その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北の荒地への道程

そして…… 北の荒地へ (9)

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 その場に立ち竦む私。 どう動いていいか、判ら居ないのだもの。 そんな中、一人の外務官様が、ルフーラ殿下の元に駆け寄って来られたの。 そして、彼の耳にだけは居る様なお声で、何かを伝えられたわ。

 周囲に居られる、ルフーラ殿下の側近の方々に対し、視線と手サインで何かをお伝えに成ったの。 




「薬師リーナ殿。 本国より、緊急の使者が参ったのです。 本来ならば、拙の元に来るべき者であるだが、その報告の内容が、ファンダリア王国にも深くかかわるとのこと。 拙が受け、それをお伝えするよりも、直接お伝えした方が、良いとの本国より託がありました。 今、こちらの政府関係者に問い合わせの最中です。 どちらに、報告に上がればよいのかを、協議中との事」

「ルフーラ殿下? 何故それをわたくしに?」

「当事者の御一人と、そう思いました由。 お伝え申し上げました。 おや、ウーノル殿下が、こちらに見えられるようですね」




 ルフーラ殿下の御言葉通り、側近の方々を従え、ウーノル殿下が見えられたの。 そして、ルフーラ殿下の前にお立ちになり、しっかりと視線を合わせ、言葉を発せられたの。




「ルフーラ殿。 大切なファンダリアの民を、返してもらおうか」

「ウーノル殿下。 そのように身構えなくとも、良いでしょうに。 バルコニーで、佇むお嬢様方を、ホールに御戻し致したまで。 たまたま、ガングータス国王陛下のあの・・宣下の場に遭遇したのです。 とても、そちらにお返しするような、そんな時間は御座いませんでしたな」

「そうですか。 まるで取り込まれたように、こちらから見えたものですから」

「なんと! そんな事は致しませぬ。 拙は薬師リーナ殿の好まぬことは、行動に移しはしませんぞ? 拙も、拙の配下も、薬師リーナ殿には返しきれぬ恩が在ります故」

「……しかし、そのご様子は……」




 成程、私は ルフーラ殿下の背後に居るし、私の周囲にはルフーラ殿下の側近の方々が詰められておられるし…… 見ようによっては、取り込まれているともいえるわね。 なら、私がこの場を離れれば良いのよ。 

 ゆっくりと歩みを進め、ウーノル殿下の御前に進む。 殊更にゆっくりとカーティシーを捧げ、言葉を紡ぐの。




「ご心配をおかけいたしました。 成り行きとは言え、アンネテーナ殿下の御傍を離れました事、お許しください」

「いや、それはいい。 事情はミレニアムから聞いた。 そこに居る、シャルロッタ伯爵令嬢もこちらに来られよ。 何か、アンネテーナに申すべき事が有るのであろう?」




 まだ、壁際に張り付いている、ベローチェ様が、その場で凛として美しいカーティシーをウーノル殿下に捧げるの。 頷きと共にその礼を受け入れられたウーノル殿下。 ちょうどその時、侍従官の御一人が足早に殿下の元に駆け寄られたの。 

 耳打ちをされ、下がられる。 途端に眉を顰められたわ。 そして、ゆっくりと、ルフーラ殿下の御顔を見られたの。




「ルフーラ殿。 ベネディクト=ペンスラ連合王国よりの使者が参上された。 緊急の事案を以てとのこと。 何か…… ご存じか?」

「ウーノル殿。 拙にも先程伝えられたばかり。 その内容については、何も。 しかし、本国よりの通達に、内容にはファンダリア王国にも重要な機密と、そうあったのも確か。 拙を通して、ルフーラ殿にお伝えするよりも、直接お伝えせねばならぬ、情報との通達もあり、どちらにご報告に上がればよいか、問い合わせ中であった」

「成程…… 左様でしたか。 ならば、理解できます。 南方方面より、ワイバーンが三匹、王都を目指し飛来していたと知らせがありました。 南部辺境領を超え、本領との境から、本領内懐に侵入し、さらに、王都南面の山中にて、その姿を見失ったと。 そう、警戒部隊からの報告が、昼前に上がりました。 これは…… そう言う事でしょうか?」

「……おそらく。 緊急であり、重大な知らせを、早急に届けるために、第一艦隊のワイバーン搭載母艦 龍の巣ドラゴネストから、飛来したのでしょう。 王都に侵入する事は、通商条約で禁じております故、最寄りの着陸場所まで飛来し…… 後は…… たぶん…… バイコーン曳きの馬車あたりでしょうか?」

「その通りです。 先ほど、ベネディクト=ペンスラ連合王国の王族が座乗する、バイコーン四頭立ての馬車が、城に入りました。 その馬車に勅使の方が乗っておられました」

「成程…… 思うに、相当、重要な案件となりましょうな。 危険を冒してもお伝えせねばならぬ、情報かと。 如何なさいます、王太子殿下?」

「勿論、お会いしよう。 国王陛下は、” 御親征 ” のご準備でお忙しいであろうから、私が謁見する事となりましょう。 申し訳ないが、国王陛下以外、謁見の間を使用する事は出来ませんので、王太子府にお通り頂く事となりますが、宜しいでしょうか」

「宜しくお願い申す。 良ければ、拙もご一緒させて頂ければ?」

「当然に御座いましょう。 …………薬師リーナ。 それと、そなた…… シャルロッタ伯爵令嬢も、同行せよ。 事は一度に動かねばな。 あちらにはアンネテーナもいる。 シャルロッタ伯爵令嬢は、王太子府の小部屋にて、アンネテーナと話をすればよい。 ……アンネテーナが望むのであれば、王宮学習室の彼女の部屋を使うのも良い。 とにかく、同行願おう」




 何かしら、緊迫した状況ね。 諾も否も無く、私たちは殿下の後に続き、” 威風の間 ” を出る事になったの。 ティカ様も難しい御顔をされているわ。 護衛の方々も、側近の方々もね。

 陛下の宣下が、思いのほか、沢山の方々に衝撃を与えているのは、自明の理。 そして…… 動き出すの。 それぞれの目的を以て。 思惑や、権謀術策を弄す時は過ぎ去ったらしいわ。

 それまでに積み上げた、様々な努力が、ここに……

 結集されるのかもしれない。

 王太子府に向かう、大階段。

 これほど、長く感じた事は無かったの。

 ティカ様がそっと、近寄り、私にだけ聞こえるように、耳打ちをされる。 




「リーナ…… 眼鏡…… 忘れてるわ。 貴女…… その存在感…… どうにかしなさい。 注目の的よ?」

「えっ? そ、そうなのですか?」

「いつもの歩幅に戻っているわ。 スカートの裾から、足首が見えそうよ。 ほんとにもう…… シルフィーに貴女の後ろについて貰っているから。 でも、気を付けてね。 その姿は…… なんにしても、危ないわ」




 急ぐ心で、足早に階段を上っていたから、裾から足が見えそうになっていたのかぁ…… 目に毒よね。 ティカ様にお礼を申し上げて、それでも急ぎ足で、大階段を駆け上がるの。




 だって……



 ウーノル殿下……




 とっても、急いでらっしゃるのだもの……








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