美さん。
なのにその辺からかっぱらってきた、盗品を人の家に置くのはいかがなものだろう。
「愛美さん、かっぱらってこなくても竹くらいなら私が生成できるから」
あ、そんな心配ありませんでしたか、そうですか。
愛美さんの物騒な提案を根底から覆せる能力持ちがここにはいましたね、家主だけど。
「でも、何処に飾るんだ?ベランダ?短冊飛んじゃうんじゃないか?」
書いた短冊が風で飛んでしまっては少し悲しいし、それを誰かに見られたらって思うと、少し恥ずかしい気もする。
「ベランダじゃないよ。リビング、そこそこ広いから」
ああ、なるほど。
言いながらご立派な竹を三本、睦月は生成する。
どういう仕組みでこんなことが出来るのか、何度見ても原理はわからない。
「これを、こうして……っと」
何故か睦月は竹を斜めに切り、三本並べた。
真ん中のだけ、気持ち長めに見える。
「これって、門松じゃないか?」
俺が思ったことを、和歌さんが代弁してくれる。
おかしいな、とか呟きながら睦月が門松を消した。
季節感もさることながら、常識もここにはない様だ。
そして再度生成される竹。
「待て睦月。切らなくていいから」
今度は俺が、適当な位置を見繕って竹を並べて立てる。
「紐あるか?」
「そこにいるじゃん」
「は?」
「将来はヒモの予定だよね、大輝」
「…………」
確かに沢山女囲ってるし、そう見られても仕方ないとは思っているが……心底心外である。
俺はちゃんと働くつもりだし、だけど俺一人の稼ぎでみんなを養える自信はないから、みんなにもある程度働いてもらえたら、とは考えてるけど。
そしたら俺に何かあってもちゃんと食べていけるだろ?
……何かあったら間違いなくヒモだわ。
「まぁ、大輝は私が養うから大丈夫だよ」
「そ、そうかいありがとうよ…ところで無機物の紐はないのか?ないなら生成してくれよ」
「何だ、それならちゃんとそう言ってよ」
最初からそう言ってたつもりなんですが。
曲解したのはあなたですよね。
すぐに紐が用意され、俺は竹を適当なところで縛る。
どうせ今日だけのものだし、そこまで凝る必要もないだろう。
短冊が何枚かついたら見映えも変わるだろうし。
「あ、七夕?私も短冊書きたい!」
桜子が部屋に入ってきて、一気に騒々しくなる。
まぁこういうイベントごとには賑やかし役がいてもいいか。
「一人二枚な。あんま沢山書くと竹が短冊だらけで見た目からおかしくなりそうだし」
愛美さんと桜子、和歌、明日香、それに睦月。
「あれ?ノルンさんは?」
桜子が気付く。
そういえば今日見てないかもしれない。
「あー、今日神界だって言ってたかも。ちょっと起こそうか」
「ん?寝てるの?なら起こすの可哀想じゃない?」
「大丈夫。寝起きそこそこいい方だから」
そう言って睦月はノルンさんを念で起こした。
「おお、起こしてくれてありがとうね。ぐっすり寝過ぎて夜になっちゃうところだったよ」
ノルンさんが起きて、睦月の部屋にくる。
「で、これって?七夕って言うんだっけ?織姫と彦星?だったっけ。そんなのいないのにね」
無邪気に夢をぶち壊そうとするノルンさん。
現実主義なのはわかるけど、こういうのは風情とかロマンとかそういうのを楽しむものなんですよ。
「まぁ、いるなんてさすがに思ってないけどな。こういうのって自分の願望書いたりして、それを目標にして一年生きるみたいなとこあるから」
珍しく愛美さんが良いことを言う。
てっきりロマンや風情すら、容赦ない下ネタ出ぶち壊してくるかと思ったのに。
「去年も愛美さんは短冊書いたの?」
何か地雷っぽい質問を当然のごとく投げかける睦月。
「ああ、書いたぞ」
少し愛美さんの顔が暗くなった様に見えたのは、気のせいだと思いたい。
「何て書いたの?というか……何処で?」
ああ、それ聞いちゃうのか。
俺もさすがに聞いてはいないから知らないが、何となく想像ができる気がする。
「会社でな……うちの課の誰かが取引先の人からもらった、とか言ってオフィスに飾りやがって」
もうその一言で、本位でなかったのがありありと伝わってくる。
「何て書いたか、だっけ。それはな」
「愛美さん、辛いなら言わなくていいんですよ」
俺は愛美さんの肩を軽く叩き、優しく見つめる。
「大輝……ふんっ!!」
次の瞬間、愛美さんに顔面パンチをくらって俺は吹っ飛ばされた。
ヒリヒリと左頬が痛む。
「な、何で殴るんですか!」
「うっせ!書いた内容はシンプルだよ!結婚したい、ってな!」
内容はシンプルだけど重さはかなりのものだろ、それ……。
「バレない様に名前書かないでおいたのに、何故かバレたんだよ。何でだろうな」
愛美さん、それ……。
「周りが全員名前書いてたら、消去法でバレると思うけど……」
明日香がため息と共に言う。
「……あ!そういうことか!」
一年経ってやっと気付けたのか。
てか高校生でも気付けることを……。
「おい、言いたいことは口に出して言えよ大輝」
「い、いえ……」
サトラレの能力にだけは目覚めたくない。
特に愛美さんの前では。
「で、今年も結婚したい、って書くの?」
お前ら怖いもの知らずにも程があるだろ。
「結婚はもういいや。今こういう状態だけど概ね満足してるしな」
吹っ切れた様な笑顔。
本人がいいと思えるなら、それも幸せのあり方なのかもしれない。
「さて、じゃあ書こうか」
全員分のサインペンを用意して、短冊を二枚ずつ配る。
俺は何を書こう。
「大輝、決めた?」
「うんにゃ、まだ」
「大輝の願い事は、私が叶えてあげるからね」
「そ、そう……何か夢がない気がするけど、気持ちはありがたく受け取っとくよ」
「だから、将来ヒモになりたいって書いてもいいよ。専業主夫でもいいけど」
「書かねぇよ!そんなに俺をダメ男にしたいのかお前は!」
「わ、私もお前なら養ってもいいと思ってるぞ」
「それを言うなら、私だって……」
「私も家は裕福じゃないけど、いい会社入って頑張る!」
「何だよ大輝、お前ヒモの才能あったのか?」
みんな言いたいことを言う。
「みんなはあれか、俺をダメ人間にしたいってのが願いなのか?」
みんなそれぞれに短冊を書き終えて、飾り始める。
愛美さんを皮切りに、明日香、和歌さん、桜子、睦月、ノルンさん。
「大輝、飾るのちょっとだけ待って」
睦月が竹をささっと隠した。
え、俺この短冊持ったまま待たないといけないの?
「この短冊どうするんだよ……」
「今また竹出してあげるから」
そう言って睦月は竹を出す。
みんなが飾った短冊がない。
「ああ、見えなくしただけだから。大輝には見えないだけで、ちゃんと飾ってあるよ」
また能力の無駄使いを……。
文句を言っても始まらないので、そのまま短冊を吊す。
睦月がその様子を見てあからさまに笑顔になった。
「やった!」
珍しく睦月が少し大きな声を出す。
「どうした?」
「見て、大輝」
睦月が指さしたところを見ると、俺の飾った短冊のすぐ下に、睦月が書いた短冊が現れた。
何だこれ、すげぇ。
そのあと、他のみんなの短冊も現れた。
「やっぱり大輝は私にぞっこんなんだね」
「は?」
「つまり、大輝くんが飾った位置で誰のことを一番大事に思ってるか、みたいな占い的な感じかしら」
「明日香正解」
「まぁ、バカバカしいと思わなくもないけど……無意識の行動だから信憑性があるのよね……」
むむ、と周りがむくれ顔をする。
「ぐ、偶然だから。特に何か考えてここにした訳じゃないから」
言い訳くさい言い分だ。
自分で言ってても言い訳くさいと思えてしまう。
「さて、じゃあみんなの短冊ご開帳といこうか」
愛美さんがノリノリで竹を見る。
俺も気にはなってたので、竹を覗きこんだ。
『この集まりのみんながちゃんと幸せでいられます様に。大輝』
『人間界も神界も平和が続きます様に。大輝』
「いい子ちゃんだな、大輝……いい子過ぎて直視できねぇ……」
愛美さんが茶化してくる。
何となくこの反応は予想してたが、これ以外に思いつかなかっただけだ。
「大輝くんらしくていいと思うわ」
「そうですね、大輝ならではな感じがします」
愛美さんみたいに茶化してくる人ばかりではない様で少し安心する。
『いい会社に就職して、沢山稼げる様になりたい。桜子』
『大輝くんがこの集まりにいて幸せだと思える様になってほしい。桜子』
「こ、これは……」
「ほ、ほら夢だから……」
「てか二枚目……さり気なくポイント稼ぎにきてんぞ……」
「あざといわね……」
「うん、あざとい……」
「みんな、ひどいよ!!」
だが、桜子はこれでいいのだと思う。
二枚目はついホロリときそうになった。
言えばまたバカにされそうだから言わないが。
『大輝くんがうちの組を継いでくれます様に。明日香』
『大輝くんとの子供がほしい。明日香』
「おいおい、これ……ただの願望じゃねぇ?」
「が、願望だって願いって言う字が入るから……」
「お嬢……子どもはさすがに……まだ早いので私が代わりに……」
「それは認めないわ」
「組を継げって、さすがに重すぎると思う…明日香ってある日突然ゼク○ィとかこれ見よがしに持ってくるタイプだよね」
「あ、ちょっとわかる」
「失礼ね!!」
ま、まぁこれも愛の形ってことで。
「ちょっと待ってくれ!書き直しを要求する!さすがにこれは見られるのが恥ずかしい!!」
和歌さんが喚く。
それを睦月とノルンさんの、脱出不可能コンビで取り押さえた。
「どれどれ……」
「や、やめろ!恥ずかしくて死ぬ!!」
『大輝がもっと私と打ち解けてくれます様に。和歌』
『大輝を今以上に幸せにできる力がほしい。和歌』
「こ、これ……」
「大輝のこと好き過ぎだろ……いや私も好きだけど」
「力がほしい、だけだと中二病だよね」
「うわああああん!!もうやめろおおお!!」
しかも文字が少し丸くてかわいい。
和歌さんてこんな字書くのか……軽く萌えた。
「私は別に恥ずかしくないから、見ていいよ」
睦月は安定の開けっ広げぶり。
『大輝と毎日でもエッチしたい。睦月』
『大輝を養える財力がほしい。睦月』
「えーと……」
「もうなんて言うか垂れ流しだね」
「ほとんど毎日してる様なもんじゃないか……」
「ヒモにする気満々だよね」
俺はこの時決心した。
絶対に自分で働いて頑張っていくんだと。
「じゃあ愛美さんいっとく?」
「ご期待に沿える様なこと書いてないからな」
『旨い酒が飲みたい。愛美』
『将来大輝と酒に溺れて、流れでセックスして子作り出来たら最高。愛美』
「ベランダに飾られなくて良かったですね、特に二枚目」
「開けっ広げっていうかもう、これこそただの願望なんじゃ……」
「短冊にセックスとか書かないでくださいよ……」
「何か願いごとなのに殺伐として見える」
「言いたい放題だな、おい」
何だろ……愛美さんらしくて安心した。
最後はノルンさん。
「……これ、何て書いてあるの?」
桜子がノルンさんの短冊を見て言う。
みんなで見るが、睦月だけはああ、という顔をした。
「わかるのか、睦月」
『私はここにいる』
「ノルンさん!?そういうネタ引っ張ってくるのやめて下さいよ!」
「ていうか元ネタ知ってることに驚きだわ……」
何だかんだ楽しく過ごせた七夕だったが、日付が変わったのでお片付けの時間になる。
みんな残念そうな、寂しそうな顔をしていたが睦月はドライだった。
「えい」
指先一つで片付けてしまう。
「余韻も何もないなぁ、睦月らしいけど」
愛美さんはそう言ったが、俺は見た。
睦月の部屋に、短冊だけ転送させているのを。
多分ノルンさんも気づいているんだろう、優しげな笑顔を浮かべた。
あとでどこかにしまうか飾るかするつもりなのかもしれない。
来年も、こんな風に楽しくみんなで過ごせることを祈る。
0
お気に入りに追加
21
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる