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第二幕 廃龍の墓所と相棒
一話 レント族からの依頼
しおりを挟むがぁ~~~~つり 怒られた。
みんなの目がとっても、怖かった。
そんで、罰を喰らった。
” 妖魔沼毒蛇族がレヌレー を、監視しろ ”
だって……
『監視』ってなにさ。
レヌレーは良い人だよ。 それに、精霊様と神様に誓ったじゃん、大協約を遵守するって。 でも、まぁいいか。 大手を振ってレヌレーに会いに行けるんだしね!!
そうと決まったら、早速準備しなきゃね。 『監視』って事は、ちょくちょく会いに行って、お話してもいいって事だから、ちゃんと、その場所を作んなきゃならないもん。
隧道と坑道を通り抜けて、あの天井に張り付く小部屋へと向かったのは、色々と準備できた五日後。 厳しい目をしたウーさんに、敢えてデカい声で言い切ってやったんだ!
「レヌレーの『監視』のお仕事に行ってきま~す!!」
ってね。
めっちゃ、渋い顔をしてたけど、知るもんか! 知った事か! お友達を、邪悪な存在って決めつけるのは、とっても『嫌』な事だったんだもん。 あたしだって、『忌み子』だ。 兎人族だけどね。 妖魔っていっても、レヌレーは大きく見れば、魔人族の一族であるラミア―族に含まれるんだ。
云わば、私と同じ。 『私』が良くて、『レヌレー』が良くないって、おかしくはないかい? だから、あたしはみんなの懸念なんざ、さらさら気にせず、レヌレーの家に、いくのさ。 大手を振って、お友達の、お家にねッ!!
――――― ☆ ―――――
地下道を歩きながら思い出す……
そう云えば…… 一人だけ態度が違ってた。 うん、紳士なビラーノだけは、違ったよ。 優しくあたしに笑顔を見せながら、手に持った一枚のローブを差し出したんだ。
「これは、『毒除けのローブ』。 強い『毒沼蛇族』の体毒でも、通さぬローブだよ。 アノ子とお話するんなら、着て行った方がいい。 隧道の入口に小屋掛けしておいたよ。 そこで羽織るといい。 家に戻る時には、そこで脱いで保管しておくこと。 いいね、ウーカル。 これは、皆が恙なく暮らせるようにするための規則だよ」
「アイアイ。 身に付く毒気を除けるって事ね。 わかった!」
「判ってくれたなら、重畳。 特別な布は、私が作った。 沁み込ませてある薬剤はエリーゼが生成した。 毒除けの呪符はウーが施した。 ボボールの祈りで、大地と樹々と闇の精霊様方の加護を戴いた。 特別なローブだよ」
「アイアイ…… 怒られたのは、辛かったけど、みんな心配してくれているんだよね」
「そうだよ、ウーカル。 君は仲間だからね。 レヌレーも、いずれはそうなるかも知れないけれど、今はまだその段階じゃないから……」
「仕方ないね。 でも、レヌレーは良い人だよ。 お友達だもん。 寂しさを、たった一人で抱え込んだ……」
「そうだね。 あれほどの好意を君に示していると云うのは、『奇跡』だよ。 この世界の奇跡といっても、過言ではないね。 さぁ、行っておいで。 レヌレーも待っているだろうしね。 アノ子は大空洞からは、きっと出ない。 出たら、大協約違反と見なされてしまうかもしれないから。 そうなれば、君とも会えなくなる。 身を慎み、ジッと、孤独に耐えるだろうから」
「アイアイ!」
――――― ☆ ―――――
あたしは、云われた通りローブを纏って、地下へと続く道を行く。 『魔法鞄』には、色々と詰め込んだしね。 お友達の家に遊びに行くんだ! 楽しみだよ。 とっとこ、とっとこ地下道を歩いて、あの小部屋に到着したんだ。
何時もの通り薄暗いね、ここ。 こんど、ランタンでも、持って来なきゃね。 気分が上がる様に、綺麗にしなきゃね。 大空洞の天井に張り付く小部屋。 空気の臭いを嗅ぎつつ、三つあるうちの一つの扉を開けると、眼下に広がる大空洞。 いつもの光景。 雄大で、闇に沈んだ、それでもって神秘的な、そんな場所。 崩落した城門から差し込む外の光が、まるで光の階段の様に見えたりもするんだよ。
綺麗だよね……
胸一杯に息を吸い込み、そして、大声で語り掛けるんだ。
「来たよ~~~ レヌレー!! ウーカルが遊びに来たヨ~~~」
ザパァァァ って、遥か足下の水面が盛り上がり、デカイ蛇の姿でレヌレーが現れるんだ。 真ん中の首、顔の辺りが人化して普段のレヌレーに成ったよ。
「……ウーカル、来てくれたんだ」
「アイアイ。 レヌレーに会ってこいって、みんなにも云われたし! 今日はね、レヌレーとお茶しようと思って、色々と持ってきたんだ」
「うん…… 有難う。 ?そのローブは?」
「お家の中に『毒気』を持って入らない様に、特別に作って貰った」
「そうなのね。 いいよ、それ。 ウーカルの負担も少なる成る」
「アイアイ。 『毒除け』って云ってたから、身体に着く毒気が払われるらしいしね。 耐毒性の高いあたしでも、レヌレーの身毒は厳しいらしいから。 でも、あたしは、判んなかったけどね、キシシシシ」
「……ごめんね」
「なんで、謝んのさ? さぁ、お茶の用意をしよう! その前に、この扉の外側に、バルコニーを作ろう!!」
「えっ…… バ、バルコニー? そ、そうね…… 判ったわ」
あたしの言葉にレヌレーはちょっと驚いた風。 でもさ、小屋の中じゃあんまりにも、味気ないじゃん。 扉の向こう側にはちょっとした足掛かりしか無いし、二人でお茶するにも、バルコニーくらいあった方が良いじゃん。
でね、『魔法鞄』から、半分組上げたバルコニーを取り出したんだ。 ボボール爺さんの落ち枝を基礎にして、丘の周りの聖樹の枝で床を組上げてあるんよ。
ほら、あたし、力持ちだしね。 手頃な丸い落ち枝を半分に割って、ちょっと大きめの落ち枝に、蔓で括りつけて『簀の子』にしたモノを幾つか作ってね。
蔓と云えば、この蔓…… 食獣葛の蔓なんだよね。 強度があって、毒水にも強くって、それでもってしなやかで、もってこいの素材なんだよね。
で、ボボール爺の落ち枝でバルコニーの基礎部分を作るんだ。 扉外の出っ張りに引っ掛ける様にして、小部屋の床下の岩の隙間に打ち込んだんだ。
―――― その数三本。
レヌレーに手伝って貰って打ち込んだ。 ゴニュって音して、まぁ、なんとか設置完了。結構な広さを確保出来たんだ。 あとは、その上に『簀の子』の床を置くだけ。
まぁ、楽ちん簡単バルコニーの出来上がりって訳ヨ。
簡単なモノだけど、ちょっとしたモノよね。 ほら、ボボール爺さんの落ち枝って、中々に珍しいモノって、そうウーさんも言ってたしね。 長い事、お家で暮していても、五、六本しか無かったんよ。
そのうちの一本はあたしの手槍の柄になってる。 ボボール爺の足元の保管庫の中に他のは入れっぱなしにしてあったから、くすねて来たんだ。 まぁ、あそこに入るのは、あたしくらいだから、だ~れも知らんしね。
「まだ、テーブルとか椅子とかは無いけど、取り敢えずね。 お茶の準備は、こっちの籠に入れてあるからね」
「うん…… こんなの、始めてだから……」
「『お茶する』って、云うの。 中の良い人と、一緒にお茶を飲みながら、お話するんよ。 えっと、レヌレーはコレね」
籠の中から、ウーさんがあたしに『廃棄しておけ』って、そう云って渡して来た毒の瓶。 まぁ、碌でも無いモノだろうけど、レヌレーにとっては、良いモノ。 あたしは、水筒に黒茶を淹れて来たんだ」
バルコニーの端っこに座って、眼下に見える大空洞を眺めながらのお茶。 二人して、色んな事を喋ってたんだ。 レヌレーは、完全人化して、あたしの隣に座っているんよ。 ニコニコしてね。
薄暗いから、なんか光源が欲しいね とか……
ぶっ壊れたかつての王城の中に椅子とかテーブルとかが転がっているから、持ってくるね、とか……
毒草で良かったら、お花も飾りたいね とか……
時間の経つのも忘れて、楽しくおしゃべりしてたんだ。 扉の向こうの小部屋から突然声が掛かったのは、そんな中。
「ウーカル。 もう遅くなったよ、そろそろ『お開き』にしないかい?」
「あぁ、もうそんな時間? ビラーノが迎えに来てくれたの?」
「そうだね。 レヌレーもいいかい?」
「あっ、う、うん。 ごめんなさい。 つい楽しくって……」
「お友達と過ごす時間は、とても早く経つからね。 判るよ。 素敵なバルコニーになったものだ。 わたしも、ちょっと奮発してみようかな」
「ビラーノ?」
「今は内緒。 さぁ、帰ろう。 レヌレー、またな」
「アイアイ」
「また…… 今度」
手を振って、レヌレーにお別れ告げて、籠を『魔法鞄』に仕舞って、ビラーノの後に続いて、お家に帰る道を進む。 ちょっと、変だなって感じたのは、そん時。 だって、普通、あたしが何処で何しようと、家の人達は放置なんだもん。
まぁ、『特別なお友達』と一緒だからって云うのもあるけど、その為の『特別な装具』は、貰っているし…… なんか、用事があったんかな? 判らん事は直ぐに聞くのよ。 だって、あたしは素直な女なんだからねッ!
「ビラーノ、なにかあったの? 呼びに来るなんて、珍しいし」
「あぁ、まぁ、そうだな。 ちょっと、面倒事が有って、ウーとボボールが困っているんだ」
「へぇ、これまた珍しいね。 あの二人なら、大概の事は対処出来るのにね」
「ボボールは基本的に動けない。 ウーは別件で家を離れられない。 エント族の者達は、早急に対処せねばならないと云ってくるしな」
「へぇ、エント族からの依頼かぁ…… 早急にって、どういう事? あの人達って、のんびり屋さんなんじゃ無かったけ?」
「……詳細は、ウーから聴いた方が良いけれど、今、言える事はエント族の仲間の一人、聖樹なんだが、それが『闇落ち』間近らしい。 大協約絡みで、エント族は『闇落ち』する前に、伐り倒さないといけない。 でもな…… そいつの生えている場所がな……」
「厄介な場所なの?」
「あぁ…… まっ、帰ってから、ボボールに直接訊いた方が良い。 行くよ」
「アイアイ」
滅多に他種族に頼み事しない、エント族の依頼。 何となくだけど、それがあたしに関わって来るって感じがしたんだ。
依頼を受けるのは、嫌じゃ無いし、いつも世話になっているボボール爺の仲間の樹人達から『願い』だったら、受けない訳には、行かないしね。
まぁ、どうにかなるっしょ!
お家へ帰る、真っ直ぐな地下道をビラーノ後ろを歩きながら、あたしは、いつも通り、考える事をやめたんだ。
だって、あたしは、ボケ兎。
能天気なのは、何時もの事だもの。
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