34 / 36
幕間 その1 ウーカルの仲間達
六話 エント族 千年聖樹 精霊 リンドンの至誠 (1)
しおりを挟む上には上がいる。
この『化け物屋敷』に連れてこられてから、強く思った事だ。 あの僻地の荒れた場所で育った俺は、それこそ世界を知らない馬鹿者だったと、そう思う。 高々、千年ちょっと生きただけで、高位の魔物に成れる筈も無い。
へし折られ、意識を無くし、そして、いつの間にか運ばれ…… 今に至る。
同じ千年聖樹である、ボボールの元に運ばれたのだと、そう『認識』できたのは、ほんの数刻前。 気が付いたら、何かオカシイ。 俺の本体とも云うべき千年聖樹の幹は、圧縮され、手槍の柄にされて居た。
混乱が俺を包む。 同じ種族のボボールが、説明してくれなかったら、今も混乱の中に居たと思う。
幾許か…… 時間を空けて、更に運ばれたのが、魔人の前。
――― いや、マジで?
魔人の前に引き出され、圧縮され『柄』と成った身体から『霊体』を、無理やり引きずり出され、座らされている…… なんて事がされたなんて、考えられるか?
深刻そうなボボールが傍に立って、その状況を補佐しているのが何とも言えない。 逃げ出すなんて、考える事さえ出来ない。 まるで、暴風雨に晒される、双葉の様な感覚…… はぁ…… 生き残れたと思ったのに、俺の人生は此処までか……
―――― まぁ、そんなもんさ、人生なんて……
―――― ☆ ―――― ☆ ――――
俺の名はリンドン。
リンドン=ウエイスト=ディスケット=スクラップ=ミレニ=ホリトリ という名だった。 『千年聖樹』だ。 いや、だったかな。 既に俺の身体は無く、今の身体は『幹』から作り出されたハルバードの柄となっている。 中に居る、『 霊体 』 と呼ばれる、” 存在 ”となった。 自力で魔力を得る事も出来ず、さりとて誰かに喰わせてもらうことも無い……
単にハルバードの柄という役割を、与えられた『半端モノ』だった。
そんな『物質』と『魂あるモノ』の境目をフラフラするモノと成ってしまったらしい。 意識を取り戻したのは、トンデモナイ魔力を備えた、魔人の前。 ハルバートの『柄』として『槍頭』と『宝珠』を繋ぐ一本の棒と成った後だった。 その魔人が云うに、俺が生き残り、こうやって曲がりなりにも『この世界』に魂が存在できるようになったのは、『役目』が有るから…… らしい。
目の前の魔人でも凄いのに、それ以上の存在が、そう云ったとか。
静かに魔人は口を開く。 紡がれる言葉に回復しかけた混乱に押し戻される。
「……上位の存在が、俺に『役割』を与えただと? 知らんぞ、そんなモノは」
「お前は、会った事が有るはずだぜ」
「えっ? 誰…… 誰だそれは?」
「お前を叩き折った、兎人…… いや、『精霊そのモノ』と、云える存在だ」
「……あぁ 何となく思い出しましたぜ。 過去の記憶を見せた、兎人族の小娘が『突然』目を怒らせて、俺をへし折った…… って、あの人かい?」
「あぁ…… そうだ」
「むむむッ…… しかし…… まぁ、あの人なら…… 判らんでもありやせんな」
「それ程のモノだったか、やはり」
「攻撃色の瞳に睨みつけられた時、一瞬ですべてを諦めましたもん。 こりゃ、叶わないって。 へし折られ、荒野に倒れた後、あの人に『廃龍の墓所』をぶっ壊してくれって『お願い』をしたのは、それが理由ですぜ。 俺じゃ、絶対に出来ない事を、その人はやってのけるんじゃないかってってね。 で、どうでした?」
「お前の勘は当たったようだ。 完膚なきまでにぶっ壊し、廃龍を滅し、復活出来ぬ様に封印した。 もちろん、たった『一人』でな」
「規格外すぎやしませんか?」
「ウーカルに危害を加えたんだ、そのくらいはするさ」
「ウーカル?」
「お前がこれから、死ぬ気で『護る』存在だ。 アレもウーカルの中で眠っている」
「…………拒否は出来ない見たいですな」
「アレがそう望んだからな」
「むむむ…… そうですかい」
「一つ『聞いておく事』が有る」
「む、……何なりと」
「ウーカルに…… いや、アイツに意趣は在るか。 いくらアレの望みでも、お前に意趣が有れば、この役目はお前に与えない。 ウーカルに危害が加われば、アイツが出てきちまう。 そうなれば、理のバランスが崩れ世界は崩壊する」
「……怒りや敵意と云う事なんだろうか?」
「そうだな、そう云う『負の感情』とも云えるな」
「……それを向ける相手は、あの娘では無いな」
「同胞か?」
「助けを願っても、無碍にされたのは、未だに思う事がある」
「ボボール爺は?」
「……長老は、仕方ないと思う。どうにも成らなくなってからの依頼だろ?」
「まぁな。 サバけた感情だな」
「もう、本体を失っているからな。 ……細々と意識を保つ事になるのか」
「まぁな。 ウーカルの傍に居れば、アイツが漏れ零す『魔力』の恩恵は与れるか。 そんなところだ」
「…………嫌って云う、選択肢は無いな。 道化と化すのは、良い事なのかもしれない。 もう、真面目に世界を想う事も無いだろうしな」
「『道化る』……か。 アイツが無茶しそうな時は、道化て道を正してやってくれ。 どうにも頑固な奴でな。 どうも、ウーカルは好奇心が強すぎる」
「そうかい…… なんだか、楽しそうな響きではあるが?」
「……下手打つと、死ぬぞ?」
「もう、死んだも同然だしな。 せいぜい、道化て見せるぜ。 で、どうする?」
「……お前には、『精霊誓約』を結んでもらう。 契約主は俺。 お前の真名で、ウーカルの守護を命じる」
「リンドン=ウエイスト=ディスケット=スクラップ=ミレニ=ホリトリ という名でか? まぁ、いい。 どのみち、選択肢は無いのは知っている。 ……判った」
儀式めいた精霊誓約で俺は縛られた。
契約が成立するのに、暫く時間が掛る。
………… その間、俺は柄と成った幹の中で、泡沫の様に微睡んだ。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる