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汚濁の根源 異界の魔力
決断の影響
しおりを挟むフルーリー様の声は、驚きと悲しみの韻を多量に含んでいたの。 私が王都を去る事が、彼女にとって『青天の霹靂』が頭に直撃したような衝撃を与えたみたいね。 大きなお声で、私に真意を尋ねてこられるの。
「なぜ、なぜ、リーナ様が王都を出られるのですか‼ そ、そんな事、誰が‼」
「御懸念は、御尤もに御座いますが、わたくしは決めねばなりませんでしたので」
「何を‼ で、ございますか⁈ なにが、起こったの云うのですか‼」
そうね、あの王太子執務室には、フルーリー様はいらっしゃらなかった。 いくら、” 政商 ” の御息女とはいえ、あの場には流石に同席は出来ないものね。 えっと、それじゃぁ…… 誰から私が王都を出ると聞いたのかしら? そんな疑問が顔に浮かんだのか、即座にフルーリー様は言葉を紡がれるの。
「ユーリが教えてくれたわ。 貴女が王都を出て、北の荒野に向かうって‼ それに、異を唱える者が居なかったって‼ 何故よッ! 貴女は王国にとって ” 至宝 ” ともいえる、薬師錬金術師なのよ?! この国の重臣の方々は元より、王太子殿下も ” それ ” は、よくご理解されている筈なのに‼」
「状況が私に選択を迫ったのですよ、フルーリー様。 秋季大舞踏会の会場…… ” 威風の間 ” に於いて、国王ガングータス陛下が何を宣下されたのかは、御存じですわよね」
「ええ…… 父も…… グランクラブ男爵様も…… 呆れ果てておいでになりました、” アノ ” 北伐の宣下に御座いますね。 それが、どう関係するのです?」
「王太子府に於いての事は、言葉にするのは大変、危のう御座います。外ならぬフルーリー様に御座いますれども、知れば、貴女の御身辺にも危険が迫りますの……」
「ユーリもそう言って、何も言ってくれないの。 ただ、これだけは、友人としてと前置きしてから、『 貴女の事だけ 』 は、教えてくれたのよ。 いくらその理由を聞いても、脅しても、賺しても、『 理由 』 は、教えてくれなかったのよッ‼ 何があったっていうのよ。 お願いよ、リーナ様。 教えて。 貴女が何故、敢えてそのような危険な場所に赴く事になった理由をッ!」
あの場で有った事柄はね、簡単なお話じゃないわ。 それに、あの場でのお話は…… 誰も命じなかったけれど、緘口令が発せられたのも一緒なのよ。 それ程、この国の未来に重大な決断が、重なって重なって…… 宣言されたのよ。 事は、ファンダリア王国に留まらず…… 隣国マグノリア王国の事、北部領域の向こう側に対峙する、ゲルン=マンティカ連合王国との戦争の趨勢にも影響する事なの。 だから…… だからね、念を押すの。
「フルーリー様。 いえ、フルーリー総合商会の会頭様にお話申し上げるこれからの事は、ファンダリア王国にとって大変重要な意味を持ち、さらには時を重ねるまでは 『 秘匿 』 せねばならない事柄でもあります。 口外すれば、フルーリー様の首はおろか、グランクラブ男爵家もまた…… 政商と云えども、きっとそう決断なされます。 それでも、尚、お聞きに成るというのですか?」
「……ええ。 ええ、聞きたいわ。 かくも重要な国運を掛ける決断は、政商たるグランクラブ男爵家に於いても重要な情報となります。 そして、わたくし達 『 商家 』 にとって、それは、巨大な宝玉にも勝る、宝。 そのような物を、易々と口外するような ” 馬鹿 ” では、御座いませんわ。 それに、わたくしは、フルーリー総合商会を差配する者。 お父様であっても、その差配に口を挟むことは、商道徳に反するモノ。 だから、誰にも口外いたしません。 ……誓約申し上げても、宜しくてよ?」
「商人としての フルーリー様の ” 矜持 ” に、ございますか?」
「ええ、商人としての、わたくしの『矜持』を元に、お話を口外しないと誓いますわ」
「……左様に御座いますか。 ご自身の商人としての信用の重さを、わたくしの語る言葉に賭けられますか……」
「ええ、事、ファンダリア王国の至宝、『 薬師錬金術師リーナ様 』の動向に関わりますことであれば。 ダクレール男爵領の方々から、” くれぐれも ” と、懇願されております故、知らねばなりません。 その後の事は、わたくしの商人としての誓約の元に、お話の内容を取り扱います。 如何ですか? これでも、お話にはなって頂けないでしょうか?」
「……判りました。 『お話』致しましょう。 この国が向かう先に光を求める方々の ” 決断 ” と、それに付随した、様々な思惑。 それこそ、わたくしがこの王都を出なければならない…… 北の荒野に向かう理由でもあるのですからね」
真剣な眼をして、フルーリー様は私を見詰める。 私は…… 静かに、凪いだ湖面のような表情になり、お話を始めるの。 長いお話に成りそうね。 あの日、王太子府、王太子執務室に於いて、語られたこと、そして、そこから始まる様々な決断を、フルーリー様にお話したの。 幸い、この第十三号棟には、多重に【防諜】の術式は打ち込んであるわ。 外に漏れる事も無い。
私の『お話』を聞くのは、フルーリー様と、シルフィー、ラムソンさん、そして、クレアさん、スフェラさんの五人だけ。
聞かせないといけない人達なのよ。 私の誓約に巻き込むのは心苦しいモノも有るしね。 シルフィーと、ラムソンさんは、何が何でも私と行動を共にするって、決めているらしく、あの場で語られた事を耳にしても、平然としていたわ。 でも、フルーリー様、クレアさん、スフェラさんの三人は……
徐々に顔色を無くしていったの。
私がね…… 三つの行く道を示されたと、そうお話した時に至っては、もう顔色が無かったのよ。 そうよね、どの方面に関しても、かなり危険な状況なんだものね。 南のベネディクト=ベンスラ連合王国の申し出は、フルーリー様にとっても、予想外の申し出だったらしいわ。 まして、リッカ上級王妃殿下から、私が直接 『 親書 』 を下賜されたなんて……ね。
それに、ファンダリア王国を取り巻く、非常事態とも云える現状をかなり正確にご理解頂けたの。
「殿下は……、王太子殿下はマクシミリアン王子にマグノリア王国を獲れと…… そう、申されたのですか? 三年以内にすべてを掌握するようにと……」
「ええ、左様に御座いますわ」
「国王陛下は、王国の背中をマグノリア王国に曝け出している中での、その判断は…… 王権の簒奪とも言えますわよね」
「まさしく。 そして、ご重臣の方々もそれに賛同して居られるご様子」
「つまりは…… ガングータス国王陛下を見限った? 教会…… いえ、マグノリアの息の掛かった神官共々…… に御座いますね」
顎に摘む様に手を当て、瞼を閉じ深く思考の海に沈み込むフルーリー様。
その傍らで、オロオロと所在無げに視線を彷徨わせるのは、クレアさんとスフェラさん。 お話の内容がトンデモナイ事だったって事だけじゃないみたいなのよ。 えっとね、貴女方の行く先も考えて居るわよ。 北の荒野なんて、危険な処に連れて行ける無いんだもの。
だからね……
私は、そんなクレアさんとスフェラさんに、私の考えを伝えたの。
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