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優しい思い
仄暗く愛おしい
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油断など微塵もしていなかった。自分達は、常に命の狙われていた。故に、どんな時でも周囲に気を張り巡らせていた。それでも、その一瞬の瞬きほどの隙をつかれた。
「っ!!」
言葉もなく、胸の間から突き出した手槍を見ながら俺を見つめてきた。
「お前らが居るから、我らが不遇の目に合うんだ。」
手槍を投げつけただろう狂人が、笑いながらアイツを罵った。俺と同じ一族の者だろうことは、服装や装飾品などから伺える。そいつが、なぜこの場所で俺の意思に反してこいつを攻撃したのかそれが分からなかった。
俺の意思は、一族の総意では無かったのか。
目の前で頽れるアイツを見つめながら、それの思考は同じことを何度も何度も繰り返していた。
『どうして?』
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
同じ言葉が脳内を駆け巡る。目の前の出来事を脳が処理しきれていいない。
「敵と通じ、我らの思いを無碍にするなど一族の次代としての自覚が足りないのでは。」
その言葉と同時に、腹部に激しい痛みと熱を感じた。
「我らの思いを解せぬ次代など必要ない。」
狂ったような薄ら笑いを浮かべながら、そいつは俺の腹に突き刺した獲物を抜き取った。
瞬間、腹部から予想以上の出血が襲った。
「こんな世界など、全て壊れてしまえばいいんだ。」
そう言うと同時に、狂人は俺を刺した獲物で自分の喉を掻き切った。
初めから、生き残ろうという意思すら持っていなかったのだ。
「だから、復讐など・・・・・」
血だまりに沈みながら、アイツが呟いた。その声に答えようとしたが、声の代わりに血が零れただけで伝えたい言葉は何一つ音にならなかった。
消えゆく意識の中、アイツの声が聞こえたような気がした。
「いつか、一緒に・・・・生きられたら・・・・・・・・・・・。」
その言葉の続きを聞きたいと、その言葉に答えたいと強く思った。アイツの傍で、一緒に静かにただ普通に生きていきたいと。こんな血にまみれた生き方ではなく、穏やかに静かに・・・・・・。
『どうして、俺はアイツを守れなかったんだろう・・・・・・・守る?
殺す事しか出来ない俺が、守るなんて・・・・・・。出来るはずが無かったんだ、俺がアイツに不用意に近づいたから死んでしまった。』
強く深い後悔が渦巻いて、俺という存在を黒く黒く染めていった。アイツを失って初めて、自分の中にこんな感情があったのかと知った。アイツと会わなければ、アイツを知らなければこんな思いも生まれなかっただろう。
一族の言うがままでいた時は、自分の意思など何一つ持っていなかった。
『だから、これは俺だけの宝だ。』
どれ程、暗く黒い思いだとしても自分だけの大事な思い。
「っ!!」
言葉もなく、胸の間から突き出した手槍を見ながら俺を見つめてきた。
「お前らが居るから、我らが不遇の目に合うんだ。」
手槍を投げつけただろう狂人が、笑いながらアイツを罵った。俺と同じ一族の者だろうことは、服装や装飾品などから伺える。そいつが、なぜこの場所で俺の意思に反してこいつを攻撃したのかそれが分からなかった。
俺の意思は、一族の総意では無かったのか。
目の前で頽れるアイツを見つめながら、それの思考は同じことを何度も何度も繰り返していた。
『どうして?』
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
同じ言葉が脳内を駆け巡る。目の前の出来事を脳が処理しきれていいない。
「敵と通じ、我らの思いを無碍にするなど一族の次代としての自覚が足りないのでは。」
その言葉と同時に、腹部に激しい痛みと熱を感じた。
「我らの思いを解せぬ次代など必要ない。」
狂ったような薄ら笑いを浮かべながら、そいつは俺の腹に突き刺した獲物を抜き取った。
瞬間、腹部から予想以上の出血が襲った。
「こんな世界など、全て壊れてしまえばいいんだ。」
そう言うと同時に、狂人は俺を刺した獲物で自分の喉を掻き切った。
初めから、生き残ろうという意思すら持っていなかったのだ。
「だから、復讐など・・・・・」
血だまりに沈みながら、アイツが呟いた。その声に答えようとしたが、声の代わりに血が零れただけで伝えたい言葉は何一つ音にならなかった。
消えゆく意識の中、アイツの声が聞こえたような気がした。
「いつか、一緒に・・・・生きられたら・・・・・・・・・・・。」
その言葉の続きを聞きたいと、その言葉に答えたいと強く思った。アイツの傍で、一緒に静かにただ普通に生きていきたいと。こんな血にまみれた生き方ではなく、穏やかに静かに・・・・・・。
『どうして、俺はアイツを守れなかったんだろう・・・・・・・守る?
殺す事しか出来ない俺が、守るなんて・・・・・・。出来るはずが無かったんだ、俺がアイツに不用意に近づいたから死んでしまった。』
強く深い後悔が渦巻いて、俺という存在を黒く黒く染めていった。アイツを失って初めて、自分の中にこんな感情があったのかと知った。アイツと会わなければ、アイツを知らなければこんな思いも生まれなかっただろう。
一族の言うがままでいた時は、自分の意思など何一つ持っていなかった。
『だから、これは俺だけの宝だ。』
どれ程、暗く黒い思いだとしても自分だけの大事な思い。
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