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幕間 その1 ウーカルの仲間達
第一話 妖魔人族 ウルフガングの憂鬱 (1)
しおりを挟む今年も又、セントラリアの馬鹿共から手紙が送られてきた。
今年の貢ぎ物に付いての、「希望」がズラズラ書き綴られている奴さ。 アルに繋ぎを付けられる、あの国の『勇者』が、国王の命を受けて送ってきている。 まぁ、直接『黒の森』に来るような度胸はねぇからな。
糞勇者とその仲間達は、大した戦闘能力は無い癖に、自分たちがさも選ばれた存在であるかのように振舞いやがる。 第十五次、魔王戦役の時も、結局は俺の広域破壊魔法で戦力の大半を削ってからしか動かなかった、腰抜け共だしな。
まぁ、いい。 それはいい。 しかし、俺の力を恐れた結果、国王に阿り、俺を人跡未踏の西大陸『黒の森』の ” 太守 ” とやらに押し込めやがった。
……『東大陸』は人族の世界。
それに比し、俺が今暮らしている『西大陸』は魔物の大陸。 只人が住むには適さぬ土地で、主な住人は獣人族。 個人の ” 戦闘力 ” が、相当なければ、此方に来る事も難しいそんな場所だ。 さらに、それが『黒の森』と成れば、尚の事。
森の奥深くには、強大な妖魔すら存在するような危険な場所だったんだよ。 俺だって、容易に踏みこく事が出来ない、そんな場所だった。 いや、行く事は出来るが、暮らすとなると、簡単には行かない。
幸いな事にボボール爺さんという、穏やかな千年聖樹と、” 出逢う事 ” が、出来た。 言い換えるならば、『安全地帯』を手に入れられたと云う事だ。 此方に押し込められた俺にとって、何よりも幸運だったと云える。
まぁ、俺自体が人族にとって危険な『生き物』と云えたから、廃棄するつもりで、この『黒の森』の太守なんぞに任命したんだろ。 そんな俺に貢物を要求して来やがるのが、なんとも業腹だが、何もしないと人族の大軍を送り込んできやがり、森を焼きやがるから、西大陸の安全と均衡の代償として、微々たるモンだが、あっちに送る物は送っている。
……まぁ、其処ん所は、ボボール爺さんと、相談した。
ボボール爺さんは基本、平和主義者だからな。 エロいけど。 『黒の森』の恵みは豊かだ。魔物はもとより、数々の希少魔法草も割とよく見かける。 あっちでは、その稀少魔法草は、魔法草の重量と、『同体積の金塊』と取引されるようなモノすら、此方では当たり前の様に獣道の端に生えているんだ。
あっちから届く、『希望』の物品は、此方にとっては何ら痛痒を感じないようなモノばかりだ。 採取するのに、何も問題を感じない。 だって、道端の草が、そんな高価なモノに化けるのだからな。 ボボール爺さんは侮蔑の笑みを浮かべながらも、準備を手伝ってくれる。 まぁ、準備できたものを西大陸の獣人王国の貿易港である『アルフレイム』にまで持って行くのは、ボーンゴーレムだがな。
貿易港アルフレイムは、獣人達の国と、エウリカント神聖王国の共同統治下にあるし、エウリカント神聖王国の神殿には ” ニコラ ” が、最高司祭として君臨しているから、まぁ、輸送やらには問題は発生しない。 年に一度の貢ぎ物の運搬時、貿易港周辺は厳戒態勢になり、”戒厳令”が敷かれる。 だから、万が一俺が出向いても、誰かと遭遇する可能性は低い。
そんな警戒をするのには、訳が有る。 万が一、『勇者』の連中がこっちの大陸の玄関口に、” 出張る ” 可能性も捨てきれんからな。 なにせ、アイツ等とはトコトン合わねえから、仕方あるまい。
―――― 捨てといて、有用だと思えば、利用する。
ほとほと、人族には愛想が尽きた。 尽き果てたと云っても間違いじゃねぇな。 あっちに居た時には、”人嫌いの戦闘魔術師 ” で、有名な俺だった。 ……か? そんなつもりは全くなかったが、『情報操作』は、お手の物の『セントラリア』の貴族共の流す噂は、俺の与り知らない場所で、大きく広がって行った。
コソコソと語られる讒言と悪意は、迷惑この上ない。 いや、迷惑を通り越して、こっちの命を狙う者すら出す始末だ。 それを、傍観していた奴らも、同じだな。 王侯貴族やら、勇者の仲間達からは、” 早く、殺されろ ” くらいな思いも有ったと思うぞ。
少なくとも、奴らにとって、都合のいい戦闘魔導士として俺は……
ウルフガング=グランマニエ=エトワール=バララント=デ=プレガーレ
な、『俺』は……
――――― 過去の遺物にして、必要のないモノだったんだ。
俺は、第十五次、魔王戦役の終結を以て、どう転んでも、必要のないモノと成ったのは、間違いない。 まぁ、力持つ人外の魔導士が、その辺の市井に暮らしているって成ると、王も気が気では無くなるしな。 それに、俺自身にも問題があった。
俺は『人族』じゃない。 かといって、『魔族』でも無い。
俺の正体は、『半妖半魔』であり、東大陸の魔女の塔に棲んでいる、魔女達の実験で出来たホムンクルス体だった。 対魔族戦用に『造られた』、人口生命体なんだよ。 実験は思いのほか上手く行き、魔女達により、真っさらの頭の中に、魔術魔導の知識を詰め込まれた。 妖魔並みの魔力量と魔力回復量で、こと魔法戦に於いて、人知を超える魔導士と成った。 俺は、対魔物戦に特化した『強制進化』を、受けた…… とも云えるのさ。
情緒やら情操教育なんてもんは御座なりにされて、『人型兵器』として扱われ、利用され、そして、当惑された。 遣り過ぎたんだよ。
……俺が。
まさか、本当に 『第十五次、魔王戦役』を、終結させる戦果を叩き出すとは思わなかったのさ。 あぁ、単身でゴブリンキングダムの王城を焼き払って、ゴブリン共を文字通り殲滅しちまったからな。
平和な世の中に成った事は、喜ばしい事なんだが、百年近く戦が続いているセントラリアとしては、困惑したんだろうな。 そして、持て余した。
そうさ、戦いの無い世の中に、決戦人型兵器なんて、必要が無い。
俺に『感情』が備わっている分、俺を ”無碍にする” とか ”苛む” とかなんかは、恐ろしくて出来はしない。 牢に繋ごうとも、牢ごとぶっ壊して暴れ出しそうだし、毒殺しようとしても、俺自身が毒の塊みたいなもんだし、物理的に殺そうにも、俺を殺せる手練れは居ない。 なにせ、ゴブリンキングが率いる軍団に、歯が立たなかった連中だぜ?
―――― 無理だろ?
詰まるところ、造りはしたが持て余したと云うべきか。 勇者と勇者の仲間達も、俺の魔力には恐れがあった。 自分たちが対処できない、もはや自然災害に近い存在に、どう接していいか判らず、セントラリアの国王に直訴したらしい。 戦役では勇猛果敢な俺は、平時では争いの種にしかならない ってな。
まぁ、それも判らんでもない。 俺の全身に駆け巡る、血液を含む全ての体液が、人族にとっては『猛毒』だ。 通常の人族の生活は、諦めざるを得ない。 第十五次、魔王戦役に於いては、結構無茶したもんだが、ゴブリン王を殲滅した後…… 奴らの奏上に、セントラリア王国の上層部が同意した。
俺に対する『戦役の褒賞』は、必要では有ったしな。
―――― それを奴等は、利用しやがった。
放棄先として与えられたのは、人跡未踏、人外魔境の『黒の森』の太守という地位だぜ? 魔族が居なくなり、その跡地に出来た広大な土地は、西大陸の獣人共が既に入植を始めていたし、そいつらとの軋轢を避けるために、セントラリアの王が出した結論が、誰のモノでも無い、広大な『黒の森』の管理者の地位。
――― 領主ですらない。 たんに、その場所に居る、管理者…… と、云う事さ。
領主ならば、代官を置き、王都に暮らす事も法的には問題が無い。 しかし、太守であれば別。 太守は与えられた場所に赴き統治しなくてはならないと云う文言が、王国法…… つまりは、東大陸では共通の認識に成っている。 何としても、王都から追い払いたい。 若しくは、東大陸から追い払いたいという意思がそこに見える。 別の視方をすれば、廃棄されたといってもいい。
人跡未踏、妖魔がうようよ居るこの『黒の森』にな。
余りにも腐っている思考に、もはや苦笑いしか出んよ。
あっちの大陸では、今じゃ『俺の行方』が、良く判らないって事となっている。
森の奥深くに隠遁し、『黒の森』を監視していると、そう云われるようになったらしい。 まぁ、その辺の情報はアルが持って帰ってくれている。 俺自身、『黒の森』からは一歩も外へは出ない。 そんな事は眷属の奴等に任せている。
ほとほと人族が嫌いに成った俺は、万が一の為に、勇者以外に、俺の事を知らせない事にしたからな。 アルが繋ぎを付けるのは勇者のみ。 他の奴等は密やかに動くだけ。
よって、何かを俺に言って寄越すのは、アルを通した勇者だけなんだよ。
まぁ、求めたのは自由。 そして、それを実現する為に、細い細い繋がりを保っただけの事さ。
『廃棄』され、この地で自由を得た俺は、その対価に、東大陸 大国「セントラリア」へ、毎年 獣人族国家「神聖ブルームラルト聖王国」のアルフレイム港 経由で、奴等が欲しがる『貢物』が送っているだけの存在となったんだ。
――― まぁ、そんな事実は当然『表』に出せるようなモンじゃねぇ。
こっちの大陸に有る、獣人達の国、エウリカント神聖王国も、神官共の巣である、神聖ブルームラルト聖王国でも、『人造半妖半魔』なんか、教義のうえで存在を認められるようなモンじゃねぇしな。
対魔族戦用に『造られた』存在である事は、東大陸の大国『セントラリア』の国王と側近のみが重要秘匿事項として、記憶にとどめているだけなんだよな。 文書化しても居ない筈だ。 今、俺の事を知って居る者が居なくなれば、俺の存在なんか、闇に埋もれる。 そんな、廃棄物なんだよ、俺は。
だから、俺は好き勝手遣る事にした。
この『黒の森』でな。
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