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スカーレット

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本編

~Girls side~第16話

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大輝の受験当日。
特に私は緊張などしていない。
大輝は十分学力をつけていたし、私の当ても大体当たるはずだ。
朋美は長崎にある高校を受けることになったらしく、こっちにいない日が多くなったと大輝は言っていた。

そして合格発表の日。
二人で会場に行き、大輝はやや緊張の面持ちだったが、私は大輝の腕を取って受験番号の貼り出された場所へ向かった。
疑う余地もなくすんなりと大輝の受験番号を発見し、ようやく一段落したのだと実感する。
大輝も同じ思いだったのか、深いため息をついていた。

「胴上げ、する?」

私一人でも、余裕で大輝を上空まで投げることは可能だ。
さすがに大輝は苦笑して辞退した。

「大輝は泣かないの?」

周りで感極まって泣いている人たちを見て、大輝ももらい泣きとかしないかな、なんて思った。

「んー……合格、できる様な予感はしてたからな。俺なりに頑張ったし。何より春海がついてるから、落ちるなんて微塵も疑ってなかったかな」

その割に緊張してたみたいだけど、その事には触れないであげる。

「春から、同じ学校なんだね」

私も感慨深くなって、大輝に微笑みかける。
夢にまで見た、大輝とのスクールライフ。
スクールデイズでなくて良かった。
どんなことがあっても乗り越えていける気がした。

「そうだな……中一から頑張ってきた甲斐あったよ。何か恥ずかしいけど、ありがとう春海。お前がいなかったら、俺はここまで頑張れなかったと思う」

事実ではあるが、言ってて恥ずかしくなってきてるのが顔色でわかる。

「そうだね。やっぱり愛は強しってやつ?」

ニヤリと笑って大輝をつつく。

「やめろ、こんなとこでで人が見てるだろ……」

更に恥ずかしくなった様で、大輝はふいっと私から目を逸らした。
可愛いやつだ。

「私、結婚できる歳になるんだねぇ」

十六歳。
この国では女性が結婚できる年齢である。
男性は十八からだから、大輝を待つ必要はあるが大した障害ではない。
結婚というキーワードに反応したのか、大輝はボケーッとしている。

「大輝?」
「あ?ああ、悪い、ぼーっとしてた」
「タコ坊主から貰った、新しい住所のメモちゃんと残ってる?」

大輝、抜けてるところあるからちょっと心配。
さすがにあれを無くすなんてことはしないと思うけど。

「ああ、あるよ。無くしたらいけないと思って、自室の机にしまってある」
「そう、なら良いんだ。絶対なくしたらダメだからね?」

ちゃんと保管してあるんだということにほっとして、これからも無くしたりしない様釘を刺した。

そして大輝の学校の卒業式の日。
私の学校は前日が卒業式だったので、今日はもう春休みに入っている。
昼過ぎに大輝や朋美、その周りとの壮行会を行う予定になっているが、それまでは暇だ。

ここ最近は、ちょっと気になることもあって暇さえあれば神界に顔を出している。
今からも、行くつもりでいる。

「ママ、ちょっと昼寝するから。お昼ご飯ラップしといてくれる?」
「わかったわ。それにしても最近春が近いからかよく寝るわね」
「受験の疲れが出たのかな。とりあえずまたあとでね」

ママに挨拶をして、自室に戻る。
さて、行くか。


「またきたのか。何かわかったことがあるのか?」

言い方はちょっと酷いが、歓迎されてないということもないみたいだ。
ヘイムダルは今日は普通に掃き掃除をしていた。
レレレなのかな? 

「そりゃ来るよ。どんな小さなことでも知っておきたいし」
「そうか。ノルンはちょっと出ているみたいだぞ」
「え?珍しいね」

どうやらノルンは今日、何やら珍しい食材を仕入れに出かけているらしい。
普段はヘイムダルがそういうことを一手に引き受けているはずだが、今日に限ってはノルンが自分で行くと言って、さっさと出かけたみたいだった。

「まぁいっか、とりあえずヴァルハラ入ってていいよね?」
「ああ、まだオーディン様も昼寝の時間ではないしな」

というわけでヴァルハラへ。
予期せぬ先客がいる。
招かざる客とでも言うべきか。

「やぁ、スルーズ」
「ロキか」

先日私に強烈な脅しをくらって震え上がっていたロキ。

「今日は何の悪巧み?」 

挨拶がてら皮肉を言う。
こいつはマゾの素質でもあるのか、こういう挨拶の方が喜ぶ。

「悪巧みなんてそんな。大輝はどうだい?何か変化とかあった?」
「いや。元気そのものだよ。普通の人間のはずなんだけどね」
「やっぱりか」
「やっぱり?」
「あ、いや……」

まずい、という顔をするロキ。

「あんた、何を隠してるんだ?場合によっては……」
「まぁ、落ちついてよ。隠してたわけじゃない。ただ……」
「聞かれなかったから、とか言ったらぶん殴るから」
「……はは、敵わないね」 

苦笑してロキはエントランスの椅子に腰掛けた。

「座らないか?」

私にも促してくる。
一体何だと言うのか。
まるっきり信用は出来ないが、このままでは前に進まない。

「僕が見つけた手がかりを、話しておこうと思ってね」 
「わかった、聞かせてもらうよ」

言いながら椅子に腰掛ける。

「まず、始めに言っておくが、この手がかりを見つけたのはつい最近だ。情報提供者がいたんだよ」
「情報提供者?」
「あーでまぁ、これはさほど重要じゃないのと、立場上話すことが出来ない。察してほしい」
「…………」
「その代わり、この話自体は君にとって無駄な話にはならないと思う」

にわかに信じ難い。
しかし、今は僅かな手がかりでもほしいところ。
特に条件らしい条件も提示されていないし、聞くだけなら問題はないと判断できる。

「まぁいいや、情報提供者については忘れるよ。で、その手がかりってのは?」
「まず、朋美だったっけ、もう一人の女の子」
「ああ、そうだね。それが?」
「彼女の父親だけどね、錬金術師だよ」
「……何だって?」

錬金術師?
どういうことだ?

「厳密には、普通よりやや頑丈な肉体に、錬金術師の魂が憑依したのが彼女の父親、ということになるかな」
「それ、いつの時代のとかわかる?」
「ラグナロクが起きる、数年前に自らの魂を封印していたみたいだね。彼の生涯最高傑作の知識、その成果と一緒に」
「最高傑作?錬成の研究手帳とかそういうの?」
「んー……この先の話をするには、一つだけ約束してもらいたいことがあるんだけど」
「何だ?怒るなとか?」
「さすがだね」
「私が怒る様な類の話ってことか……」

つまりは、朋美や大輝に関連していて、かつあまり良くないことと推測される話。

「まぁ…あんたが何かやった、とかじゃないなら」
「朋美の件については、僕は情報を受け取っただけだ。これは断言しよう。大輝については……あとで話すよ」
「とりあえず、聞かせて」 

ロキは一つため息をつく。
普段あまり見せない真面目な顔をする。
普段のニヤけ顔を知ってるだけに、重い話なのだろうということを、嫌でも理解する。

「朋美は、彼の最高傑作なんだ」

は?
最高傑作って。
何を言ってるんだこの男は。
何発か殴った方がいいのか?

「ホムンクルス、というものを知っているよね?」
「人造人間だろう?錬金術によって作り出されて、短命だったって聞くけど……まさか」
「そのまさかだよ。朋美は、彼の最高傑作のホムンクルスだ。ただ、最高傑作というだけあって、その寿命、思考、行動原理等々従来のホムンクルスと異なる点が多々ある」
「……」

朋美がホムンクルス?
そんなバカな。
あのタコ坊主が錬金術師ってのも意味がわからない。
じゃあ母親は?

「実はあの一家は、父親以外は二人ともがホムンクルスなんだよ。母親と朋美とで大きく異なるのは、見た目と寿命。母親はあと数年もしたら死んでしまうと言われているね」
「……それは、私に何とかできる類の話なのか?」
「結論を急ぐのは良くない。まだ途中なんだ」
「なら早く続きを話してほしい」
「そうだね、じゃあ」

彼が錬金術師だとわかったのは、私が朋美と大輝に執着したことが起因している。
興味本位で朋美という人間を調べてみたところ、この世界で、この時代で生まれた記録がなかった。
また、朋美の母親にしても同様で、それが引き金となり朋美の父親、つまりタコ坊主の素性を調べ始めた者がいたらしい。 

その調べ始めた者については言明されていないが、協力者であって、決して敵ではないとのことだ。
タコ坊主は自分の魂と朋美を、神の目を盗んで封印した。
朋美の肉体も朽ちることはなく、悠久の時を過ごしたということになる。

この時代を選んだ理由は不明だが、朋美は元々朋美という名前ではなかったらしい。
時代と場所に合わせて、桜井の戸籍と朋美の名前を買った、ということだ。
そして、魔術の心得がある錬金術師であるところのタコ坊主は、大輝に宿った神力に気付く。

通常であれば、普通の人間の大輝は神力の反動で死亡していてもおかしくない。
しかし、それを大丈夫と判断したのは他でもないタコ坊主だ。

「あの神力ね、実は君のだけじゃないんだよ」
「どういうこと?」
「実は、あの神力はほっといたら大輝の体の中を暴れ回って破壊し尽くす予定だったんだよね」

一瞬その様子を想像して固唾を呑む。

「先に謝っておくよ、ごめん。僕の神力でそれを抑えつけて、相殺したんだ。あの時の光はそれだね」

今日一番信じられない話が飛び出した。 

「はは、まさか。お前が?大輝を助けたって言うの?」
「信じられないかもしれないけど、これは事実だよ。で、彼が僕の神力を見てどういう性質のものか瞬時に見抜いた。だから彼は大丈夫と言ったんだろうね」

何ということだ。
こんなやつに借りを作ってしまうなんて。

「君は今、借りを作ってしまった、とか思ってるよね」
「当たり前だろう。正直付与したことに気づかなかった、あのときの自分を殴りたい」
「僕は貸したなんて思わないし、返してほしいとも思ってないよ。ただ、そうだな……どうしても返さないと気持ち悪いって言うなら」

ロキは言葉を切る。

「言うなら?」
「いつか、一つだけお願いを聞いてほしい」
「大輝を裏切る類のものでなければ、別にいいよ」
「随分と素直に受け入れてくれるんだね」
「理由はわからないけど、大輝を助けてくれたことそのものには感謝してるからね」

ロキの変化が、その原因が何なのかはわからない。
それでも大輝が助かったことがロキの功績であることが事実である以上、感謝しないはずがない。

「朋美は、自分の素性を知ってるのか?」
「いや、偽の記憶を植え付けてるみたいで、自分が普通の人間であることを疑っていないはずだよ。実際、普通の人間との相違点はほぼないんだ」
「ほぼって言うのは?」
「彼女の体内には、かなり膨大な魔力が内包している」
「……危険なものか?」
「彼が封印を解かない限り、その魔力が動くことは有り得ないけどね。動き出した場合の被害なんかは想像がつかない、というのが正直なところかな」
「どういう目的で埋め込まれてるのかもわからない、ってわけか」
「そうなるね。さて、ここまでで他に質問ある?」
「…………」 

事情は十分わかった。
だが、気になることはもう一つ。

「朋美は、あと何年くらい生きられる?」
「おっと、そうか。説明してなかったね。彼女に関しては、事故や病気の要因がなければ普通の人間として生きていけるよ。それが、彼の最高傑作たる理由の一つでもあるし」
「そうか、それを聞いて安心した」

私は席を立つ。
何故ロキがここまで協力的なのか、気になるところではあるが、気にしたところでこいつはどうせ答えないだろう。

「ノルンは出かけてるんだったっけ」
「ああ、もうじき帰ってくるんじゃないかな?」

そう言ってロキも席を立つ。

「とりあえず、伝えることは伝えたと思うし、僕は失礼するよ。スルーズ、微力ながら応援しているからね」

何だか気持ち悪い。
元々ああいうやつだったかもしれない、という気持ちと底意地の悪さを覚えている部分とがせめぎ合っていて、素直に喜べない。
もちろん、味方にしておけば頼りになるやつではあるんだけど。

ややあってノルンが戻ってくる。

「あ、スルーズ?」
「こんにちは、ノルン」
「ごめんね、ちょっと食材の調達に行ってたんだぁ」
「ああ、ヘイムダルから聞いてる。ロキからも話を聞いたよ。朋美に関して、気をつけないといけないこととかあれば教えてほしいんだけど」
「朋美かぁ……父親がどういう理由で魔力埋め込んだのかがわからないからね。とりあえずは普段通りでいいかなって思うよ。それに、今日で一旦お別れなんでしょ?」
「そうだね。向こうじゃ気軽にワープとか出来ないから、なかなか会えなくなっちゃうよ」
「スルーズからそんなセリフを聞けるなんてね」
「愛着っていうの?私にだってそういうのはあるよ」 

特に理由もなく、神界に帰りたいとか。
そういう気分になることだってある。
ただの戦闘狂とかと勘違いされてる気がする。

そろそろ大輝あたりは私に連絡を入れてくる頃合いだろうか。
私は納得行かない思いを抑え、人間界に戻ることにした。

人間界に戻ると、メールはまだ来ていない様だった。
何だろう、体が少し重いというか、ダルいというか。
今までこんなことはなかった。

さっき自分で言った様に、疲れが出ているのだろうか。
などと考えていたら、脳内にノルンの声が響く。

『宇堂大輝を生かす場合、倦怠感を消さない努力が必要です。宇堂大輝を殺す選択をする場合、直ちに体調を整えてください』

すごいタイミングできたな、また。
タイムリー過ぎて軽く笑いが零れた。
どういうことだろうか。

相変わらずわかりにくい伝令だ。
体調を整えるっていうと、神力を使えってこと……つまり、大輝を生かしたいのであれば、使わずこの倦怠感に耐えろってことか。
つまり……姫沢春海の体に変調をきたした状態を維持せよ、ということだ。

もしかして、来るべき時がきたのか?
正直、今は大したことない。
しかし、これは時間が経つごとに酷くなっていくタイプの物だ。

何となくの勘ではあるが、経験でわかる。
宇堂大輝を生かす為の最大必須条件、それは姫沢春海が死ぬことだ。
まさかこんな若いうちに死ななくてはならないなんて。

運命を自覚したその瞬間から、途端に気分が重くなってしまった。
こんな気分で壮行会とか、どうなってしまうのか。
だが、大輝の中の私はきっと、強い人間。

元の姿と同じく、強さや力の象徴として映っていることだろう。
こんなところで挫けて泣いたりする訳にはいかない。
大輝はそんな私を望まないだろう。

大輝からメールを受け取ったのは、集合場所へ向かう電車の中だった。
何となく家にいる気になれず、早いかと思ったが向かってしまおうと思い立った。
このまますっぽかしたらどうなるのか、なんてことを考えたりするが、大輝や朋美、その周りの人間が悲しむ姿がすぐに連想される。

もちろんすっぽかしたりなんかしない。
今まで私がしてきたこと、周りを巻き込んでまでやってきたことの数々。
それらが泡と消えてしまう。

再度この人生をやり直す、なんてことは考えられない。
あまりにもショックが大きい。
自分の……というか春海の、だが。
運命が決定してしまうと、何だか残念な気持ちが心を支配する。

こうも暗く沈んでしまう様なことばかり考えていては、今後に支障をきたす。
暗い気分を払拭するために、私はイヤホンを取り出して携帯に繋いだ。
そして、音楽プレイヤーを起動する。

お気に入りの、強烈なデスボイスと激しい曲調が特徴的なアーティストの音楽を再生する。
元々文芸の分野には疎い私だが、昔から激しい音楽を好む傾向にある。
これこそ私が求めていた音楽、と感じたのだ。

その影響力たるや、普通の歌もデスボイスを交えてしまうほど。
学校の音楽の授業でやらかしてからは入り込み過ぎない様に気をつけていたが、家族でカラオケなんかに行ってラブソングをデスボイスでヴぉいヴぉい言いながら、頭を振り乱して歌ってパパとママをどん引きさせたことは今も忘れない。

そんなことを考えているうちに、大輝の地元に到着する。
今日は良平くんもいる。
確か井原さんと付き合ったんだったか。
男二女四という組み合わせもやはりハーレムに見えるのか、店員は嫌な顔をする。

良平くんの中学入ってからの女性遍歴や告白された人数の話が始まって、大輝はしめたという顔になっていたが、私はちょっと退屈だった。
井原さん以外の女子メンバーも似た様な感想を持っていた様だが、そこはさすがに良平くん、空気を読んで話題を切り替えにかかる。

「それより、大輝は結局ハーレムエンドになったの?圭織も大輝も、その辺詳しく教えてくれなかったから、よく知らないんだよね」

大輝は恨めしそうに良平くんを見るが、私はナイス、と思っている。

「ああ、そうなるな……」

苦笑いで答える大輝。
あとで覚えてろよ、と言わんばかりの顔をしていた。

「私はそうなんじゃないかって思ってただけで、確信があったわけじゃないから……」
「なるほどね、虫も殺さない顔してやるもんだなぁ」

いやいや、こんな顔して恐らく毎晩一億前後の同胞たちを天に送る儀式してるよ?
良平くんもでしょ?

「そうかね、世間的には誉められたことじゃないだろ。ここはアラブじゃないんだし」

重婚か、個人的には支援したいところだ。
日本人は嫉妬深い民族だから、殺人やらが増えそうではあるが。
それに、私は春海としては多分そこにいないだろう。

「けど、なかなか度胸の要ることなんじゃない?田所くんも含めたらもう何でもありになっちゃうね!」

野口節炸裂。
アッー!な展開ですね、わかります。
すまないがホモ以外は全員帰ってくれないか!
とか大輝か良平くんが言い出せば完璧。

「どうしてもそっち方面に持っていきたいみたいね」

朋美が苦笑する。
良平くんと大輝は青い顔をしている。

「良平は一回も絡んだことないけどな。春海と会うの、確か二、三回めくらいじゃないかな」

確か二回くらいかな。
しかも挨拶程度だったはずだ。

「そうだな、二人が付き合い始める少し前に何度か会ったきりだったと思うわ」
「そうなのかぁ、いやぁ、朋美か春海ちゃんが、あいつはホモなんだぜ!だってあいつの○○○からはクソの臭いがするんだ!とか言ったりしてたら面白いなーって」

さすがにそんな匂いするのは勘弁。
徹底して意識改革に励むと思う。
野口さん以外の面子がドン引きの表情になっていた。

「ねーわ…………いや、マジねーわ……」
「ていうか、こんな昼間から生々しいのはちょっと……」

井原さんが野口さんをたしなめた。

「あはは、ごめんごめん」

ちょっと(?)調子に乗りすぎたという顔でテヘペロ、としているのがちょっと可愛いと思った。

そして場所は変わりカラオケ。
うわぁ、と思ったが、ここで拒否って空気読めよ、みたいな雰囲気になってはたまらないので、今回は何も言わずについていく。

「そういえば、カラオケって初めてだよね。前に行こうって言ったら春海、凄い勢いで拒否ってたし」

やはりそうきたか。

「……あの時も軽く言ったけど、歌があまり得意でないだけだよ」
「意外だよな。万能だと思ってたけど」

大輝の中の私は神とか仙人みたいな人なんだろう。
概ね合ってるけども。
大部屋が一つ、運良く空いていたので私たちは待たされることもなく入室できた。

「さて、誰から歌うんだ?」
「当然、言い出しっぺの法則だよね」

良平くんが切り出すと、井原さんがすかさず返す。
割と息の合ったカップルだと思う。

「しゃーねー、行くか」

しゃーねー、という言葉とは裏腹に、本人はやる気だ。
CMなんかで流れる有名な曲を、彼は歌っていた。
そつなくこなすタイプなのか、歌いながら軽く振り付けをして、井原さんにウインクをしたりもする。
井原さんは赤くなって、バカじゃないの、などと言うが満更でもない。

「田所くん上手いねぇ」

素直に感想を述べる。
これが下手というやつはそういないだろう。

「お、万能少女の春海ちゃんからお褒めの言葉頂きました」

良平くんも嬉しそうだし、雰囲気を壊したりはしてないだろう。
大丈夫、上手くやれている。

「え、俺?」

マイクを受け取り、大輝が慌てる。

「男が先陣切らなくてどーすんの。ほら、早く入れろって」 

大輝の肩を叩いて、大輝にもウインク。

「マイク渡して、入れろなんて……」

野口さんは別の展開を妄想しているみたいだった。
ここで良平くんが尻を出したら確定だ。

「桜子、あんた底無しの妄想力ね……」

井原さんは更に呆れた様子だ。
大事な彼氏がホモに……いや、バイになっても良いのだろうか。
ああ、それは私も同じか。

大輝の入れた曲は往年のフォークソングというやつで、私たちが生まれてもいない頃に売れて流行った曲だ。
何故このチョイス……。

「ちょっと、大輝…何処からそんな声出るの……」

大輝は自分の声質を気にしてか、頑張って低い声を出して歌っている。
顔と見比べて私もおかしくなって笑ってしまった。
渋い大人になりたい、とか前に言ってたのを思い出したが、ああいうのは生き方で変わるものだと私は思っている。

「地声で歌ってみなよ」 

さすがに喉おかしくしたら可哀想だし、朋美が笑い過ぎて顔色おかしくなってきているので、提案する。
渋々といった体で大輝はそれに従った。
キーを掴むのに苦労していた様だったが、歌いきって満足している。

「何だろう、ボーイソプラノって言うのかな」

朋美の感想だ。
これでも一応、大輝は声変わりしたはずなんだけどね。

「別の歌聞いてる感じがして新鮮だったよ」

井原さんも気を遣っている。

「素直に下手だったって言えば……」

大輝はソファーに体育座りをして拗ねてしまった。
頭撫でてあげたい。

「そこまで拗ねるほどのもんじゃなかったよ」

野口さんもフォローを入れるが、多分別の妄想しててまともに聞いてなかったんじゃないかと推測される。

「慰めなどいらん!次だ次!次誰?」

次は当然女子だろう、ということでみんなで譲り合っていたのだが、当然の如く決まらなかったので、もめたらコインで、じゃなくジャンケンとなった。
大人気なく圧勝、とはさすがにならず、私は負けた。
ああ……。

仕方ない、無難な曲でいくか。
国民的アニメの主題歌。
日本人なら誰でも知っているであろうあの曲を入れた。

無難に歌いきればいいだけ。
音楽の授業の合唱を思い出せ。
……ところが。

「眠くなるね。テンポ上げるわ」

一番を歌って、自ら放ったこの発言が間違いの元だった。
最大限テンポを上げると、ドラムのリズムもV系か?というくらいに早くなる。
興が乗ってきたのを感じる。
このとき、既に周りが引き始めていたことに私は気づいていなかった。

「るーるるるるっるぅ~うヴぉぇあ~!!!今日もいいてんぎぇやぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!」

全力で髪を振り乱してのヘッドバンギングをしながらの熱唱。
最後のたたらたたーたらたー、たん、のたん、のところで両手を広げた。
周りは時が止まったかの様にフリーズしている。

やらかした、と気付いて慎ましげにマイクをテーブルに置いて席に戻る。
すると、皆はっとなって時が動きだした。

「耳じゃなく、心で聴いた気がする」

朋美がわなわなしながら言う。

「素直に下手って言えばいいのに……」

必死で考えてくれたフォローだったが、私を打ちのめすには十分だった。
ヴぉいヴぉい言いながら激しくリズムを取り、全力でヘッドバンギングして歌うデスメタルなサザ○さんとか、誰が見たがるのか。
お茶の間も凍りつくわ。

「へ、下手じゃないだろ、新次元……そう!歌の新次元開拓って感じでさ!なぁ!みんな!」

大輝、本当に優しいね。
今はその優しさが私に突き刺さるよ。

「あ、ああ!サザ○さん見るとき、今までと違う目で見れる気がする」

良平くん、無理しなくていいんだよ。
違う目で見ちゃったらサザ○さんだってエロ同人のネタなんだから。

「音程なんてのは、所詮目安でしかないよ、うん」

井原さんは何か軽く共感してる?
気のせいかな。

「歌は自分が楽しむ為のものだよ」

野口さんも珍しくポカーンとしていたが、どうやら元に戻った様だ。

そして夕方。
割といい時間になっていた。
外は日が沈んで、すっかりと暗くなっている。 

「もう、こんな時間なのか」

大輝が残念そうに零す。

「早いねぇ……楽しかったからかな」

井原さんは本当に楽しそうだった。
私もわだかまりを忘れて、それなり楽しんでいた。

「またちゃんと、会えるよね?」

野口さんは不安そうに言う。

「大丈夫、死ににいくわけじゃないから……」

伏し目がちに朋美が言う。
そう、死にに行くわけじゃない。
どっちかというとそれは私だ。 

だが、今回の主役は朋美。
そんなことを考えている場合ではない。

「大輝、ちゃんと迎えに行けよ」

良平くんも大輝の背中を押してくれている。
大輝が挫けたりしない様、これからもよろしくね。

「わかってるよ、バイトする予定だし」
「そうなの?」

大輝がバイト?
私はまだ聞いていなかったので、少し面食らった。

「伝えるのが遅れてごめんな。でもちゃんと、会える時間は作るから」
「そう……詳しいことが決まったら教えてね?」

会える時間少し減っちゃうのかな。
お金のことだし、私がどうにかしちゃう訳にもいかないか。

「もちろん」

大輝は自分の胸を叩いて、大丈夫とアピールする。
私の不安もある程度わかってはいる様だ。

「大輝、目瞑って」

朋美が大輝の前に立つ。
ああ、そうか。
こんな場所だけど、仕方ないよね。

「あ、ああ」

朋美が大輝にキスをした。
それを見た周りが息を呑む。
空気を読んで、はやし立てたりはしない様だ。

「ん、もういいよ」

口を離して、朋美が呟く。
そして、朋美は私のところにもきて、キスしていった。
大輝がやや興奮気味なのがわかった。
男の子だねぇ。

「朋美……これは別れじゃない。朋美はまた、いつか戻ってくる。大輝が連れ戻してくれる」

泣かない、と決めていたはずだが涙が勝手に零れそうになる。
今はまだ私の体なんだ、言うことをきいてほしい。
朋美はつられてか涙ぐみ、井原さんは泣いていた。

野口さんは……あの巨大な瞳に溜まった涙の量が、私を却って落ち着かせてくれた。
良平くんはごまかす為かあくびを連発している。
必死に耐える姿は男だな、と思う。

「明日の早朝、出発するから…とりあえずこれでバイバイ、だね」

これでお別れ、っていうのを瞳に感じる。

「大輝、待ってるからね」

朋美は右手を差し出す。

「ああ、必ず行くから待っててくれよ」

大輝は応える様にその手を握った。

「じゃあ、みんな!ありがとう!またね!!」

手を振りながら叫び、朋美は去って行った。


「行っちゃったか」

井原さんが溜め息混じりに言う。

「宇堂、絶対迎えに行きなさいよ。朋美が悲しむ様なことしたら、許さないからね」

キッと大輝を睨みつけ、井原さんが言った。
一瞬たじろぐ大輝だったが、すぐに真剣な顔になって答えた。

「大丈夫、信じろとは言わないけど、安心しててくれ」
「私も同じ高校だしね」
「実は私も同じ高校なんだよね、知ってた?」

野口さんがさらっと言う。
大輝は受験の会場に野口さんがいたとは言っていなかった。
発表の会場にもいなかったと思う。

「えっ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」

多分聞いてないと思う。

「ああ、そういえばそうだったね」

井原さんが手をポンと叩いて言う。

「桜子、成績良かったからね。学年トップクラスだったし」

なるほど、推薦だろうか。
見かけた記憶がないが。

「そ、そうなのか……お手柔らかに頼むよ」

大輝は学校で毎日下ネタを聞かされることを懸念してか、顔がひきつっている。

「宇堂くんの手に、私の胸当てればいいの?」

そのお手柔らかに、は新しい。
今度使おうかな。

「お前それ……柔らかさより胸板の硬さが目立って柔らかくないだろ、結果的に」

似た様な感想を私も持っていたが、さすがにその物言いは可哀想だよ、大輝……。

「宇堂くんひどいよ!」

ちょっと泣きそうな野口さんの代わりに、私が大輝の後頭部をはたく。

「女の子に失礼なこと言わないの」

涙目で後頭部をさする大輝。
そこまで激しく叩いてないはずだけど。

「……何となく、大丈夫そうな気がするわ」

苦笑いの様子で井原さんが呟いた。

その日、大輝をうちに泊めた。
パンツの替えなんかはコンビニで適当に買って、うちでご飯もお風呂も入ってもらって、寝る前に二人で運動した。

余計な一言が入ったけど、別にいいよね。
二人で寝てたんだけど、何となく呼吸が苦しかったりで熟睡できず、そのまま目が覚めてしまった。
…三時か。

ちょっと早い気はするけど、このあと大輝も起こさないといけないし起きちゃえ。
どうしても眠かったら昼間にでも寝たらいいし。
コーヒーをセットして、顔を洗いにいく。

洗面所で鏡を見るが、顔色は特に変わりない。
むくんでいたりということもない様だ。
そういうのが出るとしたら、もう少し先だろうか。

あまりに凄惨な死に様だけは、大輝に見せない様にしないと。
大輝のトラウマになって、朋美との再会がおじゃんになったら意味がない。
ある程度コントロールできるとは言っても、死に方まで考えないといけないというのはややしんどい。

しかしそれも今後の大輝の為。
彼の為に出来ることはやっておかなければ。
コーヒーの匂いがしてきて、鼻孔をくすぐる。

まるで流れ作業の様にコーヒーをカップに注いで、普段入れるミルクを入れず、ブラックで飲んだ。
苦味が今は何故か心地よさを与えてくれる。

さあ、この漆黒の闇に目覚めよ……。
はぁ、誰も聞いてないとは言え何を言ってるんだろう。
 

「大輝、起きて」

四時になったので、大輝を起こすことにした。
パパもそろそろ支度を始める頃だろう。
体を揺さぶり、大輝が起きるのを待つ。

「ん?……どうした、トイレか?」

寝ぼけ眼で外を見て、まだ暗いことを確認している様だった。
まだ寝てたいよね、ごめんね。
でも、大事なことなの。

「それはさっき済ませた。いいから起きて」

大輝がノロノロと身を起こしたのを見届け、私は着替える。

「支度して。出かけるから」
「は?今から……?」

一気に目が覚めたみたいだ。

「そう。既に割とギリギリだから急いでね」

言いながら台所へいく。

「ほら、これ飲んで」

コーヒーを手渡して、私も自分の分を注ぐ。

「あ、ああありがと」

まだちょっと寝ぼけているのだろうか。
ぼーっとしている。

「飲んだ?飲んだよね、さ、行くよ」 

無理やり大輝の手を引いて、上着を羽織る。
大輝は慌ててカップを置いて、同じ様に上着を羽織った。

「お、おう」 

外でパパが車を回してくれている。
昨夜のうちに、パパにも話はしてあったので、パパも眠いだろうにこんなことに付き合ってくれているのだ。

「さ、乗って」
「え、春喜さん?」

大輝は少し驚いていた。
こんな時間にパパに会うとは思っていなかったのだろう。

「ほら、急いで」

私は大輝を車に押し込んで、自らも乗り込んだ。

「少し飛ばすからね、シートベルト閉めといて」

普段安全運転のパパには珍しく、スピードを出している。

「朋美の見送りか?」

高速に乗って、方向がわかってきたのか大輝は気付いた様だ。

「ご明察」
「春喜さん、こんな時間に起きてて大丈夫なんです?」

こんな時にパパの心配まで。
本当に優しい子になったもんだ。

「なぁに、うちのお姫様の為だしね」

パパはそう言うと、窓を少し開けてタバコに火をつけた。
パパのタバコの吸い方は、何かカッコいい。
もし大輝も吸うなら、真似してみてほしい。
男にも、スマートさは大事だよね。

「パパ、あとどれくらい?」
「んー……さすがにこの時間だと道空いてるからね。もうあと十五分から二十分てとこかな」
「良かった、間に合いそう」
「また急だな、しかし。昨夜のうちに言ってくれたら良かったのに」 

それが出来たら、こんなにも慌てたことにはなってないのよ。

「言ったら大輝はきっと、そわそわして眠れなくなっちゃうと思って。おかげでよく眠れたでしょ?寝る前に運動もしたし」

生意気なこと言うお子ちゃまには軽いお仕置きを。 

「えっと……」

大輝はめっちゃ目が泳いでる。
パパはニコニコ笑っているが、聞こえてないフリに違いない。

道が空いているおかげもあって、ちょっと余裕を持って着く事ができたみたいだ。
ギリギリの到着も、ちょっとドラマとか映画みたいでいいけど、間に合わなかったらシャレで済まないしね。

「パパ、とりあえず帰りは電車で大丈夫だから」

車を降りながら、パパに伝える。
パパは頷いて、私にウインクする。

「わかったよ、気をつけて帰っておいで」
「ありがとうございます、春喜さん」
「春海をよろしく」

大輝にもウインクして、パパの車は去って行った。
時刻は五時を少し過ぎたところ。

「行こう」

大輝の手を取り、改札へ向かう。
改札前に人影がいくつかあった。

「お前らも来てたのか」

大輝が驚きの声を上げる。

「当たり前じゃない」
「昨日のあれでバイバイなんて、味気ないよ」

井原さんと野口さんが答える。
私が予め連絡して待ち合わせていたのだ。

「愛しの彼女の親友だしな、見送りくらいはするさ」

イケメンはやはりカッコつけないといけないのか、良平くんもすまして言う。
くっさ、とでも言いたげな大輝が印象的だった。

「えっ……みんな?」

朋美が到着した様だ。
タコ坊主とお母さんも当然一緒だ。

「何でここにいるの?」

朋美が大輝に尋ねた。

「来ないわけあるか」

さっきまでグースカ寝てたけどね。
そう思うと少し笑えてくる。
大輝が一瞬むっ、としたのが見えた。

「朋美の見送りに来てくれたのか」

タコ坊主が大輝の頭に手を置く。
何かおかしな動きをしないかと警戒したが、特にその必要はなさそうだった。

「いいお友達を持ったのね」

朋美のお母さんも感動の眼差しでみんなを見ている。 

「大輝、約束忘れてねぇな?」
「当然。死んでも行くよ」

力強く答える大輝。
それを見て微笑むタコ坊主。

「じゃあ大丈夫だな。だが、死ぬなよ」

拳を突き出し、大輝もその拳に拳を突き合わせる。 

「「男の、約束だ」」

目をキラキラさせている野口さんが見えたがそれを無視してタコ坊主を見ると、タコ坊主も私を見ていた。
軽く笑って頷く。

そして少し悲しそうな表情になる。
それを見た私は直感する。
この男は私の正体に気付いている。
そして、私の運命もある程度知っていると。

「お前が考えてる様なのと違うから……」

大輝が野口さんにうんざりしながら言った。

「いやぁ、熱い男の約束いいなぁって」

このままほっとくと、大輝はぼへーっとしたまま朋美をただ見送って終わるだろう。
なので、背中を押してあげる。
大輝の肩を叩き、視線で朋美のところへ行く様促した。 

「朋美」

大輝が朋美に向かって右手を差し出す。
朋美は一瞬迷った様な顔を見せたが、少し笑って大輝の右手を握り返した。
その瞬間……キィィィィン!と音がして幻想殺しが発動し、朋美は霧散した。
……なんてことは当然なく、二人の握手は普通に交わされた。

「昨日も言ったけど、必ず行くから待っててくれ」

大輝は左手も添えて朋美の手を包み込んだ。
タコ坊主がそれを見て何とも言えない顔をする。

「……親の前でそうイチャイチャしないでもらえるか……」
「もう……泣かないつもりだったのになぁ……」

空いた左手で涙を拭っているのが見えた。

「そろそろね、行かないと」

朋美の母親が申し訳なさそうに言った。

「あっ……うん」

今度こそ別れの時だ。
大輝がゆっくりと手を離して、その手を朋美は見つめていた。
そして荷物を手にする。

「大輝、春海、圭織、桜子、田所くん」

呼んだ全員を、朋美が見回す。

「またね!」

こうしてサプライズでの真・朋美の壮行会は幕を閉じた。

「お前ら眠くねぇの?」

大輝があくびをしながら言う。

「いや眠いよ。圭織が寝かせてくれなくてさ」 

そう答えた良平くん。
井原さんがぎょっとした顔になった。

「ちょっと良平!?」
「おー、お熱いこって」 

大輝はあまり興味ないのか、ぶっきらぼうに返した。

「お前のとこもだろ?暫くは春海ちゃんだけを愛してやれよな」

確かに、暫くは私だけの大輝でいてくれる。
だけど、それはそう長く続かない。
それも確定事項なのだ。

「二人とも、どんなプレイしてたの!?ちょっと詳しく聞かせてよ、後学の為に!」 

野口さんが、興味津々に聞いてくる。

「ノーコメントだ。勝手に想像してくれ……」

またも大輝はぶっきらぼうに答える。
こうなったら仕方ない、私が教えてあげちゃおう。

「昨夜はね、大輝割と元気で後ろから……」
「おいいいいぃぃぃぃぃ!!!勝手に答えようとしない!!」

すっかりと眠気が飛んだのか、大輝は元気になった。
下半身も元気だったら、あとである程度フォローしてあげてもいいかなって思うんだけどね。

けど、この楽しい雰囲気はこの先、そう長くは続かなかった。
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