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北の荒地への道程
北の荒地への道程(9)
しおりを挟む当然、そんな高貴な王族の方達の他にも、大勢の方々がいらっしゃるのよ。 そう…… ウーノル王太子殿下の側近の方々と云える人達なのよ。
大公家の御子息、御令嬢の方々…… さらに、公爵家や、侯爵家、宮廷伯もいらっしゃるのよ。 もう、高位貴族様の展覧会の様相ね。 庶民の私が、普段では、絶対に席を同じく出来ないような方々。 そんな方々でも、そこはやはり、王族様方の御前。 座っておられる位置は、王族様方とは違い、一段低い位置に居られるのよね。
そんなお歴々の中まずは、王族様と近い席に座っている方々から。 そう大公家の御子息、御令嬢なのよ。 まずは……
――――― ドワイアル大公家。
ミレニアム=ファウ=ドワイアル子爵様
アンネテーナ=ミサーナドワイアル大公令嬢様
の、お二人が見えられていたわ。 ミレニアム様は、シックな装いで、アンネテーナ様は輝く白いドレス姿なの。 シルクレード製の中でも飛び切り上等の、輝くような生地で誂えられた、アンネテーナ様のドレスは、それはそれは見事な装いだったわ。 彼女の美しさを遺憾なく発揮しているの。
ウーノル殿下の横にお立ちに成られても、なんら遜色も無いでしょうね。 その為の装いって事でもあるんだろうけれど……
……綺麗。 本当にお美しいわ。
でも、そのアンネテーナ様。 私を見詰めて、ちょっと、お口が開いているの。 唖然というか…… 言葉を失っているって…… そんな感じを受けるのよ。 な、なにか…… 非礼な事とか、約束事が護れてなかったの? 途端に不安な気持ちが浮かび上がってくるのよ。
一つ間違えば…… 簡単に首が飛ぶような、そんな場所なんだもの……
不安な気持ちのまま、反対側に気持ちを移すの。 反対側のお席に座ってらっしゃるのは……
―――― ミストラーベ大公家。
アーノルド=テムロット=ミストラーベ伯爵様
ベラルーシア=フォースト=ミストラーベ大公令嬢様
勿論、とても素敵な装いなのよ、お二人とも。 ミストラーベ大公家の御次男ではあるけれども、次代の大公様として、継嗣として定められておられる、アーノルド=テムロット=ミストラーベ伯爵様が、美しく装われたベレルーシア様をエスコートされたのね。
ご長男である、財務寮の ” 飢狼 ” さんは…… あぁ、あちらに、ひっそりと座ってらっしゃるのね。 ご同伴のご婦人は? えっ? いないの? そ、そうなんだ…… でも、そんな人たちも…… 私を見て固まってらっしゃるの……
やっぱり…… なにか……
そして…… ニトルベイン大公家からは…… あれ? ニトルベイン大公家の御方が見当たらないわ? 大公家の何方がいらしている筈なのだけれど、ミストラーベ大公家からは、何故か傍系の……
ミーテン=グレーテン=ニトルドライ 侯爵様
侯爵様は今、王太子府に於いて、設立された ” 法務院 ” の長官に任命されておられるの。 つまり、今後、王国の法の中心となられる御方。 そして、予定されている、法務寮の設立に関して、とても大切な役割を与えられている方でもあったわ。
なるほどね……
えっ、まって! ティカ様が居ない。 何処にもいないの。 なにか…… なにか、有ったの? 制御魔方陣の調整に手間取っているの? な、なら、私も!
皆さんの静かに沈黙されている様子に…… そんな思いも、吹き飛ばされるの。 どうにも、逃がしてもらえ無さそうね。 だって…… 大公家の方々が、何故か言葉を無くし、私を見詰めておられるんだもの。 きっと、何らかのお叱りを受けてしまうのね。 はぁ…… 気が重い。
せめて…… せめて…… 笑顔を絶やさない様にしなくちゃ……
その他の方々も、それぞれ然るべき位置にお座りになっておられるの。
先程も、ちらりと視線を向けた、
リベロット=エイムソン=ミストラーベ宮廷伯爵様
渋くシックな装いの、
エドワルド=バウム=ノリステン子爵様
騎士の正装をされているのは、
アンソニー=ルーデル=テイナイト子爵様
聖堂教会の助祭の装いでその身をしっかりと包み込んでおられるのは、
ユーリ=カネスタント=デギンズ助祭様
高貴で清廉な、四人の尊きお方達。 その面々がお揃いになり、こちらに目を向けられているのは…… 圧巻よね。 お部屋のウーノル殿下から遠い席にお着きに成ってはいるの。 その身分ゆえ、 でも、不思議。 皆さん一様に口を軽くから、ポカンと開かれ、マジマジと私を見詰められていたの。
――――― 王太子殿下は、満足そうに頷いてらしたけれどもね。
なにか……、 そう、なにか、不敬な点でもあったのかな?
ティカ様の御姿が見えないのは、心配が募るの。 ……制御魔方陣の調整が難航して、お時間が取れなくなっているのかも…… 大公家のお嬢様が、ご出席に成らないのはとても、問題に成るはずなのだけれども…… あの方の「 王宮魔術士 」 としての役割は、大公家の御令嬢としての対面よりも、はるかに重要って事に成るのかしら?
この場に、彼女の姿が見えないのは、私としてはとても不安に思うの。 だって…… 彼女は…… 私の……
^^^^^
それにしても、誰も何も言わないのは何故?
打ち合わせでしょ? 不思議に思って、ウーノル殿下の様子を伺うの。 なんだか、とっても、ご機嫌麗し気なご様子で、私の事を珍しくにこやかな笑みと共にご覧になっていたの。
あれ?
あれれ?
なに、この ” 居たたまれない ” 感じ…… 皆さんの表情が…… ね。 とても、場違いな感じを受けるのよ。 そう、珍獣とか、魔獣の変種とかを前にした、冒険者さん達の表情に、似ているような? 私…… 何かか…… 何か、王家主催の大舞踏会には相応しくない処がもあるんだ!
ヤバい!! きっと、ご指摘になるのにも、ちょっと…… な、感じの処かも!!
―――― 素早く、自分自身を確認するの。
もしや、スカートが捲れて、足首が見えちゃってる?! いえいえ、それは無いわ。 結構急いでいたので、デコルテとか、露出部分が緩んで何か見えてはイケないモノが見えちゃってるの?
そ、それも無さそうね。 かっちりと、いい感じに締め付けてくれたんだもの……
そ、そしたら、太腿に装備している、山刀の柄が出ちゃってる? スカートドレープの間に手を突っ込み探ると、装備した時と同じにそこに密やかにあったの。
じゃ、じゃぁ…… 扇代わりの、護身用の短剣? ほ、ほら、女性用にしては、実用的でゴツイ感じの…… ルーケル様から頂いた、大切な短剣………………でも、無さそうね……
えっと、何故私の顔を見詰めていらっしゃるの? 何も言葉を発せられないって、どういう事? お化粧が、派手だったの? そこは、確認できてないのよ…… 半分、眠った状態で、クレアさんとスフェラさんにお願いしてたんだもの。
それで、皆十分に装えましたって、そう言ってくれたんだよ? な、なにか…… 問題でも? 髪飾り? イヤリング……は、王太子府から支給された魔道具だけど……
あっ!! 符呪式の書き換えしてた!! 見つかったの?
で、でもさ、あちら側の魔道具とは、何にも変わらず使えるのよ? それに、こちらにいらっしゃる方々では、とても読み解くことは出来ないはず…… 筈よね?
何が原因なんだろうって、焦ってしまう。 とても、とても…… 困惑がせり上がるのよ。 な、何か言わないと!
って、思っていた処で、扉の方から入室許可を求める声。 渋く、かっこいいお声の持ち主は…… そう王太子府直属の侍従長様の声ね。
「ロマンスティカ=エラード=ニトルベイン大公令嬢様、お着きになられました。 入室の御許可を頂きたく存じます」
「入れ。 待ちかねた」
「御意に」
中の侍従様達が、扉を大きく開くの。 とても、美しいドレス姿のティカ様が足早にご入室されてらしたのよ。 それでね、思わず目を見開いたのよ。 だって、その後ろに…… シルフィーとラムソンさんの姿があったんだもの!
彼らも、茫然としていたの。
なぜ、ティカ様がシルフィー達をお連れになったの?
私を見つけられた、ティカ様はニコリと微笑まれた。 小さな頷きと共にね。
―――― 遅れてご到着されたティカ様
やはり、流石はニトルベイン大公家のお嬢様だった。
アンネテーナ様の装いとは別のアプローチだってけれど、同様に高貴で、凛として、矜持高く……
見惚れるくらい…… 言葉を失うくらい…… とても、とても……
―――― 素敵で美しかったの。
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