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「おはよう、アリエル。オパール、彼女は帰ったのか?」
エルヴェがそう尋ねると、オパールは嬉しそうに答える。
「えぇ、思っていたとおりすぐに帰るって言い始めましたわ。その上お姉様も一緒に帰るよう強制しようとしてきましたの」
ヴィルヘルムはため息をついた。
「信じたくはなかったが、アラベル嬢は君たちの言ったとおりの人物なのだな」
「でももう帰ったんですもの、どうでもいいですわ」
呆気にとられ黙って話を聞いていたアリエルはそこでやっと口を開いた。
「あの、どういうことですの? 殿下もハイライン公爵令息もお帰りになられたのでは?」
腕にしがみついているオパールがそれに答える。
「だって、アラベルったらお姉様を凄く悪く言うんですもの。私そんな人と一緒に過ごすなんて一分一秒でも耐えられませんわ。手紙にも『貴女とは友達にはなれない』とハッキリ書きましたのに。本当に図々しいですわ。だからエルヴェに相談したんですの」
オパールに次いでエルヴェが頷くと口を開いた。
「相談を受けて考えたのだが、アラベルの目的は私やヴィルヘルムだろう。だから私たちは帰ったことにして様子を見ることにした。思っていたよりことが運んであっさり帰ると言い出したようだが。まさか君まで帰るよう強制するとはね」
そう言って苦笑した。それに次いでオパールが憤慨しながら言った。
「本当に失礼しちゃいますわ。お姉様は私の招待客ですし、その招待客が帰ってしまったら私にも迷惑がかかるとは思わなかったのかしら?」
「考えていなかったのだろうな」
エルヴェがそう答えると、ヴィルヘルムは驚いた顔をした。
「アラベル嬢は伯爵家の令嬢なのだろう? なぜそんなに礼儀知らずなんだ?」
そう言ったあとアリエルの顔を見ると、申し訳なさそうな顔をして続けた。
「すまない。君の妹のことを酷く言ってしまって」
アリエルは頭を振った。
「いいえ、あの子はそう言われてしまっても仕方のないことをしていますから」
すると、オパールがアリエルの腕を引っ張る。
「お姉様、そんなことより早く湖に行きましょう!」
はしゃぐオパールを見てアリエルは思わず顔を綻ばせた。
「そうですわね、せっかくだし楽しみましょう」
「では、早く出掛けましょう!」
こうしてオパールたちは湖へと向かった。
アリエルたちは談笑しながらゆっくりと湖へ向かって森の中を歩く。
オパールはアリエルの腕にしがみついたまま昔の家族との思い出話を楽しそうに話し、そんな二人をエルヴェとヴィルヘルムは穏やかな眼差しで見つめていた。
「オパール、君たちはいつからそんなに仲良くなったんだ?」
エルヴェがそう質問すると、オパールは嬉しそうに答える。
「お姉様は覚えてないかもしれませんけれど、三つのころにお姉様に遊んでもらったことがありますの。その頃からだとすれば長い付き合いですわ」
そう言われアリエルは驚く。
「オパール、それはどこでのお話ですの?」
「お姉様がホラント伯爵と宮廷に呼ばれた時ですわ。あの日はたしか他の令息たちもいてアラベルはそちらと楽しそうにお話ししていましたけれど、お姉様は一日ずっと私の遊び相手をしてくださったんですわ」
言われてアリエルは思い出す。
「あの時の令嬢はオパールでしたの?!」
「そうなんですの。私あのころからお姉様ともっとお近づきになりたいと思ってましたのよ?」
「そうなんですのね、それはとても光栄ですわ」
アリエルがそう返すと、オパールは申し訳なさそうな顔をした。
「でも、お姉様には言っておかなければならないことがありますの」
「何ですの?」
「実はお姉様と仲良くなる口実を作るために、わざと舞踏会でお姉様のドレスに葡萄ジュースをかけたんですの。もちろん替えのドレスも準備してましたわ。でも結果としてお姉様は帰ってしまったし、ドレスも台無しにしてしまって……本当にごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫ですわ。でも、普通にお声かけくださっても仲良くできましたわ」
「今なら私もそう思いますわ。でも、あの時はそれが一番親密になれる方法だと思いこんでいましたの。本当にごめんなさい」
「大丈夫ですわ、怒ってもいませんしオパールに幻滅することもありません。それより私もオパールに気づけなくてごめんなさい」
「いいえ、気づかなくて当然ですわ。あの日私自分の名前を『オリー』って伝えてましたし」
「そうでしたわね。帰りの馬車の中で『オリー』という名の令嬢のことをお父様にも訊いたのですけれど、わからないと言われて不思議に思ってましたの」
すると、オパールはじっとアリエルを見つめた。
「お姉様も私のことを気にかけてくださってましたのね! 嬉しいですわ!」
そう言ってアリエルに抱きついた。
「オパール、そんなにしてはアリエル嬢が歩きにくくなってしまって危ないからやめなさい」
「嫌よ! こんなにお姉様に甘えられるのは今のうちかもしれないもの。お姉様、大丈夫ですわよね?」
アリエルはオパールが可愛くて笑顔でうなずいた。
そんな会話をしているうちに、気がつけば森を抜け湖手前の開けた場所に出てきていた。
「お姉様、今日はまず最初にボートに乗りましょうよ。あっちよ!」
オパールはそう言って、アリエルの手を引っ張り桟橋の方へ向かった。桟橋へ行くとボートが一艘泊まっていた。
「残念ですけれどボートは一艘しかありませんの。だから先にお兄様とお姉様が乗ってくるといいですわ」
微笑むと、オパールは腕を放しアリエルの背中を押してヴィルヘルムの方へ近づけた。
ヴィルヘルムの面前に押されたアリエルは、苦笑しながら手を差し出す。
「ではよろしくお願いいたします」
「私でよろしければ」
ヴィルヘルムがそう言ってアリエルの手を取ろうとしたその時、不意にエルヴェがアリエルの足元に屈み突然アリエルを抱き上げ足早にボートへ向かって歩き始めた。
そしてアリエルをボートに乗せると、自身もボートに片足をかけてヴィルヘルムの方へ振り返りにやりと笑った。
「ヴィルヘルム、君にアリエルを渡すつもりはない」
そして素早く杭に繋いであるボートの紐をほどくと乗り込み漕ぎ始めた。あっという間の出来事にオパールもヴィルヘルムも呆気にとられてこちらを見ていた。
アリエルは慌ててエルヴェに訴える。
「殿下、ハイライン公爵令息に失礼ですわ!」
エルヴェはボートを漕ぎながら涼しい顔で答える。
「なに、気にすることはない。彼には君に手を出そうとするなら容赦はしないと言ってある。それは彼も承知している」
だとしてもずいぶん強引な手法だと思いアリエルは閉口した。
湖の上に出てきてしまったらどうすることもできない。アリエルは観念して無言で景色を眺めた。
「私とボートに乗るのは嫌だったかな?」
「いいえ、王太子殿下とご一緒できるなんてこんなに光栄なことはありません」
アリエルは感情を込めずに湖面を見つめながら無表情でそう返した。
「そうか、良かった。ならば今日は君の期待に応えてゆっくり楽しもう」
思いもよらぬ返事にアリエルが思わずエルヴェの顔を見ると、エルヴェが熱っぽく見つめる視線とぶつかりすぐに湖面に視線を戻した。
エルヴェがそう尋ねると、オパールは嬉しそうに答える。
「えぇ、思っていたとおりすぐに帰るって言い始めましたわ。その上お姉様も一緒に帰るよう強制しようとしてきましたの」
ヴィルヘルムはため息をついた。
「信じたくはなかったが、アラベル嬢は君たちの言ったとおりの人物なのだな」
「でももう帰ったんですもの、どうでもいいですわ」
呆気にとられ黙って話を聞いていたアリエルはそこでやっと口を開いた。
「あの、どういうことですの? 殿下もハイライン公爵令息もお帰りになられたのでは?」
腕にしがみついているオパールがそれに答える。
「だって、アラベルったらお姉様を凄く悪く言うんですもの。私そんな人と一緒に過ごすなんて一分一秒でも耐えられませんわ。手紙にも『貴女とは友達にはなれない』とハッキリ書きましたのに。本当に図々しいですわ。だからエルヴェに相談したんですの」
オパールに次いでエルヴェが頷くと口を開いた。
「相談を受けて考えたのだが、アラベルの目的は私やヴィルヘルムだろう。だから私たちは帰ったことにして様子を見ることにした。思っていたよりことが運んであっさり帰ると言い出したようだが。まさか君まで帰るよう強制するとはね」
そう言って苦笑した。それに次いでオパールが憤慨しながら言った。
「本当に失礼しちゃいますわ。お姉様は私の招待客ですし、その招待客が帰ってしまったら私にも迷惑がかかるとは思わなかったのかしら?」
「考えていなかったのだろうな」
エルヴェがそう答えると、ヴィルヘルムは驚いた顔をした。
「アラベル嬢は伯爵家の令嬢なのだろう? なぜそんなに礼儀知らずなんだ?」
そう言ったあとアリエルの顔を見ると、申し訳なさそうな顔をして続けた。
「すまない。君の妹のことを酷く言ってしまって」
アリエルは頭を振った。
「いいえ、あの子はそう言われてしまっても仕方のないことをしていますから」
すると、オパールがアリエルの腕を引っ張る。
「お姉様、そんなことより早く湖に行きましょう!」
はしゃぐオパールを見てアリエルは思わず顔を綻ばせた。
「そうですわね、せっかくだし楽しみましょう」
「では、早く出掛けましょう!」
こうしてオパールたちは湖へと向かった。
アリエルたちは談笑しながらゆっくりと湖へ向かって森の中を歩く。
オパールはアリエルの腕にしがみついたまま昔の家族との思い出話を楽しそうに話し、そんな二人をエルヴェとヴィルヘルムは穏やかな眼差しで見つめていた。
「オパール、君たちはいつからそんなに仲良くなったんだ?」
エルヴェがそう質問すると、オパールは嬉しそうに答える。
「お姉様は覚えてないかもしれませんけれど、三つのころにお姉様に遊んでもらったことがありますの。その頃からだとすれば長い付き合いですわ」
そう言われアリエルは驚く。
「オパール、それはどこでのお話ですの?」
「お姉様がホラント伯爵と宮廷に呼ばれた時ですわ。あの日はたしか他の令息たちもいてアラベルはそちらと楽しそうにお話ししていましたけれど、お姉様は一日ずっと私の遊び相手をしてくださったんですわ」
言われてアリエルは思い出す。
「あの時の令嬢はオパールでしたの?!」
「そうなんですの。私あのころからお姉様ともっとお近づきになりたいと思ってましたのよ?」
「そうなんですのね、それはとても光栄ですわ」
アリエルがそう返すと、オパールは申し訳なさそうな顔をした。
「でも、お姉様には言っておかなければならないことがありますの」
「何ですの?」
「実はお姉様と仲良くなる口実を作るために、わざと舞踏会でお姉様のドレスに葡萄ジュースをかけたんですの。もちろん替えのドレスも準備してましたわ。でも結果としてお姉様は帰ってしまったし、ドレスも台無しにしてしまって……本当にごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫ですわ。でも、普通にお声かけくださっても仲良くできましたわ」
「今なら私もそう思いますわ。でも、あの時はそれが一番親密になれる方法だと思いこんでいましたの。本当にごめんなさい」
「大丈夫ですわ、怒ってもいませんしオパールに幻滅することもありません。それより私もオパールに気づけなくてごめんなさい」
「いいえ、気づかなくて当然ですわ。あの日私自分の名前を『オリー』って伝えてましたし」
「そうでしたわね。帰りの馬車の中で『オリー』という名の令嬢のことをお父様にも訊いたのですけれど、わからないと言われて不思議に思ってましたの」
すると、オパールはじっとアリエルを見つめた。
「お姉様も私のことを気にかけてくださってましたのね! 嬉しいですわ!」
そう言ってアリエルに抱きついた。
「オパール、そんなにしてはアリエル嬢が歩きにくくなってしまって危ないからやめなさい」
「嫌よ! こんなにお姉様に甘えられるのは今のうちかもしれないもの。お姉様、大丈夫ですわよね?」
アリエルはオパールが可愛くて笑顔でうなずいた。
そんな会話をしているうちに、気がつけば森を抜け湖手前の開けた場所に出てきていた。
「お姉様、今日はまず最初にボートに乗りましょうよ。あっちよ!」
オパールはそう言って、アリエルの手を引っ張り桟橋の方へ向かった。桟橋へ行くとボートが一艘泊まっていた。
「残念ですけれどボートは一艘しかありませんの。だから先にお兄様とお姉様が乗ってくるといいですわ」
微笑むと、オパールは腕を放しアリエルの背中を押してヴィルヘルムの方へ近づけた。
ヴィルヘルムの面前に押されたアリエルは、苦笑しながら手を差し出す。
「ではよろしくお願いいたします」
「私でよろしければ」
ヴィルヘルムがそう言ってアリエルの手を取ろうとしたその時、不意にエルヴェがアリエルの足元に屈み突然アリエルを抱き上げ足早にボートへ向かって歩き始めた。
そしてアリエルをボートに乗せると、自身もボートに片足をかけてヴィルヘルムの方へ振り返りにやりと笑った。
「ヴィルヘルム、君にアリエルを渡すつもりはない」
そして素早く杭に繋いであるボートの紐をほどくと乗り込み漕ぎ始めた。あっという間の出来事にオパールもヴィルヘルムも呆気にとられてこちらを見ていた。
アリエルは慌ててエルヴェに訴える。
「殿下、ハイライン公爵令息に失礼ですわ!」
エルヴェはボートを漕ぎながら涼しい顔で答える。
「なに、気にすることはない。彼には君に手を出そうとするなら容赦はしないと言ってある。それは彼も承知している」
だとしてもずいぶん強引な手法だと思いアリエルは閉口した。
湖の上に出てきてしまったらどうすることもできない。アリエルは観念して無言で景色を眺めた。
「私とボートに乗るのは嫌だったかな?」
「いいえ、王太子殿下とご一緒できるなんてこんなに光栄なことはありません」
アリエルは感情を込めずに湖面を見つめながら無表情でそう返した。
「そうか、良かった。ならば今日は君の期待に応えてゆっくり楽しもう」
思いもよらぬ返事にアリエルが思わずエルヴェの顔を見ると、エルヴェが熱っぽく見つめる視線とぶつかりすぐに湖面に視線を戻した。
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