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翌日。律は日が昇ると狩りのため家を出た。その手には弓、背中に矢筒を背負っている。
見慣れた獣道を進む。狙う獲物は雉だ。
ちょうど今の時期は繁殖期のため、耳をすませると、川の流れる音や虫の声の他に、けんけんという甲高い鳴き声が聞こえた。
雄の雉が雌に対する求愛行動だ。声を頼りに獲物を探して歩き回る。
一丈ほど離れたところに丸々とした雉を見つける。
律は息をひそめながら、弓に矢をつがえた。
だが勘が良い雉は、羽を広げて逃げようとした。ばさりと舞い上がる。
律は慌てずに狙いを定める。そのまますっと矢を離した。
ぼとり、と草むらに雉が落ちる。うまく射ることができた。
すでに息絶えているそれを、掴みさらなる獲物を探す。
そうして山を歩きまわり得たのは、雉二羽に、家に帰る途中で捕まえた蛇だ。雉に噛みつこうと飛んできたところを、逆に捕まえた。
家に帰り、さっそく食事の支度をする。
雉の羽をむしる。関節を外して、皮を剥いでいく。内臓を取り出して、身は軽く水で洗い串に刺す。
もう一羽のほう内臓だけ抜いて、寝かせておく。そのほうが肉が柔らかくなるからだ。
蛇も身をさばいて、串にさす。あとは焼くだけだ。
外で石を組み上げ、火を起こす。その上に肉を立て掛けた。
焦げないようにじっくりと焼いていく。
(食べれるかな)
律の料理は焼くか煮るかの二択である。
血を失ったので補うために肉を、と思ったが山菜の汁物のほうがよかっただろうか。
今さらだが、怪我人の胃には重い気がしてきた。
そんなことを考えていると、後ろで足音がした。男が起きて外へ出てきたのだ。
身体がふらつくのか、家の壁に手をついている。
「……ここは?」
「なにも覚えてないのか? 倒れてたから家まで連れてきたんだよ」
男は自分の体に巻かれたさらしを見て、それから律に目を向ける。
「恩人、名を教えてはくれないか」
「律」
「俺は佑鎮という。律、本当に感謝する」
そう言って佑鎮が頭を下げた。
この恩は必ず返そうと言って、立ち去ろうとするので、慌てて引き留める。
「おい、どこへ行くつもり?」
「都へ帰る」
律は手に持った肉を見せた。
「せっかくつくったんだ。食べていかないか?」
「しかし」
「麓まで案内するよ。これを食べてからでよければね」
すると、佑鎮は迷ったすえ地面に敷かれた筵に座った。ぐうと腹が鳴ったのは聞こえなかったふりをする。
佑鎮の食べ方は、なんというか品があった。がつがつと肉を貪り、口の横に油をつけた律とは大違いである。
「傷の具合は?」
「問題ない。律のおかげだ」
佑鎮が少しだけ笑う。それはよかったと律。
「どうしてあんなところに?」
「賊を追っていたのだ。だが、後少しのところで逃げられてしまった」
「へえ」
頭巾で耳を隠しているおかげか、案外と普通に話せるなと思った。
そうして色々と話をしているうちに飯を食べ終える。
さて、山を降りるとは簡単に言ったが、獣道は怪我人にはきついだろう。
律としては佑鎮を背負うつもりだったが、丁重にお断りされてしまった。
なのでようやく麓の道に着いたとき、時刻は夕暮れだった。
「あっちに行くといい」
養父から人里のある場所は聞いていた。平地の向こう側を指で示す。
すると、佑鎮がぴしりと固まった。
「まさかこの山は」
佑鎮は化け物を見るような目で律を見ると、何も言わずにその場を去った。
(変な人間だ。いや、人間はみんなあんな感じなのかな)
律はそう思いながら家へ帰る。
後日、恩を仇で返されるとも知らずに。
見慣れた獣道を進む。狙う獲物は雉だ。
ちょうど今の時期は繁殖期のため、耳をすませると、川の流れる音や虫の声の他に、けんけんという甲高い鳴き声が聞こえた。
雄の雉が雌に対する求愛行動だ。声を頼りに獲物を探して歩き回る。
一丈ほど離れたところに丸々とした雉を見つける。
律は息をひそめながら、弓に矢をつがえた。
だが勘が良い雉は、羽を広げて逃げようとした。ばさりと舞い上がる。
律は慌てずに狙いを定める。そのまますっと矢を離した。
ぼとり、と草むらに雉が落ちる。うまく射ることができた。
すでに息絶えているそれを、掴みさらなる獲物を探す。
そうして山を歩きまわり得たのは、雉二羽に、家に帰る途中で捕まえた蛇だ。雉に噛みつこうと飛んできたところを、逆に捕まえた。
家に帰り、さっそく食事の支度をする。
雉の羽をむしる。関節を外して、皮を剥いでいく。内臓を取り出して、身は軽く水で洗い串に刺す。
もう一羽のほう内臓だけ抜いて、寝かせておく。そのほうが肉が柔らかくなるからだ。
蛇も身をさばいて、串にさす。あとは焼くだけだ。
外で石を組み上げ、火を起こす。その上に肉を立て掛けた。
焦げないようにじっくりと焼いていく。
(食べれるかな)
律の料理は焼くか煮るかの二択である。
血を失ったので補うために肉を、と思ったが山菜の汁物のほうがよかっただろうか。
今さらだが、怪我人の胃には重い気がしてきた。
そんなことを考えていると、後ろで足音がした。男が起きて外へ出てきたのだ。
身体がふらつくのか、家の壁に手をついている。
「……ここは?」
「なにも覚えてないのか? 倒れてたから家まで連れてきたんだよ」
男は自分の体に巻かれたさらしを見て、それから律に目を向ける。
「恩人、名を教えてはくれないか」
「律」
「俺は佑鎮という。律、本当に感謝する」
そう言って佑鎮が頭を下げた。
この恩は必ず返そうと言って、立ち去ろうとするので、慌てて引き留める。
「おい、どこへ行くつもり?」
「都へ帰る」
律は手に持った肉を見せた。
「せっかくつくったんだ。食べていかないか?」
「しかし」
「麓まで案内するよ。これを食べてからでよければね」
すると、佑鎮は迷ったすえ地面に敷かれた筵に座った。ぐうと腹が鳴ったのは聞こえなかったふりをする。
佑鎮の食べ方は、なんというか品があった。がつがつと肉を貪り、口の横に油をつけた律とは大違いである。
「傷の具合は?」
「問題ない。律のおかげだ」
佑鎮が少しだけ笑う。それはよかったと律。
「どうしてあんなところに?」
「賊を追っていたのだ。だが、後少しのところで逃げられてしまった」
「へえ」
頭巾で耳を隠しているおかげか、案外と普通に話せるなと思った。
そうして色々と話をしているうちに飯を食べ終える。
さて、山を降りるとは簡単に言ったが、獣道は怪我人にはきついだろう。
律としては佑鎮を背負うつもりだったが、丁重にお断りされてしまった。
なのでようやく麓の道に着いたとき、時刻は夕暮れだった。
「あっちに行くといい」
養父から人里のある場所は聞いていた。平地の向こう側を指で示す。
すると、佑鎮がぴしりと固まった。
「まさかこの山は」
佑鎮は化け物を見るような目で律を見ると、何も言わずにその場を去った。
(変な人間だ。いや、人間はみんなあんな感じなのかな)
律はそう思いながら家へ帰る。
後日、恩を仇で返されるとも知らずに。
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