497 / 714
北の荒地への道程
そして…… 北の荒地へ (9)
しおりを挟むその場に立ち竦む私。 どう動いていいか、判ら居ないのだもの。 そんな中、一人の外務官様が、ルフーラ殿下の元に駆け寄って来られたの。 そして、彼の耳にだけは居る様なお声で、何かを伝えられたわ。
周囲に居られる、ルフーラ殿下の側近の方々に対し、視線と手サインで何かをお伝えに成ったの。
「薬師リーナ殿。 本国より、緊急の使者が参ったのです。 本来ならば、拙の元に来るべき者であるだが、その報告の内容が、ファンダリア王国にも深くかかわるとのこと。 拙が受け、それをお伝えするよりも、直接お伝えした方が、良いとの本国より託がありました。 今、こちらの政府関係者に問い合わせの最中です。 どちらに、報告に上がればよいのかを、協議中との事」
「ルフーラ殿下? 何故それをわたくしに?」
「当事者の御一人と、そう思いました由。 お伝え申し上げました。 おや、ウーノル殿下が、こちらに見えられるようですね」
ルフーラ殿下の御言葉通り、側近の方々を従え、ウーノル殿下が見えられたの。 そして、ルフーラ殿下の前にお立ちになり、しっかりと視線を合わせ、言葉を発せられたの。
「ルフーラ殿。 大切なファンダリアの民を、返してもらおうか」
「ウーノル殿下。 そのように身構えなくとも、良いでしょうに。 バルコニーで、佇むお嬢様方を、ホールに御戻し致したまで。 たまたま、ガングータス国王陛下のあの宣下の場に遭遇したのです。 とても、そちらにお返しするような、そんな時間は御座いませんでしたな」
「そうですか。 まるで取り込まれたように、こちらから見えたものですから」
「なんと! そんな事は致しませぬ。 拙は薬師リーナ殿の好まぬことは、行動に移しはしませんぞ? 拙も、拙の配下も、薬師リーナ殿には返しきれぬ恩が在ります故」
「……しかし、そのご様子は……」
成程、私は ルフーラ殿下の背後に居るし、私の周囲にはルフーラ殿下の側近の方々が詰められておられるし…… 見ようによっては、取り込まれているともいえるわね。 なら、私がこの場を離れれば良いのよ。
ゆっくりと歩みを進め、ウーノル殿下の御前に進む。 殊更にゆっくりとカーティシーを捧げ、言葉を紡ぐの。
「ご心配をおかけいたしました。 成り行きとは言え、アンネテーナ殿下の御傍を離れました事、お許しください」
「いや、それはいい。 事情はミレニアムから聞いた。 そこに居る、シャルロッタ伯爵令嬢もこちらに来られよ。 何か、アンネテーナに申すべき事が有るのであろう?」
まだ、壁際に張り付いている、ベローチェ様が、その場で凛として美しいカーティシーをウーノル殿下に捧げるの。 頷きと共にその礼を受け入れられたウーノル殿下。 ちょうどその時、侍従官の御一人が足早に殿下の元に駆け寄られたの。
耳打ちをされ、下がられる。 途端に眉を顰められたわ。 そして、ゆっくりと、ルフーラ殿下の御顔を見られたの。
「ルフーラ殿。 ベネディクト=ペンスラ連合王国よりの使者が参上された。 緊急の事案を以てとのこと。 何か…… ご存じか?」
「ウーノル殿。 拙にも先程伝えられたばかり。 その内容については、何も。 しかし、本国よりの通達に、内容にはファンダリア王国にも重要な機密と、そうあったのも確か。 拙を通して、ルフーラ殿にお伝えするよりも、直接お伝えせねばならぬ、情報との通達もあり、どちらにご報告に上がればよいか、問い合わせ中であった」
「成程…… 左様でしたか。 ならば、理解できます。 南方方面より、ワイバーンが三匹、王都を目指し飛来していたと知らせがありました。 南部辺境領を超え、本領との境から、本領内懐に侵入し、さらに、王都南面の山中にて、その姿を見失ったと。 そう、警戒部隊からの報告が、昼前に上がりました。 これは…… そう言う事でしょうか?」
「……おそらく。 緊急であり、重大な知らせを、早急に届けるために、第一艦隊のワイバーン搭載母艦 龍の巣から、飛来したのでしょう。 王都に侵入する事は、通商条約で禁じております故、最寄りの着陸場所まで飛来し…… 後は…… たぶん…… バイコーン曳きの馬車あたりでしょうか?」
「その通りです。 先ほど、ベネディクト=ペンスラ連合王国の王族が座乗する、バイコーン四頭立ての馬車が、城に入りました。 その馬車に勅使の方が乗っておられました」
「成程…… 思うに、相当、重要な案件となりましょうな。 危険を冒してもお伝えせねばならぬ、情報かと。 如何なさいます、王太子殿下?」
「勿論、お会いしよう。 国王陛下は、” 御親征 ” のご準備でお忙しいであろうから、私が謁見する事となりましょう。 申し訳ないが、国王陛下以外、謁見の間を使用する事は出来ませんので、王太子府にお通り頂く事となりますが、宜しいでしょうか」
「宜しくお願い申す。 良ければ、拙もご一緒させて頂ければ?」
「当然に御座いましょう。 …………薬師リーナ。 それと、そなた…… シャルロッタ伯爵令嬢も、同行せよ。 事は一度に動かねばな。 あちらにはアンネテーナもいる。 シャルロッタ伯爵令嬢は、王太子府の小部屋にて、アンネテーナと話をすればよい。 ……アンネテーナが望むのであれば、王宮学習室の彼女の部屋を使うのも良い。 とにかく、同行願おう」
何かしら、緊迫した状況ね。 諾も否も無く、私たちは殿下の後に続き、” 威風の間 ” を出る事になったの。 ティカ様も難しい御顔をされているわ。 護衛の方々も、側近の方々もね。
陛下の宣下が、思いのほか、沢山の方々に衝撃を与えているのは、自明の理。 そして…… 動き出すの。 それぞれの目的を以て。 思惑や、権謀術策を弄す時は過ぎ去ったらしいわ。
それまでに積み上げた、様々な努力が、ここに……
結集されるのかもしれない。
王太子府に向かう、大階段。
これほど、長く感じた事は無かったの。
ティカ様がそっと、近寄り、私にだけ聞こえるように、耳打ちをされる。
「リーナ…… 眼鏡…… 忘れてるわ。 貴女…… その存在感…… どうにかしなさい。 注目の的よ?」
「えっ? そ、そうなのですか?」
「いつもの歩幅に戻っているわ。 スカートの裾から、足首が見えそうよ。 ほんとにもう…… シルフィーに貴女の後ろについて貰っているから。 でも、気を付けてね。 その姿は…… なんにしても、危ないわ」
急ぐ心で、足早に階段を上っていたから、裾から足が見えそうになっていたのかぁ…… 目に毒よね。 ティカ様にお礼を申し上げて、それでも急ぎ足で、大階段を駆け上がるの。
だって……
ウーノル殿下……
とっても、急いでらっしゃるのだもの……
11
お気に入りに追加
6,834
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。