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第五章

第四十四話

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 エルの事情聴取の後、レイジが戻って来た。気がついたエルが慌ててレイジに駆け寄った。そして、ハウリアの姿を複数の兵士の姿の中から探したが、彼の姿はない。エルの暗い顔を見てから、レイジはマルクスへ視線を移した。そして、無表情のまま首を横に振った。

「捜索の結果、見つかったのはこれだけです。恐らく、捕まったかと」

 レイジが白い布の包みを開け、差し出したのは欠けた剣だ。エルがはっと息を呑む。思い出したのはあの巨体を持つ化け物だ。エルはアルトやマルクスに報告をあげているが、二人は具体的にあの化け物が何なのかを教えてはくれなかった。

「そうか。ご苦労」

 マルクスはレイジが差し出した剣を受け取り、曇った表情を浮かべる。マルクスの視線は、アルトへ向いた。アルトはこくりを頷いてみせる。

「マルクス、私は一度ラファ皇子を連れて戻ります。城の護りを固めておいた方がよいかと」
「ああ、頼んだ。メルディとエルも頼んでもいいか?」
「ええ、もちろん。三人の安全はお任せください」

 エルははっとした表情をする。

「待ってくれ! 俺も行く!」

 エルの一言にマルクスは「ダメだ」と言う。

「でも!」
「お前はアルトと一緒に帰っていなさい。ここからは子供の出る幕じゃない」
「ハウリアは俺を逃がしてくれて、それで捕まったんだ! 俺も手伝う。足手まといにはならないから!」
「ハウリアがお前を逃がしたのなら、お前は逃げるべきだ」

 マルクスがため息をつきながら言うが、エルはむっとした表情をする。
 そんな二人を眺めていたアルトがくすりと笑った。

「いいんじゃないですか。脱走されても困ります。レイジやマルクスの元なら安全でしょう。このまま、城に向かえば、恐らくまた脱走しますよ。リスクのある子守りはごめんです」

 脱走という言葉を聞いたマルクスが深いため息をついた。マルクスがじっとエルを眺め、やれやれと言わんばかりに首を横に振った。そして、エルの肩に手を置いて、真剣な表情で言う。

「ならば約束してほしい。決して傍を離れないこと。そして、勝手な行動はしないようにすること」
「わかった」
「即答も怪しいもんだな」

 マルクスはそういって苦笑した。肩から手を外し、軽くエルの頭を撫でると、マルクスはアルトの方へ向き直る。アルトは眼鏡の位置を直すとわざとらしく小首を傾げた。

「場所はわかるのですか?」
「ああ。波間の海岸だろう。あそこには今は亡き父上が昔作った研究施設がある」
「封鎖していますが、恐らくはそこでしょうね。少し作戦を」

 アルトとマルクスが地図を広げながら、屋敷の奥へと入っていく。エルはレイジの視線に気が付くと、はっとした。彼の目線がエルの髪を見ていたからだ。
 そして、気が付く。真っ白ではなく、髪色が深紅だということに。

「これは!」
「大丈夫ですよ。ここに居る皆、気が付いています」

 レイジの言葉にエルが小首を傾げる。

「まだ時が来ていないだけです。さあ、今日は少し休みましょう。恐らく、ハウリア皇子は無事です」
「けど」
「さあ、エル皇子。行きましょう」

 いつの間にか現れたレイナに屋敷の方に進むよう背中を押され、エルは部屋の中へ案内された。
 すっかり慣れたマルクスの部屋には誰もいない。エルはそのまま布団に転がった。レイナは心配そうにエルの顔を覗き込んだ。

「食事をお持ちしますね。少し待っていてください」
「なあ、もしかして……本物のエル皇子が来たのか?」

 エルの言葉に、レイナは曖昧に微笑むだけだ。

「いいえ。使用人は皆わかることです。時が来た……それだけなのです」

 レイナはそれだけ言うと室内を後にした。名残惜しそうに一礼だけして。
 エルは一人になった空間で小さくため息をついた。少しだけ仮眠をしようとエルは布団の上で丸くなる。
 その時だ。ゆっくりと扉が開く。

「失礼します」

 室内に白い髪のメイドが現れた。あの時の少女だった。エルが勢い良く飛び起きた。
 白い髪にピンク瞳。彼女はエルの姿を眺め、深呼吸をしてみせる。緊張した面持ちだが、すぐに真剣な表情をエルに向けた。

「お前は」
「静かに」

 少女はゆっくりとエルの傍に近寄ると、人差し指を唇の上に置いて、「しー」とだけ言う。
 驚くエルに対し、少女は後ろを気にしながら、言った。

「取引をしましょう」
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